後始末屋の特異点   作:緋寺

526 / 1162
真実を知り

 防空埋護姫に寄生しようとしていた深海忌雷は、深雪に捕獲されて握り締められているうちに、その煙幕によって燻され、白い忌雷へと生まれ変わっていた。

 深雪に非常に友好的であり、深雪のサポート妖精さんともすぐさま仲良くなっている。

 しかし、その後の行動──防空埋護姫を拘束する艤装に潜り込み、内側から調整してその拘束を解いた挙句、コントロールの権利までしっかり譲渡──を見せられたことで、この忌雷が非常に有用であることがわかった。

 

「深雪ちゃん、こっちもやっとく?」

 

 吹雪が防空埋護冬姫の艤装から現れ、今の今までずっと握っていた忌雷を渡す。そちらは吹雪の力で何が起きていたわけではなくて、単純に握力でぐったりしている。

 

「そう、だな。多いに越したことはないし、そいつにも煙幕使っとく。つっても、あたしコイツの時は無意識だったぜ?」

 

 白い忌雷の方は未だに深雪に懐き、今は手首の辺りに腕時計のように絡みついている状態。次の忌雷が来るのかと察してそこから移動した辺り、忌雷だとしても非常に賢い、妖精さんに近いくらいの知性を持っていると考えてもいい。

 そんな忌雷も、仲間が増えるなら万々歳と言わんばかりに触手を動かして、是非ともやってほしいとアピール。ならやるかと、深雪も吹雪から忌雷を受け取り、主砲を持たない左手でしっかり握り締めた。

 

「この間に、ここからの動きを考えましょう」

 

 余裕が出来たので、次の戦いのための動きへ。言い出したのは三隈。こういう時に場を仕切ってくれるのはやはり軍師である。

 

「今見えている限り、敵の戦力は残すところ2箇所です。未だうみどりに対して空襲を繰り返している新量産空母棲姫と、イロハ級の建造を続ける船渠棲姫ですね」

「船渠棲姫の方にはこちらの部隊が既に向かっていますが、新量産空母棲姫の方には戦力が足りません。潜水艦の方々が海中から攻めているはずですが……」

「ナ級は対潜性能も非常に高いです。前に進むことも厳しいのかもしれません」

 

 うみどりへの空襲を止めるために海上艦をスルー出来ることが出来る潜水艦娘達が新量産空母棲姫に直接攻撃を仕掛けているのだが、先程のイロハ級の群れにもいた通り、非常に強力かつ凶悪な個体である駆逐ナ級がこれでもかというほど配備されているために、潜水艦であっても迂闊な行動は出来ないようである。

 全てのスペックが駆逐艦とは言えない駆逐艦がナ級。砲撃も雷撃も、対空も対潜も、並の艦娘ならば及びもつかないようなスペックなのが厄介極まりない。

 

「代わりに我々がやるべきことはわかりやすいですね。現在目に見える敵を殲滅し、新量産空母棲姫の守りを削ぐこと。現在は長門さんと清霜さんが補給中ですので、戻ってきたら一掃を狙います」

「時雨も今は補給中だ。アイツは神風の方に行くかもしれねぇけど」

「あちらはあちらで人員が必要です。部隊はなるべく分けたいところですから、我々はこのまま新量産空母棲姫を叩きましょう」

 

 そもそもこちらに集まっている者は、新量産空母棲姫を止めるために再編成された部隊だ。予定通り、この部隊はそのまま敵空母隊を殲滅せんと動くことになる。

 

 しかし、ここまで戦いが進んでもまだ不安になるところはある。それが、敵空襲によるうみどりの状況。

 秋月を筆頭にした防空隊がどうにか堪えており、少しずつ戦線を前進させることが出来るようになったようだが、まだ一歩足りない。加賀筆頭のうみどり空母隊もまだ制空権を拮抗に持っていけていないというのがかなり厳しいところ。

 

 そして、その理由はすぐにわかる。

 

