舞台は変わり、最後の戦場へ。だがその前に、やっておかねばならないことがある。
今すぐに新量産空母棲姫との戦いに出向くことが出来るのは、深雪達特異点組の3人と軍師妙高、合計4人。
対する敵陣営は、そもそも新量産空母棲姫が自身を量産化して増やしているため現在6体。また、潜水艦を牽制するために増えているナ級、他にも量産するためのオリジナルとしてレ級とネ級改もそこに控えており、それがまた増やされているような状況。
特異点の力を考慮したとしても、あまりにも人数差がありすぎる。これでは流石に厳しい。
「長門さんと清霜を待とう。補給はすぐに終わるはずだ」
「はい、深雪さん達も今だけ少し休んでください。ここまで連戦でしょう」
「あまり疲れちゃいねぇけど、妙高さんが言うくらいだ。ちょっとだけ休んだ方がいいな」
あまり疲れているという感覚は無いものの、だからこそ知らず知らずのうちに戦闘が厳しい状態になっていたら困る。そう考えて、妙高は少しだけでも身体を休める方がいいと提案した。
船渠棲姫もそうだが、新量産空母棲姫は、うみどり強襲の要と言ってもいいであろう存在。おそらく、ここまでの戦いの中で最も苦戦する相手となるだろう。そんな相手に、少しでも付け込まれる隙は作れない。
「微々たるモノですが、電の兵装に補給装置もついているのです。あまり沢山ではないですが、どうぞなのです」
電のマルチツールは、本来ならば駆逐艦には装備出来ないモノも搭載されている。真っ先に使った偵察用ドローンもそうだが、今回は補給艦と同等な補給装置を展開。減った分を完全に補うことは出来ずとも、気休め以上の効果は期待出来るため、ここにいる電含む4人はそこで多少の補給。
「正直なところ、長門さんと清霜が来てくれたとして、だ。アイツの力が厄介すぎる。自分を増やすとかおかしいだろ」
「そうですね……ただ、イリスさんの見解では、カテゴリーYは1体だけであり、他は全てカテゴリーR、一応は純粋な深海棲艦だとのことです。船渠棲姫の建造とは近しいモノがあるとは思います」
補給中にある程度の作戦会議。新量産空母棲姫をどう対処するか。
本体はあくまでも1体であり、他の5体は『量産』により作り出されたニセモノ。その証拠が、今はイリスにしか確認出来ないカテゴリーである。また、ニセモノには『量産』の曲解が引き継がれていないようで、あくまでも本体さえどうにかしてしまえば敵が増えるようなことはなくなるようである。
今海中で奮戦している潜水艦も、量産を続ける新量産空母棲姫1本に狙いを定めているようだが、本体の守りが薄いわけがなく、量産されたナ級による尋常ではない対潜掃討に近付くことも出来ない状況。
やらねばならないこととして、このナ級の始末が優先順位が高め。潜水艦も参戦してくれれば、幾分か戦いやすくなるのは目に見えている。新量産空母棲姫は正規空母であり、潜水艦に対しては手も足も出ないのだから、一方的に有利になれる仲間が自由に動けるようになれば、それだけでも勝利に近付ける。
「つっても、あの対潜がクソ強いイロハ級、数がやべぇ」
「ざっくり見積もっても2桁はいるねぇ」
話し合いにはあまり参加していない吹雪が、自ら艦載機を出して状況を確認してくれていた。彼女の言う通り、ナ級の数はぱっと見でも10体を優に越えている。
強力な個体であるため、それをすぐに一掃するのは不可能と言えるだろう。そこにいるのがナ級だけならまだしも、そもそも新量産空母棲姫もいるのだ。量産されたニセモノに関しては、おそらくその身体すら使って妨害してくるだろう。
「空襲で終わらせるのは多分無理。まだうみどりを優先してるみたいだけど、やっぱり空母ばっかりアレだけいると、とにかく空が埋まっちゃってる。それにレ級もいるからね。アレも艦載機飛ばせるから、余計に増えてるよ」
とはいえ、現在うみどりは防空隊が前進出来るくらいには有利が取れそうになっていた。
その理由は勿論、途中参加である増援の2人。敵の数が減り、味方の数が増える、特異点の在り方を理解して
「アイツらのおかげで、それだけ多くてもどうにか出来てるんだよな。流石っちゃ流石だぜ」
「なのです。心強い仲間が増えたのです」
その防空は、ついさっき加わった2人──埋護姉妹の奮闘により、一気に流れが変わっていた。
「敵対の判定がしっかり真逆になっているな。よし、全て撃ち墜としてしまえ!」
「調子に乗ると足を掬われますよ。ただでさえ貴女はそういうことになりやすいんですから」
防空埋護冬姫の激しい対空砲火、防空埋護姫の強かな対空砲火が、空を黒く染める艦載機を次から次へと撃墜していく。その規模は、艦娘では不可能と思えるほど大きい。
齎された『防空』の曲解の真骨頂。防空識別圏に入った
「す、凄まじいですね……私も負けていられません!」
それに対抗意識を燃やすのが、『連射』の曲解持ちである秋月。そもそも埋護姉妹は秋月型の魂が使われているということもあり、仲間意識と同時に対抗意識も芽生えていた。
艦娘の身ではあるが、その力は埋護姉妹に負けずとも劣らない凄まじい力を発揮し、目に見える範囲で艦載機を墜としていく。
「なかなかやるではないか、我々に匹敵する防空技術とは!」
