後始末屋の特異点   作:緋寺

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根から絶つ

 残す敵は、2箇所に散らばった姫の軍勢。それ以外の姫は、全て始末、もしくは説得により洗脳教育から目を覚ましてもらった。

 

 かたや建造を続け、深海棲艦の軍を増やし続ける船渠棲姫。しかも4体。全員がカテゴリーYという非常に厄介な部隊。全員が全員、独自にモノを考えながら行動をするせいで、対処が難しくなっている。

 かたや量産を続け、自らすら数を増やしている新量産空母棲姫。カテゴリーYは1体だが、同じ姿の姫が6体存在しているという、さらに嫌な状況。スペックが据え置きのため、空襲が非常に重い。

 

「イロハ級はあまり減っていませんね。建造も量産も、それなりの速さがあるようです」

「建造は資材が無いと出来なかったはずですが……いえ、考えるまでもありませんね」

「ええ、こちらが始末した敵をすぐさま資材扱いして建造を続けています。だから減っていないのですね」

 

 うみどりが誇る軍師2人(妙高と三隈)が、船渠棲姫側の戦場を見て分析を進めていた。

 

 あちらには神風達が向かっており、目につく敵から処理をしている。人員はそれだけでなく、おおわしの艦娘達も其処彼処で戦闘を繰り広げ、イロハ級を撃破しては次の敵に狙いを定めているのだ。

 しかし、船渠棲姫が4人もいるというのが厄介なところで、全員が固まっているならまだしも、バラバラに動いては破壊されたイロハ級を素材に新たなイロハ級を建造してしまう。

 それだけならまだいい。稀に複数体の残骸を集めて()()()()まで行い、その結果、姫級まで造られてしまっていた。レ級やネ級改でも厄介極まりないのに、それを超える姫までこの場で出てきたら堪ったものではない。

 

「あちらはあちらで、イロハ級の量産が止まりません。素材要らずなんでしょうか」

「建造と違って複製だからですかね。それでも普通なら素材が必要なモノですが」

「そこが曲解しているところなのでしょう。建造と違って、複製に『そこに同じモノがある』という結果に繋がればいいわけですから」

「作るという工程が省かれている、ということですか。まさに曲解ですね」

 

 その逆側、新量産空母棲姫の方は、その場から一切動くことなくひたすらに量産しひたすらに空襲を仕掛ける。増やした自分が攻撃を続け、本体は常に戦力を維持し続けることに専念していた。

 こちらは2人の言う通り、建造ではなく量産だからか、資材の必要もなく次々と増やしているのが厄介なところ。海は始末した敵の残骸が散らばるが、それが減ることなく戦力が増え続けているのだ。その残骸は逆方向とはいえ船渠棲姫の資材にもなってしまう。

 船渠棲姫の建造よりは1体1体を量産するのに時間はかかっているようだが、デメリットも何も無いようにすら見えるため、早急に始末しなくてはいけないのはこちらであると確信させるモノに。

 

「姉上、この2人の言っていることは少々難しいのだが、つまりはどう考えればいい」

「私達は本体を叩くのではなく、そのお手伝いをするんです。素人は余計なことをしない方がいいですから」

「し、素人……ふむ、確かにそうか、なるほど納得したぞ。私は力を与えられたかもしれないが経験が足りないのか!」

 

 埋護姉妹はひとまず、うみどりの防空隊と合流してもらう段取りとする。流石に2人だけで向かったら混乱しかないため、那珂と舞風が共に向かい、事情を説明して共同戦線となる。

 防空埋護姫はしっかり自覚しているが、2人は強大な力を得た()()()素人。ついさっきまではその力で圧倒出来ると考えていたが、戦闘の中で冷静になり、正気を取り戻したことで、自分達がただ力に溺れているだけだと理解した。防空埋護冬姫も姉に教えられたことできっちり自覚することが出来た。『反省しろ』の煙幕の効果は割と偉大であり、自らの行いを省みて、それを反省する、思い直すことが出来ている。それでも言動が変わらないのは、こうなる前からの素である。

