後始末屋の特異点   作:緋寺

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分析の末

 特異点の力を直接受けたことで、その力がブーストされた妙高。『ジャミング』の曲解は、範囲内の味方に対してその視覚を以て攻撃を放つ場合、それを全て逸らす力だった。だが、今はそれ以上。視覚関係なしに、殺意を向けた時点でジャミングの対象になり、回避出来るかわからなかった爆撃や、ノールックで放たれる砲撃であっても、もう当たらない。

 

 その力を存分に使い、妙高は真正面から新量産空母棲姫に迫撃。そして、それは届く。

 

「王手、です」

 

 砲撃も、雷撃も、爆撃も、直接触れることすら、全てが逸れていく妙高が新量産空母棲姫に接近成功。守るモノが何も無くなったところで、妙高は砲撃を放った。

 狙いは『量産』の曲解を止めるために頭部の艤装。触手によって増やしていることは既に知っているため、まずはそれを破壊する。どちらかといえば顔面に近い位置に放つことで、避けにくく、かつ直撃すればそのまま命が奪える渾身の一手。

 

「ぐっ……!?」

 

 しかし、阿手の側近の1人であるためか、この時の瞬発力も非常に高かった。ほぼ自立状態の艤装、ウミウシ状の甲板がすぐさま本体をカバーするように身を乗り出して弾き返した。

 妙高の砲撃は、重巡洋艦であれど、海域特効のおかげで戦艦主砲並みの火力がある。それをかなりの至近距離で放ったにもかかわらず、その甲板は大きく傷が付くだけで、貫通はおろか、破壊までも行けていなかった。

 

 とはいえ傷を付けたのは間違いない。自己修復ですぐさま元通りになっていくが、今のこれを見逃さない妙高では無い。

 

「傷付かない装甲のような力は持っていませんね。近代化戦艦棲姫の持つらしいダメコンも無い。自分の身体を守る能力は与えられていない? 回避能力が特別高いというわけでもないから艤装で守ったと考えれば、艤装の方に何かあるでしょうか。自己修復はもうデフォルトですし、それ以外に考えられるのは自動防御ですか。強固な艤装を最後の砦にするために、意思なく動く艤装を装備している?」

 

 小声で分析しながら、新量産空母棲姫に更なる力が無いかを探っていた。『量産』と『搭載』以外にも、自衛のために何かしらの力を持っていてもおかしくない。この超至近距離の攻撃を無傷で防御したことからも、本体の反射速度を超えた動きをしたと考えられる。

 それも何かしらの能力なのか、それとも艤装自体の性能なのかはわからない。世の中には自律型の艤装は敵味方どちらにもあるくらいなのだから、単純に個体としての特徴の可能性もある。新量産空母棲姫の艤装は、本体の周囲を自由に蠢くタイプであるため、判断がつかない。

 

 だが、今はそれが重要なわけでもない。強固な甲板がそこにあるという事実を知り、今度はそれをも突破しなくてはならなくなったというだけ。

 そしてそれは、これまでとは違い、まだ突破しやすいと思えるモノである。硬いかもしれないが、()()()()。ここには強固な艤装であってもモノともしない者が、それこそ沢山いる。

 

「まだ行かせてもらいますよ。そちらに手番は渡したくありませんから」

「なら私も手伝おうかな」

 

 妙高と共に並び立つのは吹雪である。最後の一押しをした彼女は、ここでさらに優位に立ってもらうために、その手を振るうことにした。

 

「私があの艤装を押さえ込む。妙高さんは、本体をどうにかしてね」

「了解。力添え、感謝します」

「私もこの海の問題は自分で解決しなくちゃって思ったから。全面的にうみどりが正しいからね」

 

 そう言うと、吹雪は妙高よりも前に出て、新量産空母棲姫の前を陣取るウミウシ型の甲板を片手で掴み、思い切り握り潰す。

 砕けるわけでは無いのだが、吹雪の指は甲板に食い込み、逃れられない程の握力で固定された。

 

「あれ、これは()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、何を思ったが、その甲板を振り回しながら、周囲の敵を薙ぎ払い始めてしまった。

 

 吹雪はこの海域、特異点Wの主みたいなもの。その姿、その性能を好きに切り替えて、その時に最も必要な存在となることが出来る。駆逐艦の時もあれば、空母の時もある。戦艦にすら並び立つこともある。

 その力を今、あえて近接戦闘特化に寄せた。砲撃や雷撃、航空戦などを全て捨て去ったことで、膂力に全てを乗せている。そのため、硬い甲板であろうとも指が貫くほどの握力で掴み、そこから移動すらさせない。

 ここで甲板自体が攻撃することも考えられたが、今の吹雪は妙高の能力の範囲内。殺意を向けてきているのならば、至近距離であっても攻撃は当たらない。吹雪はそれを理解して、あえてこの手段に出た。

 

「おいおいおい、吹雪何してんだよ!?」

「んー? この方が戦いやすくて。だってこの()()、壊れても勝手に直ってくれるしさ」

「だとしてもよぉ!」

 

 吹雪の暴挙に深雪が呆れた。だが実際、吹雪のこの攻撃は敵にとっても想定外が過ぎるようで、艦載機を素体に量産されたイロハ級であっても、そう簡単には避けられるようなモノではないようである。

 

「せーのっ!」

 

 甲板を叩きつけるように敵にぶつけると、その衝撃だけでナ級は粉々に。甲板もところどころが捥げていくが、自己修復によって勝手に元通りになっていくため、武器としての性質はすぐには変化しない。

 

