新量産空母棲姫を撃破した時には、神風達が船渠棲姫4体を全滅させていたくらいのタイミング。これによって、敵対するカテゴリーY、出洲一派によって改造された者達はここで命を奪われるか、離叛して深雪につくかで、この海域からいなくなったことになる。
「……あ、あまりに衝撃映像だったから思考が止まっちまってた! 本体終わらせたなら、あとは量産された連中だけか!」
吹雪のトドメの刺し方があまりにも豪快かつグロテスクだったため、深雪も電もドン引きしながら一瞬頭の中が真っ白になった。だが、すぐに気を取り直して、戦闘を終わらせるために後何が必要かを確認した。
すると、不思議なことに、新量産空母棲姫が量産した自らのコピーやイロハ級は、本体が沈んだことによって機能停止。そのまま残骸すら残らずに塵となって消えていった。
量産化して戦力として扱っていたとしても、それが艦載機であるという判定が消えていなかったらしい。空母系の深海棲艦が沈んだ時、その艦載機は全て連動して消えるようになっていたため、こちらも例に漏れず消滅した。そこは米駆逐棲姫の量産とは質が違うようである。
残骸も僅かにしかならなかったおかげで、この後の後始末も多少は楽になりそうである。
余計な戦いが続かないことがわかってホッとしたのも束の間、今度は別の戦場の方にも目を向ける。こちらで新量産空母棲姫と戦っている最中、また別の戦場では4体の船渠棲姫と戦っていたのだ。こちらでの戦いが終わり、まだ終わってなければ増援に行くのが筋。
しかし、あちらの戦いも終了しており、残ったイロハ級の処理をしている最中。後少しで全てが終わるというところだろう。
「終わり……か?」
「なのです。もう、ここでの戦いは終わりなのです」
ずっと張り続けていた気持ちが、ここでようやく緩んでいく。戦いが終わったと実感した途端、どっと疲れが溢れた。
「ずっと息が詰まってた感じだぜ……電、お疲れさん」
「お疲れ様、なのです」
大きく深呼吸をしてから、ニッと笑顔を向けると、電も笑顔で応える。そして、小さくハイタッチすることで互いを労った。
その後すぐに船渠棲姫の戦場ではイロハ級の掃討が終わり、全てが残骸となった。
勿論、敵増援などは警戒するが、目に見えた敵はこれで全ていなくなっている。本当に戦いは終わりとして、全員がようやく胸を撫で下ろすことが出来た。
戦場に出ている者達は続々とうみどりに戻るのだが、その前に深雪はやらねばならないことがある。
「そう、元の自分の姿を意識して、それに戻るって自分に願うの」
「自分に願う、な。元の自分……」
「電もお手伝いするのです。増幅装置なのですから、こういう時にも使えるかなって思うのです」
「悪い、頼む」
今の深雪は、吹雪に手伝ってもらったことで、大人、しかも深海棲艦化までしてしまっている。その姿のままうみどりに戻るのは憚られるため、まずは元に戻る方法を吹雪に聞き、それを実行してから戻ろうという算段。
実際やってみるとそれほど難しいわけではない。身体がムズッとすると深雪は語るが、大人であった身体が縮んでいき、深海棲艦化も何も無かったかのように無くなる。それどころか、元々着ていた制服までしっかり出来上がったため、深雪は戦場に出る前と同じ姿となった。
肩に乗っているサポート妖精さんも、深雪の姿に合わせて本来の姿に戻った。自分の姿の変化を見て、自分も元に戻れてよかったと、少し安心したかのような表情を浮かべていた。
「やっぱりこっちの方が落ち着く気がするな」
「電もなのです。深雪ちゃんはこうでなくちゃですね」
「だよな。まぁでも、あの姿になれるってのはいざって時に強みか」
大人の姿の方が特異点の力は使いやすいと戦場でも実感していた。ある意味、戦闘のためのフォームとも言えよう。今の子供の姿では戦えないというわけではないが、より本気を出すのならば大人の姿の方がいい。出力も高く、四肢が伸びているおかげで仲間が守りやすい。
「さっきも言ったけど、練習だけはした方がいいからね。毎日一度あの姿になって、少しそのままにしてから元に戻るとかでいいから」
「ああ、わかった。いざって時にすぐになれないとか、そういうことだろ」
「そうそう。私が手伝えるのはここでだけだからさ、自力で全部やれるようになってね」
吹雪とはこうやって共に戦ってきたものの、戦いが終わり、後始末も終われば、ここにずっといるわけにはいかない。ここから動けない吹雪とは、その時点でお別れとなる。今生の別れでは無いにしても、次に会えるのはいつになるかわからない。
この海域に待機するにしても、残された時間はもう少ない。その間に、知れることは知っておこうと、戦闘の後であっても深雪はやる気満々である。
しかし、ついさっきまで大人の姿で戦っていた代償はすぐに訪れた。煙幕を多用したこともあり、軽くフラつくくらい体力が失われており、すぐさま電がその身体を支えた。
「だ、大丈夫なのです!?」
「悪い悪い。やっぱすげぇ疲れてるみたいだ。あんだけ特異点の力使ったら、そりゃ疲れるよな」
「ただでさえ慣れてない状態だったからね。それも慣れていった方がいいかもしれないね」
深雪の腕に絡みついていた3体の忌雷も心配そうに深雪を撫でていた。
「あー……こいつらのことも、ちゃんとハルカちゃんに説明しなくちゃいけないんだよな」
「なのです……説明難しそうですけど」
「起きたことを素直に話せばいいだろ。強いて言うなら、ムーサが怖ぇ。こいつら食いたいって言いそうだろ」
