自らを囮とし、ジャミングにより重傷を負うこともなく、目論見通りの展開に持っていった。仲間達が対潜掃討をしているナ級をオリジナルごと殲滅してくれていたおかげで、この戦場で常に海中に潜んでいた仲間の潜水艦達がようやく動けるようになったのだ。
ナ級さえいなくなれば、もう何もない。厄介な妨害は何一つないのだから、ここからはやりたい放題である。
「っしゃあ! ぶちこんでやったぜクソが!」
妙高の予想通り、スキャンプが苛立ちを晴らせたことでガッツポーズを決めていた。隣の伊203も、これまで停滞させられ続けていたためストレスが溜まっていたらしく、渾身の雷撃が直撃したことが確認出来て溜息を吐いた。
「まだ終わってないと思う。着水したら」
「もう一発だな。ったりめぇだ、これだけじゃ足りねぇよ」
これまでずっと爆雷に追い回されていたようなもの。進むことも出来なければ戻ることも出来ない、厄介極まりない対潜掃討をこれでもかというほどに受け続けていたのだ。伊203すらも封じ込められていただけあり、並ではなかったことがわかる。
だがそれももう終わり。いち早く平和を取り戻した海中で、仲間達の脅威を取り除くため、敵の手が届かない場所から援護雷撃を続ける。勿論妙高には当たらないように気をつけながら。
「余裕があれば他の連中にもぶち込みゃいいんだよな」
「それでいい。むしろ他の連中を優先していい。これまでやれてなかった分、遅くされた分、全部やっちゃっても誰も文句言わない」
「へへ、そいつぁイイこと聞いたぜぇ!」
安全な海中から、敵目掛けてありったけの魚雷を放っていく。一方的な攻撃ではあるのだから、ついさっきまで立場が逆だったのだから、こちらも文句を言われる筋合いなどなかった。
「私はアレを見ておく。スキャンプは好きに壊していい」
「テメェからお墨付きもらっちゃあ、嫌だなんて言ってられねぇよなぁ!」
伊203もスキャンプの扱い方はよくわかっている。こうした方が速いと瞬時に判断出来るだけあり、ここでは好き勝手やらせるのが一番速いとして指示を出していた。
そんな伊203も、ここまでのストレスを発散するために移動を開始する。周りに散らばるイロハ級は、経緯はなんであれイロハ級。海中から狙いを定めた魚雷でひとたまりもない。しかし、この部隊のトップ、新量産空母棲姫は、先程の雷撃で噴き飛ばすことは出来たものの、まだ決着はついていない。
スキャンプにも、多少移動するから、ついてきながら撃ってと指示しつつ、少しずつ海上に向かって浮上していた。より確実に終わらせるために。
魚雷によって脚を破壊された新量産空母棲姫。それを見ても、妙高は一切油断はしていなかった。
今この状態から考えられる敵の行動はたった1つ。深海忌雷による寄生である。
「くそっ、クソッ、こんなやられ方……っ」
周囲が見えていないことを指摘され、その結果の敗北を突きつけられ、自己修復は始まっているが、着水する時までに完全修復とは間違いなく行かない。そして、先程足下から攻撃してきたのだから、今も自分の着水を待ち構えている。これも断言出来た。
これを打開するための手段は、少なくとも着水を狙った雷撃を回避すること。新量産空母棲姫にそれをどうにかする手段は、一つだけ思い当たることはある。
「このっ、私はまだ、やられない!」
減った艦載機は即座に搭載される。その艦載機を自らの下に敷き詰めることで、着水の際の守りとしつつ、あわよくば着水地点とタイミングもズラしてやろうという算段。
流石に数ある艦載機を使って宙に浮いたままとなるのは厳しいが、滑空するかのように距離を取ることくらいは可能。また、艦載機はガッチリ敷き詰められているため、下からの対空砲火もある程度は防ぐことが出来るという抜かり無さ。
「なるほど、ここで逃げの一手。修復の時間稼ぎにもなりますか。例え穴熊を構えたとしても、ここは盤面ではありませんから、外に逃げるということも可能でしょう。ですが、それは攻め手にはなりません」
今の新量産空母棲姫を追い詰めたのは、誰が見ても妙高である。その策が全て上手くいき、大部隊ももう半分以上減っている上、新たな量産が出来なくなっているためにこれ以上増えない。
