後始末屋の特異点   作:緋寺

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妙高の狙い

 妙高によるほんの少しの時間稼ぎにより、彼女を囲っていたコピーの新量産空母棲姫は、深雪の手によって纏めて薙ぎ倒されるに至る。

 吹雪と同じように敵そのものを武器のように扱い、手にしたレ級を振り回し、残弾を気にすることなく目の前の敵を始末していた深雪。かなり強引な戦術ではあるものの、効率だけを考えれば、確かに悪くは無かった。悪いのは見た目。

 

「おらぁ、次ぃ!」

「そこにいっぱいあるから、どんどん使いなよ。私はまだまだこれを使っていかないといけないからさ」

 

 ついさっきまで深雪が武器にしていたレ級は、コピーの新量産空母棲姫を薙ぎ倒すために使った挙句、そのコピー諸共、砲撃で消滅させている。つまり、さっきまでの武器は自ら破壊してしまっている。

 吹雪はまだカタチとして残っているコピーの新量産空母棲姫を使えばいいと促したものの、深雪はもうさっきのような荒っぽいことは勘弁してほしいと、普通にその場で砲撃と雷撃を繰り出し始めた。

 

「吹雪ちゃんはまだそれを使うのです?」

「うん、これは手放せないんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 吹雪の振り回すのは、新量産空母棲姫のアイテム、おそらく自律型のウミウシ型甲板。砲撃も簡単に弾き飛ばしてしまう程に硬く、自己修復まで持っている、攻防一体の超性能。

 しかし、今それを吹雪が常に自分の武器として使っているため、本来の持ち主──オリジナルの新量産空母棲姫は、この艤装無しで戦うことになっているのだ。

 それでも艦載機が扱えるのかどうかはわからないが、少なくとも守りが薄くなっていることは確か。妙高が更に有利になっていると確信を持っている。

 

「これもまた、援護のうちなんだよ。あっちはさんざんインチキをし続けたんだ。これくらいしてもバチは当たらないでしょ」

「そ、そうなのです……?」

「そうなのです。この海域の主である私が決めたのです。そもそも何もしてないのに攻め込んでくるような輩なんだから、これくらい痛い目に遭わないと。最初はこっちの何倍も兵隊連れてきてるんだからさ。立場が逆になって、こっちにズルいって言われても、説得力無いでしょ?」

 

 吹雪が甲板を振り回して、まだ息があるコピーの艤装を粉々に砕きながら、電に懇切丁寧に説明する。

 

「喧嘩売っといて返り討ちになりそうになったら泣き言とか、許されるわけがないからね」

「それは……そうかもですけど」

「改心の兆しがあれば手を取り合えばいい。でも、それすら無いなら、放っておいても私達の害にしかならない。だったらどうするかなんて、決まってるようなモノだよ」

 

 そこは妥協するしかない。そうしなければ、また深雪は何もしていないのに罪人のように非難され、嫌な思いをすることになる。

 電にだって、優先順位はある。戦わなくていいなら戦いたくない。近代化戦艦棲姫の時のように、埋護姉妹の時のように、話し合いで解決出来るのなら、いつだってどんな相手だってそれを選びたい。

 だが、その選択が出来ないくらいに敵が深雪を否定して、それで苦しむことになるのならば、心を鬼にする覚悟は出来ている。この場で終わってもらうしかないと。

 

 

 

 

 今回の敵は、話が通じないタイプである。何を言ったところで、その信念は変わらない。自分達が目指している道が正しく、平和に向かっている道。そして、特異点はその道を壊す悪であり、自ら魔王と名乗ったこの世界にいてはならない者であると、そう認識している。

 妙高との戦いの中でも、その考えは改めない。それが正しいと信じ、妙高は魔王に従う平和を閉ざす者として、敵対の意思を変えない。

 

「っく……」

 

 自らのコピーが為す術もなくやられた様を見て、明らかに嫌な顔をする新量産空母棲姫。イロハ級が壊されても何も感じていないようだったが、自分の姿をするモノが壊されるのは気分がいいわけでは無いようである。

 事前にそれに慣れていれば話は別だっただろうが、案の定、勝ちの目しか見えていなかったためか、自分の死を想起させるその光景は、嫌でもここでの敗北を考えさせられてしまった。

 

 新量産空母棲姫にもプライドがある。ここまで()()()()()()、このままで終わらせるわけには行かない。

 

「ちっ……だけどっ」

 

 妙高を取り囲んでいたコピーが失われたことで、新量産空母棲姫はもう何度目かわからない自分のコピーを作るために、触手を腹に刺す。

 

 ここまでで周囲のイロハ級がかなり減り、艦載機の数にかなり余裕が出来ていた。

 妙高が指摘した通り、姫級を量産するには、イロハ級の数倍の資材が必要となる。レ級やネ級改のような上位のイロハ級を量産するにしても、所詮はイロハ級ということで艦載機は1つ、もしくは2つ使うだけで問題なく可能。

 しかし、自らの量産には5つの艦載機を使う。周囲のイロハ級が少なくなってからでなければ、こんなことは出来ない、かなりの裏技的な手段。

 

「分析結果の1つとして」

 

 だが、妙高はそのタイミングを隙として判断している。ここで量産されては困るため、出来る限りの邪魔をしなければならない。

 

「量産中は動くことが出来ない。それに専念しなければいけない」

 

