後始末屋の特異点   作:緋寺

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程度が知れる

 忌雷に寄生されたことにより凶悪な進化を見せた船渠棲姫。その『船渠』の曲解は拡張され、建造だけでなく開発すら出来るようになってしまっていた。

 その場で爆雷や照明弾を造り出して投擲するだけでは飽き足らず、深海忌雷まで造り出して投擲。咄嗟の判断で掴むことで回避した夕立だが、それは寄生するモノと刷り込まれていたせいで、忌雷の本来の性能である爆発をモロに喰らってしまい、左腕を噴き飛ばされた。

 だが、それによって夕立はより闘志を漲らせる。左手が無くても、恐怖に慄くようなことはない。痛みはあっても、それをどうこう言うことすらない。ただ『面白い』と一笑し、船渠棲姫に()()()()()()()()()べく、魚雷を手に戦いを挑む。

 

 そして、その夕立の戦いと同じように、他の船渠棲姫にも動きがあった。全員が同じ能力を持っているため、建造のみならず開発も始めていたのだ。

 

「守りが薄くなったのはいいけど、その分面倒くさくなったんじゃないかなコレ」

「ええ、乱雑な分、定石にも囚われてない。そういうのって、割と厄介よね」

 

 グレカーレが愚痴る中、神風は忌雷の効果で自信過剰になっている船渠棲姫を見遣る。

 開発の力まで手に入れたことで、グレカーレが殴り飛ばしたナ級の残骸から発煙装置を開発し、この場を煙幕で埋めようとしていた。

 

 視界が封じられるのは非常にまずいことに繋がる。何せ、この海域は建造も開発も出来る資材の宝庫。見えていない間に有り余る資材をふんだんに使って建造と開発を繰り返されたら、これまでの戦いがリセットされてしまう。

 

「煙幕は見慣れてるのよ。だから、どうすればいいのかだって、わかる!」

 

 小賢しい真似をする船渠棲姫に向けて斬りつけるのではなく、その煙幕だけを取り払うために強烈な居合を放った。

 軍港都市でもやったそれは、強い踏み込みと同時に豪風を巻き起こし、周囲にあるモノをある程度軽ければ全て吹き飛ばす。煙幕は軽いとかそういう次元ではないので、神風のそれにより一気に晴れた。

 そして、吹き飛ばされるのは煙幕だけではない。小さな残骸、それこそ開発に使えそうなそれも、神風の前方は軒並み一掃された。その直線上に船渠棲姫がいるのだから、今手に触れているモノ以外は近くからも失われている。

 

「な、何それ……!?」

 

 いくら何でもおかしいと、船渠棲姫が驚愕の声を上げる。だが、間髪容れずにグレカーレがツッコミを入れる。

 

「アンタ達に言われる筋合いは無いんだっつーの! そもそもこっちは正々堂々戦ってるんだよなぁ!」

 

 すかさずグレカーレは剛腕を振るい、その指先から魚雷を放つ。砲撃よりも確実と考えたものの、まずは片腕からの5本。素人には回避も難しい絶妙な位置へ。

 今の船渠棲姫は忌雷による寄生進化により、先程よりも素人らしさが失われ、咄嗟の判断も非常に速く正確。

 

「まだ大きな資材は残ってる!」

 

 ナ級の亡骸にまで一気に近付くとそれに触れ、一気に建造。高速建造まで出来るのか、息絶えていたはずのナ級が再建造により息を吹き返した。そしてそのまま雷撃の壁となる。

 爆散するナ級だったが、その残骸に触れて、またもや新たな兵装を開発。今度は煙幕のような場を掻き回す搦手ではなく、やり返してやると言わんばかりに六連装の魚雷発射管を開発。自ら持つ魚雷と共に、超広範囲の雷撃で対応した。

 

 足の踏み場も無いほどの魚雷の群れは、対処法が2つしか無い。砲撃で破壊するか、飛び越えるか。船渠棲姫がそこまで完璧に考えてこの手段に出たとは到底思えないが、しかし今の状況ではこの手段を取ったこと自体が好転に繋がりそうであった。

 

