後始末屋の特異点   作:緋寺

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命を弄ばれる者

 敵を増やし続ける船渠棲姫をどうにかするため、まず手近な者から終わらせようとした神風とグレカーレ。その中身は以前戦った同種と同様、自ら生み出した命を道具としか考えていない、神風にとっては逆鱗に触れるほどの思考の持ち主だったことで、一切の容赦なく建造に使う腕を斬り落とす。

 しかし、それによって戦意を失ったことをトリガーに、艤装から忌雷が現れ背中から寄生、船渠棲姫は斬り落とされた腕も再構築された上に、より凶悪な力を手に入れて改装された。

 

 一般的に、艦娘の改装はその時の怪我などが全てリセットされる。左腕を失った深雪が改二となった時、その腕が生えてきた。腐食性の体液を被ってしまった時雨が改三となった時、肌には傷一つ無かった。

 今の船渠棲姫には、同様のことが起きている。つまり、忌雷で起きていることは、改装である。それをより強く引き出していたのが、この船渠棲姫であった。

 

 船渠棲姫のこの変化は、何も()()1()()()()()()()()

 

 

 

 

「戦艦棲姫は任せたよ。戦艦なんだから」

「ああ、引き剥がしておく!」

 

 時雨の指示に従いながら、生み出された戦艦棲姫を圧倒する近代化戦艦棲姫。スペックから見ても全てが上回っていることもあり、その一撃で生体艤装を薙ぎ倒し、本体にも致命傷を与えていく。残酷ではあるが、コレが一番の対策。()()()()()()()()のが、誰も傷付かない最良の手段。

 姫同士の戦いならば、スペックの差が如実に現れる。いくら姫が何体も出たところで、近代化戦艦棲姫のスペックには及ばない。艦娘と深海棲艦の差もここでよくわかるというもの。

 

「仲間になると心強いモノだよ。さぁ、君も年貢の納め時だ」

 

 そんな近代化戦艦棲姫を尻目に、時雨は船渠棲姫を見下すように睨む。魚雷はことごとく砲撃で破壊し、むしろ本体を狙いながら余波を使って対策するレベル。先の同種と同じように、生み出したイロハ級を盾に使うこともあったが、時雨にはそんなこと関係無い。最初からその命を奪うことに抵抗などなかった。

 

「なんで邪魔するのかな。君も魔王の配下だから?」

「配下なんて上下関係はないさ。そもそも、僕が君をどうこうするのに深雪なんて関係ない。命を脅かすから、相応に反撃しているだけさ。まさか殺される覚悟もなくここに立っているわけじゃないだろう?」

 

 今の時雨の方が何倍も上手。船渠棲姫は()()()()()艦娘を目の前にして、苛立ちがより溜まっていく。

 

「私は高次の存在に至ったんだ。命まで作り出せる神のような」

「自分で言わなければ威厳もあったかもしれないけれど、それを口にした時点で失格さ。そもそも君に威厳なんてない。高次どころかただの低脳だ。力に溺れて学びもなく、力の優劣も判断出来ず、自尊心ばかり高いから逃げることもしない。そんなのが神? ちゃんちゃらおかしいね」

 

 補給されたことで更に放てるようになった大口径主砲を惜しみなく使い、時雨は1人でも船渠棲姫を追い詰めていく。

 船渠棲姫は駆逐艦がモデルの深海棲艦。やれることは多いし、その艦種からは逸脱しているようなスペックを持ってはいるものの、時雨からしてみれば、それは結局駆逐艦の域から出ているようなことはないと言い切れる。同種との戦いならば、例え相手が姫であろうと、後れを取ることはない。

 しかも中身は驕りばかりの人間。今でこそ緩和されているが、そもそも呪い持ちのカテゴリーMである時雨には、人間というだけでも殺す理由がある。

 

「神ならこの場を自分の力でどうにかしてみなよ」

「っ……!?」

 

 船渠棲姫はひたすらに雷撃しかしてこないため、その動きが非常に読みやすい。故に、華麗に回避を続けながら的確な砲撃を放つ時雨によって、船渠棲姫は明確な致命傷、脚を撃ち抜かれて捥ぎ取られるところまで追い詰められた。

 