「……あの……新量産空母棲姫……()()()()()()()

 

 電が遠目の空母隊を確認するためにマルチツールに搭載されたドローン型艦載機で確認したところ、それを知ることになる。

 

 元々新量産空母棲姫はカテゴリーYの1体の他にカテゴリーRの3体が空襲を繰り返していたはずだった。

 しかし、今確認したところ、カテゴリーは判別出来ないものの、そこにいる新量産空母棲姫は、カテゴリーYであろう個体を含めて6体。2()()()()()()()

 新量産空母棲姫の能力、『量産』の曲解は、自分をも増やすことが可能であり、そこから生まれてからのモノにその能力は引き継がれないものの、空母としてのスペックは完全に据え置き。

 艦娘では不可能な程の搭載数を持つ空母が、そんなお手軽に増やされても困るのだが、それがあちらの能力なのだから仕方ない。

 

「早急に補給線を断たねば、空母の姫が増え続けるということですね。では悩んでいる暇などありませんか」

「あの、でしたら防空戦線に私が参加します」

 

 ここでおずおずと手を挙げたのは防空埋護姫。

 

「空母の数が多くて、対空に苦戦しているということですよね? 仲間の空母の艦載機は届かず、数に圧倒されて前にも進めない」

「ええ、そうです。我々の防空隊も高い能力を持っていますが、数に圧倒されるとどうしても」

「私の力、ご理解いただけているかと思います。()()()()()()使わねば」

 

 防空埋護姫、そしてまだ気絶中の防空埋護冬姫の持つ力、『防空』の曲解こそ、この苦しい戦況で最も光り輝く力。

 ただでさえ増え続ける敵空母だが、その艦載機を全て撃墜するほどの力を持っていることもまた事実なのだ。

 防空埋護姫だけでは足りないかもしれないが、防空埋護冬姫まで共に戦うことが出来れば、その防空性能は段違いに上がる。

 

「すみませんが失礼して」

 

 すると、防空埋護姫は前に進み出て、吹雪が運んできた妹の前に立った。

 

「起きなさい」

 

 少しドスの利いた声で妹を声をかける防空埋護姫。すると、ビクッと震えて目を開く防空埋護冬姫。

 気絶していたのは確かなのだが、この一声で反射的に目を覚ましてしまった様子。この2人の力関係がかなりわかるところである。

 姉が妹思いなのは間違いないが、その妹も姉に対して一定の感情を持っているようで、目を開いた直後から冷や汗を流していた。

 

「脳天がとんでもなく痛かったんだが」

「そりゃあ仕方ねぇよ。あたしが主砲でぶん殴ったからな」

「と、特異点!」

 

 先程とは違い、深雪の姿を見た途端に現れた感情は、申し訳なさである。『反省しろ』という願いを込めた煙幕をぶち当てたことによって、これまでの行いをしっかり反省しているようだった。

 何が正しくて何が間違っていたのかを理解した防空埋護冬姫だが、それでもこれまでやってきたことから、真にやらねばならないことが完璧に把握出来ていない様子。

 

「あ、そ、その、確かに根拠もなく特異点を魔王と呼ぶのはよろしくなかった。初対面で何が悪いかなんてわかりっこないものな、うん。だが、それはそれとして、特異点が本当に善なのかとわからないのも事実」

「この方は元々私達のいたところの人よりも確実に善性を持っていますよ」

「……お姉ちゃ……姉上、何を根拠にそんな」

「こういう時は厨二病はやめなさい。恥ずかしい」

 

 これまでは教育が行き届いていたために妹のそれも看過し、特異点を始末することに前向きな妹と共に進んできた。だが、真実を知った今、まずは特異点が間違いなく悪では無いことを説明して、妹を良い道へと導くために姉として振る舞う。

