「てめぇらは、この深雪様がっ、ぶちのめしてやらぁ!」
出洲一派から魔王と言われ続けた深雪は、もうそれでいいと開き直り、魔王として敵を始末すると決めた。今は姿も深海棲艦、しかも魔王と口走った当時とは違う、力を行使するために成長した大人の姿。
ただ怒りに任せて叫ぶだけでも、それは魔王の咆哮として埋護姉妹に緊張感を与える。自分で煽っておいて、開き直られたらコレである。
「貴様の攻撃など、我々には効かん!」
だが、自分達の優位は覆されていないと考え、再び魚雷を放った。あくまでも戦術は変えない。一度舞風に通用したこともあり、同じことをもう一度やろうと試みていた。
事実、それは効果的ではある。跳ぶという行為そのものが封じられている現在、足下を的確に狙ってくるこの攻撃は、厄介極まりないモノになっている。砲撃で破壊しようにも、非常に数が多いため、それだけで海面には水飛沫ばかりになってしまい、思考が塞がれてしまうのも面倒。
だが、今の深雪は一味も二味も違う。一度電のブーストも込みにして、魚雷だけでなく水飛沫すらも質量を持つ煙幕で取り払っている。
その時と同様に、また主砲を持たない左手を銃のように構えた。電もすぐさまその手に手を添える。この連携も一度やっただけでもう意思疎通が完璧と言える程に素早く、一度目と全く同じ動作で煙幕を展開。深雪に向かって突き進んでいた魚雷はやはりその方向を変え、今回は爆発することもなく無かったことになる。
「では、次は全て同時に撃ってみましょうか」
埋護姉妹が深雪に目を向けている間に、三隈が全員に合図を出す。空母棲姫IIの時のように、あちらの能力を分析し、仲間達に有利を与えるために頭を巡らせる。今回はその能力の隙を探すために、全員同時に砲撃を放った。
角度や位置、距離などもあるだろうが、対空砲火と称した砲撃が、どれほどの速さで、どれだけの面積に対応出来るかを確認するために。
「効かんと言ったのが理解出来ないのか魔王の配下ども!」
防空埋護冬姫が三隈の動きを察すると、防空埋護姫と共に全方位に対しての対空砲火を開始。深雪は煙幕を放っていたため、砲撃までは手が回らなかったものの、他の6人、吹雪までもが一斉に砲撃を放つ。
砲撃同士は拮抗。6人がかりの砲撃も、たった2人の全自動迎撃によって全てが撃ち墜とされていってしまう。しかし、あちらの砲撃が届くこともない、まさに拮抗。
「なるほど、迎撃は本当に自動なんですね。浮いているモノであれば、全てを
「ですが、迎撃をしている最中、
2人の軍師はここでも冴え渡る。確かにあの自動迎撃のシステムは非常に厄介。少しでも浮いているモノがあれば艦載機と判定して即座に破壊する。砲弾であろうと、艦娘本人であろうと、海面から離れていればそれを感知して自動的に攻撃する。
だが、ここで2人はこうも考えた。撃ち墜とす際に埋護姉妹は意図的に放っているのか。実際、撃たなくてもいいところのモノに対してまで機能していることもあり、最初は力の誇示のようにも見えたが、よくよく考えたら自分で自分の力を制御しきれていないのではと考えた。
「なら、敵味方の判別はどうでしょうか」
「それは出来ているかと。そうでなければ、新量産空母棲姫の艦載機も墜としてしまいます」
「ならば意思は介入している……いや、違いますね。あの艤装自体に、何が味方かインプットされてるのではないでしょうか」
それならば辻褄が合う。妙高も三隈も、
ならば、艤装そのものに、味方と判別出来るようなデータが最初から入っているのではないか。それならば極端な話、どんな者が本体を担っても迎撃が可能になる。間違えることもない。躊躇うこともない。そういう意味では、黒井兄妹のような本体無視の艤装を使っていると考えてもいいかもしれない。その能力に合わせた、馬鹿でも使える艤装。
「それならば、抜け道はいくらでもありますね」
「ええ、でも撃破するためには接近してもらう必要があります。ジャミングが効かないのは厳しいですが……っ」
牽制しながらも策を練る2人に、その声が聞こえたとは思えないが、深雪が小さく反応してチラリと視線を送ってきていた。そして目が合うと、顎で『自分が近付く』と合図を送っていた。
深雪が埋護姉妹の穴に気付いているようには見えない。しかし、今ここでやれるのはおそらく深雪のみ。深海の身体となり、その力を最大限にまで扱えるようになったおかげで戦える。
「わかりました。深雪さんに行ってもらいましょう。我々は道を拓きます」
「那珂ちゃん、舞風さん、三隈達に合わせて撃ってもらえますか?」
ここで軍師からの指示は那珂と舞風へ。埋護姉妹から放たれる魚雷を砲撃で破壊しながら身を守っているような状態だが、妙高と三隈からのその指示は、勝ちに繋がる最善の手段であると把握。