そんな話題が出たことで、白い忌雷は生命の危機を感じたか、ビクッと震えてあたふたと触手を蠢かせた。やたらと感情表現が豊かであり、本来の忌雷よりも頭がいいように思えた。
「大丈夫だ。こいつらも仲間だって言ったら流石に襲ってこないだろうから……多分、きっと」
確証が持てないのが苦しいところだがと、深雪は苦笑しながら話していたため、忌雷達は不安そうにするしかなかった。
うみどりに戻ると、中では大騒ぎ。今回の戦いで重傷を負ったのは、左手を忌雷の爆破で失った夕立くらいなのだが、それ以外の艦娘達も擦り傷などは多く受けている。前線に出ていたら、爆風に煽られて小さな火傷や傷は負うもの。
「おや、元の姿に戻ったのかい」
「おう、戦いは終わったからな」
深雪の姿が見えたことで、すぐさま反応したのは時雨。こちらも疲労が表情から見て取れるくらいには消耗しており、しかし互いに健闘を讃えあうようにハイタッチ。
「こっちはうちの馬鹿妹が怪我をしてね。今は入渠してるけど、その後丹陽から説教が確定したよ」
「何かあったのです?」
「怪我をしたのはまだいいんだけどね、最後の最後でなめた真似をしたせいで、場がしっちゃかめっちゃかになったんだ。アレは全部夕立がすぐにトドメを刺しておけば起きなかったことだからさ」
心に余裕が出てきた夕立はもう心配無いかと思っていたところでそれをやらかしたため、丹陽からのお叱りは必要不可欠。もう少し自覚を持ちなさいというところから始まり、そこから数時間を使って後悔させることになるだろうと、時雨は何処か意地の悪い笑みを浮かべて語った。
「君達は……ふむ、深雪が大分疲れたいるみたいだね。やっぱりあの姿はキツイのかい?」
「自分ではわかってないところで体力相当使ってたみたいだ。元の姿に戻った途端にコレだ」
電に肩を貸してもらってここまで来たのも、消耗が激しいから。こうして話すことは出来るが、身体はガタガタと言える。
「お疲れ様、みんな」
そんな深雪達を労うように、伊豆提督達が駆けつける。なんでも、既に後始末はこだかにも連絡を入れているようで、少し時間は置くことになるものの、疲労困憊のうみどりメンバーには休むことを優先してもらって、こだかにこの海域の後始末をやってもらおうと決めたとのこと。
今からすぐに後始末まで出来そうな者はなかなかいない。深雪は特に疲れているが、他にも疲労が溜まっている者は沢山いる。
その筆頭が、本気を出したことによってガタが見え始めた神風や、常に舞い続けて海域を凍結させていた白雲、そして『解体』の曲解で資材をバラし続けた梅である。
梅は救護班の力も借りて現在疲労抜き中。解体も体力を相当使うようで、終わった途端に倒れるように力尽きたという。
「深雪ちゃん、こちらでも確認させてもらっているわ。特異点の力、ちゃんと使えるようになったのね」
伊豆提督は今の深雪の姿に安心しつつ、そのことは既に先に帰投した者、神風などから聞いていると語る。実際にその姿を見たわけではないものの、そうなったという事実だけは知っているという状態。
「ああ、もう聞いてたんだな。訓練は必要だけど、吹雪のおかげでいろいろ出来るようになった。今は元の姿に戻れてるけど、またやってみようと思う」
「くれぐれも無茶はしないようにね。消耗が激しいのなら、切り札として使うように制限をかけるわ」
「ああ、そうする。無茶だけはしない。あの時はアレが必要だったから使っただけだからな。吹雪はスイッチを入れてくれたみたいだけど、そんな簡単に使わない方がいいかもしれねぇ」
こればっかりは今後何度か使ってみないとわからない。消耗が激しく、多用したらそれこそ戦場で動けなくなる可能性だってあり得る。
それこそ時間がある時はそちらの訓練もしておいて、いざという時にしっかり使えるようになっておいた方がいいだろう。
「それと……初めまして吹雪ちゃん」
「はい、初めまして司令官さん。ハルカちゃんと呼んだ方がいいですか?」
「ええ、そうやってフレンドリーに接してくれるとありがたいわ」
特異点Wの主である吹雪とも、ここで初顔合わせ。通信だけではわからないこともここでわかる。
今の吹雪は艦娘吹雪の姿をとっている。深海棲艦の姿で現れるのは驚かせてしまうかもしれないという配慮だったのだが、そもそもうみどりにはそんな配慮が不要なほどに深海棲艦の姿をする者が多く存在するので、そこまでしなくてもよかったかと苦笑。
「今はみんなお疲れでしょうから、少し休んでからいろいろ話をさせてください。私に聞きたいことも沢山あるでしょうし」
「気遣ってくれてありがとう。お言葉に甘えてそうさせてもらうわね。貴女も今はここで休んでちょうだい」
「なら、私もお言葉に甘えて。大丈夫になったら声をかけてもらえると」
社交辞令的ではあるものの、友好関係はしっかり築けている。伊豆提督の人間性も、吹雪には手に取るようにわかるだろう。信頼出来る人間とわかっているのだから、警戒する必要も無い。
「あ、そうだ。コイツらはどうすっかな……」
「こいつらって……何を……」
深雪の見せた白い忌雷を見たことで、伊豆提督の表情は凍りついた。忌雷達はビシッと敬礼するかのように触手を動かし、礼儀正しくしていたのだが、初見で驚かない者は存在しない。声を上げなかっただけ伊豆提督は凄いと言える。
「ひ、ひとまず深雪ちゃんが持っておいてちょうだい。調査は後からしましょ」
「ん、そうしとく。あたしにしっかり懐いてるみたいだからさ」
「流石にそれは驚くわ……」
戦いはようやく終わる。ここからは後始末になるわけだが、まずは休息を。