時雨の砲撃により、船渠棲姫の1体の頭が失われたことで死亡。これで実質的に2体目を撃破したこととなる。
残すのは2体。そのうちの1体は、神風の斬撃によって胴を袈裟斬りにされたことで虫の息。時間経過で自己修復していくものの、神風がそれを許すわけが無い。
「咄嗟に身を引いたことは褒めてあげるわ。だからと言って逃がすわけがないけれど」
痛みで顔を顰めつつ、足をもつれさせてその場に倒れる船渠棲姫を見下すように眺め、すぐさまその両腕を斬り落とした。
胴を斬ったとしても、その両腕が健在である限り、建造と開発は可能。この期に及んで何かしてきても困るため、そもそもの力を奪い取った。
「っぎっ!?」
「命を粗末に扱う奴は大嫌いなの。それに貴女、何を言っても聞かないわよね。生み出した命は道具、どう使っても自分の勝手で、私達に説教される謂れなんてないとか言ってたものね」
涙目で神風を睨み付ける船渠棲姫。何故自分がこんな目に遭わねばならないのかと口にしそうな表情。ここまでの言動全てがここに繋がっているというのに、それすら理解出来ていない程に堕ちている。
これもまた、阿手による洗脳教育の影響なのかと考えるものの、歪みに歪み、最初から命を何とも思っていないような人間が改造と寄生を施されたことで、本当に取り返しのつかないことになっているのは、火を見るより明らかだった。
これは深雪の力でも元には戻せない。グレカーレの羅針盤が使えたとしても、正しい道が命を虐げるモノであると確信している。ならば、もう迷いはない。
「だから、説教も何も無いわ。貴女は貴女のせいで死ぬの。深雪は何も関係ない。貴女が自分自身で選んだ道の終着点がここだっただけ。あの近代化戦艦棲姫は考えてその道を外れることが出来たんだもの」
そして、神風はトドメを刺した。言い訳もさせない。ただ何も言わせないため、その首を斬り飛ばした。
残された最後の船渠棲姫は、今の状況に絶望していた。急に背中から痛みと共に快感が膨れ上がり、これまで以上の力が湧き上がり、その力を使って夕立の左手を奪ったところまでは良かった。
だが、実際はどうだ。最初は有利に立ち向かえていたのに、少しあちらの動きが変わったら、あっという間に制圧された。数的有利もあったというのに、それもことごとく打ち砕かれた。それを使えば新たな兵隊も造れるのに、それすらも封じられた。
「あ、ああ……」
眼前の敵だけでなく、今更ながら戦場の全てを見渡す。それによって、今はさらに絶望的な状況であることを嫌というほど気付かされた。
連れてきた、または新たにこの場で造り上げた深海棲艦は、その殆どが白雲の舞によって凍結させられており、身動きが取れなくなっていた。それだけでなく、合間合間に白雲が砲撃を放つことで凍らせつつも絶命させている。自らの強みをしっかりと理解し、神風から学んだことを活かし、あくまでも冷静に舞い続ける。
そこから逃れることが出来たモノも、響と白雪によって駆逐され、梅によって完全に解体。資材としての運用は出来ないくらいに細かく砕いていた。これにより、兵力の増強はまず不可能と言える状況。自分の近くにいる戦艦棲姫も、近代化戦艦棲姫によって噴き飛ばされることが目に見えている。
「なんで……あたしは、あたし達は、強くなったのに」
そして、仲間の惨状も目に入ってしまった。3人が3人、無惨に息絶え倒れていた。
1人は目の前で頭を失った。1人は胸を抉られて身体が半分失くなっていた。そして1人は首が飛んだ。
ついさっきまで共にここで特異点を始末して世界の平和を目指そうと組んできた仲間達が、今はもう自分1人。その状況が、忌雷の寄生によって抑え込まれていた恐怖心を呼び起こしてしまう。
「今更泣き言言うっぽい? ヒトの左手捥いどいて、やられそうになったらそれ? 夕立、貴女に何て言われたかハッキリ覚えてるよ。ざまぁない、だったよね」
最後に残った船渠棲姫が、忌雷に寄生された今でも死の恐怖に震え始めたのを見て、面白いと笑っていた夕立は蔑むような目になった。
