「
新量産空母棲姫が自らを増やして守りを強くしたところから、回り回って辿り着いた妙高の言葉がこれである。それを言われた新量産空母棲姫は、心が深く抉られたように思えた。
だが、それを表情に出すようなことはなく、コピー達を妙高に嗾ける。攻撃は何故か逸れる。掴み掛かろうとしても触れることすら出来ない。艦載機からの攻撃もことごとくが外れる。
「いえ、今のは軽率で失礼な発言でしたね。すみません」
ここで妙高は自分の言葉について新量産空母棲姫に対して謝罪。
「戦場で恐怖を感じるのは我々も同じことです。私だって今この戦いが怖くて仕方ない。いつ死神に肩を叩かれるかわからないなんて、怖くないわけが無いのですから」
話しながらも少しずつ前進。オリジナルの新量産空母棲姫に近付きながら、周りを囲おうとするコピーに対して砲撃を放つ。しかし、甲板が厚く、妙高1人では突破することが非常に難しい状況に置かれていた。
妙高のジャミングは殺意も逸らすカタチに今だけブーストがかかっている。しかし、それでも弱点が無いわけでは無い。それが今の状況である。
攻撃は何もかもを逸らす。しかし、
そのせいで、妙高はまともに進めなくなってしまっている。だが、そのことに対して苛立つようなことはせず、常に冷静さを失わない。
「ですが、仲間達と共に恐怖を乗り越え、守るべきモノを見定めて、振り向くことなく前進する。それが我々艦娘です。恐怖を敵に悟られず、心臓バクバクでも気取られず、模範となれるように前を向く。私達が恐怖を見せていたら、その背の後にいる守るべきモノ達にまで恐怖が伝播してしまいますから。なので、それが見えないように振る舞うのが定石。幼い海防艦でもそれは学んでいることです」
戦いながらも、新量産空母棲姫に『戦うとは何ぞや』を説明するように語る妙高。焦ることなく、話しながらも頭ではこの状況を打破する手段を分析しながら。自分の弱点を理解しつつも、むしろそれを利用出来る手段を考えながら。
「ですが、貴女はその恐怖が隠しきれていない。戦術は間違っていないのでしょう。自分はあくまでも後ろから、数の暴力で押し潰すというのは、最も安全で最も
いつになく饒舌な妙高。そんな彼女を見て、新量産空母棲姫は逆に苛立ちを持ち始めている。しかし、妙高が先に話した通り、感情が悟られないように振る舞うようにしていた。
「ですが、自身を増やすことを躊躇ったのは、やはり内心の恐怖心が影響しているのですよね。見た感じで話しますが、そもそもコストがかかるのはわかります。イロハ級が艦載機1つで済むところを、自分自身を増やすには最低5つは使うようですね」
これは分析から正確な数を出したわけでは無いものの、ぱっと見でもそうではないかと考えていた。そしてそれは図星である。新量産空母棲姫は、それを言い当てられたことで表情を歪ませた。
「新量産空母棲姫の搭載数は、多くても130ほど。今は貴女を省いて11体、55個の艦載機を使っているというわけですか。まぁそれはいいでしょう。コピーの数は別にそこまで脅威ではありませんから」
「よく喋るねアンタ。私
「ええ、私はどちらかといえば独り言で考えを纏めるタイプなのです。こんな姿は滅多に見せないようにしているのですが、貴女には特別ですよ」
余裕そうに振る舞う2人。妙高は普段通りだが、新量産空母棲姫はそんな妙高に対して苛立ちを隠しきれなくなっている。
「問題はそちらではありません。貴女はこの戦場に対する恐怖を感じるのが、今初めてでしょう。本当の戦いを知らなかった。だから、
このようなコピー能力があるのなら、事前に何度も何度も訓練をしていてもおかしくはないだろうというのが妙高の指摘である。その間に、自分が量産したモノが破壊されるところも見ていなければおかしいと。
それが自分と同じ姿であることはわかっているのだから、むしろそれを正しく理解することが大切。死が怖いのに自分をコピー出来るのならば尚更である。
「自分をコピー出来るのなら、そのコピーが破壊されることを考慮するのは当然のこと。もしや貴女は、自ら生み出した量産型が誰1人としてやられないと思っていたのですか? 貴女だけではない、貴女にその力を与えた阿手とやらも、貴女のその力を見て、そこまでの訓練を施していないと?」
素直に疑問にしか思っていない妙高。阿手は元提督であるはずなのに、力を与えた者に対して、必要最低限の訓練を施すことすらしていない。与えた力だけで満足している、慢心しているとすら思えてしまう。
それとも、訓練をする余裕すら、今のあちら側には無いとでも言うのか。それならそれで追い詰めている証左にもなるため、特異点側からしてみればありがたいに越したことはないのだが。
「戦場に出られるのは、学びを得て、その資格を得た者のみです。その中には恐怖の制御も含まれます。貴女の戦い方からは、それが見えない。悪くは無いのです。ですが、戦場に立つには……戦術以外が
結局のところ、新量産空母棲姫も未熟だと言い切った。フレッチャーが言うには、この新量産空母棲姫は阿手の側近。特に可愛がられていると思ってもイイはずなのだが、それでも戦闘に関しては素人である。能力を増やし、素人ながらもうみどりをここまで圧倒出来る力を得ているにもかかわらず、本人の中身が未だに
