「見えた! オリジナル!」
敵の頭を踏みつけながら、子日は量産を続ける新量産空母棲姫のオリジナルの元へと辿り着く。
本来ならば砲弾が飛び交うような戦場。そこで大きく目立つ
海戦の心得があるのかはわからない。しかし、今の戦い方──この戦いの中心であるオリジナルを奥に引っ込めて、量産を続けた部下のみで押し潰そうとするやり方──は、少なからず多少は頭を使ったやり方ではある。もしかしたら、阿手に仕込まれた戦い方かもしれない。
だが、それでも予想外というモノはつきもの。自分達がやっていることが、うみどりにとっては想定外であるが、その逆も然り。
「何なのさ、アンタは」
低い声で、子日を威嚇するように睨み付ける。見えたというだけであって、手が届くわけでもなく、目が合ったかもしれないがその声が届いているわけでもない。
だが、子日はその口の動きで何を言われたのか何となくわかった。読唇術があるわけでもなく、この時の表情からいろいろと察しただけ。
だから、子日は行動で突きつける。敵の頭を蹴る力を強め、より高くより長く跳んだ。それでも無謀な突撃ではない。危険ではあるが、その中でも安全性の高い場所を瞬時に見極めて、海面に未だ降りずに跳び続ける。小さな小さな足場を、絶妙な足捌きで。
子日に蹴られたイロハ級は、頭をやられることもあって、一瞬意識が飛んでいた。それによって攻撃そのものが遅れていき、この中心部の外から攻撃する仲間達へのサポートにもなる。
外が内を助け、内が外を助かる。特異点サイドの信頼関係がよくわかる光景である。
「近付くんじゃないよ」
向かってくる子日を迎撃するため、オリジナルの新量産空母棲姫が子日に向かって艦載機を飛ばす。コピーが扱うモノと全く同じスペック。兵装に関しては、オリジナルだろうがコピーだろうが同じモノがしっかり量産されていた。
しかも、オリジナルはコピーの命を軽く見ているのがわかる。自分を守らせているイロハ級がいるにもかかわらず、子日を始末するために被弾も躊躇わずに撃ち始めたのだ。子日が回避すれば、その流れ弾は仲間に当たってしまいかねない。しかし、量産されたイロハ級は、あくまでもこの場でコピーされただけのモノ。
「仲間がいるのに撃つんだ。そーゆーの、子日よくないと思うな」
そろそろ声が聞こえるくらいに近付いている。そうなると今度は、増やされた新量産空母棲姫のコピーが行手を阻む。
新量産空母棲姫は流石に頭を踏んで先に進むというのは難しい。何せ、人型の本体が海月のような被り物をしており、オリジナルはその触手を使って量産を続けているのだ。コピーにも同じようなモノがあり、量産が出来ないのならば別事、それこそ攻撃に使って来る可能性が非常に高い。さらには、ウミウシのような飛行甲板までもが存在するため、近付くのもなるべくなら控えたいところ。
艦載機云々は関係なく、子日は進むのは現状ならここまでだと、すぐさま踵を返した。触手が届く範囲に入ることもよろしくない。
「でも、今はここまでにしておくよ。これは手土産。大事にしてよね」
艦載機に追われつつも、それを砲撃で破壊しながら、オリジナルに向かって爆雷を投げた。跳びながらの爆雷であるため、そこまでの速さはない。しかし精密性はあったため、回避しないならオリジナルの顔面にぶち当たるような軌道を見せた。
「このっ!」
その爆雷はどうにか触手で弾き飛ばしたようである。オリジナル付近でもなく、子日の近くでもないところで爆雷は爆発して、周囲のイロハ級に被害を齎した。
少しでも数が減らせたのはいいことだと、子日は本命に当たらなかったことを悔やみつつも仲間達に貢献することが出来たことを内心喜んだ。
「ここまで来たなら逃がさないよ。お前達!」
オリジナルの声に強く反応したコピー達が、艦載機の一部を一斉に子日に向けて嗾ける。縦横無尽に飛び交うそれは、子日の進路を塞ごうと仲間を配慮することなく撃ち続ける。
コピーはオリジナルの考え方を完全に移し取って行動をしているようだった。故に、オリジナルが仲間を盾にするのならば、コピーも同じようにする。ただただプログラミングされた行動を、意思なくこなすだけ。
「捕まらないよ。でも、やっぱり安全に越したことはないからね」
不安定な足場のはずなのに、華麗に跳び移り続ける子日は、そうしながらも当てられる範囲にいる艦載機に対して砲撃を放つ。
艦載機が撃墜されれば、その都度爆発を起こし、そこにいるイロハ級は負傷。それを横目に、子日は次から次へと
「ちょこまかと……まぁいいさ。どうせアレ以上は近付いてこない。あの馬鹿げた火力の戦艦達を優先して迎撃!」
ここまで来たら、子日を深追いするようなことはしない。守りに徹して迎撃に転じる。これで誘き出されてやられてしまっては元も子もない。新量産空母棲姫はそう考える。
ここまでの戦況を正しく見ているのならば、自分の仲間達がどのようにして負けたのかは見当が付く。前に出て、自らの力を誇示し、そして結局上回られてやられた。空母棲姫IIはまさにそれであり、
近代化戦艦棲姫や埋護姉妹は、この戦場で戦うものの、信念が違った。思慮深く考えることが出来て