自分の左手を破壊したのは、偶然も偶然。頭を使っているようにも見えたが、それも小手先。使えるモノ、造れるモノを適当に繰り出したら、偶々上手く行ってしまっただけ。
結局のところ、船渠棲姫は誰も彼もが素人。頭を使えば圧倒すら出来そうな力であっても、そこに頭が回らず、慢心に満ち溢れているからこうなる。
「はぁ……期待はずれっぽい。左手失くして損した。もう終わりっぽい」
心底ガッカリした表情で、船渠棲姫に魚雷を放った。これが当たれば木っ端微塵。ここでの戦闘は終わりになる。
だが、恐慌状態の素人は、何をしでかすかわからない。
「ひっ、いああああああっ!?」
死んで堪るかという気持ち、蔑まれたことへの怒り、仲間達を失った悲しみが綯交ぜとなり、そしてもう自分は死んでしまうのだという諦めが加わった結果、船渠棲姫は死ぬ間際に壊れた。
その結果、予想だにしないことが起きてしまう。夕立の放った魚雷を跳び越え、恐るべきスピードで突撃。夕立に体当たりをぶちかました。
「ぽいっ!?」
「夕立!?」
その様子を時雨も見ていた。壊れた船渠棲姫は何をするかと思えば、時雨が足蹴にしていた首のない1人に突っ込んできていた。
「もういい、もういい、もういい、どうせ死んじゃうんだ、死んじゃうんだから、好き勝手やってやる、やってやる!」
ある意味で頭のネジと同時にリミッターが外れてしまっていた。理性も躊躇も無くなり、真の意味で恐怖を克服してしまっていた。
こうなった者ほど恐ろしい者はない。追い込まれすぎたことで真の力を発揮するようになってしまったと言っても過言ではない。考える前に直感的に動き、持っている高次の力を余すところなく使って、ただこの戦場を引っ掻き回すだけ。
「足をっ、どけろぉ!」
「なっ、何をする気だい」
これを止めないとまずいと嫌な予感がした時雨は、向かってくる船渠棲姫に向かって砲撃を放つ。だが、心を壊してリミッターを外した船渠棲姫はそれを紙一重で回避。砲撃も放つことなくまたもや体当たりを仕掛ける。まるで癇癪を起こした子供。駄々っ子のようなモノ。
流石に当たるわけにはいかないと時雨はそれを回避。すると、時雨ではなく首無しの仲間を抱きしめるように抱え上げた。瞬間、その仲間の身体が
「なっ、まずい! 全員、亡骸を破壊するんだ!」
心臓を抉った鳥海、首を飛ばした神風に叫ぶ。しかし、大型建造、かつ高速建造されたことにより、首無し死体はそのまま意思のない駆逐棲姫へと姿を変えた。欠損した部分が頭から脚へと移動したようなモノ。
だが、資材が資材なだけあり、生み出された瞬間、時雨に対して猛烈な攻撃を浴びせかける。
本来ならあり得ないことだが、先程まで妨害を続けていた戦艦棲姫よりも強力な個体のようにも思え、時雨は舌打ちしながら一度退避する。
「資材が無ければ、カテゴリーYであっても資材にしてしまえばいいということですか。倫理的なストッパーも完全に外れてしまっていますね」
「悠長なことは言っていられませんよ。すぐに破壊を」
「こちらは対処済みですわ」
心臓を抉った船渠棲姫の亡骸は、既に三隈が処理済み。心苦しくはあったが、あんな使われ方をするくらいならば、こうしてしまった方がいいだろうと、魚雷によって完全に破壊していた。
だが、神風の方はまだそうは行かない。
「うああああっ!」
仲間の亡骸を資材に駆逐棲姫を建造した船渠棲姫は、その足を止めることなく神風の方へと向かっていく。
「させるわけにはいかないわ。グレカーレ!」
「勿論! 止まんなよこの!」
神風とグレカーレは向かってくる船渠棲姫に向かって砲撃を放つ。神風もわざわざ近付いてまで斬り付けるのは危険だと判断し、一度刀を納めていた。
しかし、リミッターが外れてしまった船渠棲姫は、2人の砲撃を簡単に避けていく。その上で、距離もしっかり詰めているのだから侮れない。自棄を起こしたせいで、おかしいくらいの性能を100%引き出してしまっていた。
「まずい、止まらない……!」
「なんて回避性能なのさ!」
