後始末屋の特異点   作:緋寺

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新量産空母棲姫の終わり

 自ら忌雷を寄生させることで、重傷だった両脚を修復しつつ、更なる力を得ようとした新量産空母棲姫。しかし、その思惑は誰もが思わぬ方向から阻止されることとなった。

 深雪が握っていたことにより、願いの籠った煙幕に燻された忌雷が、その真の力──寄生されている忌雷を除去する力まで持っていたのだ。

 

「う、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ……!?」

 

 目の前でそれが行われているのにもかかわらず、新量産空母棲姫には現実に思えなかった。

 自らに更なる力を与えてくれる、阿手が作り出した神の導きが、特異点の持っていた()()()によって体内から排出されてしまったのだから。

 

 それと同時に、得られた力は当然ながら失われる。寄生前に戻るということは、全ての性能は失われる。むしろ()()()()()()()()()()()()()()。何せ、寄生に対応して構築された衣装もボロボロに朽ち果てていき、今の新量産空母棲姫はボロ布を纏っているだけの姿になっている程だ。

 劣化しているのは姿だけではない。忌雷を体内から排出されると同時に、白の忌雷は内部の回路を狂わせてしまっていた。

 

「量産が、出来ない……!?」

 

 その結果がこれである。持っていたはずの曲解能力が、今だけ上手く機能しない。

 寄生して身体を書き換えた挙句、何かしらの力を与える忌雷なのだから、その逆も出来るということに他ならない。深雪の内なる願いを正確に体現し、あらゆる敵忌雷に関する事象を思うがままにコントロールする、最大最強の忌雷キラー。切り札と言ってもいいほどだろう。

 

「なるほどな、お前いい仕事したぜ。ありがとな」

 

 新量産空母棲姫の体内から引き抜いた忌雷を持ってきた白の忌雷は、同じように燻してほしいと深雪に掴ませる。お安い御用だと忌雷を握り締めると、そのまま手のひらから煙幕が発生。

 ここからは時間が少し必要なものの、その煙幕に込められた願いは、『白の忌雷に仲間を作ってやりたい』という優しい願い。ならばそれは叶う。

 

 今この場だから、忌雷を燻すなんていう普通では出来ないことが出来ているのだろう。ならば、やれるうちにやるのが一番である。

 

「さて、これまでさんざんやってくれやがったな。でも、一応聞くことにはしてんだ。だから、まずは話をしたいんだけどよぉ」

 

 忌雷を燻しながら、深雪は電と共に新量産空母棲姫に近付く。勿論、細心の注意を払いながら。

 身体の内部を白い忌雷が弄くり回し、まともに戦えないようにしてしまっているとはいえ、未だ艦載機は残っているのだから、攻撃が出来ないわけではない。ただでさえ今この場で作り上げたコピーが2体いるのだ。それが攻撃してきたら、厄介なことになる。

 妙高が足止めされており、かつ新量産空母棲姫が着水地点を変えるために滑空したこともあり、ジャミングの効果範囲から少し離れてしまっているのも問題である。

 

「ふ、巫山戯るな魔王め……! くっ、まともに艦載機の発艦すらしにくい……私の身体に何をした! この外道!」

 

 憤慨する新量産空母棲姫を見て、深雪のみで無く電すら大きなため息を吐いた、そして内心で思った言葉は、意思疎通が出来ているかと思えるくらいに全く同じ。

 

 どの口が言うのだと。

 

「お前さ、ここまでやってる割には、自分のこと何も見えてねぇんだな」

「ざんざん仲間達に忌雷を使っておいて、使われたら外道呼ばわりなんて……電は悲しいのです」

「あたしもだ。ここまで頭が足りねぇヤツとは思わなかった。お前、阿手とかいう奴の側近なんだろ。だったら、もっと物事考えて話が出来ねぇのかよ。お前らはあたしの仲間にさんざんやってきたことだぞ」

 

 自分達がやってきたことを棚に上げて、自分がやられたら文句を言う。阿手の側近だとしても、そのスタンスはまるで変わる気配がない。

 考える力を持った上で、阿手を正しいと信じているからこそ、その思考は歪みに歪んで、特異点こそ世界に不必要な悪であるという考え方を変えない。それが本質となってしまっている。

 

 むしろ、そのスタンスが絶対に崩れないからこそ、阿手は側近にしているとすら考えられる。同じように教育はしたが、結局はその真実を知ったことで離叛したフレッチャー(米駆逐棲姫)は、側近という立場ではなかったと考えられる。