「私の方が経験者として長いですから! ほら、まだまだ行きますよ!」
「勿論だとも。撃てーっ!」
この3人だけでも大半の艦載機は対処可能になっている。それだけ高い防空性能を有しているということなのだが、今はさらに追加の要員が沢山。
その中でも秋月の次に凄まじい防空を見せるのが、秋月の能力をコピーしたフレッチャー。合間合間に神威による砲身の補給は貰っているものの、弾切れの心配がない対空砲火というのはそれだけでも非常に有利。
だが、ここで防空隊は1つの転機に入る。そこに気付いたのは、同じように防空に専念していた救護班。
「多分これ、何人かここから離れられるんじゃないかな」
酒匂がそう言うと、睦月や子日が頷く。
「過剰防衛ってわけじゃないけど、少し余裕が出てきたよね」
「子日もそれ思ったよ。那珂ちゃんと舞風ちゃんと来てくれたから、うみどりに完全に届かなくなってるもん」
「加賀さん達も、やりやすくなってるみたいにゃし!」
空母隊の艦載機発艦も、最初の頃から比べると、かなり急ぎでは無くなっていた。敵の防空──埋護姉妹による対空砲火が失われて、層が一気に薄くなったことにより、艦載機が撃墜されることがほとんど無くなったからだ。
これによって、防空はより余裕が出てきていた。何せ、敵味方の判別可能な全自動対空砲火が味方についたのだ。敵機だけは次々と墜ちていき、味方機は健在。最初は劣勢だった航空戦も、空母棲姫IIが始末されたことで拮抗に近くなり、今や拮抗から優勢に向かおうとしている。
「補給完了だ! 我々はまた向かうぞ!」
「戦艦清霜、第二陣だーっ!」
ここで長門と清霜の補給が完了。もう一度出撃をするために海に出てくる。が、ここで酒匂から進言。
「長門さーん、戦力、誰か連れて行っていいと思うよ!」
「なに、いいのか?」
「秋月ちゃんにも聞いてほしいけど、多分コレ少し余裕があると思うんだ」
長門が周囲を見回すと、なるほど確かにと頷く。余裕と言っていいかはわからないものの、間違いなく今の防空隊は余裕があった。
「ふむ……秋月、少しいいか!」
「撃ちながらですが何でしょう!」
「何人か敵空母を叩くために連れていきたい!」
長門からの進言を聞き、秋月は撃ちながら考える。今の段階で抜けてもいい者、また敵空母に対して有効打が使えそうな者を、この状況と知識で頭の中で組み立てる。誰が欲しい、誰に行ってほしい、最高の効率を出すのはどの分配か。
そして辿り着いたのは──
「フレッチャーさん」
「何でしょう、御姉様」
「私のコピーを一度解除し、敵本隊襲撃に加わってください。次のコピーは長門さんで」
フレッチャーの登用。コピー先を変えるための時間がちゃんと取れるなら、うみどりにいる真の万能戦力として活用出来るのがフレッチャーだ。長門をコピーした場合は、擬似的な戦艦にすらなれることは既にテスト済み。今はその大火力を少しでも増やすために動いた方がいいと考えた。
フレッチャーは少し驚きつつも、すぐに了承。対空砲火をやめ、現在の量産を解除する。
「長門さん、私が加わります。お力をお貸しください」
「わかった。少し我慢してくれ」
その判断は非常に早く、長門はすぐさまフレッチャーの首筋に触れる。同時に大きく震え、フレッチャーは数度息を漏らした後、その姿を長門型のそれに変化させた。
「擬似戦艦フレッチャー、量産完了いたしました。すぐに準備いたします、長門御姉様」
「ああ、主任ならすぐにやってくれるだろう。その間に他にも連れてく仲間を選別しておく」
フレッチャーはうみどりの中へ。量産された後に、少しは調整が必要であるため、それだけをすぐにする。
その間に長門は追加で連れて行く人員を選定。あらゆる戦い方に対応出来る方がいいと、秋月の意見も交えて、ここにいる人材から最適な存在を選ぶ。
「子日、頼めるか!」
「にゃっほい! 子日、行けるよ!」
子日は元気よく手を挙げる。新量産空母棲姫に近付くことさえ出来れば、そのアクロバティックな戦いは有効なはず。しかし大幅に人材を引き抜くことは出来ないため、長門はこれだけで良しとした。
本当は加賀辺りも連れていきたかったようだが、うみどりの最終防衛線は空母隊で成り立っていると言っても過言ではないため、ここで1人抜くのはまずいと判断。
「お待たせいたしました。フレッチャー、準備完了です」
本当にすぐに終わらせてきた擬似戦艦フレッチャー。駆逐艦では扱えない戦艦用の大口径主砲を装備し、見た目だけならば少し小さくなった長門型と言えるようなカタチに。
そのフレッチャーの姿を見て、清霜が目をキラキラさせていたのだが、それは一旦置いておく。
「よし、ならば再出撃だ! 深雪達と合流し、敵空母隊を殲滅する!」
これが終われば、うみどりの安全は大きく確保出来るだろう。士気も高く、全員のコンディションは最高。
この海域最後の戦いに向けて、長門達も進み始めた。
「姉上、さっき喘ぎながら変身する魔法少女がいなかったか」
「彼女の力なのでしょう。今は気にせずに防空に専念なさい」
「あ、ああ。変身ヒーローといい、魔法少女といい、なんだかこちら側はすごいな……!」
埋護姉妹の問答を聞いて、秋月は笑いを堪えるのに必死だった。