強固な守りを量産により絶やさない新量産空母棲姫を突破するため、一歩下がった位置から戦況を見ながら考え続けた軍師妙高。そこで思い付いた策は、自己犠牲を伴う非常に危険なモノ。しかし、それをやらねばジリ貧であることもわかっている。
故に、上手くいくように願った、この海域、特異点Wで。特異点がその優しい願いを聞くこの場所で。
ならば、それは叶う。深雪と吹雪にその願いは届き、叶えるために背中を押してくれた。
妙高は力が漲るように感じていた。自己犠牲と思える、危険を伴う策。それを実行するための自信も湧いてくる、だがそれは慢心ではない、仲間達の後押しが、前を向かせてくれている。
「私が前進します! 皆さん、範囲内に入ってください!」
妙高が持つ力、『ジャミング』の曲解を全面に押し出した、正面からの突撃。雑かもしれないが、考えた末の最善の策。
「了解した! 清霜! フレッチャー! 撃ちながら移動!」
「りょーかいですっ!」
「了解、妙高さんの範囲に入らせていただきます」
真っ先に動き出したのは戦艦組。今まさに敵軍が集中的に押し潰そうとしているのはこちら。
特異点よりも厄介だと考えている理由は非常にわかりやすい。圧倒的な火力によって、
特に長門は一斉射の柱。そこを崩すことは士気にも繋がり、より勝利に近付けると考えたのだろう。
だが、その思惑は妙高の突撃により大きく変化していく。妙高のジャミングが及ぶ範囲内に入った途端、
いや、これはやはり逸れているのではない。あちらの攻撃が、最初からズレている。照準を定めたと思っていても、妙高の力によってあらぬ方向へと飛んでいく。
「すごいね、回避する必要がない力なんて」
吹雪が少し驚いた表情を見せる。自分に向かいそうな攻撃も全て逸れていき、正面から相対しても明らかにおかしな方向に砲撃しているように見えた。魚雷も発射しても全く向かってくる気配がない。
あちらが艦載機を元にしているとしても、結局は照準を定めるためにはその目で見て敵を認識しなければ当てられない。その全てを新量産空母棲姫がコントロールしていたとしても、
「本当にな、すげぇよ妙高さんのこの力は。でも……多分妙高さんはこの力のこと好きじゃねぇ」
「そうなの?」
「コイツは、アイツらのせいで手に入れちまった力だ。妙高さんも忌雷にやられてる。あたしと電が何とか姿形だけは元に戻せたんだが……」
吹雪もそこまで細かく知らないうみどりの内情。軍港都市での戦いは内陸で行われているだけあり、
今でこそ仲間という意識は持っているが、吹雪にとってうみどりの面々は、深雪の成長を促す者というイメージの方が強かった。そういう意味では、ここでこうやって対面し、対話し、背中を預けて戦うことになったのは僥倖だったか。
「なるほどね、だから何とも言えない雰囲気持ってるんだ」
「……吹雪にはわかるのか。妙高さんは今、カテゴリーW、あたし達特異点と同じ色をしてるって、イリスは言ってた」
「そうだね、言い方は悪いけど、妙高さんは今、
深雪も電も悔しそうな表情を浮かべる。そうしながらも、妙高の突撃を援護するため、砲撃雷撃を織り交ぜて放ち、あらぬ方向に撃ち続ける敵部隊を確実に殲滅し続ける。
未だ量産の速度とは拮抗中。減っては増やされを繰り返し、まだ新量産空母棲姫には届かない。砲撃でも雷撃でも、まだ擦り傷一つ、攻撃の余波すら届いていない。
「でも、2人が優しいからアレでどうにかなってる。多分私だったら、こうにも出来てない。姿はそのまま頭の中だけ元に戻すとかになるかな。誰かの願いを叶えるって言っても、特異点は全知全能じゃないから」
「嫌ってほど理解してる」
「その時の2人は、妙高さんの中の忌雷を取り除くなんてことが出来なかった。だから、その忌雷の性質を書き換えることで、今の妙高さんに
いざ突きつけられると、元のカテゴリーCに戻せなかったのは、自分の未熟さが招いたモノなのだと嫌というほど理解させられる。
「でも、それは多分私でも無理。ミルクを溶かしたコーヒーをブラックに戻せって言ってるようなモノだからね。あの忌雷はそれだけ、生きとし生けるものを冒涜してる最悪な兵器だよ」
この海域であれば深雪以上の力を当たり前のように発揮する吹雪ですら不可能だというのだから、妙高に対しての治療はあれで間違っていなかった。
「ただ、そのおかげで今がある。妙高さんが紛い物であっても特異点に近い性質を持ってくれてるおかげで、私と深雪ちゃんの力が物凄く浸透しやすくなってる。だから今、妙高さんのこの力は、
最後にとても曖昧な表現になったが、吹雪は大丈夫だと笑顔で語った。それだけでも、とても心強かった。
「子日さん、私の少し前方を維持してください」
「はーい! 少しだけ先行するよ!」
妙高の力の範囲から付かず離れず、しかし可能な限り前を行き、再び敵の頭を踏みつけながら三次元的な戦いを続ける子日。
しかし今回は前回の先行とは違う。足蹴にした敵は次の足場にすることなく、ひたすらに前進するために急所を撃ち抜いていく。もう後ろには下がらないという攻撃的な意思を見せつけるかのように。
それだけ目立つ位置にいても、妙高の力の範囲内にいるのだから、どのような攻撃も当たらない。撃たれども撃たれども、子日には掠ることすら無い。
「子日さんは目眩しを買って出てくれました。でも、皆さんのためには私もより前へ行かねば……!」