 守るモノを失っている上に正面に妙高がいる状態で量産を実行するのは、ある意味自殺行為に等しい。しかも今は吹雪が甲板を持っていってしまっているのだから、自動的に守ってくれるモノすら無い。

 そして、今指摘した通り、量産中は自ら攻撃にも防御にも参加出来ない、完全に無防備な状態になる。本来ならば、周囲に配下がいる状態で安全を確保して実行するべき行動。

 

 とはいえ、何の策も無しに、妙高の眼前でそれを実行するわけがない。そんなことをしたら流石にお粗末すぎる。いくら当たらないにしても、先程はコピーを突破出来ていなかったことは間違いないのだから、攻撃せずただ進むことを食い止めることが出来れば、時間を稼ぐことは出来る。

 結果、新量産空母棲姫は自身のコピーを作る分以外の艦載機をその場で発艦。艦載機を使わずとも発艦出来たのは驚きではあったが、問題はその数。この期に及んでまだ数十機を隠し持っていたようで、ここまで常に限界まで発艦するようなことはなかったようである。

 

「そもそも搭載数だって改造されていてもおかしくはないということですが。本来の……倍とは言いませんが半分近くは多めにされていると。ここまでそれを出し切らなかったのは、貴女の策でしょうか」

「最初から全部出し切るほどの二流じゃないよ私は!」

 

 艦載機に食い止められているうちに、新量産空母棲姫は自らのコピーを1体量産完了。今度はそれに守らせている間に次の量産をしてしまえばいいと、コピーを嗾けて更なる量産を進めようとした矢先のこと。

 

「一流かどうかはさておき、まずわたしは貴女に指摘しました。量産をしている間はそれ以外の行動が出来ない。艦載機を先に発艦させておけばこうやって妨害は出来るようですが、そもそもここから動くことが出来なくなるのは変わってはいませんね」

 

 妙高自身はコピーに阻まれ前進出来なくなってしまっている。だが、それでも冷静に、今から自分がやろうとしていることをツラツラと話していた。

 これもまた、新量産空母棲姫の意識を自分に向けるため。ジャミングにより傷付かない前提で、敵の眼前で好き放題である。

 

「それがどうかしたかな。ここからはまた増やすだけさ」

 

 嗾けていた艦載機を自分に呼び戻し、量産のための資材とする。ここまでくれば、コピーの艦載機もあるので、また最初に逆戻り。妙高の仲間達は、周囲のイロハ級を徹底的に叩いているため、数は減っているものの、その分艦載機は装填され直していることで、量産はさらに続けることが出来る。

 

「穴熊の欠点は、王将の逃げ道を自ら潰すことです。一気呵成に攻め立てられ、受けるための駒を失ったらもう逃げられない。代わりに王手がかけられずに攻め手が尽きない大きな利点もあるのですが……貴女には王手がかかった。ならばもう守るしか無くなっている」

「アンタがどういう意味でそんなことを言っているかはわからないけど、アンタに合わせるなら、私はもう王手がかけられないくらいに駒が用意出来るのさ」

「ふむ、もう貴女には見えていませんね。では種明かしです。私は最初から、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、妙高の本当の狙いは結実する。

 

 

 

 

 新量産空母棲姫の足下が、大爆発を起こした。

 

 

 

 

「なっ、なん……()()()()!?」

「ナ級をアレだけ使っていたのに、忘れてしまっていたんですか? まぁ、そう仕向けていたのは私ですが。いわゆる誤誘導というモノです。本命の駒から意識を逸らせ、大駒……自分自身を大駒と喩えるのは気恥ずかしいモノですが、それを囮にしていました」

 

 新量産空母棲姫を海中から襲ったのは、これまでずっとナ級によって攻めを止められ続けていた潜水艦隊、伊203とスキャンプである。伊26は潜水艇を扱う海防艦と共に行動しているため、ここまでの前線には来ていなかったものの、この2人はずっとずっと新量産空母棲姫を付け狙っていた。

 

 その結果がコレである。新量産空母棲姫は爆発によって空に舞い上げられ、その脚はズタズタに。それだけでは終わらず、腰近くまで失いかかる大惨事。

 直撃さえしてしまえばこちらのもの。当然ながら、海中にも海域特効の力は及んでいるのだから。

 

「量産中は動けない。壁のない海中からはいい的だったでしょう。それを止めるナ級は、オリジナルも含めて、仲間達が処理してくれました。優先的に」

 

 言われてわかる、周囲の状況。妙高が言う通り、この海域からナ級は完全に消え失せていた。吹雪がオリジナルを潰し、何があっても増えない状況を作ってからは早かった。長門達の一斉射に巻き込まれ、子日のアクロバティックな一撃で急所を撃ち抜かれ、深雪達も手近ならば優先的にナ級を始末していた。

 全ては、海中で鬱憤を溜め続けた潜水艦達に渾身の一撃を放ってもらうため。今頃スキャンプ辺りがガッツポーズを決めているところだろうか。

 

 妙高が珍しく饒舌に話し続けたのも、視線を自分に集めるため。説教じみた口調も、苛立ちから周囲が見えなくなるように仕掛けるため。棋士としては失格な戦法かなと少々反省しつつも、ここは戦場、余程倫理に反すること以外は作戦として成立する。勝つためにはこれくらいの舌戦は上等である。

 

 

 

 

「あと何手で詰みますか。まだ奥の手が残ってそうで怖いですが……ええ、そうです、怖いんですよ。ハッキリと言えます。私は貴女達のやり方が怖い。人間を人間として見ていない、その傲慢さが」

 

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