後始末屋の特異点   作:緋寺

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穴熊

 補給も終えて意気込み新たに、この海域最後の戦いへと向かう準備をする深雪達。少し待てば、補給を終えて再出撃してきた長門共に合流が出来る。

 これまで防空に専念していたため、吹雪と初顔合わせである子日とフレッチャーは、ひとまず挨拶はそこそこに、むしろ大きく変化していた深雪の姿に驚く。これはもうお約束とも言ってもいいのかもしれない。

 

「我々は遠目に見ていたから耐性があるが、やはりどうしても驚いてしまうな」

「身体つきは戦艦みたいだよね! でも艤装は駆逐艦のままなんだ。変わってるなぁ」

 

 長門と清霜はまだマシな反応を見せるものの、それでも驚きは隠せないものである。

 ついさっきまで駆逐艦だった深雪が、今や見た目だけなら戦艦に勝るとも劣らない姿をしているのだ。これまでも悪い方向でだが驚くべき変貌を遂げた者は何人もいたが、ここまで大きな変化をした者は流石にいない。

 

「まぁ何にも変わってないから安心してくれよな。あ、でも特異点の力はある程度使いこなせるようになったから、そこは説明する。相変わらず煙幕だからさ」

「心得た。多少教えてもらえればいい。深雪は深雪なりの戦い方をしてくれれば有効に戦えるだろう」

「やれるだけやるさ。アイツらには苦戦させられそうで困るぜ」

 

 8人が8人、その敵の方へと目を向けた。そこには未だに量産を続ける新量産空母棲姫の姿があった。

 

 自身を増やすようなことはもうしておらず、本体合わせて6体のまま。しかし、周囲のイロハ級の増え方が普通ではない。

 目立つのはやはり対潜掃討も兼ねたナ級の群れである。先程吹雪が確認した時には2桁いると言っていたが、今もしっかり数を増やしており、20体そこそこは間違いなくいるだろう。

 そこにレ級やネ級改が数体交じり、他にも軽巡ツ級や戦艦ル級など厄介なイロハ級は多種多様。幸いなことに、増やされる空母は自身しかいないようなので、これ以上のうみどりへの負担が増えないのは安心出来たが、この数を8人で相手をするのは少々厳しいかもしれない。

 

「少なくとも、周りは我々が片付ける。補給をしてきたのはそのためだからな」

「戦艦清霜の一斉射で、いっぱいぶっ飛ばしてくるからね!」

「今の私は擬似的にですが戦艦です。共に向かい、斉射をします」

 

 ここで戦艦と戦艦並みの火力を持つ者達が増えたのは都合がいい。イロハ級の群れを一掃とまでは行かずとも、かなりの数を減らせるはずだ。

 

「そうですね、長門さん達には基本的に群れの処理をお願いしましょう。ただし、狙うのは基本的にナ級でお願いします。海中の潜水艦の子達が戦いやすくなるように」

「了解だ。海中の仲間達も加わってくれれば、この状況もひっくり返しやすくなるはずだ」

 

 妙高からも戦艦達によってイロハ級を一掃するのは最善手として採用された。一斉射の範囲は非常に広く、そして火力も並ではない。ナ級くらいならば、掠めるだけでも致命傷を与えられることだろう。

 最優先は、敵の対潜掃討を止めること。潜水艦という優秀な戦力を動かすために、姫よりも先に始末しなくてはならない。勿論、姫を守る盾を破壊するためにも。

 

「海上掃討は基本的には戦艦の皆さんに任せますが、我々は姫を狙っていきましょう。ですが、量産化されたカテゴリーRを減らしたところで、また増やされるのがオチです。なので出来ればオリジナル一本で狙っていきたいところですが……電さん、吹雪さん、オリジナルは部隊の中心にいると思うのですがどうでしょう」

 

 艦載機も扱える2人に聞く妙高。実際オリジナルもコピーも見た目は全く同じであるため、最初に目星をつけていなければどれがオリジナルかはわからないのだが、動向を見れば判断は可能。

 

「妙高さんの言う通りなのです。明らかに真ん中にいるのが本体だと思うのです」

「今は量産を止めてるみたいだけど、アレが核になってるっていうのは見てわかるかな。でも()()()でないとわかりづらい感じ」

 

