後始末屋の特異点   作:緋寺

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心通わせる仲間

 戦艦棲姫による妨害を受けながらも、船渠棲姫との戦いを続ける時雨と近代化戦艦棲姫だったが、このままだとジリ貧になりかねないと、誰かのチームとの合流を考えた。そこで最も手近だったのが、夕立とZ1のチーム。これならば近くにいる上に姉妹であるため連携もしやすい。

 だが、合流を促す前に目に入ったのは、左手を負傷し失った夕立の姿。Z1との連携で、勇猛果敢に戦艦棲姫を退かそうとしているその戦い方は、大怪我からの痛みを感じていないようにすら思えた。

 

 それを見た時雨は、これまでに無かったような感情が芽生えた。それは、()()()()()。仲間を、妹を傷つけられたことにより、心配だという心の、よくも妹をやってくれたなという気持ちが、同時に溢れ出したかのようだった。

 

「君! 一旦そこから離れて! 夕立達と合流する!」

「了解だ!」

 

 近代化戦艦棲姫に指示を飛ばす。それを耳に入れた近代化戦艦棲姫は、時雨の思惑通りに移動してくれる。合流という言葉を使ったのが効果的であり、時雨の向いている方向、そしてそこにいる負傷者夕立を確認したことで、近代化戦艦棲姫はより慎重に、しかし戦艦棲姫を噴き飛ばすための砲撃を何度も繰り返した。

 それもまた、思惑通り。いくら硬いと言っても、元より強く、さらに忌雷の寄生まで施されてしまっているその砲撃。それを一発放つだけで、直撃した戦艦棲姫は見るも無惨なカタチに噴き飛ばされた。

 

「そんないいようにさせるわけないでしょうが!」

 

 しかし、その残骸に即座に触れると、船渠棲姫の能力によって再建造されていき、何も無かったかのようにそこに立っていた。意思が剥奪されているため、そんなことが起きても一切動じず、再誕したのも束の間、すぐさま近代化戦艦棲姫に砲撃を放った。

 

「喧しい! お前は考える力もないのか! お前自身もいいように使われて、それでも特異点が悪だと思っているのか!」

 

 そんな戦艦棲姫の砲撃を紙一重で避けつつ、船渠棲姫に問いかける近代化戦艦棲姫。

 自分は考えることで真に悪性を持つ者がどちらかを理解し、それでも思考を操作されたがその特異点と仲間達の尽力によって正気を取り戻した。自分がそうなれたのだから、他の者だって考えればわかることだろうと思い、船渠棲姫にも訴えかける。

 

 しかし、船渠棲姫はそんな近代化戦艦棲姫に対して鼻で笑うような仕草。

 

「何言ってんの? 特異点は平和をぶっ壊すヤバい奴。それをどうにかしようとするあたし達は正義の味方。これが正しいに決まってんでしょ。あたし達は正義なんだから、何やってもいいんだよ」

「お前、本気で言ってるのか」

「当たり前でしょ。何、もしかして特異点にやられて情をかけられたから惚れちゃったか何か? うーわ、ダッサーい。アンタが雑魚だから同情されてるんじゃないの? どうせ使われるだけ使われて後からポイだよ」

 

 有る事無い事好き勝手言いながら、船渠棲姫は夕立達との合流を狙う時雨に対しても手に入れた主砲で砲撃を仕掛けつつ建造を繰り返す。海に散らばる残骸を掻き集めては、新たな深海棲艦を建造。その時に余った資材で兵装を開発。それを駆使して追い詰めようと迅速に動き続ける。

 

「そもそもあたし1人に勝てないから逃げて仲間と一緒にやろうとしてるんでしょ? 敵前逃亡するような奴が、強いわけないじゃん。ざぁこざぁこ」

「君は子供のような口論しか出来ないのかい? 頭の足りなさがわかりやすい低能の話し方だ。自分で物事が考えられないから、戦局もまともに見ることが出来ない」

 

 船渠棲姫の言葉に時雨は呆れながら反論する。だが、それも面倒臭いと思い、それだけ言うと船渠棲姫のことを無視して夕立との合流を目指した。

 そんな時雨のやり方を納得し、近代化戦艦棲姫も船渠棲姫の説得は諦めた。特異点のおかげで正気を取り戻せなかったら自分もこうだったのかと思うと腹立たしい。しかもこの船渠棲姫、正気を取り戻したとしても考え方は変わらない。自分は正義だと言い切った辺り、思考誘導など関係なしに、根っこにその考え方が根付いている。

 洗脳教育の賜物かもしれないが、それに疑問を持たないようにされているだけでも、もう救いようがない相手であることが嫌というほどわかった。

 