「グレカーレ、貴女は上手いこと破壊しなさいね」

「あいよー。カミカゼは……うん、やりたいことわかるよ。でも気をつけてよ。何でも造れるってことはさ」

「ええ、大丈夫。それもちゃんと視野に入れてる」

 

 グレカーレは砲撃によって自分に向かってくる魚雷を破壊する方向で回避を狙う。だが、神風は違う。

 

「あまり本気は出したくないのよ。この後の後始末に絶対に影響出るから。でも、貴女はやっぱり、命で以て自分の愚かさを知らないとダメ。命を無下にしすぎ」

 

 ただ一跳び。一歩踏み出すだけで、その全ての魚雷を跳び越え、恐ろしいスピードで船渠棲姫へと接近。

 

 いくら強くなったとしても、いくら頭が回るようになったとしても、神風のその速さには、身体が追いつかなかった。向かってくるのはわかる。どう避けなければならないのかもわかる。だが、身体が動かない。故に、船渠棲姫は()()()()()の策を使う。

 

「っ!」

 

 放り投げたのは、()()()()だった。こちらの船渠棲姫も、当然その開発は可能。

 

「だと思ったわよ。だから、私が前に出たの」

 

 しかし、神風にはそれもお見通し。グレカーレですらそう来るのではと思っていたのだから、神風が察しないわけがない。

 

「貴女達には情報が行っていないものね。情報源は、私達がことごとく絶ってるんだもの」

 

 放り投げる瞬間を、その脅威の瞬発力と動体視力で見定めた神風は、その忌雷が自分に接触するよりも速く、刀を振るっていた。踏み込んでいないからその威力はそこまで高くはない。だが、今回振るっているのは鉄パイプのような鈍器ではなく、自分のために誂えられた業物。鋭利な刃は、艤装によるパワーアシスト、そして神風の技量によって、より鋭く輝く。

 

 その忌雷が寄生の性能を有していようが、機雷として爆発する機能を有していようが、今の神風には関係ない。ただ斬る。それだけである。

 

「これくらい、朝飯前なのよ」

 

 真っ二つに、いや、2()()()()()()4()()()()()()()()()が、船渠棲姫の前で機能を停止。起爆性であっても、そうなる前に何も出来なくなっていた。

 

 他の者ならまだこうはならなかっただろう。だが、この船渠棲姫は、とにかく相手が悪かった。駆逐艦と侮ることが出来ない、うみどりの最高戦力の1人にして、自らの力で人の殻を破った()()()()()()()()

 忌雷の力で思考を操作され恐怖心を失い、与えられた力で無双しようとする、なんちゃって高次の存在とは格が違った。

 

「っっ!?」

「私は油断しない。力を手に入れたとしても、敵を嘲笑なんてしない。でも、貴女のような命を粗末にするような輩は、心底反吐が出るわ」

 

 そして、もう一度刀を振るう。狙いは胴。首を飛ばすよりも避けにくい確実な一撃。

 

 咄嗟に身を引いたようだが、それだけでは足りず、両断と行かずとも胴が袈裟斬りにされたことで黒い血を噴き出すに至った。

 

 

 

 

 神風達はその力量がまともでは無いのでどうとでもなる。だが、普通はそうは行かないのがこの船渠棲姫なのだ。夕立であっても傷を負うことになる程に力を与えられているのだから、苦戦するのは間違いない。神風がそれを上回っただけである。

 忌雷による寄生進化は、手段としては間違ったモノではなかった。神風ほどの使い手は、この戦場には存在しない。圧倒出来る程の力量差は、今は無い。

 

「なかなか厄介ですね。ただ強くなっただけなら良かったのですが」

「ええ、頭の回転も速くなっているし、手段が増えている」

 

 その船渠棲姫を観察、調査を続けるのは、神通と鳥海。4体の船渠棲姫を相手取る4組の中で唯一、カテゴリーCのみで組んでいる2人。

 調査隊としての力をその場で発揮するにしても、調査するという都合上、どうしても後手に回ることになる。相手が手段を出してこそ、調査が成立するということに繋がり、それが不可避の致命的な一撃だった場合は調査どころの騒ぎでは無い。

 

 しかし、2人はその調査隊の中でも、秘書艦と隊長に抜擢される実力者。

 