新量産空母棲姫は把握出来ているかはわからないが、量産に使うオリジナルのイロハ級は、現段階で全て始末されている。そのため、もう量産出来るものは
だが、妙高自ら進もうとしても、最後に成功されたコピーの新量産空母棲姫がその行手を阻み、艦載機まで発艦させて妙高
だから、妙高はこのコピーを自分に集中させ、新量産空母棲姫を攻める一手は自分ではない仲間に頼ることにした。妙高にその手のプライドなど存在しない。自分が追い詰めたのだからトドメも自分でなんて考えない。
「深雪さん! お願いします!」
この状況を打破出来るのは、全てを消し飛ばす砲撃を放つことが出来る深雪が最も適している。
今であれば敵の数もかなり減ってきている。長門達の一斉射もかなりギリギリになってきているが一掃まで保ちそうであり、子日の大暴れも今はノリにノッている。調子に乗ってジャミングの範囲から少々外れかけているものの、子日自身がそれを自覚しているため、擦り傷すら受けることがないという大躍進。そして対潜掃討から解放されたスキャンプが目に入る敵に向けて次から次へと雷撃を放つのだから、敵が減るスピードは段違い。
今の状況ならば、深雪をイロハ級の殲滅に使わず、新量産空母棲姫を叩くことに使っても問題はない。
「んんっ!? 今度はそっちかぁ!?」
突然呼ばれて振り向く深雪。すると、艦載機を使って滑空している新量産空母棲姫が目に入ってギョッとする。空を飛んでいるわけでは無くても、殆ど近しいことをしている敵は流石に見たことがない。
「はい、あちらは負傷しています。追い込み、トドメを。私はコレに足止めを喰らっていますので。むしろここでしっかり止めておきます。貴女の火力で、アレを撃ち墜としてください」
「あいよ、ならあたしが行くぜ。アレだ、小粒な駒でも王手はかけられるんだよな?」
「貴女は小粒どころか王将ですよ。では、入玉と洒落込みましょう」
部隊から1人飛び出した深雪。だが、すぐさま振り向いて電に声をかけた。
「電! 来てくれ!」
「なのです! 援護するのです!」
ここで本当に一騎駆けするわけではなく、相棒である電と共に向かおうとする辺り、深雪は自分の性質を無意識にでも理解出来ている。
特異点の増幅装置としての在り方以上に、深雪には電が傍にいてほしい、その方が力が発揮出来ると自覚している。特異点的にも、精神的にも、電はそこにいなくてはいけないと。
「吹雪、そっち頼む!」
「はいはい、行ってらっしゃい。お姉ちゃんに背中を任せて、この海を滅茶苦茶にするヤツを終わらせちゃって」
2人抜けたところで、もう戦線維持は余裕が出てきている。吹雪も大丈夫だと、2人の背中を押した。相変わらず新量産空母棲姫の甲板を振り回し続けているが、その勢いは増す一方。やりたい放題好き放題、敵を鏖殺していく様は、心強さに拍車がかかる。
「っし、アイツをぶち墜としゃいいんだな。行くぜ!」
「なのです! もう、終わりにするのです!」
一気に駆け抜けて、何からの妨害もなく、新量産空母棲姫に接近した深雪は、妙高に言われた通り、敷き詰められた艦載機に向けて砲撃を開始。
いくらあちらが自由自在に動かせる艦載機だとしても、それが高性能な深海棲艦の兵装だったとしても、ヒト1人乗せた状態で自由に飛び回れるようなことはあり得ない。それを1つずつでもいいから消し飛ばしていけば、いずれ自重すら支えきれなくなって墜ちる。
とはいえ、時間をかけすぎると、艦載機の上で自己修復を完了させてしまうため、大急ぎでやることをやらねばならない。
しかし、あちらは阿手の側近。判断の速さも普通ではなかった。
「っはぁああああっ!?」
艦載機の上から、新量産空母棲姫の嬌声が響く。
「マジか、アイツまさか……!」
「自分から忌雷を寄生させたのです!」
忌雷の寄生による変化は、一種の改装に近い。それが何に繋がるのか。
寄生したことにより、
腐食性の体液を受けた時雨が、改装によって短時間で重傷を修復したように、あの忌雷にはそういった裏技的な使い方もある。
新量産空母棲姫は、その使用法も自覚した状態でこの戦場におり、ピンチになった時には躊躇なく自ら寄生させることも考えていたのだろう。そして今がその時である。
「っくぅっ、はぁあっ、これで更なる力がぁっ!」
