後始末屋の特異点   作:緋寺

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間違いのない選択を

 本当に深雪が悪なのか疑問に思った防空埋護姫は、近代化戦艦棲姫の時と同じように、艤装に仕込まれていた深海忌雷に危うく再教育を受けそうになった。だが、それは深雪の特異点の力により未然に防がれることになる。

 それを正気のまま見ることになった防空埋護姫は、深雪に選択を突きつけられる。ここまで見て、特異点と今所属している組織、どちらが悪かを選べと。

 

 もしこれでも特異点が悪だと言うのならば、もう仕方ないとして、今無理矢理引き剥がした忌雷を防空埋護姫に叩き込んだ後、改めてあなたの奪い合いを再開する。

 だが、組織が悪だと言うのならば、見逃すどころか保護まで考えている。埋護姉妹だって被害者といえば被害者。救われる理由のある者達。

 

「どうする。決めるのはお前だ」

 

 これが最後通牒。ここでの選択で、埋護姉妹の運命は決まるだろう。

 

 ここで防空埋護姫が取る選択は──

 

「私は……私の妹を傷付けようとする者が許せません」

「そうか。そういう意味では、あたしが悪だな。思い切りぶん殴っちまった。でも謝らねぇぞ」

 

 防空埋護姫の言葉に、深雪は表情を変えずに返す。

 敵の一員の中では今まで殆どいなかったであろう、姉妹愛を非常に大切にしている存在。出洲一派の提唱する平和への道も、姉妹で共に歩くことを目的としている。妹はその思想にすっかり呑み込まれてしまっていたが、姉は妹がどうであれ共に同じ道を歩くことが一番の喜びであり、正否など二の次だった。ある意味では、これもまた洗脳教育の影響だろう。何せ、善悪の区別が狂っているのだから。

 そんな防空埋護姫の言い分を否定することなく受け止めれば、ついさっきその妹に対して、死なないにしても強烈な暴行を加えたことになるため、善悪どちらかに倒すのならば悪となる。

 だが、それは悪意を以て殴ったわけではない。自分がやられそうになったからやり返した、いわば正当防衛の一種。最後は一方的になっていたかもしれないが、根拠のない悪意と殺意をぶつけられ、さんざん侮辱され、砲撃も雷撃も受けているのだ。やり返して文句を言われる筋合いはない。

 

 とはいえ、殴ったという事実から、深雪は()()()()()()()()()自分が悪だと認めている。殴ったというたった1つの事実、そうなる経緯も理由も全て無視した結果である。

 

「それでも……魔王、貴女は私の妹を殺そうとしなかった。何故ですか」

「何故ってお前」

「私達と貴女は敵同士です。互いに生かし合う必要はありません。今この時だって、始末しようと思えば出来るのでしょう。それなのに」

 

 選択の前に、自分の疑問を晴らしてからにしたい。防空埋護姫は、死ぬかもしれない今、せめて知れることを知ってから。

 

「あたし達は、救えそうな奴は救ってるってだけだ。始末するのは、それでも話にならねぇ奴だけだ。面と向かって、わかってくれそうな奴には手を差し伸べる」

 

 それが素直な気持ちだ。これまでも何かあったらひとまずは説得をしている。それでも話が通じない者ばかりで、以降の戦いも避けられない者達ばかりだったから、その場で終わらせているだけ。

 この戦場では、深海伊号水姫と空母棲姫IIが該当する。ちゃんと話をしているが、自分の意思は曲げず、あちら側に傾倒した反応しか見せず、徹底的に深雪(特異点)をこき下ろした。それだけ深い洗脳教育なのかとも思われるが、今こうして話がわかる者もいると知ると、その者自身の性格もしっかり影響しているのだろうと確信を持てるが。

 

「……私の妹は、お世辞にも話がわかりそうには思えませんでしたが」

 

 防空埋護姫のそんな言葉に、深雪はぷっと噴き出す。これまでの言動を見る限りでは、防空埋護冬姫は一貫して深雪のことを魔王と呼び続ける者。自分が正義と信じて疑わない、いわば()()()()

 だが、深雪はそんな防空埋護冬姫をあえて生かしている。その理由は、非常に単純なことだった。戦場でそんなことを考えていたら、間違いなく足を掬われる。だとしても、深雪の優しさがそれを実行に移してしまい、それが今いい方向に進んでいた。

 

「お前、あいつの姉ちゃんなんだよな。まぁあたしにはどっちが上でどっちが下とか関係無ぇけど」

「……そうですが」

「だったら、離れ離れになるのは嫌だろ。お前は許せるかよ。お前は話が通じるから生かすけど、あいつは話が通じないから始末するって言われたら」

 

 間違いなく納得は出来ないだろう。何故妹だけ殺したのだと、怒りと憎しみが膨れ上がることなんて目に見えている。

 

「わざわざ姉妹の仲を引き裂くような悪趣味なことはしねぇよ。お前がそれを望むなら、いくらでもやってやるけどな。ただし、今のあいつはあたしが反省しろって願いを込めてぶん殴った。多少は話が通じる奴になってるはずだ」

 

 防空埋護姫は、ただただ甘い奴だと呆れてしまった。殺し合いにまでになっているのに、姉妹だからという理由で生かす。そんな付け込まれるようなやり方を、魔王が当然のように選択した。優しすぎるくらいである。

 ここで、完全に理解した。魔王と呼ばれている特異点は、敵ですら救おうとする。一方、これまで正しいと思っていた者は、忌雷を使ってまで自分を道具として扱おうとしている。どちらのやり方が善か悪かなんて、一目瞭然であった。世間的にはわからないが、少なくとも自分にとっては誰が従うべき者か。