「那珂ちゃんりょーかい! どの辺りがパーティー会場かな?」
「舞風了解っ! 那珂ちゃんに合わせる!」
2人がそれに乗った瞬間、妙高と三隈が揃って同じ場所──埋護姉妹からは少し離れた、明らかに直撃を狙っていない場所に対して砲撃を開始。
見た目完全なすっぽ抜けであり、狙いも定めていないノーコン砲撃なのだが、それは違う。今までの砲撃から、妙高と三隈が2人で割り出した、埋護姉妹の防空識別圏ギリギリ
「何処を狙っている!」
「狙い通りですよ。道を開くための、ギリギリの」
その砲撃は、埋護姉妹から見ても撃ち墜とす必要のないモノ。それなのに、『防空』の曲解はそれすらも自動迎撃によって撃ち墜とす。やはり力の誇示に見えるが、そうではない。分析通り、自らの力で制御出来ていない。
戦闘の最中にそこまで分析されるとは思っていなかったか、頭を使えるとはいえ所詮は素人か、やらなくてもいいことをやってしまうのがこの『防空』の曲解の最大の欠点。
確かにここまで迎撃出来れば砲撃でやられることはない。雷撃でどうにかしようとしても、その前にあちらが浮かせるために魚雷を放ち続けているような状況であるため、雷撃を重ねたところで埋護姉妹には届かない。
だがここでわかることもある。魚雷を放ち続けるのは、近付かせないため。埋護姉妹の弱点は、接近戦である。対空砲火で狙えない。魚雷も近すぎると使えない。しかし海戦で接近戦を仕掛けるような輩はそうそういない。故に、この力は
「深雪さん、道は開きます。空は大丈夫、なのであとは海を」
妙高達4人の砲撃は、全てあらぬ方向に飛んでいる。しかし、埋護姉妹はそれを全て撃墜している。つまり今、深雪の方に
「っし、じゃあ行くぜ。電、吹雪、魚雷だけどうにかしてもらっていいか」
「なのです!」
「可愛い妹の頼みなら、やらなくちゃね」
深雪の障害は魚雷だけ。煙幕の力で深雪を避けては行くものの、それでもその進路を塞ぐモノであることは変わらない。危ないと思える魚雷だけは優先的に破壊してもらい、深雪は真正面から埋護姉妹に突撃する。
砲が向いていないのならば、正面からだってお構いなし。最も危険な攻撃が飛んでこないのならば、躊躇すらしない。
「くっ、魔王……! 貴様ぁ!」
「おう、お前らと違って、深雪様の道は開いたみたいだぞ。魔王の覇道ってヤツじゃあないか?」
防空埋護冬姫が近付く深雪に向けて主砲を向けようとした。しかし、その時には三隈の放った砲撃が防空識別圏を通過したことで、
「何が勇者だ。自分の力に溺れて、制御も何も出来たもんじゃねぇ。やりたいことを自分のやりたいように出来ない、ただ力に振り回されてるだけのクズが」
深雪との距離が狭まったことによって、今度は自らの魚雷を海中で爆発させて大波を起こす、舞風がやられた方法を再び実行。海中も深い場所ならば砲撃が届くこともなく、回避不能の爆発が引き起こせる。
深雪とて、その場で浮いてしまった場合は蜂の巣だろう。この『防空』の曲解、最も近い場所から優先的に狙うという特性もあり、防空識別圏ギリギリの砲撃よりも内側で浮いてもらえれば、そちらを無視して深雪を狙える。
「それね、引かずに進めば避けられるんだよ」
吹雪がニッコリ笑った。海中で爆発させるための魚雷は既に放たれている。だが、爆発までにはラグがある。その間に、触れられるくらいに近付いてしまえばどうなるか。
深雪と電も、それをすぐさま実践した。海面から足を離さず、しかし勢いよく海面を蹴って突撃。主砲は深雪に向かず、魚雷は全て避けていく。近付くことも容易で、結果的には防空埋護冬姫の眼前にまで辿り着いた。
「よう、ここなら主砲も向けられないよな」
ここまで近付けば、砲の旋回範囲の内側。どう足掻いても深雪に攻撃は届かない。
その後、海中で魚雷が爆発して、大きな波が生まれる。しかし、その波の中心にいる防空埋護冬姫に掴まることで、浮いてしまうことは回避。勿論電と吹雪もそれに成功している。
「き、貴様ぁ……!」
「まだそのノリやめねぇのかよ。一貫してるのはすげぇな。だけどな、お前がさんざん魔王と呼んできたこの深雪様の前にいるんだぞ。お前は、あたしのことを、
見下すような目で防空埋護冬姫の真正面で、主砲を握る腕を振りかぶる。
「なら、魔王としてお前に命令してやる」
そこに煙幕もプラス。その願いは、言動はどうであれ、あくまでも優しい願い。『この一撃で、これまでのことを深く反省しろ』である。だから、ここまで来てもまだ殺すつもりもなかった。
「跪け」
そして、振り下ろされた主砲は防空埋護冬姫の脳天に直撃。深海棲艦の身体だからこそそれで死に至らないが、白目を剥く程の衝撃によって、防空埋護冬姫は意識が飛んだ。