場面は神風達の部隊へ。こちらは4体の船渠棲姫を始末するために奮闘している。
深雪達と合流してから部隊を分け、今ここにいるのは7人の精鋭。そのうち6人が駆逐艦というのは普通なら信じられないような組み合わせなのだが、うみどりではこれが普通。ここに増援も期待出来るのだから、今はこれで粘ればいい。
「一通り凍らせていきます故、後はお願いいたします」
この中でも特に猛威を振るっているのは、凍結の力が海域特効により強化されている白雲。最早、砲撃をするよりも鎖を振り回している時間の方が長いまである。
しかし、この戦場ではこの手段が最も効率がいい。破壊するのも難しいような姫級も
「都合がいいっぽい! どんどん壊すけどいいっぽい!?」
「ええ、今回はやりたい放題やりなさいな。ストレス発散にもなるでしょ」
「ぽーい! 素敵な
その動きが止まった敵達を鏖殺していくのが夕立である。残弾は潤沢。的が止まっているのだから無駄弾にもならない。強いて言うなら、オーバーキルだけはしちゃいけない。必要最低限で始末すること。この戦場に到着する前に、神風からそう教わっている。
夕立はその教えを忠実に守り、凍りついた敵を恐ろしい速さでヘッドショットにより一撃で始末していった。確実に終わらせ、着実に次に進む。そもそもの戦闘の才能が駆逐艦の中でも屈指な夕立には、これくらいは朝飯前。
「わお、レーベったら器用じゃん。ユーダチに触発されちゃった?」
「そ、そんなことはないけど、でも今はとにかく数を減らさないとだから」
そんな夕立を追随するのがグレカーレとZ1。夕立ほど迅速ではないにしろ、確実に急所を狙って命を奪う。こちらも無駄弾は使わないようにと注意しながらの戦い。グレカーレは既に一戦終えた後ではあるのだが、その戦い方からして砲撃はあまりしないタイプなので、今でも元気に攻撃に参加中。むしろ動いていないことをいいことに、やれる時があればその剛腕で頭を殴り壊すなんてこともチラホラ。そんなグレカーレの戦い方にZ1は苦笑するしかなかった。
「よし、前を開けてくれ! 撃つぞ!」
さらに、この戦線に立つ前に加わった近代化戦艦棲姫が一発砲撃を放つと、目の前の敵が纏めて粉々になっていった。そもそもが深海の艤装であるため火力は誰よりも高く、そこに海域特効が乗ることで超強化されている。掠っただけでも風圧も込みでズタズタになり、直撃なんてしようものなら跡形も無くなる。
しかし相変わらず砲撃する度に声を上げるのはもう仕方ないこと。今回も一発撃った瞬間に小さく喘ぎを漏らしていた。身体を変えられたことによる超敏感肌は如何ともし難い。
「さぁ真打登場よ。お願いね、梅!」
「はい、出来る限り続けますっ!」
そして、神風が頼んだのは、この場にいるには少々火力が低い梅である。
火力が低く燃費がいいことが特徴である梅は、元々前線に出るようなタイプではなく、基本はサポートがメイン。今回のような戦場ならば、防空隊に加わって対空砲火を続けることが基本戦術となっていたはずである。
だが、今の梅には誰も持っておらず、かつ船渠棲姫に対して致命的なダメージを与えることが出来る能力があった。
「資材として運用出来なくしてしまえばいいんですよね! なら、
そう、深海棲艦化を経て手に入れた『解体』の曲解。無機物を完全に破壊する力。いわば
本来は無機物にしか効かないこの力。解体出来るのは艤装のみだと思われていたが、深海棲艦はその生態からして特殊であるため、その艤装が体内にまで及ぶこともしばしばあった。その場合、同様に解体も体内にまで及ぶ。
また、船渠棲姫が生み出した深海棲艦は、その特徴が非常に顕著。命を生み出す異常な力ではあるものの、結局のところ未知の生物を人力で作っているという事実は変えようがなく、内部までしっかり資材がギッシリ詰まっているようなもの。解体はそれも加味して全てに行き届いた。
「あまり気分のいいものじゃないですけどぉ」
「ごめんなさいね。私達だけじゃ、ここまで綺麗に消し飛ばすことは出来ないもの」
梅が解体する度に少し嫌そうな表情を見せるのを、神風が宥めた。それもそのはず、梅の『解体』の曲解は、
後始末屋としての活動をそれなりに長くしている梅であっても、たった今命を失った亡骸をその場で触れるなんてことはほとんどないし、そもそも素手で触れるなんてほぼ間違いなく無いこと。そのため、後始末屋であってもそういう表情を見せてしまうのは仕方ない。
しかし効果は絶大。もう一度資材に使ってイロハ級を生み出していた船渠棲姫も、分解されたそれは資材にすら出来なかった。結果として、梅が触れたモノは全て資材ではなく完全な廃材として扱われることになる。この戦いの後にやることになるであろう後始末も多少は楽になる。
「手伝ってあげたいけど、今私が出来るのはコレくらいだからね」
そんな神風と、恐ろしい程の手際の良さで、次々と敵を斃していく。まだ白雲の手で凍らされていない敵であっても、的確にヘッドショットを決め、その後魚雷をぶち込むことで資材として扱われることもなるべく防ぐ。それでも残骸として残ってしまうため、梅ほど綺麗には行かない。
