海面から離れているのならば全て艦載機と見なして、全自動でそれを撃墜してしまう『防空』の曲解を持つ埋護姉妹。艦載機は当然として、砲撃も勝手に撃ち墜とし、その場でジャンプしても艦載機と見做されて迎撃されてしまうだろう。
その能力をおおよそ解析したところで、空母棲姫IIを撃破した那珂達と合流。埋護姉妹の他にもイロハ級が妨害にやってくるが、まずはそれを撃破して参戦。
「初めましてだけど、説明だけさせてね。あの敵、海面から離れてるモノを全部艦載機扱いして
説明をするのは吹雪。初対面ではあるものの、今はゆっくり言葉を交わす暇なんてなかった。そのため、端的に分析した埋護姉妹の能力を説明するだけにしている。
「多分だけど、自分達にむかってくる攻撃だけを自動的に迎撃してる。範囲は不明。ただ、近くにいた深海棲艦には攻撃が通ったから」
「了解です。私のジャミングに近いモノと考えます。範囲がどれだけかはわかりませんが、そこはおいおい。やれることをやりながら確実に仕留めますので」
「よろしく」
吹雪はそれだけ説明すると、瞬きした瞬間に深雪の近くにまで移動していた。むしろそちらの方が驚きが強いのだが、吹雪も特異点であると聞いているため、いちいち反応するのはもうやめた。
この海域は特異点W。特異点に何かあったとしても、
「海面から離れるなということは、跳ぶなということです。舞風さん、特に気をつけてくださいな」
「ステップ踏むなってこと!? うー、なんかムズムズするなぁ!」
この敵に対して動きを少々封じられたのは舞風である。踊るように戦うということは、跳んだり跳ねたりもするということ。海面から離れる、つまり両足共に離れてしまうようなステップを踏んだら即アウト。回避出来るかどうかもわからない、本体に向けての対空砲火が襲いかかってくる。
しかし、本来の戦い方をさせてもらえないというのは、舞風にとってはフラストレーションが溜まる一方。この戦場にいることもやめた方がいいのではと思えるほどである。
「舞風ちゃん、むしろ新しい境地だよ!」
「那珂ちゃん!?」
「足を滑らせるようなステップで素早く移動すればいいんだよ。上半身だけで大きく表現するってのも、表現の幅が拡がるよ!」
那珂は器用に海面を滑りながらも、周囲に対する警戒を怠らず、新量産空母棲姫が量産し続けている深海棲艦をなるべく減らす方向で動いていた。最低限イロハ級が減れば、埋護姉妹との戦いもしやすくなるというもの。
あちらは特にその場で足を離させるような攻撃を多めに繰り出してくることはわかりきっている。基本は魚雷が多め。それもあってレ級とナ級が多めに量産されているかのようにも思えた。雷撃が非常に強く、その直撃を受けるわけには行かず、しかし密集しているせいで左右に避けるのも難しい。
「ジャミングには頼りきらない方がいいと思います。各自、基本は自力での回避を」
「ですね。あちらはこちらを見ずとも対空砲火を放ってくるようです。妙高さんには不得手のやり方でしたね」
「ええ、私のジャミングは視覚情報を狂わせる力ですから。見てない相手の攻撃は狂わせられません」
背面撃ちに対してジャミングが効かなかった経験から、埋護姉妹の防空にはジャミングが効きにくいと判断している。空母棲姫IIの時は、攻撃を視覚の範囲内で意識して放っていたため全てズラすことが出来たが、埋護姉妹のそれは、まるで意識せずとも狙いを定めてくる。
背後は流石に対応していないようだが、それを埋めるのが姉妹の目。目を使っている時点でジャミングが通用するのだが、いざ放たれた砲撃は、別に狙いを定めているわけではない。何処までがジャミングに引っかかるかはわからないが、ジャミングを意識しすぎると、間違いなく足を掬われる。
故に、妙高はいるものの、その能力はあまり考えないモノとするべきだと本人が言い切った。自分の力に自信があるわけでもなく、要所要所で客観的に自分を見られることが、妙高の強みである。
今の自分の力はそれほど役に立たない。ならばいつも通り、この戦場を俯瞰で見よう。今ならそれが得意な三隈もいる。それに、本来の艦娘としての力、砲撃も雷撃も可能なのだ。それによってサポートに徹する。
「魔王の配下が何人増えたところで、我々の勝利は揺るぎない!」
「こちらにはいくらでも策はありますから」
人数が増えたことは意識しつつも、やり方を変えないのが埋護姉妹。
それが、今からやろうとしていること。発案者は防空埋護姫。これまではジャンプさせるために魚雷を放っていたが、今回はまるで違った。深雪達に対してではなく、防空埋護冬姫と同時に
その魚雷はまるで狙いを定めていないものの、複数の魚雷が二人分、一気に纏めて海中で爆発。しかも深海の魚雷であるため威力は普通ではなく、埋護姉妹すらも噴き上がる程の爆発が姉妹を中心に発生。
埋護姉妹自体も空中に舞い上がっているため、本来ならばただの大きな的のはずなのだが、『防空』の曲解のせいで狙い定めた砲撃は全て撃ち落とされてしまう。完全に無防備なのに、意識すらほとんどしていない全自動のカウンターが、隙を隙では無くしていた。
「何やって……っ」