また、全ての傷を治すだけでなく、忌雷の寄生は強化改造にも繋がる。ただでさえ厄介だった『量産』と『搭載』の曲解がより強化される、もしくは新たな曲解の力を手に入れてしまい、手がつけられなくなる可能性すらある。
それを止めるために深雪も電も艦載機を撃ち続けるが、変化中だというのに破壊されては即座に搭載されて無限の壁になり続けているため、消し飛ばす砲撃ですら本体にまで貫くことが出来なかった。
消し飛ばすと言っても、空間を抉るわけではなく、残骸すら残らない高火力の砲撃であるというだけ。現にダメコンを使った近代化戦艦棲姫には擦り傷で止められてしまったくらいなのだ。何かにつけて無効化されてしまう砲撃である。
「んぁあああっ!?」
そうこうしているうちに、新量産空母棲姫の変化は終わってしまう。雷撃によってズタズタになったはずの両脚は元に戻っており、これまでに着飾っていたフリル満載のワンピース状の衣装も、近代化戦艦棲姫や船渠棲姫と同様に身体の線をこれでもかと見せつけるレオタード状に変化。
同時に着水するが、その際に艦載機を海中に潜らせることで、出待ちしていた伊203の雷撃を艦載機によって完全にシャットアウトしてしまった。原元元帥こと深海鶴棲姫が使った、海中でも飛び回る艦載機。それを変化した瞬間から扱えるようになってしまっていた。
「っは、ははっ、これならまたやり直せる! それだけの力を、私はっ!」
これまでずっと妙高と戦っており、明確なダメージを与えたのが潜水艦。そのどちらもを今は克服しているようなもの。そして、特異点からの攻撃は艦載機を使えば全て止められる。これならば負けないと、慢心せずとも自信は持った。
すぐさま自らに触手を刺すと、その場に2体のコピーを作り出す。変化によりコストも削減されており、5つ必要だった艦載機は3つでよくなってしまっていた。そのため、海中の魚雷を回避するための艦載機を展開しながらも、自分自身を増やして兵隊を並べることすら可能に。
最初に戻ったどころか、さらに厄介な状態になってしまった。
「まだ攻撃は当たらないのかい。知ったことじゃないよ。ここで全部アンタにぶつけてやる! 何百もある艦載機に押し潰されろ特異点!」
妙高からある程度離れたことで、ジャミングの範囲からは少し出てしまいかけている。そのため、この攻撃は下手をしたら直撃してしまいかねない。新量産空母棲姫もその力のことは正しく把握出来ていないものの、膨大な数の艦載機によって圧力をかけ、そのまま押し潰せば効くと判断した。事実、殺意も逸らすことが出来る第二段階のジャミングであっても、あまりの量を全て逸らせるのはなかなか厳しい。殺意が乗っているのだから簡単には直撃はしないが。
だが、やはり想定外というのはいつも付きものである。特異点の攻撃を止めることが出来たとしても、
「えっ、投げろって!?」
深雪が突然独り言を叫ぶ。新量産空母棲姫は訝しげに特異点を睨み付ける。
「何言ってんだか。絶望して気でも違えたかい」
「わかった。お前がそうしろってなら、試して……やらぁ!」
そう言って深雪は大きく振りかぶって
「何をっ!?」
「お前らがやってきたことだろうが。でもな、こっちは一味違うらしいぜ?」
向かってくる何百の艦載機を砲撃と回避で蹴散らしながら、押し潰されないように維持する深雪と電。そんなことを気にせずに艦載機を更に増やすために自らをコピーすら新量産空母棲姫。
だが、その接近した何かは、自由自在に隙間を縫って移動し、最終的にはオリジナルの胸元にま辿り着いた。
「こ、れは……っ!?」
「何してくれるんだ?
それは、深雪の手で燻されたことで白く染まった忌雷。メカニックとしての技術を見せたそれは、ここでは新たな技術を見せつける。
「んぎっ!?」
白い忌雷が新量産空母棲姫の胸元に触手を突き立てた。しかし、血などは出る気配はない。
それはまるで、
「う、嘘だ、やめろ、やめろっ、なんでそんなことが!?」
動揺する新量産空母棲姫。それもそのはず、白い忌雷が触手を体内で蠢かせた後、ゆっくりと引き抜いていくと、そこには先程新量産空母棲姫が自ら寄生させた純正の忌雷が絡みついていたのだ。
忌雷の寄生は忌雷によって解除出来る。特異点の力、優しい願いによって染まった忌雷の真の力は、