後始末屋の特異点   作:緋寺

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空想の大部隊

 仲間達が奮戦する中、妙高が辿り着いた結論。それは、新量産空母棲姫は『量産』以外にも空母棲姫IIが持っていた『搭載』の曲解も併せ持っており、自らの搭載数までは無限に発艦出来る艦載機に対して、量産化の力を注ぎ込むことで、イロハ級へと変質させて部隊を作り上げているということ。

 今、目の前にいる敵は全てが新量産空母棲姫の艦載機。数が多いのは、元々の搭載数が多いため。無限に発艦出来るのならば資源もいらず、無から有を作り出しているのではなく、艦載機という()があるからこそ、イロハ級として成立しているのだと。

 

 まだ確信ではないが、あの新量産空母棲姫が阿手の側近だと言うのならば、複数個の能力を併せ持つくらいはしていても不思議では無い。この戦場で最も力を持ち、うみどりを潰すために全力を出してくるのならば、これくらいの力を持っていてもおかしくはない。

 

「結局は全てを破壊する……いや、あの空母棲姫IIと同じならば、破壊したところですぐに補充される。量産を上回る速度で破壊……今はそれが出来ているでしょうが、こちらには弾切れがある。無制限のあちらとは違うのだから、悠長なことは言っていられない。ならば本体のみを確実に……それが出来れば苦労はしていない。穴熊は強固、王手をかけられない構えなのだから」

 

 ぶつぶつと考えを口に出して纏めていく妙高。頭の中で巡らせて考えるだけでは足らず、現状の整理とその先を見据えた読みを脳内で何度も何度もシミュレーションするように組み立てる。

 自身でも魚雷を放ち、少しでも艦載機(イロハ級)の削減に協力しながら、今度は量産のスピードも測る。

 

「キリがねぇ……長門さん達でも全部ぶっ飛ばすことは出来ねぇのかよ」

「引っ切り無しに出てきているのです。斃しても斃しても、すぐに生み直されているのです」

 

 戦艦達の砲撃をまともに喰らい、その身が木っ端微塵になったとしても、その奥にいる新量産空母棲姫が全く同じ個体を量産し、すぐに戦線復帰させていた。

 量産にかかる時間はそこまで遅くない。艦載機の発艦に時間がかからないのだから、量産も同じである。その艦載機(イロハ級)が破壊された、失われたとわかった時には、『装填』の曲解により次の艦載機(イロハ級)発艦(量産)可能になってしまう。

 

 今は最初よりは少なくなっているモノの、ここで手を止めたら減った分が補充されるのは間違いない。しかし、砲撃には再装填の時間も必要だし、そもそも弾切れがどうしてもチラつくため、焦りも出てしまいかねない。

 しかし、長門達は至って冷静に、目の前の敵を殲滅し続けた。弾切れを恐れず、愚直に撃ち続けることが勝利を掴む最大の手段であると信じて。それが間違っているのならば、それに気付いた者が正してくれる。

 

「やっぱり本体を狙うしかねぇのか」

「それはそれでキッツイよ。あっちもわかってるからオリジナルの周りの固め方すっごいもん」

 

 実際に見てきた子日だからこそ説明出来る、新量産空母棲姫周辺の守りの堅さ。この戦場の要が誰か、王将が誰かを、あちらもハッキリと理解しているようであり、その王将自身が自分の身を守らせている。

 

 まずは新量産空母棲姫のみでの輪形陣。中央にオリジナルを置き、その周囲にコピーが配置され、艦載機の発艦を止め処もなく続けている。そこはあくまでもうみどりの攻撃を最優先とし、他の艦載機(イロハ級)に眼前に迫り来る特異点の部隊を任せていると言ってもいい。

 その艦載機(イロハ級)は逆に、守りではなく攻めに特化している。攻撃は最大の防御。近づかせないために砲撃や雷撃をしっかりと放ち、しかも自身がやられたところで補充が利くために無謀な突撃も当たり前のようにやってくる。長門達の砲撃に身を投げ出し、被害を最小限に抑えるなんてことまでしでかす。

 

