船渠棲姫との戦いの中、埋護姉妹との戦いを終えた三隈が合流。4チームに分かれて戦う中で、三隈は調査隊チームである神通と鳥海に加勢する。手近だったというのもあるが、今の戦況を確認した結果、この部隊が最も自分がいる意味があると判断したから。
「鳥海さん、これまで調査した内容、開示していただけますか?」
「はい、大丈夫です。船渠棲姫の特徴、わかる限りを伝えます」
その情報は、船渠棲姫自身には聞こえないように、神通が砲撃を織り交ぜてその音で遮りながら三隈に伝えられる。そうしている間にも、残骸を木っ端微塵に粉砕し、建造と開発を封じながら次の一手を考える。
「なるほど、手で資源に触れることが条件。ある程度の大きさより小さくなれば資源判定されない。梅さんの解体で資材では無くなる。そして……
素人と言い切りはしたものの、搦手が非常に上手くなっており、使ってくる兵装が多種多様であることは、三隈を以てしても面倒臭いと思わせるくらいだ。
素人を相手にするのはいいとして、その兵装を
本当に戦いやすいのは、ちょっと技術を齧ったくらいの、素人に毛が生えたくらいの兵士。突飛なことをされる方が、軍師にも調査隊にも不利益になる。
「まずは残骸を全て破壊していきましょう。牽制には慣れていないように見えます」
「了解。まずは手段を奪うべきということですね」
「それが確実です。そうすれば……」
三隈がチラリと船渠棲姫に目をやると、その攻撃がことごとく通用しないことに対しての苛立ちを、ついには表情に見せ始めていた。
あまりにも圧倒的な力で押し潰されると諦めにも繋がるが、見た目自分の方が上だろうと思えるにもかかわらず、その攻撃はすんでのところで届かず、完全に技術の差で回避され続けているというのは、実力の読めない自信家には諦めにも繋がらず苛立ちにしか繋がらない。
鳥海が狙っていたのは建造も開発も狙えない状態にすること。そこに三隈が加わったことで、それを丸裸にすることだけでなく、精神的に追い詰めて戦闘そのものを杜撰にするための策に変化。
やっていることは同じであっても、三隈の手段はより的確に未熟な精神を抉る方向へと少しずつ流れていた。建造や開発をしようと近付いた資材をその寸前で破壊し、反撃に対してはより紙一重に見えるような回避方法を選択する。思った手段がことごとく上手くいかないと見せつける当てつけ。
「なんで、なんで当たらないの!」
策略通り、船渠棲姫はムキになっていた。自らが装備する魚雷や、新たに獲得した主砲、数少なくされてきた資材から開発された兵装を駆使して、手を替え品を替え攻撃を繰り出すが、搦手自体が薄れていき、ただ目の前の敵──高次の自分と違う、ただの艦娘、ただの低層の人間を、その圧倒的な力で押し潰してやるという怒りの攻撃一辺倒になっていく。
「それは貴女が未熟だからですわ」
そしてここからは三隈による明確な精神攻撃。ズルでも何でもなく、これまで敵が深雪にやってきた、特異点いびりと根拠のない悪意と似たようなモノ。
あちらが正々堂々と戦ってきたのならば、三隈だってこんなことは言わない。思っていても心の中に留めておく。しかし、顔を見せればすぐさまそれを口にし、ただのイジメにしか思えない言動で特異点を追い詰めようとする陰険さ。それをそっくりそのままお返ししているだけである。
違うのは、嘘八百を並べ立てているのではなく、純粋に事実を教えてあげているということ。むしろ聞く者によっては助言とも言える言葉。
「臨機応変に立ち回れる力を持っているのに、頭の中が熱くなっているから、三隈達のような何も力を持たない一艦娘にすら圧倒されるのです」
「この……っ」
「そこで三隈からの提案なのですが、一度出直して鍛え直してからまた戦うというのは如何ですか? そうすれば、もう少しいい戦いが出来るかと思いますが」
