後始末屋の特異点   作:緋寺

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命を弄ぶ者

 船渠棲姫との戦いに集う仲間達。補給を終えた時雨や、調査隊の戦力も合流し、とにかく数を減らす方向で攻撃を続けることになる。

 その中でも特に動き回っているのが、『解体』の曲解を持つ梅。始末した敵深海棲艦の残骸を解体することで、船渠棲姫に資材として使われなくすることが出来るため、仲間達が戦う中でもトップクラスに重要視されている。

 

「梅は私と白雪で守ろう。どちらかといえば案外の方が得意だからね」

「自由に動いてください。しっかり守り切ります」

 

 そんな梅についたのは響と白雪である。調査隊の一員である2人は、戦力としても申し分なく、今現在も手近な深海棲艦を確実に始末しているくらいである。調査隊とはいえ精鋭。軍港都市の地下施設突入にも任命されるくらいには実力者。

 

「あと、戦場のど真ん中かもしれないけど、はい」

「えっと……これは」

「滋養強壮剤。今の君には必要じゃないかな」

 

 響が渡したのは1本のドリンク剤である。この切羽詰まった戦場でやることでは無いと思うのだが、それでもそんなことをするのは、ここの響の特徴でもある。突飛なことをすることに定評があるのだから。鼻眼鏡の一件もある。

 

「あ、ありがとうございますぅ。正直、コレくらい飲まないとキツイくらいです」

 

 お言葉に甘えて、敵の攻撃を回避しながらもグイッと一本煽った。懐から出されたからか、あまり冷えてはいなかったものの、活力は出たような気がした。おそらくプラシーボなのだが、それでもこの場を乗り切れるのなら安いモノ。

 

「だが、戦艦棲姫が増えているな。パッと見で3体かい」

 

 響が戦場を見回すと、特に目立つ巨体の生体艤装がどうしても目に付く。うみどりでは料理人のお姉さんなわけだが、本来は獰猛な深海棲艦の姫。生まれてすぐに攻撃を開始しており、その大火力をコレでもかと見せつけていた。

 だが、どうしても違和感を覚えるのがその表情。一切感情を出さない無表情で、無言の一点張り。ただただ敵を殲滅するために攻撃を続けるだけの、命はあれど意思は無い砲台のような存在。あからさまに()()()()()()()()というところを表しているかのようだった。

 

「流れ弾が飛んできますね。梅ちゃん、動きながら進みましょう」

「は、はいぃ」

「いざという時は曳航しますからね。もう一踏ん張りです」

 

 白雪の笑顔に助けられ、梅はここからさらに解体を進めることになる。まだまだ終わらない戦いではあるが、自分が出来る、自分にしか出来ない、確実に戦いを終わらせていく手段。手を止めるわけには行かなかった。

 梅とて誇り高き後始末屋。敵の許し難い策略によって齎された能力であっても、それが後始末に繋がるのならば全力で使い続ける。疲れを見せても、泣き言を言っても、その動きは絶対に止めない。

 

 

 

 

 4体の船渠棲姫に加え、3体の戦艦棲姫までもが建造されたことで、敵の戦力は軍勢を率いていた頃より減ってはいるものの、より強化されているように見えた。

 機械的に攻撃を繰り返す戦艦棲姫は非常に厄介であり、しかもあちらが建造したからか、守りのことを一切考えていない。むしろ、攻撃は最大の防御と言わんばかりに、何も気にすることなく攻撃の手を緩めない。

 

「セレスと同じね。姫だけど、自分の意思がない。ただの道具として造られて、ただアイツらを守るために動いてるだけ。空っぽのお姫様だわ」

 

 戦艦棲姫と共に攻撃を続けるイロハ級を始末しながら、神風は少しだけ苛立ちを見せた。

 船渠棲姫のやり方には神風は許せない部分がある。自らそちらの部隊に加わったのはそれがあるから。命を命と考えず、道具としか思っていない連中は絶対に許せない。

 

「とりあえず1体ずつやってく?」

「そうするしかないわ。でも、斃したとしても船渠棲姫自体をどうにかしないと千日手になるかもしれないわ」

「そりゃそうだよねぇ。大変だなぁこりゃ」

 

 グレカーレも溜息をついた。しかし、心の余裕はまだまだある。挫けるわけもなく、敗北にもまだ届いていないと確信している。

 

 何故なら、神風がまだ本気を出していない。腰に差した刀は、未だに抜いていない。触れてもいない。あくまでも艦娘としての戦いしかしていない。

 

「じゃあ、そろそろ本陣を狙いましょうか。あちらも痺れを切らしてきた頃でしょうしね」

 

 チラリと最も手近な船渠棲姫に視線を送る。よく見れば、その表情は芳しくなく、この戦況が覆らないことに苛立ちを持っているようにも見えた。冷静さを失いそうになっているのは、誰の目から見ても明らか。