 

「船渠もやべぇけど、今は優先するのは空母の方だよな」

「はい、その認識で間違っていません。確かに船渠(あちら)も数が増えてはいますが、我々の最優先はうみどりの防衛。空母が増え続けて再び空爆が対処しきれなくなった場合、そのまま三隈達は帰る場所が無くなりますわ」

「げ、それは勘弁してほしい」

 

 うみどりにまで押し込まれたら最後、命が助かったとしても拠点を失うことになる。後始末屋としての仕事は出来なくなり、海は汚くなる一方。すると深海棲艦も生まれ、戦争は終わらない。

 今はおおわしも近くにいるため、そちらの艦娘達も防空に参加してくれているが、それでも間に合わないくらいに空母が増える可能性は充分にある。何せ、新量産空母棲姫は自分が増えるのだから。間を与えると、それがそのまま戦力増強に繋がり、最後は取り返しのつかないことになる。

 

「ここからはまた部隊を分けた方が良いかと。那珂ちゃん、舞風さん、手筈通り彼女達を合流させてください」

「りょーかい! 舞風ちゃん、新メンバーのお披露目ステージだよ!」

「はいはいはーい! そのまま防空隊と一緒にうみどりを守ればいいかな?」

「それがいいね。那珂ちゃん達の事務所は、那珂ちゃん達の力で守るよ☆」

 

 善は急げと、那珂達は早速防空隊のと合流のために動き出す。埋護姉妹はついていくしかないため、深雪達に一礼して大急ぎで後を追った。

 

「艤装の方は心配しなくていいよ。深雪ちゃんのその忌雷がしっかり整備しちゃったみたい。敵味方の区別は逆転させて、あっちの空母の艦載機を全自動で墜とすようになってたみたいだから」

「マジかよ。お前すげぇな」

 

 腕に絡み付く白い忌雷も、吹雪の説明に驚く深雪に対してドヤ顔をキメるかのようにふんぞり返った。顔はないし胴も無いのだが、やたらと感情豊かな行動に、みんなして苦笑する。

 しかし、あまりにも優秀な忌雷に驚きは隠せない。敵として現れると脅威以外の何モノでもないが、味方だとこうも頼もしい。実際忌雷にいい思いが無い妙高ですら、深雪の忌雷に関しては可愛さを感じているレベル。

 

 そんな忌雷が触手を動かし、深雪の手をツンツンとつつく。その中にあるもう1つの忌雷も、そろそろ()()()()と教えてくれていた。

 手を開くと、さっきまでぐったりしていた忌雷も同じように真っ白に染まり、そのおかげか元気を取り戻していた。解放されたことでイキイキと触手を動かし、深雪の腕に絡み付く。先に染まった忌雷とも仲良さそうにしていた。

 

「よし、これで大丈夫だろ。これからよろしくな、お前達」

 

 忌雷は2体揃って触手で敬礼。そして、深雪のサポート妖精ともハイタッチ。

 

「あたし達はあの空母を叩けばいいんだよな」

「はい、それがいいでしょう。私か三隈さんのどちらかは船渠側に行くべきかもしれませんが」

「でしたら三隈が向かいましょう。あちらにも人員は割きたいところでしょうし」

 

 ここで軍師は二手に別れる。ずっと固まって戦ってもいいのだが、船渠棲姫の方にも重巡洋艦以上の戦力は必要だ。今はいろいろあって力を増しており、ついさっき強大な力を持つ戦艦である近代化戦艦棲姫も加わったものの、基本的には駆逐艦ばかりで対処しようとしているのだから、ここで戦力を上げたい。むしろ、こちらには特異点が3人固まっているということもあるため、慢心しているわけではないが戦力が偏りすぎている

 今の三隈ならば、ありとあらゆることが可能な万能戦力。通常の水上機母艦とは違う巡洋艦寄りの力は、その頭脳も含めてこういった戦場でも大いに役に立つ。神風と組めば、妙高と組んでいる時のように軍略も安定するだろう。