 本当に揺らがないくらいに歪んでいる者のみを側近にしている。阿手の洗脳教育の賜物かどうかはわからないが、間違いなく新量産空母棲姫は阿手を裏切るようなことはない。おそらく米駆逐棲姫が聞いて心を壊した真実を聞いたとしても、阿手の元からは離れることはない。

 

「あたしはお前を洗脳してでも仲間にしたいとは思わねぇよ。んなことしたら、お前らと同じになっちまうからな。自分の力で何が間違ってるのか理解してくれ。ちゃんと考えて、その上であたしの質問に答えろ」

 

 新量産空母棲姫は深雪に面と向かってこれだけ言われても、全くスタンスを崩さなかった。睨みつけ、悪足掻きをするように艤装を動かそうとジタバタしているのみ。艦載機の発艦もうまく出来ないとなれば、もう彼女に戦う手段などない。

 徒手空拳をこの場で繰り出せるとしても、まず深雪の方が上手である。真正面からぶつかり合っても、今の深雪に勝てるとは到底思えない。

 

「お前は思い直すことは出来ないか。あたし達は、別に悪いようにするつもりはねぇよ。お前が特異点を悪だと考えているのは、阿手にそう考えるようにずっと教育を受けてきたからだろ。それだけがお前の世界だし、舗装された道なんだろ」

「はっ、特異点が何を言おうと、私は屈しないね。先生は世界を見据えて私達を教育してくれたんだ。その上で力まで与えて下さった」

「それが奴の思惑だぞ。お前達も結局、その阿手が自分勝手に自分のために手駒にされてるだけだ」

「構わないね。それで私達は、先生の望む平和に向かえるんだ。私にはそちらの才能があったということだ。先生には感謝しかない。だから、アンタみたいに私を」

 

 何を言われても変わらない。それだけ強い信念になってしまっている。上っ面だけで無く、根幹の部分すら完膚なきまでに歪まされ、そちら側に強い芯となってしまっているのだから、新量産空母棲姫はどんなことがあっても阿手を裏切るような言動はしないのだろう。

 深雪の中では、そんな彼女への待遇は2つしかない。1つはやはり始末をつけること。元々そうしようとしていたのだから、それしかないと言える。そしてもう1つは──

 

「……いや、これだけは絶対にやらねぇ」

 

 握り締めていた、新量産空母棲姫から奪い取った忌雷に目を向ける。するとそこには、しっかりと燻されて白く染まった忌雷の姿が。通算3つ目、カテゴリーWの願いの力に染まった忌雷がまた生まれていた。

 これを寄生させれば、深雪の話をちゃんと聞いてくれるようにはなるだろう。しかし、深雪自身がそう言ったように、それではやってることが阿手と変わらない。思考操作は最もやってはいけないことと認識している。

 

「お前がお前自身で気付け。これでもあたしが悪か」

「当たり前じゃないか! 我々の平和を邪魔する者が、悪でないわけがないだろう!」

「じゃあお前はあたし達の平和を邪魔していいってのか? ああ!?」

「アンタ達の平和は平和じゃないんだよ! 世界のために散れ!」

 

 あまりにも支離滅裂。あくまでも自分が正しいというスタンスは崩さない。特異点に対して心の底から敵意を持っている。

 

「これ、毎回聞いてるんだけどよ、証拠見せてくれよ。あたしの、特異点の何処が悪なんだ。言ってみろ。おら、言ってみろ!」

 

 攻撃出来ないことをいいことに、深雪は新量産空母棲姫に近付き、肩を掴んで叫んだ。ここまで言われても、新量産空母棲姫は深雪を睨みつけたまま。敵意を全開にして、ひたすら特異点は悪であるという信念を変えようとしない。

 

「教えてほしいのです。誰もまともな答えをくれませんでした。ただただ深雪ちゃんは生きてるだけで悪いんだの一点張りだったのです。そんなの、そちらが納得出来ても、電達は納得出来ないのです。だから、ちゃんと教えてください。特異点の何が悪いのです? 貴女ならちゃんと答えられるのではないですか?」

 

 電も深雪のその行動を止めることなく、疑問をただぶつける。このまま殺すことになるかもしれないことは悲しいが、しかし平行線上ならば、互いに命を懸けているのだからその結末に向かうしかない。

 深雪の恫喝にも似た訴えよりも、電の苦しそうな問いの方が心に来る。電の表情は、これまでやってきたことに対して罪悪感を引き出すような力があった。勿論、電はそれを見越してそんなことをしているわけではない。本心から新量産空母棲姫のことを心配して言葉を紡いでいる。

 

 しかし、新量産空母棲姫には届かない。

 