 船渠としての力で建造も進めているが、自ら攻撃することも多くなっているようである。基本兵装の魚雷をばら撒きながらも、残骸に触れて新たな深海棲艦を造り続け、こちらからの攻撃を肉の壁で防ぐ魂胆。

 

「あの子も、自分で生み出した命を命と思っていないタイプかしら」

「どうだろうねぇ。でも、1つわかってることがある。アレに使われてる魂、やっぱりあたしの姉妹のだ」

 

 そこは予想通りだったと、グレカーレも小さく苛立ちを見せた。前回もそうだったが、カテゴリーYを作り出すために使われる艦娘の魂として、船渠棲姫にはマエストラーレ級のモノが使われる。姉妹なのだから一目見ればわかること。面識が無くても察することが出来る艦娘特有の能力で、その力の源は看破している。

 だからこそ、気に入らない。人の姉妹をそんな風に使っていることが、怒りと憎しみに変わるほどに。

 

「ねぇカミカゼ、とりあえず手近な奴ヤらない? 1体減らすだけでも戦いやすくなるでしょ」

「そうね。都合がいいことに、少し冷静さを欠いているようだし」

 

 この戦場で初めて、神風がその手を刀にかける。グレカーレもニンマリ笑みを浮かべて剛腕を振りかぶる。

 

「それじゃあ、行こっかぁ!」

「ええ、あくまでも冷静に、ね」

 

 そして、海面を蹴る。これまでは手を抜いていたのではと思わせるくらいの強烈な突撃力で迫撃し、2人に最も近い位置にいた船渠棲姫に接近。

 

「なっ、お前達っ」

「やっと喋った。前と同じ声かな。そこは個体の差は出ないのかな」

 

 まず先制攻撃を放つのはグレカーレ。剛腕の指先を全て船渠棲姫に向けると、その指1本1本から魚雷が放たれた。手が五連装の魚雷となっている深海棲艦の艤装の利点を使い、牽制の意味も込めて渾身の一撃。

 しかし、魚雷の対処法はあちらも心得ているようで、回避行動を取りながらも器用に魚雷をぶつけることで相殺していた。船渠棲姫は主砲などを装備しない、雷撃のみを基本兵装とする姫。このような行動を取るのも必然といえば必然。

 

「あら器用。でも、魚雷以外は」

「私も守って!」

 

 そういった瞬間、海中から飛び出してきたのは、別の戦場でも猛威を振るう駆逐ナ級。こちらも建造済みだったようで、自分の弱点、魚雷以外使えないことをカバーするために、近くに控えさせていたようである。

 その数3体。船渠棲姫を中心に置いた輪形陣で、神風とグレカーレを牽制する。しかし、その配置の仕方は、守ってもらっているというよりは、()()()()()()()()()()()()というイメージが近い。壊れたらまた造り直せばいいという気持ちがありありと表れていた。

 

「それだって貴女が生み出したのよね。それも命の1つだと思うけれど、貴女もそれをただの道具としてしか見ていないのかしら」

 

 神風が前回の船渠棲姫にもした似た質問をする。生んでおいて、それをただの道具としか思っていないのかと。愛着くらい湧くだろうと。

 

 しかし、同じ姿をする敵は、返答すらも同じであった。

 

「これは私が生み出した道具。どう使ったところで私の勝手。敵に説教される謂れなんてないよ」

 

 建前でなく、本心でこの言葉が出ていることは一目瞭然。むしろ、この船渠棲姫は、このナ級のことを命とも思っていなそうだった。

 残骸から生まれたコレは、あくまでも残骸の延長線上。命ではなく、自動的に動くだけの道具。自分で考えて主人を守ろうとしているが、それはそう仕込まれただけの玩具。造った自分がそれをどう扱おうと文句を言われる筋合いは無いと言い切る。

 

 これが、神風の逆鱗に触れることも知らずに。

 

「ああ、そう。そちら側の船渠棲姫というのは、みんなそういうモノなのね。なら、躊躇いなんてないわ」

 

 改めて刀に手をかける。触れるだけでなく、しっかりと握る。抜くぞという意思を見せつける。

 

「あたしの姉妹……多分アンタの中にある魂はシロッコでしょ、それを使っておいて、そんな言い方は聞きたくなかったかな。命を何だと思ってんのさ」

 

 グレカーレも気に入らないと主砲を構える。深海の主砲故に火力も申し分なく、グレカーレ自身の技量もあって、その砲撃は敵を確実に仕留めることが出来るほどの必殺な一撃。

 

「まずは盾を剥がすよ。神風、アイツに後悔させてやって」

「ええ、後悔する時間があるかはわからないけど」

 

 グレカーレの砲撃が繰り出される。それは船渠棲姫を守るナ級の半開きの口内へと的確に飛び込み、何かをさせる隙も与えずに内部から爆散。硬く強いと思われていたナ級も、いとも簡単に粉砕。