そうこうしている間に船渠棲姫が恐ろしいことをしでかす。目にも留まらぬ速さで落ちていたモノを掴み取ると、それを開発の資材として使用。すかさず猛烈なスピードで神風に投げつけた。
手に取ったモノ、それは先程神風が斬り払った
「っぶない!」
グレカーレの咄嗟の剛腕にキャッチされた。それは明らかに
ただの残骸から開発された忌雷は機雷としての性能を主に爆発による攻撃を仕掛けたが、カテゴリーYの頭で造られた忌雷は、ニセモノかもしれないが何処までの性能を有しているのかはわからない。
もしこれも爆発するにしても、グレカーレの機転は最善と言えよう。何せ、ここでキャッチしていなかったら、この忌雷は神風に直撃ルートだった。爆発ならば致命傷、寄生だったら一巻の終わり。神風が刀ではなく砲撃で対応していたこと、かつ船渠棲姫の投擲がこれまでに見たことのないくらいの豪速球だったために、反応が一瞬遅れた。神風自身も既に身が動いていたが、勢いに押されかけた。
「ごめんなさい、グレカーレ。本当に危なかったわ」
「いや、あれはすぐにゃ対応出来ないよ。でも……っ」
この回避をしたことで、こちらの首無し死体は船渠棲姫の手に。そして、それを資材として新たな建造を実施。こちらは駆逐水鬼へと生まれ変わり、すぐさま攻撃を仕掛けてくる。駆逐棲姫とは違って五体満足ではあるが、本来の個体よりも少々小柄。
「こんにゃろ……!」
グレカーレは剛腕でキャッチした忌雷を握り潰し、再起不能にした上でその場に捨てて駆逐水鬼と対峙。正面から取っ組み合いをすることに。あちらも腰部から剛腕が生えており、互いの剛腕を掴み合う結果となった。
こちらもやはり戦艦棲姫よりも強力な個体となっており、その膂力が僅かにだがグレカーレよりも上。互いに剛腕以外はフリーとなっているが、ゼロ距離での砲撃で主砲を構えようとした瞬間に駆逐水鬼のフリーの手が動き、主砲を払い落とすと同時に手首を掴む。
「ま、マジかコイツ! なんか普通より強い!」
「吹っ切れて暴走してるのね。建造に何か入り込んでる……?」
ここまで来たら砲撃では厳しいと、神風は主砲を再度マウントして刀に手をかけた。
「どうせ死ぬんだ、どうせ、どうせ、だったら全部、全部壊してやる!」
しかし、動き回っている船渠棲姫がその神風に襲いかかる。刀に手をかけた瞬間、もう掴みかかれる距離まで間合いを詰めていた。
間合いが近すぎて、居合も難しい。刀を抜くために一歩引くが、船渠棲姫の速さは並ではなかった。それもそのはず。動き回るたびに身体が少しずつ崩壊してきている程なのだ。
「速……っ」
スピードならば神風も相当なモノなのだが、今の船渠棲姫はそれに追随するほどの力を発揮していた。間違いなく本来出せる力を超えてしまっており、自分の崩壊も省みることなく暴れ、その結果がほんの一瞬だけでも神風を超える力になってしまった。
今この時、命と引き換えに、この船渠棲姫は本当に高次の存在へと足を踏み入れていたのだ。
だが、神風と船渠棲姫には決定的な違いがある。
「ご無事ですか、お師匠様」
それは、信じられる仲間がいること。船渠棲姫が行動を起こそうとした瞬間、その腰に鎖が巻き付いていた。白雲が先程まで舞っていた場所から移動し、神風の窮地を救ったのだ。
度重なる凍結によって鎖はその力が十二分に発揮出来る状態。それが巻き付いたことで、船渠棲姫は瞬時に凍結されていき、身体が動かなくなる。
「な……うぁ……」
「貴様は救われぬ者。人として道を踏み外したのならば、そのまま転落し、二度と這い上がるな」
そして、全身を完全に凍結させたことで、船渠棲姫は砕け散る。断末魔の叫びも上げさせない。亡骸にすらしない。ただの氷塊となって、その命を終えた。
「弟子がいなかったら、私この戦いで2回くらい死んでたかもしれない。ありがとう2人とも
「そう言っていただけたならば幸いです」
「とりあえずこっちどうにかしてもらってもいいかな!?」
これによって、船渠棲姫の始末は完了。残っているのは、最後に生み出された2体の姫と、まばらに残るイロハ級のみ。