 結局は()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。意思を持たないのは当たり前。そして発艦している新量産空母棲姫が自由に使うのも当たり前。仲間を犠牲にするような戦い方でもなかった。建造した命を無駄に消費しているのとは話が違う、命すらない、たった1人の軍勢。孤独な軍師が作り上げる、空想の大部隊。

 

「でも、外側から壊していっても、内側からまた増えていくんだよな」

「だね。でも内側には入れなかった。子日が跳んでいったけど、ちゃんと迎え撃たれちゃった」

 

 自分を守るための艦載機もしっかり用意している辺り、新量産空母棲姫は周到である。全ての艦載機を量産に使っておらず、ある一定数で止めている。うみどりを押し潰すのにはそれで充分と思っているわけではなく、うみどりの面々ならば喉元にまで喰らい付いてくる可能性があるから自衛の手段も必要だと考えてのそれ。

 そもそも自分を増やすだけで艦載機は倍々計算で増えていくのだから、艦載機に関しては全部出しておく理由もない。自分ばかり増やすと今度は手数が減るから、多種多様なイロハ級を使うことで攻撃の手段を増やしている。頭を使っていると言える。

 

 その結果が、無理矢理中央部に押し込もうとしたところで、外側の艦載機にやられて進めないという現状。アクロバティックに直進した子日であっても、中央部に行けば行くほどその手数が増える。コピーの新量産空母棲姫に関しては、オリジナルが量産に使っている頭部艤装の触手を攻撃にも使えそうな雰囲気を見せたため、子日の手段ではただ迎撃されるだけの事態に陥るだろう。

 

「正々堂々と正面から行けば、数に押されてこっちがジリ貧。奇を衒って内側に潜り込んだら、より濃い迎撃を受ける。海中は今でもナ級の対潜掃討が止まらない。おそらくナ級を優先したところで量産で補充されて終わり。艦載機は……それこそこちらの手数が少なすぎる。対空砲火もされるし、あちらのコピーの航空戦力に呑み込まれて終わり……」

 

 妙高も頭をフル回転させて現状打破の手段を考え続けていた。これまでの敵とは違う、厄介極まりない戦い方。むしろ、新量産空母棲姫だけでも良かったのではと思えるほどに強い。

 しかし、これだけの仲間を連れてきているのも、うみどりの面々が全員新量産空母棲姫にかかりっきりになれば、この部隊の量産スピードを超えることが出来るために、戦力を分散させる目的だったのだろう。これもまた対策のうち。事実、今でも船渠棲姫に人員を割かねばならず、うみどりの全力は出せていない。おおわしが参加してくれているとはいえ、尋常では無い空襲と、未だに多く残っているイロハ級の処理に手をこまねいているほど。

 

 この場で戦力の一部が特異点に絆されることを予想していたかどうかはわからないが、少なくとも新量産空母棲姫はそうなったとしても1人で拮抗を維持出来るくらいには戦力として異常な強さを誇っていた。

 それもこれも、阿手の側近であるために曲解能力の追加付与などがあるからだろう。たった1人でも充分に戦える上に、念入りに仲間まで連れてきていたのだから、勝利をより確実にしようとしていたのもわかる。事実、連れてきた人員としては、うみどり()()()()()()押し潰されても仕方なかった。しかも忌雷まで仕込んでいたのだから、より盤石。

 

「でもまだ詰みじゃない。こちらにはやれることはいくらでもある。敵の戦術は力押しなのだから、こちらが搦手を使えれば……っ」

 

 ここで、妙高は1つ見落としていたことがあった。それが、自分自身の能力、ジャミング。この敵の群れの中でも、ジャミングを使えば突入出来るのではないか。

 妙高のジャミングは、その視線さえ対象に向けられれば、全ての攻撃が当たらなくなる脅威の回避能力。デメリットは見えない攻撃と見てない攻撃は回避出来ないことではあるのだが、今この場でそのような攻撃が出来るのは空爆くらい。

 

 敵は妙高の持つジャミングの力を、空母棲姫IIとの戦いを通して知ったと思われる。だが、完璧なその長所と短所を理解しているわけでも無いだろう。虚をつくならば、今しかないとも考えた。