「皆さん一度大きく下がってください!」
この策に気付いた三隈が、いつもの調子を崩してまで叫んだ。切羽詰まった声に、誰もがすぐさま行動に移す。
しかし、行動を完了しきる前にあちらの思惑が実行に移される。自らの足下を爆発させ、噴き上がる水柱によって大きく舞い上がり、勢いそのまま着水したことによって、大きな波が発生した。
埋護姉妹を中心とした波は、猛烈な力で拡がっていき、深雪達を呑み込む、いや、
「あ、やば!?」
その策がまずいことに気付いたのは、埋護姉妹に最も近付いていた者、舞風。足を海面から離すなというのを意識しつつも、踊りながらの戦闘はそのままに、接近戦も仕掛けようとしていたところだった。着水を狙った攻撃も考えていたせいで、不用意ではなくともかなり近い。
結果、その大波の影響を強く受ける羽目となり、波打つ海面に掬われて空中に浮いてしまった。跳ぶつもりは無くとも、
瞬間、舞風は艦載機判定をされた。埋護姉妹の主砲が一斉に舞風の方を向き、間髪容れずに対空砲火を放つ。
空中に投げ出された舞風は身動きなんて取れない。一度やられたら最後、それは回避することも出来ずに全てを受けるしかない。
「そんなことされたら、うちの妹が悲しむんだよね。だから、ダメだよ」
だが、その舞風を守る者もいる。それが吹雪。自らの艦載機を、撃墜される覚悟で壁のように舞風の前に配置。着水までの間を稼ぐ。
実際、その対空砲火は洒落にならない威力を発揮し、かなり硬めな吹雪の艦載機を、いとも容易く粉々に粉砕していく。これが自分だったかもしれないと思うと、舞風はゾッとした。
「舞風! 足下!」
だが、脅威は1つや2つではない。着水地点に魚雷が放たれていたのだ。深雪が叫んだことで、舞風もその存在に気付くことが出来た。
「あああっ、もう!」
舞風はそれをすぐさまカバーするために、足下に砲撃を放つ。その魚雷による重傷は防ぐことは出来たものの、爆発をまともに身体に受けることになったため、その衝撃をまともに身体に受けることになってしまう。
骨がミシリと嫌な音を立てた。痛みもしっかり感じる。だが、舞風は表情を変えることはなかった。
「っぶなーい! ありがとう! なんとか助かったよ!」
少しだけ、ほんの少しだけ顔を顰めたものの、まだ離脱するほどの傷ではないと、今更ながら間合いを取る。
舞風が囮みたいになってしまったことで、他の者は安全に距離を取ることが出来た。そのおかげで、波に煽られることもなく、海面から足を離れさせることもなかった。
「舞風ちゃん、大丈夫!?」
「平気平気! これくらい、第二次の時でも喰らったことあるから!」
心配そうに駆け寄る那珂に、舞風は笑顔を見せる。痛みはあるが、動けないようなことはない。この程度のダメージなら、第二次深海戦争を潜り抜けた猛者である舞風ならまだマシな方。
本格的にまずいのは、身体の何処かが動かなくなった時。そうでなければまだ戦える。今この状況で退く方が危険。せめて埋護姉妹をどうにかしてから一時撤退するのが正しい状況判断だと考えた。
「ちぃっ、小賢しい! だが、これが狼煙になるだろう! 我々が魔王を始末し、世界に平和を」
「うるせぇ!」
防空埋護冬姫の声に愛想が尽きたか、言葉を中断させるくらいの声量で深雪が割り込んだ。
「てめぇ、これだけのことやっといて、まさか遊び半分じゃねぇだろうな。いちいちそのセリフ回しが気に入らねぇんだよ!」
「はっ、魔王が何を言うかと思えば。我々はいつだって真剣だ。その配下を殲滅し、魔王を撃滅し、この世界を正しい道に向かわせる。それが我々の役目なのだからな」
「魔王魔王って、確かにあたしはそんなことを出洲のクソ野郎に言ったが、それをここまで引っ張りやがって。てめぇらこんなことやっておきながら救世主のつもりか!」
救世主という言葉を聞いたことで、防空埋護冬姫はくくくと笑みを溢す。
「確かにそうかもしれないな。私は魔王を滅ぼすために力を得た勇者だ。世界を正しい方向へと導く、救世主に選ばれた者だ」
救世主はおそらく出洲のことなのだろう。そして自分達は、それに選ばれた勇者であり、魔王たる特異点をこの世界から消し去る光。深海の力であろうが、それが選ばれた者の力なのだから誇らしいモノ。特異点の深海の力とはベクトルが違うと開き直り、自分は良くて相手は悪いのダブルスタンダード。
それを一切変えることなく、それが正しいと言い切る敵側には、いい加減飽きてきている。
故に、深雪は開き直った。
「そうかい、ああそうかい。なら、こちらからそう名乗ってやるよ」
苛立ちと怒りで身体が震える。だが、隣で支える電のおかげで頭の中まで熱くなるようなことはない。あくまでも冷静に、だが熱い心で、それを言い放つ。
「あたしは、てめぇらに対しての魔王だ。ここから生きて帰さねぇ」
仲間を守るため矢面に立つ。そしてそんな自分を、仲間が支えてくれる。そんな相互関係を持つことを理解し、それでも深雪は魔王を自称する。
一度だけ、たった一度だけ喩えで使った魔王という言葉。それをここまで擦られ続けるのならば、現実のモノとしてやろうと。
「てめぇらは、この深雪様がっ、ぶちのめしてやらぁ!」