「っあああっ!?」

「痛みで悲鳴を上げて涙目になってる神が何処にいるのさ。君が侮辱する特異点だって前を向いているというのに。まずは自分をしっかり見ることが大切だったね」

 

 トドメと言わんばかりに主砲を構えるが、ここでこちらの船渠棲姫にも変化が。

 

「くひっ!?」

「んん? 何が起きた……!?」

 

 まずいと思い、すぐさま砲撃を放つが、船渠棲姫はそれをこれまでに見せたことのない素早さで回避。そして、黒い靄に包まれる。

 それが忌雷による寄生であることに勘付いた時雨は、変化を待つことなく容赦なく砲撃と雷撃を繰り返すが、その変化を守るようにイロハ級が立ち塞がり、自らの命を盾にして守り続けた。

 

「っはぁああんっ!?」

 

 そして変化は完了。靄が晴れた時には、船渠棲姫は凶悪な姿に進化していた。失われた脚も元に戻っているため、フルスペック。

 

「彼女も君と同じだ。やっぱり味方にも平気でやらかすようだね」

「……私もあんな感じだったのか?」

「ああ、そうだよ。君は身体が出来てる分、余計に酷かった」

 

 戦艦棲姫を圧倒し続けた近代化戦艦棲姫も、船渠棲姫の変化を一部始終目にしたことで、若干引いていた。そして、変化後の船渠棲姫を見た後に、今の自分を見て、近しいことが起きたのだと理解する。新たに現れた衣装は互いに似たようなもののため、より強い嫌悪感が溢れてきた。

 

 

 

 

 また別の船渠棲姫には、増援として参上した鳥海と神通があたっていた。周囲のイロハ級も的確に撃ち抜き、船渠棲姫への道を確実に切り拓く。

 火力なら鳥海が、素早さなら神通が一歩先にいるため、鳥海が撃ち、神通が接近という非常に単純かつ確実な手段で圧倒していく。

 

「船渠棲姫はもう少し()()()()()()()深海棲艦だったと思いますが」

「見た目はそれでも、仲間は人間ですから。経験が顕著に出ているのでしょう」

「なるほど、いいデータになります。役に立つかはわかりませんが」

 

 眼鏡をクイッと上げながら、鳥海は精度の高い砲撃を繰り返し、神通の道を最低限の行動で確実に開いていた。そうしながらも、敵のデータはしっかり収集中。船渠棲姫から生み出されたイロハ級の残骸を見て、それが天然由来の深海棲艦とは質が違うことに気付いている。

 

「人工物のような跡は見えるモノですね。不自然な結合部分もあります。生み出された命ではありますが、とても不安定なモノなのかもしれませんね」

「なるほど、いくら建造が出来るからといっても、それは完璧では無いと」

「はい。おそらく、ここで増やされた命は、ある程度の時間が経つと自壊するのではと思いますね。今は凶悪でも、不安定であるが故に、その場凌ぎにしかならない」

 

 言いながら撃ち続ける鳥海は、一撃で1体ずつ確実に始末していた。破壊されたそれの()()を見ることが出来たおかげで、その急所も的確につくことが出来ている。

 神通も負けず劣らず瞬殺し、前に進みながら船渠棲姫を見据え、次にこうなるのはお前だと突きつけるように、わざわざわかりやすく始末している節さえある。

 

「死にたくなければ投降してください。悪いようにはしません。ですが、それを拒むならば相応のおしまいを与えます」

 

 真正面から邪魔なモノを薙ぎ倒して向かってくる神通だが、それよりも脅威となるのは明らかに鳥海である。戦場に訪れてからまだほとんど時間が経っていないのに、敵の急所を全て把握して、反撃の隙すら与えずに始末していくその姿は、調査隊というより殺し屋の方が近いとすら感じてしまった。

 この船渠棲姫は、他の個体と比べてほんの少し小心者だった。高次の力を手に入れて調子に乗っていたのは他と同じ。しかし、小心故にこの2人がどれほどの存在なのかを肌で感じてしまった。

 

「っ……な、なんなの、貴女達」

「何なのと言われましても。私達は調査隊、そして艦娘です。歪んだ平和を求める貴女達の始末をつけるためにここにいるだけ」

「最初から命のやり取りに持ち込んだのは貴女達でしょう。なら、恐怖を感じている時点でお察しです。その舞台から降りるというのならば、命は助けますよ。尋問はさせてもらいますが」

