後始末屋の特異点   作:緋寺

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忌雷の正体

 戦闘終了後、あまり時間をかけずにこだかが現場に到着。ここでの戦闘の凄惨さを知ると同時に、後始末を開始することとなる。別れる前に譲渡されている忌雷探知機を用いて、細心の注意を払いながら残骸を調査するわけだが、そこにはその探知機よりも過敏な嗅覚(センサー)を持っているムーサも参加していた。下手をしたら探知機よりも早くその存在に気付き、忌雷の天敵としての性能を遺憾無く発揮する。

 

「ムーサちゃんが進んで参加してくれるモノだから、一旦任せておいたの。もし見つけても食べるのは控えてもらいたいモノなんだけれどねぇ」

「保証が出来ないのよね……あの子、そのために生まれたようなものなんだし」

 

 伊豆提督とイリスは、ムーサが後始末に参加すると言い出した時は正直どうしようかと考えたものの、やる気十分すぎる彼女を止めることは逆に難しいかと考えて、結局手伝ってもらう方向で進めている。勿論側近のル級もムーサに付き従い、後始末作業を手伝っている。

 明らかな()()が見えていたものの、この海域を片付けるための人員は、多ければ多い方がありがたい。ムーサとル級が手を貸してくれるだけでも、とても頼もしい。

 万が一忌雷があったとしても、こだかの誰かに寄生することを阻止出来る可能性が高い。これまでに5つの忌雷を食べてきたという実績があるため、もしも襲いかかってきたとしても、()()()()まであるのがムーサである。

 

「深雪の願いで生まれた忌雷キラー……だものね」

「ええ、この特異点Wではそういうことも起きてしまうということよね」

 

 吹雪から少しだけ聞いてその辺りは理解している。それを喜んでいいのかはわからないが、少なからず、うみどりの味方として生まれているのは間違いない。

 ならば、その本質を抑え込むよりは、自由に過ごしてもらいたいというのはある。伊豆提督もイリスも、そこは意見がしっかり一致した。

 

「一応ル級ちゃんがストッパーになってくれてるみたいだけれど、何かあった時はすぐに対処しましょ。それこそ、今は食べるなんてことが出来るけど、ムーサちゃんだって寄生されちゃうかもしれないんだから」

「そうなったら……深雪達にお願いするしか無くなるのよね……無傷で助けようとするなら」

「そうねぇ……これ以上深雪ちゃん達の負荷を上げたくないんだけれど」

 

 特異点の力というのは、それだけ有用で頼らざるを得ない程の強力な力。だが、頼ることを未然に防ぐことは可能なはず。それは提督である者のやり方次第。

 

「ひとまず、今はみんなにしっかり休んでもらいましょ。こだかのおかげで、そういうことが出来るようになったのは本当にありがたいわぁ」

「ええ、今回は総力戦だったものね。身体を休めて、これからのことに備えてもらいましょうか」

 

 今回の後始末は何だかんだで大規模。こだかだけでも終わらせられるが、うみどりが加わればより早く終わる。休息は必要だが、それが終われば本来の業務を進めることになるだろう。

 戦場で本気を出した神風や、新たなことをすることになった深雪などは今回はお休みということになるかもしれないが、出来る限り全員の負荷を下げつつ、後始末に当たりたいところである。

 

 

 

 

 ざっくりと風呂で穢れを落とした一同は、休息前に腹を満たしてから、各々自室に戻って寝るということになった。眠れずとも、まずは心身共にゆっくりとするようにと現場判断がなされた。

 今回の戦いも規模が大きく、そこら中に走り回っては、そこにいる敵をどうにかするという戦いが繰り広げられているのだから、自分ではわからずとも疲労がかなり溜まっている可能性は高い。

 

「アイツらは一旦、明石さんに預けてきたけど……大丈夫だよな」

 