 

「で、どうする。さっきの質問で終わりにするつもりだったが。まさか時間稼ぎじゃあねぇよな」

「……そう思われても仕方ありませんね。ただ、知りたいと思ったことを知れたので」

 

 自らの艤装に拘束されているため、今の防空埋護姫はうまく動くことが出来ない。しかし、その表情は最後の質問に対しての答えを見つけていた。

 

「私は、叛旗を翻します。貴女の方が正しい」

 

 この瞬間、洗脳は解けたと言っても過言ではないだろう。信じていた者の悪辣なやり方を理解し、現実を見定めることも出来たことで、今の世界の真理を知ったかのような感覚。

 

「そうか、そうか! よかった……これで唾吐かれたらどうしようかと思ったぜ」

 

 防空埋護姫の答えを聞けて、内心ホッとしていた深雪は、これまでの緊張感ある表情から打って変わってニカッと笑みを浮かべた。防空埋護姫のことを敵とは見ていない、既に仲間だと認識した柔らかい表情。

 その顔を見た途端、防空埋護姫はドキリと胸が高鳴るような感覚を得る。これまでは世界を滅さんとする魔王にしか思えなかったのに、今は大人の深海棲艦の姿を取っているものの、中身のヤンチャな性格が表に出てきているのだ。ギャップを感じつつも、その人柄をこれでもかというほどぶつけてくるようなものであり、防空埋護姫にはそれが非常に効果的であった。

 

「もし妹がまだ変わらなかったら、私が説得します」

「ああ、頼む。あたしが話すより、お前が話した方が納得出来るだろ」

「はい、妹も共に救ってもらえること、感謝します」

 

 小さく頭を下げる防空埋護姫。その表情からは、敵意などは完全に取り払われていた。

 

 

 

 

 こうなれば今度は防空埋護姫の艤装をどうにかしなくてはならない。今も絶賛拘束中であり、忌雷による寄生が完了するまではずっとこのままなのだろう。これをやめさせるには、艤装そのモノを破壊する他ない。しかし、しっかり絡みついてしまっているために砲撃で破壊するのはかなり難しい。このままうみどりに持っていき、工廠で外してもらうのが一番手っ取り早いだろう。

 

「移動出来るか?」

「難しそうです。自分の管轄から離れてしまっているような、そんな感じがします」

「それじゃあ、私がやってみようか」

 

 そこで前に出てきたのは、片手では忌雷を握り締め、もう片方の手で気絶している防空埋護冬姫を引っ張ってきた吹雪。

 先程まで近代化戦艦棲姫の艤装を確認し、特異点の力により制御を本人に取り戻しているようなことまでやっている。今回もそれをするようである。

 

「ただその前に。この忌雷どうする?」

 

 深雪に握り締める忌雷を見せる吹雪。ここまでずっと力強く握り締めていたことで、既に力無く触手を垂らし、機能停止寸前のところまで来ていた。やろうと思えばそのままグチャリと潰すことも出来るのだろうが、念のためそのままにしていたようである。

 

「あ、そうだった。これどうするべき……だ……」

 

 深雪も握り締めていた忌雷を見るが、それを見たことで表情が凍りつく。

 

「……あのさ、これやっぱりあたしのせい?」

 

 みんなに見えるように忌雷を見せた。そして、そこにいる者達全員が目を丸くした。

 

 その忌雷は、吹雪が持つモノとは違い、()()()()()()()()()()()()、より活性化し、深雪に懐いているような仕草をしていたからだ。

 

「煙幕で燻されたからかなぁ。ずっと煙幕出る手で握ってたんでしょ? さっきからずっと漏れててもおかしくないし」

「だよなぁ」

「忌雷の燻製なのです?」

 

 電の発言に、妙高がクスクス笑った。だが、やってることはそういうことである。

 

「ど、どうするべきだろうなコレ。握り潰すべきだろうか」

 

 深雪がそう言った瞬間、手の上の機雷が焦ったようにブルブル震え出す。まるでしっかりとした意思を持っているかのようである。

 

「……えっと……お前も、あたしの仲間ってことでいいのか?」

 

 その言葉に、頷くように身体を動かし、触手をくねらせた。そして、深雪の手のひらに頬擦りまでする。媚びているのではなく、懐いているというのがよくわかる。

 そんな忌雷に肩に乗っていた妖精さんが近付き、つんつんとつつくと、触手をゆるりと動かして妖精さんの手のひらとハイタッチ。

 

 完全に敵意はない。殆どペットのような扱いである。

 

「お前、何か出来るのか?」

 

 忌雷は触手をサムズアップのように掲げると、緩んだ深雪の手から飛び出し、防空埋護姫の艤装の中に潜り込む。

 すると、拘束が突然緩んで解放。艤装のコントロールそのものも防空埋護姫に移した。

 

「あ……ちゃんと動きますね。私の意思で」

 

 それだけ終えて、忌雷が艤装から飛び出し、また深雪の手に収まった。

 

「おいおいおい、お前すげぇな。そんなことできるのかよ!」

「すごいのです! 忌雷がやったことだから、忌雷がどうにかしたのです!」

 

 深雪だけでなく電もその能力に感動。忌雷は胸を張るように身体を動かし、続いて防空埋護冬姫の艤装にも潜りこんで調整をしてしまった。

 小さなメカニックとしての性能を得た忌雷は、この場で突如その力を大きく発揮した。

 

 

 

 

 こんなところで手に入った新たな仲間。これが今後、猛威を振るうことになることを、今はまだ知らない。

 

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