ここで妙高も海面を蹴り、いつもよりも前へと出て砲撃と雷撃を繰り出す。特異点の後押しにより増幅された力は効果が絶大であり、海域特効も加わって、重巡洋艦である妙高であっても砲撃の火力が戦艦並みにまで拡張されているほど。
しかも、ジャミングの力も常に発揮されており、自ら接近したとしても、どのような攻撃も当たらない。砲撃は勿論、体当たりも勝手に逸れる。自ら新量産空母棲姫への道を開けてくれているかのようだった。
勿論、そのせいで後ろに回ってしまったモノから背後を狙われかねないのだが、そこは妙高の後ろを陣取る者、深雪達が確実に始末していく。少しでも離れていれば一撃必殺の砲撃で、近ければ拳を振るって薙ぎ倒す。ただそれだけでも、敵の数は確実に減る。
「正面から突っ込んできてる……? 堂々としてるけど無謀じゃないかい」
その妙高の動向には流石に気付いている新量産空母棲姫は、部隊の先端に位置する子日と妙高に向けて守りを固めるため、自らのコピーを多く配置。近付くのならば頭部艤装から伸びる触手を、そうでなければ艦載機を使い、進軍を阻止しようとした。
「ここからが正念場です。敵艦載機が一番まずい……!」
艦載機からの攻撃が、このジャミング最大の難点。ただただ自分の真下に対して照準すら定めずに放たれる爆撃。視覚情報無しで繰り出されるそれは、照準を逸らすというカタチで効果が発揮されるジャミングでは回避が出来ない。
だが、何のための特異点の後押しなのか。ここで、特異点2人分の力が入ったことで、紛い物だったはずのカテゴリーWは、よりその力を強くしていく。
「なっ……」
驚きの声を上げたのは、新量産空母棲姫だった。コピーにやらせた攻撃は、そのことごとくがあらぬ方向へ飛び、仲間のみを潰していく。射撃であっても、艦載機そのものの体当たりであっても、
爆風くらいはどうしても喰らってしまうものの、それが直撃しているわけでは無いのだから、痛くも痒くもない。
特異点による拡張された、第二段階の『ジャミング』の曲解。これまでは視覚情報を弄り、距離感と方位を完全に狂わせ、範囲内の仲間への攻撃を全て逸らす力だったが、今や視覚など関係ない。
向けられる『殺意』そのものを全て逸らす力。それが今の『ジャミング』の曲解。攻撃の意思を持って放たれた攻撃は、それが見ていようが偶然だろうが関係なく、完全に逸れる。全方位に対しての絨毯爆撃であろうがお構いなし。妙高を中心とした効果範囲には、爆撃が落ちてくることはない。何故なら、
今ならば、背後からの攻撃すら当たらない。妙高に、仲間達に向けられる全ての殺意が、あらぬ方向に逸らされる。
「これなら……行けますよ!」
それを自覚した妙高は、より足を速めた。おそらくこの海域限定、今だけのブーストであることも理解して、使えるモノは全て使って、この戦況をひっくり返す。
「凄まじいな、妙高の力は……!」
「おかげで撃ちやすくて助かるっ! 長門さん、一斉射!」
「ああ、ここでやらずしていつやるか! 道を切り開き、妙高の手を届かせるぞ!」
この状況をより良いモノにするために動くのは、妙高の仲間達。まずは長門と清霜が、弾を撃ち尽くすくらいの勢いで砲撃を放ち始めた。一斉射は一度の戦闘に一度、弾数を気にしながら放つモノ。だが、今はその全てを気にしないで、ここで全てを終わらせるつもりで全てを使い尽くす。いざとなれば拳で戦えばいいととんでもないことを考えながら。
「……私の中にいる彼女が妙高さんに与えてしまった力……でも、今は仲間達を守るためにその力を振るってくださっている……。ならば、私も……!」
フレッチャーもその一斉射に参加。撃ち尽くしてしまってもいいと、砲身が焼きつくまで撃っていいと、いつもとは打って変わって雑に、そして力強く。
「フレちゃんもやる気満々だぁ! 3人がかりの一斉射! これだとネルソンタッチだね!」
「光栄だな。長門であっても始まりの一斉射と同等に力を出せるとは! フレッチャー、合わせなくていい、好きに、自由に、ひたすらに撃て、撃て、撃てーっ!」
「勿論です! 今こそ出し切る時! Open fire!」
これまでよりも火力が高い。思いの力が火力に上乗せされる。海域特効の真の力が発揮されている。
「すごいすごい! 子日も負けてられなーい!」
敵部隊の片側は戦艦組が次から次へと噴き飛ばしていく。ならば逆側。子日は進路を少しだけそちらに向けて、アクロバティックな進撃をより強くしていく。何をされても当たらないのだから、主砲を正面から蹴り飛ばすまでしでかした。
本来ならば咎められるようなこの行為。しかし、実際正面にだったところで、主砲はトリガーを引こうとした瞬間、謎の力によって勝手に別方向に向けられるのだ。意識すらしていない。何故かズレる。
「子日を援護すっぞ! 電、あっち側に!」
「なのです! 邪魔をしないでほしいのです!」
深雪と電も、道を開くために逆サイドを重点的に攻め立てる。深雪は消し飛ばす砲撃により致命傷を与え、電は僅かにでも見える急所に対してピンポイントに精密砲撃を直撃させた。
「さぁ、道は開くよ。みんなの思いが乗ってる。私の思いもオマケに乗せたから。可愛い妹を守ってくれる貴女の願い、必ず叶うから安心して」
そして吹雪は、そっと妙高を後ろから触れて押した。触れたことにより、更なる願いが叶えられる。
妙高の突撃は、新量産空母棲姫に届く。コピーに邪魔をされそうになっても関係ない。その攻撃は何も届かない。主砲を眼前の新量産空母棲姫に向け、一言。
「王手、です」
そして、放った。