笑顔で提案する三隈。意地の悪さを感じたものの、これはこれで優しさも入っている。ここで命を落とさず、戦いをやめないかという提案。お互い痛い思いをしたくないでしょうと。
しかし、船渠棲姫にその言葉は、精神を逆撫でする以外の何モノでも無かった。
「低次元の分際であたしに指図するつもり!?」
「指図ではなく提案。そして、次元は関係なく貴女と三隈達は戦場に立つ対等な存在。3人がかりで申し訳ございません。ですが、よくよく考えていただければわかるかと思いますが、貴女方はうみどりとおおわしを圧倒する数を用意してきたのですから、最終的にこちらに数の利を得ても、何も文句はありませんよね?」
苛立ちは頂点に達し、手元にある資材をほぼ全て忌雷の開発に使うと、片っ端から投擲。
だが、それは三隈に向かう前に神通が的確に全て撃ち墜とした。ほぼ全てが起爆して、纏めて大爆発を起こす。
「貴女の答え、三隈はしかと理解しました。でも、よかったのですか? もう資材はありませんよ?」
「え……」
今の忌雷開発により、船渠棲姫の周囲には資材と呼べる残骸が全て失われていた。三隈が合流する前から行われてきた資材破壊。三隈もこうやって船渠棲姫の気を引きながら破壊を繰り返し、3人がかりの成果が今ここで結実する。
船渠棲姫の周囲は、資材と言える残骸は何一つ残っていない。綺麗な海ではなくとも、それは船渠棲姫にとっては何も無いも同然。
「意地が悪くて申し訳ございません。ですが、貴女方はこの数倍は酷いことをしているのですが、ご理解いただけましたでしょうか」
「な、なんで……なんで、なんでなんでなんで」
自分が追い詰められていると気付いたことで、癇癪を起こし、泣きそうな顔になっていた。しかし、これまでの言動からして、それが本気で泣きたい状況であっても、それによってこちらを動揺させようとしている策に思えてしまう。
故に、同情などしない。動揺を見せた瞬間、一気に動き出したのは鳥海だった。
「何故って、最初からそうすれば貴女は何も出来なくなると考えていたからですよ。三隈さんが合流してくれたことで、よりやりやすくなっただけです」
「ふふ、三隈が来ずとも同じ結末だったかもしれませんね」
「どうでしょう。私や神通さんでは、あそこまで精神を抉る言葉は使えなかったかも」
「あら、はしたない言葉を使ってしまったようですわ。品性を欠くような言動は謹んでいたのですが」
この船渠棲姫を前に和やかな雰囲気を見せ始めたことで、余計に神経を逆撫でした。
「ふざっ、ふざけるなぁ!」
「ふざけてるのは貴女でしょうに」
神通の砲撃によって、船渠棲姫の艤装の一部が破壊される。それは、明確な駆動部分だった。船渠棲姫の動きが途端に鈍くなる。
これだけ戦っていれば、船渠棲姫自体の調査も終わっている。神通とて隊長を任せられるくらいの実力の持ち主なのだから、時間をかけた今ならば
「ちょ、ちょっと、なんで動かないの!?」
「動かないようにしたからに決まっているでしょう。素人だとしても、それすらわからないのですか?」
神通もこれ見よがしに溜息を吐いた。苦戦させられた敵の精神がここまで未熟とは思っていなかったようである。
「うああああっ!」
そして怒りが頂点に達した時、船渠棲姫はその感情のままに砲撃と魚雷を乱射した。こうなってしまっては、もう高次も何もあったモノでは無い。思い通りにならず泣き喚く未熟な子供。素人の突飛な行動を危惧していた三隈も、これは想定通り。
「ようやくやりやすくなりましたね。では、終わらせましょう」
そして、その乱雑な攻撃は簡単に掻い潜れる。鳥海が軽々と回避しながら突き進む。駆動部が破壊された船渠棲姫は、攻撃はすることが出来てもまともな回避は不可能。