 

 口だけは柔らかい物腰の神通と鳥海だが、やっていることは目につく敵を皆殺しにするという、相手にしたらただただ恐ろしい存在。小心者にはただの恐怖にしかならない。

 そしてそれは、戦意喪失と見なされる。

 

「んぉっ!?」

 

 何もしていないのに、船渠棲姫がビクンと震えた。それを見た瞬間、神通も鳥海も眼光が鋭くなり、邪魔なモノを全て退かして、船渠棲姫の動向を止めることに専念する。

 別の戦場はまだハッキリと見えていないが、この反応は確実に面倒な方向に向かうと、調査隊としての勘が告げていた。そして、その勘は確実に当たる。

 

「明らかに守りが厚くなった。鳥海さん!」

「勿論、全て破壊します」

 

 その変化を助けるために、イロハ級が一気に群れていた。この2人はまずいと思ったか、戦艦棲姫までもが盾となるべく躍り出ている。生み出した命を惜しみなく盾に使うことに嫌悪感を覚えながら、2人はその技術でどうにか道を開くが、あちらの寄生のスピードは異常に早く、あっという間に変化が完了してしまった。

 

「ふひぃいいっ!?」

 

 靄が晴れた途端に、船渠棲姫は手に入れた主砲を狂ったように乱射。近付こうとしていた神通は退くしか無くなり、小さく舌打ちしながら間合いを取った。

 

「正念場ですか。データの収集が捗りますね」

「軽口は叩けなそうですよ。恐怖心が取り除かれているようですから」

「ですね。それが一番厄介です」

 

 鳥海もその姿を見てあまりいい気分ではなかった。しかしその分、敵のやり方がより深く分析出来ることには運が良かったとも思っている。

 忌雷のやり方を知ることが出来れば、対策だって取りやすい。今後の戦いで確実に有利を取れる。

 

 だから、ここで船渠棲姫をしっかり分析して、後に繋ぐ。それが今、調査隊の秘書艦たる鳥海が選択した道。

 

 

 

 

 3体の船渠棲姫が変貌を遂げる中、最後の1体はそれを知らずに、眼前の艦娘との戦いに集中せざるを得なかった。

 1人はZ1。堅実な攻撃を繰り返し、当てるというよりは逃がさない戦いをメインに繰り出す。それはもう1人、今この場での相方の戦いを十全に押し出すため。

 

「ぽいぽいぽい! 魚雷ばっかりでつまらないっぽい!」

 

 それが夕立。自由気ままに戦う狂犬。敵がどんな相手でも、真正面からぶつかって、やりたいように大暴れする生粋の戦闘狂。

 船渠棲姫からの雷撃は全て砲撃で破壊し、水飛沫が舞い散る中でも気にせず突撃。ビショビショになっても、むしろそれを気持ちよさそうに浴びて、常に船渠棲姫を見据えながら攻撃を繰り返す。

 

「な、なんなの、なんなの!?」

「なんなのって、そんなの決まってるっぽい。夕立は、貴女の敵っぽい!」

 

 ここからは弾切れも惜しまない。神風からの教えにはもう1つあったからである。

 

『あの姫相手には出し惜しみをするな』

 

 それを忠実に守り、船渠棲姫との直接対決には、躊躇など何もせずに全部出す。これまで抑え込んでいた夕立は、解放されたことでより伸び伸びと戦うことが出来ていた。

 

 それは船渠棲姫には恐怖でしかなかった。狂犬を前にし、その目で睨まれたら、身が竦むような思いだった。

 そしてそれは、戦意喪失と見なされる。

 

「おふっ!?」

 

 早速忌雷が寄生。だが、夕立は止まらない。

 

「何しようとしてるか知らないけど、夕立には関係ないっぽい。玩具は玩具らしく壊れたらポイっぽい!」

 

 

 

 

 夕立は船渠棲姫を()()と表現した。結局のところ、何体もいる船渠棲姫は、あちらの黒幕の玩具でしかない。

 命を弄ぶ者は、結果、命を弄ばれる者でしか無かったのだ。

 

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