 

「長門さんと清霜さんの補給も直に終わるはずです。時雨さんはもう終わって向かっていることでしょう。それに、おそらくですが防空隊にもこれで余裕が出来る」

「そうすれば、そこからまた人員が割けます。そうなったら、フレッチャーさんがいますから」

「そうか、フレッチャーなら何か別の力に切り替えて火力を増やせる」

 

 防空隊で秋月のコピーとして戦っているフレッチャーも、ここで防空に余裕が出来れば別の力をコピーして参戦が可能となる。連射のままでも充分ではあるが、その時その時に必要だと感じた能力をコピーし直せば、足りない部分が補える。その都度喘ぐのはもう仕方ない。

 

「私も手伝うから安心して」

「頼りにしてるぜ吹雪」

「そこはお姉ちゃんと呼んでほしいなぁ」

 

 そんなやり取りの後、すぐに次の戦いへと行動を移した。三隈だけはこの部隊から離れ、船渠棲姫をどうにかする方向に。他の者はそのまま新量産空母棲姫へと向かう。

 幸いにも戦い方が戦い方だったおかけで、そこまで弾も燃料も減っていない。深雪に至っては、今の身体に変化したことで全てが一度リセットされているという事実まで発覚したため、安心して進むことが出来た。

 

 

 

 

 防空隊は、新量産空母棲姫が増えたことによって、空襲の数が急激に増えて、また押し戻されそうになっていた。

 秋月とフレッチャーは『連射』の曲解のおかげで常に前線に立ち続けていたが、他の者はすぐに対空砲火を撃ち尽くしてしまい、補給と参戦を繰り返しながらどうにか堪えている状況。

 加賀達空母隊も艦載機の発艦は繰り返しているのだが、どうしても敵の物量には勝てず、拮抗を維持するのも難しい状況であった。

 

「申し訳ございません! 砲身の替えをいただけますか!」

「今ここに! すぐお使いください!」

 

 フレッチャーのそれも弾切れが無い能力とはいえ、秋月の劣化版であるため、砲身が少しずつ焼きつく。合間合間にそれを交換せねばならず、その補充を担っているのは補給艦の神威。戦場を駆け回り、必要な補給物資を仲間達に供給し続ける。

 

「まだまだ……! 粘ればみんなが敵本隊をどうにかしてくれます!」

 

 防空隊隊長の秋月が仲間を鼓舞するように叫ぶ。完全な連射が可能な秋月が、この戦場で最も力を発揮しているのは誰の目から見ても明らか。そんな秋月が言うのだから、誰もが弱音を吐くわけには行かなかった。

 

 その根性は、当然報われる。

 

「えっ!?」

 

 突然うみどりに向かってくる敵艦載機が次から次へと爆散していく。秋月の連射では対応出来ない速度。人数を揃えてもここまでの防空は出来ないと言えるほどの、圧倒的な性能。

 その対空砲火を撃ち放つ者の姿を確認して、秋月は目を見開いた。秋月だけではない。防空隊として戦っている全員、空母隊ですら、その電撃参戦には声を上げずにはいられなかった。

 

「埋護姉妹!?」

「これより私達は自軍に叛旗を翻し、特異点、並びに後始末屋に協力します」

「優しい魔王に救われたのだ、私達は。恩を返すぞ!」

 

 これまでの苦戦が嘘のように、次から次へと艦載機が破壊されていく。手が届かないところまで確実に。埋護姉妹の視界に入った時点で、むしろ効果範囲に踏み入れた時点で、全自動の対空砲火が火を噴き続ける。

 その道の熟練者である秋月すらもポカーンとしてしまったが、すぐに気持ちを切り替える。ここでこの戦力増強はありがたい。深雪に心の中で感謝しながら、より強く、より激しく防空を続ける。

 

「これなら押し返せます! このまま、行きましょう!」

 

 

 

 

 戦いは佳境へ。敵を増やし続ける者を終わらせるために、艦娘達は力を振り絞り続ける。

 

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