「梅! こっちもお願いっぽーい!」
「ごめんウメ、僕の方も」
「ウメー、こっちこっち」
次から次へと依頼が来るためにてんやわんや。目が回る程の忙しさとはまさにこのこと。オンリーワンの性能を持っていることの弊害。
「梅は一人しかいませんからぁ!」
そんな泣き言を言ってしまうくらいには大忙しである。初めてフレッチャーの存在を頼りたくなった瞬間。しかし、そのフレッチャーはうみどりを守るために今は秋月をコピー中。それに、今すぐにここまで来てくれというのも厳しい話。
「ええい、私が塵にも残さないように噴き飛ばすさ! っはぁっ!」
そんな梅を気遣いつつ、顔を赤らめながらの砲撃で残骸ごと木っ端微塵にしていく近代化戦艦棲姫。梅の仕事をなるべく減らせるのは、それくらいの大火力を誇る戦艦くらい。そういう意味でも、近代化戦艦棲姫がこちらに参戦してくれたのはありがたいことである。
「だいじょーぶ? 撃つたびにやっばいくらいに振動あるけど」
「あまり大丈夫ではないが……いや、今は泣き言なんて言ってられない。ここでどうにか慣らすさ」
「あはは、その調子その調子。あたしも頑張って慣れたからさ、アンタもそうなれるよ」
「そう言ってもらえると、助かるなっふぅんっ!?」
「言ったそばからそれはちょっと」
近代化戦艦棲姫の
実際、この敏感肌と共に生きているのに表情ひとつ変えないグレカーレがおかしいだけである。努力の賜物と一言で纏めるには難しいくらい。しかし、そうとしか言えないので、誰も真似は出来ない。
「海域全体が冷えてきてる。シラクモの力がどんどん強くなってるよ」
「ぽい! 戦いやすくて助かるっぽい!」
Z1が言う通り、白雲が凍結を行使し続けていることにより、この戦場からは熱が奪われ始めていた。息が白くなるほど寒いわけではないが、それでも冷気を感じるほど。
亡骸は梅が処理していないものは凍りつき、完全に凍っておらずとも霜が降り、その存在そのものが空気を冷やすための材料となる。そこからさらに凍結を振り回すことで、より海は冷えていく。
その中心となる白雲は、まるで舞うように鎖を回し、敵を、海水を、何もかもを凍らせていった。
舞うような戦い方は、これまでの訓練の成果。神風から学んだ基礎鍛錬と、これまでの後始末屋での経験、そして深雪と共にこの戦場を終わらせるという冷やしながらも熱い気持ちがそれを可能としていた。
「まだまだ行けますとも」
「頼もしいわ。鍛錬の成果が出ているわね」
「はい、お師匠様のお陰でございます。体力も、筋力も、瞬発力も、何もかもが少し前の白雲とは違います。皆様に感謝しながら、白雲は舞わせていただきます」
鎖の動きがより速くなり、その周辺のみ空気すら凍り始める。太陽の光を受け煌びやかに彩られたことで、白雲はより優雅に凍結の舞を続けるに至る。
だがそれを敵が黙ってみているわけがない。これまでは無尽蔵だった資材が、この部隊の到着と共に少しずつ失われて、軍勢が減ってきているのだ。
やらねばならないことがやれなくなってきているのは苛立ちに繋がり、その元凶である敵部隊、その中でも特に目立つ白雲に照準を定める。
4体いる船渠棲姫のうち、白雲を始末するために動き出したのは半分の2体。同時に砲撃すればどちらかが当たると踏んだか。
「白雲、狙われてるわよ」
「存じております」
白雲だって後始末屋で戦ってきた経験者。その程度の砲撃ならば、舞いながらでも回避出来る。むしろ回避したことで鎖の範囲はより増し、海域の冷却は更に進むことになる。
しかし、そうしている間も他の船渠棲姫がまだ残っている残骸から建造を続ける。時間を稼ぐためなのか、より圧倒するためか、大型建造を度々繰り返し、姫級を何体か造ってしまっていた。
しかもそれがよりによって複数体の戦艦棲姫。セレスという同じ個体の仲間がいるせいで、それを始末するのにも少し嫌な気持ちになった。
「猫の手も借りたいですぅ!」
解体を続ける梅がその忙しさに悲鳴をあげた瞬間、これまでとは違う方向から砲弾が飛んでくることで敵が粉砕される。
「補給終わったよ。こっちの方が厳しそうだったから、僕はこちらに来させてもらった」
その砲撃の主は、一度補給に戻っていた時雨。深雪達の方には長門と清霜が向かうことがわかっていたため、大火力である時雨はこちらに参戦。
更に、少しずつ防空戦線を押し返してきているということで、増援まで連れてきていた。
「猫じゃなくて申し訳ないね。ここは、不死鳥の手を借りてみてはどうかな」
「調査隊としても、敵のやり方は前線で知っておきたいですから」
白雲が凍らせたイロハ級を撃ちながら現れる響と白雪。そして、調査隊の大本命。
「部隊戦闘でしたらおまかせを。正直、燻っていましたからね」
「ええ、たまには秘書艦という任を解き、最前線で戦いたいものです」
神通と鳥海。より武闘派な2人の参加により、イロハ級が次々と破壊されていく。
建造よりも速く破壊していけばいいという単純な話である。こちらは人数を増やして圧倒すればいい。やられたことをやり返すだけである。
多くの艦娘が参加するこの戦い。物量と物量のぶつかり合いとなる。