 しかし、爆散させたということは、そこに残骸が出来るということ。船渠棲姫がそれに触れると、すぐさま建造が開始される。ナ級の残骸から作り出されるのは、全く同じ駆逐ナ級。

 

「ああそう、じゃあ、その小汚い手を無くしてもらおうかしら」

 

 触れているから再建造が出来る。ならば、それをさせなければいい。ここで神風が凄まじいスピードで突撃技。グレカーレに作られた穴を他のナ級が埋める時間すら与えず、刀が届く距離まで間合いを詰めていた。

 

「なっ!?」

「命を粗末にする手なんて要らないでしょ。それに、時間が経てば勝手に治るんだもの。今は無くしておきなさい」

 

 ナ級が船渠棲姫を守ろうと動き出し、再建造されたナ級も起動しようとしたその時は、神風が既に刀を抜いていた。

 間合いは首を飛ばすには足りず、しかしナ級3体分の壁を真正面から突破するには()()()()()。しかも、前回の船渠棲姫の時とは違い、正しく神風のために作り出された艤装の刀。鉄パイプで殴っているのとはワケが違う。

 

 するりと周囲を走った刃の閃光。そして、瞬きした後には、全てのナ級が横一文字に真っ二つとなり、宣言通り船渠棲姫の腕も飛んでいた。

 たった一刀。それだけでも、ここまで覆すだけの力を持つ。勿論神風への負荷は激しいが、これ一回で倒れるようのヤワな鍛え方はしていない。

 

「っあ、ああああっ!?」

 

 腕が飛んだ痛みで悲鳴を上げる船渠棲姫だったが、それで躊躇うような2人では無い。ナ級の残骸はグレカーレが剛腕で殴り飛ばして、船渠棲姫への道を開く。

 

「貴女達は軽い気持ちで私達の命を奪いに来たのかもしれないけれど、命は弄んでいい玩具じゃないのよ。そんなことも理解出来ないのに、戦場に立つのが間違いね」

 

 後悔する時間も与えない。そう宣言した通り、神風はそのまま船渠棲姫の首を飛ばす。

 

 

 

 

 はずだった。

 

「んぃいっ!?」

 

 船渠棲姫が妙な反応をしながら体勢を変え、その一撃を紙一重で回避した。しかし、剣線の鋭さによって首の皮が斬られ、小さく血を噴く。

 

「な、なに?」

 

 その仕草は明らかに普通ではなく、神風は少しだけ動揺してしまうものの、これをそのままにしておくと厄介なことが起きると判断し、返す刀でもう一撃。

 だが、今度は明確な意思を持ってその刃をバックステップで回避する船渠棲姫。妙な声、妙な表情で、悶えながらも先程とは違う反応を見せる。

 すると、船渠棲姫の身体から黒い靄が溢れ出た。この反応は、コレまでにも何度も見ている。

 

「うそ、忌雷が寄生した!?」

 

 グレカーレはついさっき近代化戦艦棲姫で見ているのですぐにピンときた。船渠棲姫にはあの忌雷が寄生した。しかも、これまでのようなわざわざ胸まで移動することなく、おそらく()()()()

 

 考える力があろうがなかろうが、()()()()()()()()()をトリガーに、艤装に仕込まれていた忌雷が動き出して取り憑く。まだ戦え、特異点を始末しろと言わんばかりに。

 

「んぁああっ、ふはぁああっ!?」

 

 瞬く間に忌雷の寄生による変化は完了していく。失われた腕も新たに構築され、身体は完全に回復。そして、靄が晴れた時には、これまでの船渠棲姫とは一線を画していた。

 魚雷しか持たないはずなのに、今は主砲も装備。明らかな強化を受けたことが目に見えている。船渠としての力はそのままに、更なる強化がされた改とも言える形態。近代化戦艦棲姫の時のような、ただ頭の中を弄るだけでは収まらなかった。

 失われた戦意を取り戻すかのように攻撃的となったのは、艤装だけでは無い。コレまではセーラーワンピース状だった制服が、その要素を少しも取り入れていない邪悪なレオタード姿。そこにラバー質のニーハイソックスとガーターベルトまで出来上がったことで、その変化は終了した。

 

「ま、マジかぁ、たったアレだけでも寄生されんの」

「厄介極まりないわね。玩具にしていた子が玩具にされてるなんて、本人もわかっていなかったでしょ多分」

 

 グレカーレは妹の魂を穢されたと思い気分を害し、神風はこの裏側にいる者に対しても命を弄ぶ愚か者という認識を持つ。

 

 そんなことは露知らず、生まれ変わった船渠棲姫は、その昂揚感によって気分を良くし、高笑いをした後に神風を睨み付ける。

 

「次は、はっ、ああは行かないよ」

「全く……貴女はより救われない方に行ったのね。なら、ちゃんとトドメを刺してあげるわ」

 

 

 

 

 忌雷の介入により、この戦いはまた面倒な方向へと向かっていく。

 

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