 

「……危険か。敵は仲間を巻き込んだ空爆も惜しまない相手……狙いを定めていない攻撃が回避出来ない私のジャミングでは足りないかもしれない。いや、だけど一時的に敵を一掃出来る可能性が……」

 

 考えれば考えるほどドツボにハマりそうな厄介な状況。うみどり所属だからこそ、この戦い方はよろしくないと考える。それは、自己犠牲の戦い方。自分が傷付く可能性はあるが、勝利に近付ける可能性も非常に高い戦術。

 棋士だからこそ、王将(特異点)を守る駒の1つであると自分を置いた時に、自らを犠牲にしてでも王手をかける一手を思いつくモノ。

 

「迷っていてはジリ貧ですか。なら、やるしか……っ」

 

 だが、それは特異点Wにいることで、全く別の方向性に変化していく。

 

「願いが聞こえた」

「うん、ここで願ったね」

 

 特異点である深雪と吹雪が、その妙高の切なる願いを聞く。この戦いをうみどりの勝利に終わらせるための、心の底から吐き出した優しい願い。

 敵を斃すことが本質では無い、仲間達が押し潰されるのを拒む、仲間を思った願い。

 

 この戦況を変えるために、誰も傷付かないために、今の自分の力を、少しでも()()()()()()()()()()()

 

 非常に曖昧ではあるが、その分切実な、口にもしない、言葉にも出来ない願いだった。

 

「叶えるぜ、その願い」

「勿論、優しい願いなら叶えるよ」

 

 深雪の左手に煙幕が溢れ出す。吹雪の両手が熱くなる。その願いを叶えるため、特異点の力が膨れ上がる。

 増幅装置たる電も、身体が熱くなるような感覚を得た。深雪や吹雪とは違って、何処で誰が願ったかはわからないが、2人が優しい願いを叶えるのだと力を増した影響を受けた。

 

「電もお手伝いするのです」

「ああ、頼む。これは、みんなで叶えなくちゃいけない願いだ」

「曖昧だけど切実な、この海の上だけで、今だけそうなってほしいって、我儘だけど真っ直ぐな、そんな願いだね。本当に優しい願い、叶えるに値する!」

 

 まず動いたのは吹雪。直接触れなくてはならないという理由から、瞬きした時には妙高の隣に立っていた。

 

「わっ!?」

 

 流石の妙高もコレには驚きの声。だが吹雪は気にすることなく妙高の手を取る。

 

「その願いを叶えるよ。少しでもいい方向に、仲間達が生き残る道へ。それはもしかしたらとてもとても細い、足を踏み外してしまいそうな道かもしれないけれど、私はその道を拡げてあげる」

 

 吹雪からの干渉により、妙高の中にあるジャミングの力が一時的に拡張。

 

「妙高さんがそう考えたよな。なら絶対上手く行く。でも、犠牲になってなんてくれるなよ。あたしは、まだ妙高さんといろいろ楽しんでいきたいからな。将棋も今度教えてくれよな」

 

 電が深雪を支え、そしてその力を込みにして煙幕を妙高に向けて発射。それが直撃するしたことで、さらに身体に力が漲る。自信が出てくる。前を向ける。

 

「ありがとうございます、特異点の皆さん。今なら、きっと上手く行くのでしょう。こんな策しか思い浮かばなかった自分を恥じますが、でも貴女達のおかげで、それが無謀では無くなった気がします」

「今回だけの大盤振る舞いだからね。この戦況をどうにか出来る作戦、教えて」

「妙高さん、頼んだぜ。あたしはその策に乗っかるからよ!」

「なのです! 絶対、大丈夫なのです!」

 

 特異点からの後押しは、妙高の前進の最後の一押しとなった。

 

 

 

 

「私が前進します! 皆さん、範囲内に入ってください!」

 

 ジャミングを全面に押し出した、正面からの突撃。雑かもしれないが、考えた末の最善の策。そして、特異点の後押し。これを実行に移す。

 

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