「説得力ないよね。それだけ言うならなんでかかってこないのさ。あたしが怖くなっちゃったんじゃないの? もう勝ち目がないから逃げなくちゃーって、尻尾を巻いて逃げるワンコになったんじゃないの?」

 

 口だけは達者な船渠棲姫に対して、これ見よがしに溜息を吐いた時雨は、それでも相手をするわけでもなく、しかし神経を逆撫でするために言葉を紡ぐ。

 

「君の節穴の目は、忌雷のせいで余程濁ったみたいだね。ついさっきまで怖くて怖くてブルブル震えていたお子様が、君の後ろにいる外道の力でちょっと力を手に入れただけで自分の方が上に立っていると勘違いしている。君の曇った目では、これが逃げているように見てるんだね。本当に節穴だ。戦況もまるで見えていない素人が戦場にいると思うだけでも気分が悪いよ。ただ邪魔なだけのゴミクズが、壊れたように足りない語彙で罵ることしか出来ないだなんてね。それの何処が高次の存在なんだい? 君は()()()()を知らないからそれでいいと思えてしまっているんだよ。程度の低いただの子供が、怖い怖い戦場にしゃしゃり出てきて、結局はその愚かさ故に命を落とすんだ。どうせ君は死に際に命乞いをするんだろう? 涙目でガタガタ震えた後だから、次は小便でも漏らすのかい?」

 

 少しの言葉に数倍で返す時雨に、船渠棲姫は顔を引き攣らせながらも鼻で笑った。

 

「口でなら何とでも言えるよ。実力で思い知ればいいんだ」

「口で勝てないから力で屈服させようとしているんだろうに。でも君は本当に何もわかっていない。君は戦場を知っているのかい。これが初陣だろう。臨機応変に立ち回ることが出来るとは到底思えないね」

 

 そう言うと、時雨は近代化戦艦棲姫に小さくアイコンタクトを送る。それに気付いた近代化戦艦棲姫は、小さく頷いた。

 近代化戦艦棲姫とて素人。だが、自覚している素人だから、合図を受けた時にやることなんて1つしかない。

 

「私の出来ることは単純明快だ。だからそれを全力でやるだけ。うおおおっ!」

 

 渾身の砲撃を船渠棲姫に向かって放つ。威力は当然ながらとんでもなく、掠めるだけでも重傷になり得る凶悪な一撃。

 

「はっ、砲撃しか出来ないのに、しゃしゃり出てこないでよね!」

「私はそれが自覚出来ているんでね。素人は玄人の指示に従う。戦場を知る者の指示は、それだけ効果的だ」

 

 船渠棲姫を守らんと戦艦棲姫が盾となるが、今回の近代化戦艦棲姫の砲撃はそれを余裕で薙ぎ倒して船渠棲姫へと向かっていった。これは完全に当たりどころ。そしてタイミング。大急ぎで盾になろうとしても、どっしりと身構えているわけではないのだから、噴き飛ばされて当然。質量によって砲撃自体は捻じ曲げられるものの、それは船渠棲姫の手前で爆散し、巨大な水柱を上げることに繋がる。

 

「やっぱり当たんないじゃん。素人が何したって無駄なんだよざぁこ!」

「これも何か狙いなのだろうさ。私にはまだわからないが、ここで撃てと彼女は合図を送ってきたんだ。理由がある」

 

 その隙に時雨は夕立とZ1との合流を果たすことになる。

 

「夕立! 大丈夫かい!?」

「あ、時雨ーっ、大丈夫っぽい! ちょっと左手が失くなっちゃったけど、この程度でへこたれる夕立じゃないっぽい!」

 

 もう1体の船渠棲姫に牽制しながらも戦況報告をする夕立。Z1もこんな夕立に苦笑しながら、明らかに盾としての行動が多い戦艦棲姫に対して砲撃を放っている。船渠棲姫は未だに無傷ではあるのだが、攻めることもなかなか出来ずに苛立っているようだった。

 夕立がまだまだやれる雰囲気を出していたことに内心でホッとしていた。苦しんでいたらより芽生えた怒りが溢れ出していたかもしれない。故に、その優しい怒りを抑えて、すぐに指示を出す。

 

「なら、急ぎで悪いけど頼まれてくれるかな」

「ぽい! 何すればいい?」

「あっちだ」

 

 顎で見るように促す。そこには近代化戦艦棲姫の砲撃のおかげで大きく立ち上った水柱が見えた。その向こう側には、これまで時雨が相手をしていた船渠棲姫がいる。

 近代化戦艦棲姫も、目眩しが出来ているうちに一気に進んで、もう少しで合流可能。そのうえで、自らが時雨達の盾になれそうな立ち位置を探っていた。『ダメコン』の曲解を有意義に使うためにも、本当の盾役を言われずとも買って出る。