 2人の艦載機からだと、オリジナルの存在は非常にわかりやすかった。敵部隊が輪形陣で行動する中、その最も中心に位置する場所にいる新量産空母棲姫がオリジナル。従順なイロハ級を傍に置き、時折量産をすることで部隊の人員を増やしているのが見えた。

 海上で相対していればその様子はかなり見辛く、奥まったところで陣取っているように感じる。また、しっかり周囲に部下を配置することで背後も取られないように気を遣っていた。さらには上からの攻撃には防空性能で悪名高い軽巡ツ級を配置し、海中は何度も言うようにナ級の対潜掃討。

 万全といえば万全で、穴が無いように思える配置。しかも新量産空母棲姫は、その部隊が減ってきたとしても『量産』の曲解で穴埋めまで出来る。

 

「なんと綺麗な穴熊、それに次々と駒も補充出来る鉄壁ですね」

「私も将棋はルールくらいは知っているが、穴熊は特に堅い構えだったか」

「はい、しっかり構えることが出来れば、簡単には打ち崩せません」

 

 王将を自陣の奥深くに忍ばせ、守りを強く持つ囲い。妙高は今回の新量産空母棲姫の守りをそれに例える。

 

「だが、崩す手段が無いわけではなかろう?」

「勿論。私も穴熊を使ったことがありますし使われたこともあります。勝ったこともあれば負けたこともあります。ただ、崩すためにはこちらにも手数が必要です」

「ふむ……ここにいる8人でどうにか崩せるものか」

「可能です。それに8人ではありません。海中にもいますし、状況が進めば航空隊も使えます。将棋は二次元ですが、戦場は三次元ですから」

 

 それでも、突き崩すには初撃が必要。その開幕の狼煙を上げるのは、先程からも言っていた戦艦達の一撃。

 

「子日さんを連れてきてくれたのは大正解でした。それなら尚崩せます。少々危険ですが……行けますか、子日さん」

「にゃっほい! 子日なら行けるよ!」

 

 ここで子日を中心に据えるというのなら、やることはおおよそわかってくるというもの。この中でも特に身軽で機敏、戦場でも飛び回ることが出来る子日ならば、この穴熊に()()()()()()も可能であるという妙高の判断。

 

「あたし達は子日を手伝えばいいかな」

「はい、深雪さん達は1人でも特化戦力。子日さんを前に押し出すために力を使ってください。私が特異点の力に疎いというのがありますから、そこは深雪さんにお任せします。ですが、一つだけ肝に銘じておいてもらいたいことがあります」

 

 真剣な面持ちで深雪に話す。

 

「あちらの王将が新量産空母棲姫のオリジナルであるように、こちらの王将は深雪さん、貴女ですからね。それだけは意識してください」

「……ああ、勿論だ。真正面から突っ込むような真似はしねぇ。それに、電や吹雪にバカみたいな姿は見せられねぇからさ」

「それなら結構。支えてくれる者の視線は、緊張も生みますが自分を律する力にもなります。意識しすぎるのも良くないですが、それくらいの意識なら充分です」

 

 微笑む妙高に、深雪もニッと笑う。

 

「では、行きましょうか。深雪さん、先程も言った通り、貴女がこの部隊の王将です。鬨の声は貴女が相応しいですから、一声お願いしますね」

「っしゃあ、じゃあやるぜ」

 

 部隊の8人が敵を見据える。群れが待ち構えている最後の戦場に向けて、深雪は拳を突き出した。

 

「うみどりを狙うふてぇ野郎は、ここで終わらせっぞ! 行くぜみんなぁ!」

 

 そして、戦いは始まった。

 

 

 

 

 やるべきことはただ一つ、オリジナルの撃破。それさえ終われば、うみどりの無事は確約される。

 

「開幕から行かせてもらうぞ。清霜、フレッチャー、準備はいいな!」

「清霜了解! 補給もしてるから元気いっぱい!」

「フレッチャー、問題ありません。まずは皆さんの道を拓きましょう!」

 

 先陣を切るのは長門筆頭の戦艦隊。本来ならば長門の一斉射は戦艦2人でやるモノなのだが、今回は3人がかり。その威力は倍々計算ではない。

 

「主砲一斉射!」

「撃てぇーっ!」

「Fire!」

 

 真正面に放たれる、超火力の嵐。正面にいるモノだけでなく、その後ろ、そのまた後ろまで次から次へと噴き飛んでいく様は、あまりにも爽快。

 壁として前を陣取るル級の盾も、その後ろで中壁となっているナ級も、攻めに転じようと動き出すネ級改も、全て纏めて木っ端微塵。

 