「あ、もしかしてコレ、()()()()()かな?」

 

 そして気付いた。新量産空母棲姫が量産を続けるために必要なオリジナルの存在。近くに置いておいたイロハ級のオリジナル。レ級、ネ級改、ナ級、ツ級と、強力かつ凶悪な個体が一揃えされている。

 量産するために新量産空母棲姫が身近に置くのは当然のこと。今は妙高が新量産空母棲姫のオリジナルに肉迫しているのだから、イロハ級のオリジナルがそこにいるのもおかしな話では無い。

 

 それを潰せば、その個体の量産はもうされない。ならば、真っ先に潰さなくてはいけないのはこちらである。

 

「それじゃあ、まずはコレをっ!」

 

 その中から真っ先に狙いをつけたのは、ナ級。量産された個体と違って逃げようとしたため、吹雪は一切の容赦なく甲板を叩きつけることで粉砕。自己修復が仕込まれていたかもしれないが、それが出来なくなる程の一撃。

 

「念入りに、ていっ、ていっ、ていっ!」

 

 それだけでは終わらず、息の根が止まるまで甲板を叩きつけることで、黒い血を撒き散らして肉塊と化した。これで本当に自己修復なんてことはなく、ナ級のオリジナルは撃破。以降、斃したナ級が量産されることはなくなる。

 そもそも今は、量産出来るような暇を与えてはいない。イロハ級のオリジナルに目が向けられなくなっている時点で、量産出来るモノはたった1つしか無くなっている。

 

「鬱陶しいね、お前!」

 

 深量産空母棲姫は、その触手を自らに刺し、もう片方の触手から自らを生み出す。周囲のイロハ級が減ってきたことで艦載機に余裕が出てきたからか、自らのコピーを生み出すことに専念し始めていた。

 ついさっきまでいたコピーは5体だったが、妙高が接近してから急激に増やし、今ではオリジナル含めて12体。たった1個体で連合艦隊を組むほどに。

 

 だが、それを見て妙高はまだ分析を続けていた。

 

「ならば最初から自分のみを増やし続ければいい話なのに、何故やらなかった。確かに空母だけでは押さえられる戦場は限られているけれど、コピーとはいえ姫級なら、その個体性能で圧倒出来るはず。ナ級はわかる。対潜掃討のために連れてきている。自分で砲撃が出来ないから航空戦だけでは勝てないと理解していたからか、それとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 今はなりふり構っていられなくなっているから自分を増やしたが、これまでは余裕があったから他のイロハ級を増やしていたとなるの、その理由が絶対にあると妙高は考える。

 見るのは、オリジナルの表情。その目を見て、今の相手を読む。

 

「何見てんのさ、見せ物じゃないよ」

 

 だが、コピーの群れが妙高に向けて一斉に襲いかかってきた。ジャミングがまだまだ効いているため、どれだけ群がられても攻撃が当たることは一切無く、手を伸ばそうと触手を伸ばそうと、触れることすら出来ない。

 しかし、群れがそこにいるというだけでも、妙高の手も届かなくなるという厄介な状態に陥る。攻撃が当たらなくとも、前進を止めることは可能。殺意を持っていたとしても、攻撃をしていないのならばジャミングを受けない。ただ壁として立っているだけのものを攻撃してきていると認識することは、今の妙高のジャミングでも不可能。

 

「イロハ級は艦載機1つにつき1体量産出来るけれど、自分の量産は複数個の艦載機が必要になる……というのが妥当でしょうか。イロハ級はあくまでイロハ級。優秀で凶悪な個体であっても姫と比べれば()()()が下なのでしょう。そういう意味では高次の存在というのはあながち間違いでは無いのかもしれませんね。コストがかかるという意味で」

 

 純粋な分析ではあるのだが、その言葉の端々には少しだけ皮肉が見え隠れする。

 妙高とて、敵のやり方にはうんざりしている者。少しだけでもその思想に染められたことがあるため、尚のこと嫌気が差している。それ故に、これまで抑制していたその鬱憤が、この戦場で少しだけ出てきてしまっていた。

 

「それとも、コピーであっても自分がやられる様を見るのが嫌ということでしょうか。これまではまだ1体も斃せていませんが、ここまで来たら時間の問題。そんな精神的な理由で自分をコピーしない……なんてことがあるのでしょうか。感情的な打ち筋でミスをする棋士もいなくはないですが……」

 

 分析に精神論を入れ始めると面倒なことになるのだが、そこは相手も元人間。カテゴリーYになろうが精神性が変わらないことは、これまでの戦いの中でよくわかっているため、姿は深海棲艦であっても、相手は人間であると見て分析を続ける。

 とはいえ、ここは戦場。命のやり取りをする場。そこでそんな()()考えを持ち込んでくるのは、妙高的にはあり得ない。

 

「どうであれ、自らのコピーをこれ以上増やしてもらっても困ります。コピーからどうにかする必要がありそうですね」

 

 まずは近くのコピーから砲撃で撃ち抜いていこうとするが、性能はオリジナルの据え置きというのはこれまでの分析でわかっていること。コピーも持っているウミウシ型の甲板によって、その砲撃は阻まれる。

 強度もほぼ同じと見ていい。簡単には貫けない強固な盾が、たった今大量に増えてしまったようなモノ。

 

「余程近付かれたくないのでしょうか。もしかして貴女……」

 

 ここで妙高はある1つの考えに行き着いた。

 

 

 

 

()()()()()()()()()?」

 

 その指摘は、新量産空母棲姫の心を抉るのには充分だった。

 

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