「こうして私達の仲間を殺し、誑かし、奪っていっているじゃないか。それが悪以外の何なんだい。平和を求めているというのなら、何故そんなことが出来る」

 

 深雪はこの言葉を聞いたことで、完全に和解の道を諦めた。これもまた、自分の言動を全て棚に上げているのだから。

 だから、電すらもついに声を荒げることになる。

 

「なら何で電達の仲間を殺して誑かして奪うのです! それが悪いことだって言ってるのに、何で自分達はやっていいのです! やられたら嫌なことをやったらいけないことくらい、子供でもわかることなのに!」

 

 それでも手を出さないのは電の芯にある善性の賜物。それなのに、新量産空母棲姫は、改心の兆しなど微塵も見えない。電の涙ながらの訴えすらも、鼻で笑うかのように蔑んだ視線を向けるだけ。

 あまりにも傲慢。あまりにも不遜。心()()は高次の存在になった、ただの我儘な人間。深雪だけで無く、電すら匙を投げた。

 

「はい、深雪ちゃん、電ちゃん、2人は充分やったからね、あとはお姉ちゃんに任せなさい」

 

 そんな2人の心情を察したか、そこに突然現れたのは吹雪である。量産を続けられていたイロハ級も、新量産空母棲姫の不調に連動して、動きが徐々にぎこちなくなっていたらしく、吹雪が殲滅から外れても余裕が出来てきたようである。

 

「こんなヤツ相手に2人が手を汚す必要はないよ。それに、この海域は私の海域だから、ケジメつけさせるなら私がやってあげる。深雪ちゃん、少し離れてくれる?」

 

 怒りでそのまま手を出してしまいそうだった深雪をやんわりと下げさせ、吹雪が前に出たかと思いきや、その両腕を持った。

 

「貴女は今から死ぬことになるんだけど、やっぱり何も変わらない?」

 

 吹雪の表情はにこやかなモノだ。しかし、目の奥は一切笑っていない。可愛い妹を侮辱し続けた者に対しての容赦はカケラもないのだから。

 そんな吹雪に対して、新量産空母棲姫は唾を吐きかけるような表情を見せた。ここまで不利になっても態度を変えないのは称賛出来ると吹雪は笑い、そして──

 

「変わらないよね。じゃあ死んで」

 

 持った両腕、肘を逆側に折った。そのせいで腕は歪に曲がり、肉を突き破った骨が尖って表に出てきてしまうほどに。

 

「っぎっ、ああぁああっ!?」

「深雪ちゃんの心の痛みはこの程度じゃ済まないよ。生まれてきてずっとそんなことを言われ続けてきたんだ。心に棘が刺さったみたいに、ずっとずっと痛みを持ち続ける。それに比べて貴女はこの一回で終わりなんだから軽いものだよね。だって、死ねばそれで終わりなんだもん」

 

 そして、その腕を持ち替え、剥き出しになった尖った骨を思い切り突き上げ、新量産空母棲姫の喉に突き刺した。見た目だけで言えば、自ら刺したようになっている。

 

「ごっ!?」

「本当に愚かだよ。話をしようとしてくれたらこんなこともするつもりなかったんだけど、いい加減聞き飽きちゃった。傷つけるだけ傷つけてさ。それでも自分が悪じゃないと言える態度、正直凄いよ。あの潜水艦のお猿さんと同じかそれ以上だね」

 

 さらに痛めつけるため、新量産空母棲姫の上半身を掴んだかと思いきや、力任せに捻ったことで、完全に180度回転。腰から砕け、肉は裂け、血みどろになりながら内臓までグチャグチャに。

 

「お、うぉ……」

「だから、そんな汚いヤツの命を奪うために深雪ちゃんと電ちゃんが嫌な思いをする必要はないよ。私がちゃんとケジメをつけさせるから」

 

 そして最後は肩を掴み、思い切り腰から折り曲げて畳んでしまった。海老反りどころの騒ぎではない。急激に折れ曲がったことで腹も裂け、そこから中身が、骨まで見えてしまっている。

 

「あーあ、汚い汚い。でも、貴女にもこの海域の肥料になってもらうよ。バイバイ」

 

 剥き出しになった腹の骨を掴んで、吹雪はそのまま海中に潜っていく。もう息絶えている新量産空母棲姫はそのまま海中、海底にまで連れて行かれて、彼岸花の触手に掴まれ、そのまま海底に埋まっていった。

 

 

 

 

 トドメは深雪も電もドン引きしてしまうモノであったが、悪意の塊であった阿手の側近は、これで本当の終わりを迎えた。

 




吹雪が最後にやったのは「MK1 REIKO FATALITY」を参照。オムニマンに輪をかけてエグい。
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