「救われない者を救うことが出来る唯一の手段をご存知ですか?」
「何を、何を言って」
「それは、
鳥海の砲撃は、その船渠棲姫の心臓を見事に抉った。
神風とグレカーレ組は、本当の高次の存在となっている神風による圧倒で。三隈が合流した調査隊組は、3人の熟練者が持つ経験による策で。非常に厄介な開発の搦手相手でも全く動じずに対処し、その力を封じ込めて勝利を収めている。
しかし、残りの2つの組には、ほんの少しだけ不安要素があった。そもそも大型建造で生み出された戦艦棲姫はこちらの2組に寄せられている。その上で、夕立とZ1の組は、既に夕立が左手を失うという傷を負ってしまった。本人はそれでも戦いを楽しもうと笑顔を見せているが、今自分達が若干不利であることは理解している。
そして、最後の1組。時雨と近代化戦艦棲姫。こちらは近代化戦艦棲姫が属しているということで、戦艦棲姫も多めに配備されていた。また、船渠棲姫の出来も違うのか、恐怖心を失ったことで伸び伸びと戦いを再開しており、精神的な余裕まで持ったことで、時雨に対して互角以上に立ち回るようになっていた。
「急に動きが変わったね。忌雷に寄生されて強化されたのはわかるけれど、それが君の本来の実力ということかい?」
「さっきまでのあたしがどうかしてただけだよ。アンタみたいなヤツが怖いわけないんだ。それに今のあたしには、もっと力がある。神の力がさぁ!」
相変わらず自尊心は高く、忌雷に寄生されたことでそれがより酷い方向に伸びているようだが、時雨は少しも興味を持たずに砲撃を繰り返す。
「アンタの攻撃、大振りで避けやすいよね。それしか出来ないのかな」
「まぁ君達の装甲を抜くためには、僕の火力はこちらでないと少し足りないモノでね」
「なぁんだ、よく見たらアンタただの雑魚じゃん」
「そう見えるならそう考えていればいいさ。その雑魚に足を掬われるのは君なんだから」
先程までは大口径主砲でも互角以上の戦いが出来たが、今は忌雷による強化がかなり効いているのか、その力量差は若干逆転されている。
表には出さないが、時雨はこの船渠棲姫に対して、強いという印象を持つと同時に、ここまでしなくては強くなれないのかと呆れも覚える。
結局のところ、力を得ただけではそれに振り回されるだけの素人。忌雷を使って精神的な再調整をし、強引な強化を施さないと前線で戦えるような実力にはなれないくらいの人間。
そんな連中を戦場に駆り出している時点で、敵の戦力は底が見えたと時雨でもわかった。
「まぁでも、少し荷が重くなったかな……僕の相方は、強いけれどやっぱり素人だ。力で圧倒することが唯一の勝ち筋。おそらく本人も理解していると思うけど」
近代化戦艦棲姫も素人と言えば素人だ。他の敵とは違い、善悪の区別がついた上に、ダメコンという強力な能力を持ちながらもそれに頼り切らない慢心しない性格だったのは良かったが、艦種が艦種だけに搦手が非常に難しい。
「これは……誰かと合流が一番早いか。やるなら、夕立が一番近い……んん?」
時雨もここで他のチームとの合流を選択。手近ならば夕立とZ1のチームがいいとすぐに思いつく。駆逐艦2人というのは厳しいだろうということもあり、近代化戦艦棲姫の火力もサポートに入れつつ、経験を積んでいる自分達で船渠棲姫2体を相手取る方が確実と判断。
だが、その夕立を見て、時雨は目を見開く。その左手が失われていたのだから。
「……そうかいそうかい。なら尚更じゃないか」
時雨はもう次の行動に出ていた。
「君! 一旦そこから離れて! 夕立達と合流する!」
近代化戦艦棲姫に指示を飛ばし、傷付いた妹を救うため、時雨は感情のままにそれを実行する。
ここの時雨にはあまり無かった感情。