これだけの失態を見せつけられたら、最奥に位置する新量産空母棲姫は、例え元人間で戦闘経験が皆無であるとはいえ、ここでの身の振る舞い方を考えることが出来る。何が良くて何が悪いかは、流石に学ぶ。
「出しゃばってくれないかぁ。ちょっと頭がいいのかな」
道を開きつつ、少しだけ後ろを気にする子日。新量産空母棲姫は、既に子日を視界から外しており、壊された分の量産を再開していた。まだ敵部隊は増える。だが、それでわかることもある。
「なるほどね、量産中は攻撃出来ないんだね。そりゃそっか。艤装をそっちにフル稼働させてるんだし」
1つ目のデメリット。『量産』の曲解を使用中、新量産空母棲姫は
子日が言う通り、艤装の機能をフルで使っているため、攻撃なんて出来る状態ではないようだった。
「ってことで、子日ただいま! 見てきた感じ伝える!」
群れの中から手早く移動し、妙高のところへと戻った子日。一度相見えた感想を伝えて、今度は深雪の方へと向かった。
「なるほど、艤装をフル稼働……ということは、量産の正体は、意味合いが変わってくるかもしれませんね」
これまでの戦いも視野に入れて、妙高が新量産空母棲姫のその能力の解明に頭を回す。それはどうしても時間がかかるものであるため、その間は仲間達にどうにか凌いでもらうことになる。
「深雪ちゃん! 長門さんの方が集中狙いされるみたい!」
「わかった! 電、吹雪、ちょっと向こうに寄せてくぞ」
「なのです!」
「はーい。向こうもちょっとは考えてるみたいだね」
子日が得た情報、戦艦を優先するという殆ど小声で言ったような言葉を察して、長門達の一斉射をサポートするために深雪達は移動しながら迎撃を続ける。
「それじゃあ、お姉ちゃんがちょっと本気を出してあげる。深雪ちゃんの願いは?」
「『仲間が傷ついてほしくない』だ」
「ん、了解。さっきも言ったけど、私は深雪ちゃんと違って触れないと願いが叶えられないんだ。全員に触れるのは難しいから、
深雪の願いを受け取って、吹雪は自らにその願いを乗せた。妹の仲間を傷つけさせない力を、自らの力で自らを強くする、深雪とは違う吹雪の特異点の力。
「火力が足りないから押し勝てなくなるかもだからね。それじゃあ、
見た目は艦載機を発艦している大人の姿の深海棲艦のまま。しかし、手を前に翳した瞬間、艦載機だったものは大口径の主砲に早変わり。恐ろしいことに、主砲が宙を浮いているというインチキ仕様。
「うっそ! 空飛ぶ主砲なんて持ってる戦艦いないよ!? 反動軽減とか出来ないし、というか浮いてる艤装自体がレアなのに! すごい、後からじっくり見せて!」
「大発に戦艦主砲載せて乗り回してる方がおかしいと思うんだけど、まぁいいか。この戦いが終わったらね」
これには戦艦マニアな清霜も目を丸くした。特異点の力は、過去の知識すら凌駕する。吹雪はそんな清霜の反応に苦笑しながら、仲間達が傷つくことのないように砲撃を放った。
威力は長門には及ばないものの、擬似戦艦となっているフレッチャーとは近しいくらい。そしてもう一つの特異点ならではのインチキ要素。
「換装したばかりだからね。弾切れは無いから安心して」
この吹雪、姿を変えるごとに
この海域から出られないという大きすぎるデメリットを帳消しにするほどの力は、数の暴力にたった1人では屈してしまうかもしれないが、仲間がいる今、真価を発揮する。
「私だけだとどうしても隙が出来ちゃうからさ。背中が任せられる仲間がいるって、こんなにいろいろとやりやすいんだね。なんだか、ここから出られないのが寂しくなっちゃうかも」
「あたしが願ってもダメか?」
「ダメだね。願いとかそういう次元じゃないから。私は願いの実と完全に結びついちゃってるから。端末じゃなくて、主機なんだよ。まぁ今は
なんて言いながらも、吹雪は自分の生き方に後悔はないし、これからも今までと同じようにこの特異点Wを、願いの実を守っていく。それには誇りを持っている。口ではどう言おうと、吹雪はここから動く気は毛頭無い。
「あんまりおセンチな気分は今は置いておこう。とりあえず、量産が追いつかないくらいに壊していこうかな!」
「ああ、仲間が傷つかないためにもな。当然、吹雪だって傷付くんじゃねぇぞ」
「あは、私も仲間判定してくれて本当に嬉しい。深雪ちゃんとここで話せて良かったよ」
この感情が吹雪の火力にモロに影響が出た。砲撃の威力が上がり、まるで1人で一斉射をしているかのよう。
「私は守るために攻撃するよ。攻撃は最大の防御だからね」
あまりにも頼もしい存在に、深雪も負けじと攻撃を繰り返す。また子日が突入出来る隙間が作れれば、尚いいはず。
そして、仲間達の攻撃を見ながら、妙高は1つの結論に達する。こうしている間にも、敵の能力の分析はずっと続けていた。
「そうか、艦載機。あの空母棲姫IIと同じ力を持っているというのなら、話は繋がる。無限の艦載機に、量産の力を注いで、コピーに変形させていると考えれば……!」
新量産空母棲姫は、複数の曲解を使う。1つは『量産』。もう1つは『搭載』。無限の艦載機を量産に使い、数を増やし続ける孤独の軍師。