 

「減らず口ばかりの子供のようだからね。一旦君達の担当していた奴は置いておいて、4人で一気呵成に行こう」

「りょーかいっぽい! レーベ、行ける?」

「だ、大丈夫。あっちを放っておくのはちょっと怖いけど、多分大丈夫」

「頼もしい限りだ。それじゃあ早速、行くよ!」

 

 水柱が失われたと思った瞬間、船渠棲姫の目に映ったのは、時雨だけでなく、夕立とZ1までもが自分に向かって突撃してくる姿だった。

 もう1人は完全に放置されたため、一瞬思考停止。しかし、これを侮辱と捉えて怒りを覚え、すぐさま自分の盾(戦艦棲姫)と共にその後ろ姿に砲撃を放つ。

 

「間に合った! 背中は任せろぉっ!」

 

 だがその砲撃は真の盾役である近代化戦艦棲姫がダメコンにより完全防御。いくらそれが強力な砲撃だとしても、深雪の消し飛ばす砲撃すら擦り傷に軽減出来るその能力の前では無力と言ってもいい。

 とはいえ当たった瞬間に敏感肌の喘ぎが聞こえたため、時雨は苦笑するしかなかった。

 

「アレについては後から言及しよう。今は、こちらのクソガキだ」

「ぽい。あっちは夕立の左手の仇だから、ちゃんとあとからケジメつけさせるっぽい」

「こっちは口が悪いから、しっかり後悔させてから終わらせてやろう」

 

 盾になる戦艦棲姫は、近代化戦艦棲姫の砲撃を受けて残骸と化している。水柱が失われた時に即座に再建造に動いたが、それを止めようとしたのはZ1。

 

「多分、これだよね。Feuer!」

 

 Z1の狙いは残骸に触れさせないこと。再建造をする瞬間に、その残骸に向かって砲撃を放ち、見事に直撃。消し飛ばしたり木っ端微塵にしたりは出来ずとも、再建造の規定量には満たさなくなり、戦艦棲姫がそこに再び現れることはなかった。

 大型建造はただの建造となり、そこに現れたのは触れた分が少なかったせいか、駆逐艦、しかもナ級のような上位個体でもないただのイ級。

 

「そんなもの、壁にもならない」

 

 そして、そのイ級をすかさず時雨が大口径主砲で粉砕。イ級はうみどりにもいるので少々複雑な気分になるものの、ここの時雨が躊躇うはずもなく、しっかり木っ端微塵にした。

 

「ちょっ、何してくれてんの……っ!?」

「遅いっぽい!」

 

 憤慨する船渠棲姫は、砲撃の方向を見た瞬間に夕立の足が視界いっぱいに入っていた。その蹴りは完全に顎に入り、首が嫌な音を立てる。

 

「っがっ!?」

「うわ、これで頭パカーンってならないんだ。忌雷で強化されてるから硬いっぽい?」

「そうかもね。でも、その方が都合がいいよ」

 

 さらに時雨がもう一蹴り浴びせかけ、体勢を崩させて横転させる。そして、倒れた船渠棲姫の胸を思い切り踏みつけた。

 

「ぐぇっ、ちょ、なに、すんの」

「この期に及んでそんな口の利き方が出来るのは尊敬するよ。君は今から死ぬわけなんだけれど、辞世の句でもあるかい」

 

 マウントしていた小口径の主砲を握り直し、船渠棲姫の眼前に突きつける。

 手を動かそうとした瞬間にそれを撃ち抜き、建造も開発も出来ないようにすることも忘れていない。

 

「ぎいっ!? い、痛い、痛い痛い痛い!?」

「何か文句でもあるかい? 神なんだろう? 泣き言なんて言っていたら、ただの人間じゃないか。あれだけ傲慢に振る舞ったんだから、責任をとってもらわないとね。ああそうだ、今だからこそ君に言っておかないといけないことがあるね」

 

 グリッと足蹴にし、余計に悲鳴を引き出した後、当てつけのように言う。

 

「君は確かに強かった。でも、こちらには君とは違う、心通わせる仲間がいるんだ。人形遊びしか出来ないガキに敗ける道理は無いんだよ」

「1人に寄ってたかって……!?」

「どの口が言うんだい。ついさっきまで数で押し潰そうとした奴が」

 

 心底嫌そうな顔を見せ、見下す視線を投げかけて、屈辱的な死をくれてやる。

 

 

 

 

 

「うちの妹を傷付けた罰だ。連帯責任で君も死んでくれ」

 

 そして、砲撃が放たれる。船渠棲姫の頭部は、完全にこの世から消し去られた。もう減らず口なんて叩けない。

 

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