「すっげぇなありゃ! あたし達も負けてられねぇよ!」

「せっかくだからね、私も大盤振る舞いしちゃおうかな」

 

 この一斉射に触発されたか、吹雪が深雪の前に立ち、軽く手を前に翳した。その瞬間、尋常ではない量の艦載機が出現、そして発艦する。既に駆逐艦とは言えない、()()()()()()()()の力を存分に使い、やりたい放題やり始める。

 その艦載機は上空に飛び立つわけではない。低空飛行を維持し、物量と高性能な射撃を続けることで、急所狙いの一撃と牽制の両立を実現。特に当初から常々言われているナ級殲滅に力を入れており、その射撃が狙うのは恐ろしいことに眼球。斃せずとも機能を停止させるに至る急所を、残酷にも確実に狙っていた。

 その艦載機は全て吹雪の思うがままに動いている。その全てに意識を通しているというのなら、吹雪自身の力が普通では測ることすら出来ない域に達しているのがよくわかる。

 

「流石に分厚い。あちらも多少は心得があるようですね」

 

 一斉射と吹雪の艦載機をサポートするように、魚雷による援護を続ける妙高がボソリと呟いた。それが聞こえたのか、フレッチャーが返すように叫ぶ。

 

「あちらのオリジナル、私が島で見たことのあるヒトです! 前に話した、先生についている3人の1人!」

 

 つまり、米駆逐棲姫(フレッチャー)がそうなった時には既にカテゴリーYであった者。その時から阿手に付き従っていた者であることが確定。

 ならばその思考は完全に染まり切り、取り返しのつかないことになっているのはもうわかり切っていること。米駆逐棲姫のように真実を知れば何か変わるかもしれないが、今はそれを伝える術もない。

 

「なるほど、ならば他よりもデキる可能性はあるということですか。元より阿手とやらについていたのならば、いろいろ仕込まれていてもおかしくはないでしょう。ですが」

 

 合図を送ると同時に、真正面から突撃するのは子日。そしてそれを追従するように深雪と電も前に出た。

 

「っしゃ、行くぜ子日! あたしの願いは、『子日が傷付かないこと』!」

 

 左手を銃のカタチにして、煙幕を撃ち出す。その煙の塊は子日に直撃し、その願いが叶えられた。

 子日は自分の身体が一気に軽くなるのがわかった。その傷つかないでほしいという優しい願いによって、より一層動けるようになったと確信する。

 

「道は開く! 突っ込めぇ!」

「まっかせてぇ!」

 

 そして、跳んだ。普通ならば狙い撃ちにされそうな行動ではあるのだが、長門達の一斉射、そして吹雪の艦載機による撹乱によって、すぐに子日に対して行動に移すことが出来なかった。

 ただそれだけの時間も命取りになる。今の子日は、それくらいに身軽だ。

 

「よっ、ほっ、にゃっ!」

 

 何をするかと思いきや、敵の身体や頭を踏みつけながら、壁を壁とも思わずに上を真っ直ぐ進んでいく。子日に踏み潰されたイロハ級は蹴られたのも同然、体勢を崩し、最悪折れてはいけない方に折れるなどして、大小様々なダメージを受けていくことになる。

 だが子日の狙いはそれだけではない。真正面からオリジナルを狙いに行っているのだ。内側から崩壊させるのが狙い。

 

「子日の道は、塞がせねぇよ!」

「なのです! 電も、本気でやるのですぅ!」

 

 当然、それを食い止めようと敵も動くであろう。しかし、子日を狙うということは、深雪達に背を向けることにも繋がる。そんな相手をどうにか出来ないわけがない。

 そこを深雪と電が砲撃で黙らせる。特に深雪のそれは、爆散すらさせない消し飛ばす砲撃。触れたら最後その部分は削られるほどのそれは、盾として運用されているイロハ級には致命的と言える存在。

 電も攻撃自体は普通なのだが、その精度が普通ではない。吹雪が狙うように、その砲撃は確実に急所一点狙い。一撃で黙らせることに特化した砲撃は、子日の進撃を確実なモノとしていた。

 

 

 

 

「見えた! オリジナル!」

 

 そして、子日は辿り着く。敵の頭を踏みながら、そこにいるオリジナルの新量産空母棲姫の元へ。

 

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