「……言いたいことはそれだけ?」
小さく悟られないように深呼吸をした新量産空母棲姫は、あくまでも平静を装って反論。
「確かに私は経験が足りていないんだろうさ。アンタ達と違ってね。でも、それを補える、余りあるくらいの力を先生に戴いた。事実、アンタはそれを乗り越えることが出来ていないじゃないか」
自分の力に自信を持っているのは他のカテゴリーYと同じ。だが、やはりそこは阿手が目を掛けているだけあり、苛立ちをどうにか抑え込んでいた。妙高の指摘も学びとして受け入れようと出来ている。
「確かに。口では何とでも言えます。事実、今の私は貴女のコピーを乗り越えることが出来ない。攻撃をしたところでそれは全て防がれる。下がるわけにもいきませんから、なるべく攻撃は続けていますが、それは貴女にも届かない」
ただの妨害をジャミングで退かすことは出来ないことは、新量産空母棲姫にもバレている。そのため、増えたコピーのうち4人も投入され、妙高封じに使われてしまっていた。最も近付くことが出来た妙高が最も警戒されるのは必然。
しかし、ここにいるのは妙高だけではないのだ。むしろ、妙高はここで新量産空母棲姫の視線を独占出来ていることをラッキーとすら思っている。
「私もこの状況が怖くて仕方ありませんよ。もしかしたら負けてしまうのでは無いかと、いつだって足が震えてしまいそうです」
「はっ、それも口だけだろうに。アンタは自分の力に自信を持ってるタイプだね」
「残念ながら、私はこの力が大嫌いなのです。仲間が守れるから仕方なく使っているだけ。貴女方に与えられた力など、虫唾が走る」
小さく笑みを浮かべたものの、その奥底には絶対的な怒りが含まれていた。
深雪の予想通り、妙高はこの『ジャミング』の曲解を好いていない。自分がうみどりを裏切った明確な証拠として身体に残ってしまった忌むべき力として認識しており、出来ることならば使いたくないとさえ思っている。
だが、戦いに勝利するために必要だと言うのならば、妙高はプライドを捨ててでも使っていくだろう。勿論、ズル賢い戦術は取らないという必要最低限のプライドは絶対に捨てないのだが。
「自信なんて持てませんよ。だからこそ、嫌いであるこの力について、自分が知れることは徹底的に調べた。すぐにでも応用が利くように」
「どうだか」
「力はただ振るうだけじゃないんですよ。特に私に齎された忌むべき力は、私よりも仲間に対して有意義に使える力。ならば、嫌でも100%使えるようにするのが、私にとっては当然のことなのですよ」
そう、仲間のために、と突きつけるように言い放つ。
その瞬間、妙高を取り囲んでいたコピーが、とんでもない威力の攻撃で噴き飛ばされた。
「なに……っ!?」
「何を驚くことが。私には仲間がいるのです。私だけでは突破出来ない壁であっても、それは私だけしかいないから突破出来ない。その壁の向こうにいる仲間ならば、それを越えることは容易なのです」
新量産空母棲姫が目を向けた方にいたのは、特異点、深雪と吹雪である。
「ま、まぁ確かに、この方が戦いやすいかもしれねぇけどよぉ」
「お姉ちゃんの戦い方も、参考になるでしょ?」
「あたしはそこまで荒っぽくねぇんだっつーの!」
「説得力ないよー。実際便利だって思ってるでしょ。残弾とか気にしなくてもいいし」
そんな深雪が振り回しているのは、よりによってレ級の尻尾である。吹雪が新量産空母棲姫の甲板を振り回しているのと同じように、レ級の尻尾をしっかりとホールドし、ジャイアントスイングをするかのようにブンブンと振り回して、レ級の本体そのものを武器にして周りを薙ぎ倒していた。
自分に対しての攻撃は妙高の力によって完全にシャットアウト。その上で敵を掴んでしまえば、抗うことも出来ずに振り回されるだけの部下に早変わり。しかもこちらにも自己修復がついているのだから、
実際、深雪に振り回されたレ級は見るに堪えない姿になってきた。自己修復はしているものの、敵の艤装に打ち付けられたりしているせいで、見えている肌は全てグチャグチャ。あらぬ方向に折れてしまっている部位もあれば、内部の骨が見えてしまっているところまであった。
「んの野郎……! おらぁ!」
そして最後はそのレ級を放り投げ、コピーの新量産空母棲姫に直撃させる。立て続けに砲撃を放って、レ級ごと完全に消し飛ばした。残されたのは掴まれていた尻尾の一部のみ。残骸すら残さない砲撃で、この世界にいた痕跡そのものを消滅させている。
「妙高さん、大丈夫か?」
「はい、問題なく。攻めあぐねていたところでしたから、助かりましたよ」
「そりゃあ良かった。吹雪が言うには、さっきのレ級はおりじなる? ってヤツだったみたいだ。こっからはアイツは増えねぇ」
まだ残っている新量産空母棲姫のコピーに向けて、さらに追撃を始める深雪。まるでオリジナルの新量産空母棲姫が視界に入っていないかのよう。
吹雪と電も、そんな深雪を援護するために追いかける。電は妙高に小さく会釈をするが、やはりオリジナルの方には目を向けていなかった。
「私には仲間がいます。助けてくれる、手を取ってくれる仲間が」
妙高は更なる王手をかけるために動き出す。新量産空母棲姫の『量産』の曲解の分析は、ほぼ終わっていた。