「はっ、所詮ただの人間でしょ。高次の存在になったあたしに、アンタ達が敵うわけないでしょ!」

「そういうことを口にしてるというだけで、程度が知れるのですが……まぁいいでしょう」

 

 船渠棲姫のその態度から、鳥海は小さく溜息を吐いた。だが、それは余裕があるからそういう態度を取っているわけでは無い。これも全て調査のための行動。船渠棲姫の精神構造を判別するため。

 

「ですが、貴女の建造、そして開発ですか。仕組みがわかってきましたよ」

 

 回避しながら眼鏡をクイッと上げて、鳥海は砲撃を放つ。それは船渠棲姫を狙っているわけではなく、基本的には残骸を木っ端微塵にするため。

 開発をするにしてもある程度の大きさが無ければモノにはならない。だから小さいモノでもかき集めてそれなりの大きさにして扱っている。そしてそれは、梅の解体によって資材として認識出来ないくらいにまで細かくされているのだから、何処までが資材のサイズかは把握済み。手数を減らすために残骸に集中して攻撃する。

 

 勝利への1歩は地道なところから。調査隊ならではのムーブ。

 しかしそれは、船渠棲姫の猛攻を対処しながらになるため、相当な技量が必要でもある。敵の実力を測り、それに対応した動きをしながら、突発的な動きも考慮しての対応となる。

 

「くっ……っ」

 

 自分で高次というだけあり、その技量は寄生前と比べると大きく向上しているのは間違いない。熟練者である鳥海も、調査観察をしながら回避し、かつ資材に対しての攻撃を続けるのはなかなかに厳しい。神通も前に出ることが出来ず、砲撃と雷撃に加え、搦手まで交えてこられたことで厳しい戦いを強いられている。

 特に厄介だったのが、造り出した兵装を使ってすぐに()()()()()()()()()()という、本来なら出来ないような開発。それこそ曲解の境地。そこにモノがあるのなら、全てが資材として認識して、廃棄せずとも別の兵装に変えてしまう。

 それが、夕立がやられたことに近い目眩し。こちらの船渠棲姫は、合間合間に大型探照灯を開発し、その非常に高い光源を直接目にぶつけてくる。それが昼間であろうとも、光を直接目に入れられたら、誰だって目が眩んでしまうもの。

 

「神通さん、右へ」

「了解」

 

 だが、神通が目を眩まされたら、鳥海が視界をサポート。逆もまた然り。敵の行動、その時々の兵装からやるであろう戦術、全てを一瞬で計算する。戦場での計算能力は、鳥海が群を抜いていた。

 

「っ、忌雷!」

 

 そして、こちらの船渠棲姫も深海忌雷を繰り出してくる。鳥海にも神通にも、忌雷は寄生し洗脳するモノという刷り込みはあった。だが、計算能力に秀でている鳥海は、その忌雷が目に入った時にあらゆる可能性を頭で巡らせる。

 そのままズバリ寄生してくる可能性、機雷として爆発する可能性、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、全てを考慮した結果、やるべき行動をすぐに割り出す。

 

「撃って!」

「了解」

 

 指示を聞いた瞬間に、神通は動いていた。小さな忌雷ではあるが、それを破壊する砲撃が完璧に捉える。すると、その忌雷はこれまでとは違う爆発を起こした。

 爆風に煽られて小さくダメージを受けるものの、そこまで酷いものでは無い、少し痛い程度。

 

「あの忌雷は起爆性でした。キャッチしていたら腕が無くなっていましたね」

「ありがとうございます鳥海さん。私はキャッチで考えていました。危なかったですね」

 

 これでも攻撃が通らないことに、船渠棲姫は苛立ちを覚える。あまりにも抵抗をしてくるため、何故すぐやられないのだと。高次の存在に楯突くなんてと。やはり程度が知れる言動に、鳥海は改めて溜息を吐いた。

 

 

 

 

 そして、この戦場はまた変化する。

 

「増援、到着いたしました。三隈だけで申し訳ございません」

 

 埋護姉妹との戦いを終えた三隈が合流。軍師の登場により、戦いはさらに有利へと進むはずである。

 

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