 防空埋護冬姫が気絶している間に起きたこと、艤装に仕込まれた忌雷によって意思を捻じ曲げ、道具をより自分達の都合のいい存在に変えようとしたあちらのやり方を知ったことで、防空埋護冬姫は顔を真っ赤にして憤慨。洗脳教育がしっかりと行き届いているならば、その忌雷に寄生されることすらも悦びに変わってしまいそうだが、そこは特異点の力がしっかり効いているため、善悪の区別がつくようになっていた。

 

「信じていたのに、何なのだその巫山戯たやり方は! 我々は奴らの人形では無いぞ!」

「私もさっきまではそう思っていましたよ。でも、現実としてそれを見せられたんですから、信じざるを得ないでしょう。それに、それから救ってくれたのは特異点です」

「そ、そうなのか……本当に恩人なのだな」

 

 姉の言うことは素直に聞き、疑うこともしない。故に、そう言われたらそうなのだろうと信じて、特異点に向き直る。

 

「改めて、申し訳ない。特異点は悪というのは、奴らの虚言だったのだな」

「わかってくれりゃいいよ。あたしだって、ただ後始末屋として海を綺麗にしてるだけなのに、謂れ無く悪だって断言されるのは気に入らねぇが、それが違うって知ってくれりゃ充分だ」

「本当にすまなかった。……だが言い訳もさせてほしい。そんな姿で来られたら流石に魔王だと思う」

 

 そればっかりは言い返すことが出来ないと深雪は苦笑。今は訳あって元の姿には戻るつもりはないと話すと、深海の力を使って正しいことのために戦うヒーローというイメージを持たれて、妙に好感触の様子。

 深雪のことを変身ヒーローか何かと勘違いしているようにも見えて、防空埋護姫は溜息を吐いた。深雪の仲間達もクスクス笑っているくらいである。

 

「早速ですが、私達の力を特異点が欲しています。せっかく手に入れた力なんですから、有意義に使いますよ」

「ああ、私の力が必要だというのなら是非とも使ってくれ。救ってもらった礼をせねばなるまい。姉上、私は何をすればいいのだ」

「守るように言われていた空母の人がいるでしょう。アレはもう私達の敵です。アレが出してくる艦載機を全部撃ち墜とすことですよ」

「ほほう、それは我々の得意分野じゃあないか。造作もない、朝飯前だ」

 

 ドヤ顔をキメる防空埋護冬姫に、防空埋護姫は改めて溜息を吐いたものの、ついさっきまで仲間だった者に叛旗を翻すことに否定的では無いことには救われた。

 抵抗があってもおかしくはないようなことをするのだが、これまでを騙されていたと感じるのならば、その怒りをぶつけるために目一杯の力を発揮することを否定することも無いだろう。

 

「そういえば、弾切れとかは大丈夫か? 任せるのはいいんだが、やってる最中に素寒貧になってもう戦えませんって言われても困るぞ」

 

 深海棲艦の残弾数というのは、深雪達もちゃんと知らないところ。とはいえ、深海の身体、深海の艤装で戦う白雲やグレカーレには弾数の限界があることは確認しているため、この2人も限界があるのではと心配する。

 対空をしており、かつここでの戦いで攻撃を全て撃ち墜とすために砲撃を緩めず、魚雷まで使っていたのだ。特異点を斃すために全力を出し続けていたのならば、限界が近くてもおかしくない。

 

 だが、2人とも笑みを浮かべる。

 

「大丈夫ですよ。まだまだ行けます」

「我々の装弾数はとても多いようでな。あれだけ撃ってもまだやれる」

「うみどりとは長期戦を視野に入れていたみたいですので、そういう点でも私達は長く防空が出来るようにされています」

 

 そういうところはちゃんと見えているみたいで、弾切れを起こして途中退場なんてことが無いように調整されているらしい。それは心強いと、防空戦線に参加してもらう方向で進める。

 

 

 

 

 これによって航空戦は一気に有利にまで持っていけるようになるだろう。うみどりの勝利は、手に届く範囲にまでやってきた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。