 深雪が話す『アイツら』とは、懐いていた3体の燻製にされた忌雷。風呂で深雪達と共に穢れを洗い流され、それでも何も変わらないどころか、より活発に動くようになっていたため、まずは工廠で調査をしてもらうことになった。

 深雪の手から離れることで本性を現す、なんてことがあったら困るのだが、一切穢れもない状態で、かつ明石も完全防備の中で調査をするということらしいので、ひとまずは任せることにしている。

 

「大丈夫だとは思いますけど、心配なのです?」

「そりゃあな。アイツらを信用してないわけじゃあねぇし、むしろ何もしないって確信持って言えるけど、万が一はどうしても考えちまうよ」

 

 戦場でも自らの意思を見せた上で、新量産空母棲姫を終わらせるきっかけすら作ってくれた白い忌雷。それが今突然裏切るなんてことがあるとは考えにくい。煙幕で燻されて生まれ変わったと言えるのだから、かつての悪性は取り除かれているはず。それでも『それが忌雷だから』という一点だけで不安が出てしまうのは、もう仕方ないことかもしれない。

 だが、深雪はそういう考え方は良くないともわかっている。忌雷だから不安という考え方は、特異点だから悪だと言い切られた自分と似たようなモノ。それが苦しいのは嫌というほど知っている。

 

「でもまぁ、アイツらなら大丈夫だ。明石さん達だって、アイツらに余計なことはしないだろうしさ」

「なのです。あの子達と、電達の立派な仲間なのです。悪いことは絶対にしないのです」

「だな。だからまず、あたし達は身体を休めようぜ。この後はあたし達も後始末を手伝うことになりそうだしな」

 

 ここで一眠りしてどれだけ時間が経過してしまうかは今はわからないものの、最優先は全回復である。

 深雪も疲労が見えているため、まずは寝た方がいいと判断されており、相棒である電と共に部屋に押し込められていた。お二人でごゆっくりと白雲が気を利かせて詰め込んだというのもある。グレカーレも一歩引いたほど。

 

「……よし、じゃあ寝るか」

「なのです。お昼寝中に何かあったら、みんなが教えてくれるはずなのです」

「だな。みんなに今は任せるとしよう」

 

 そのまま眠りについた2人だが、目を覚ますのは夜遅くになってからとなるのは、この時はまだ知らない。身体を成長させ、特異点の力を何度も行使するというのは、それだけ消耗が激しいことだった。

 

 

 

 

 一方、白い忌雷を託された工廠。非常に協力的な忌雷達に明石は少し困惑していたが、ひとまずやれることをやっていく。

 明石と共に忌雷の調査をしているのは昼目提督。調査隊として、この忌雷の性能はしっかりと把握しておきたいと同席していた。また、忌雷の解析をすれば特異点の解析にも繋がるだろう。

 

「ムーサさんが涎を垂らしそうになった時は危機感を覚えていたようですが」

「そりゃそうだろ。喰われるなんて思ったら誰だってそう思う」

 

 伊豆提督がムーサに後始末の手伝いを許可したのは、これも理由である。深雪が眠っている間に調査している白い忌雷、それに対して食欲が抑えきれなくなったら厄介だから。

 他の忌雷はどうであれ、この戦いのMVP候補である仲間を食われたら洒落にならない。ムーサにだってどんな影響があるかもわからないのだから。

 

「安心して。深雪ちゃんの願いがその姿に変えてるから、みんなに危害を加えるようなことは絶対にないよ」

 

 そして吹雪も同席。休むと言いつつも、流石はこの特異点Wの主、疲労らしきモノは全く見せず、常に活動し続けられるくらいにピンピンしている。

 今回は深雪関連の話ということで、自分の説明よりも忌雷についてを優先した。特異点の説明はどちらかといえば深雪も同席した方がいいだろうとも語っていた。

 

「とはいえ、どう解析していきましょう。バラすわけにもいきませんし……って、主任、どうしました?」

 

 明石が悩んでいるところに、主任が忌雷に並び立ち、何やら話をしているように見えた。妖精さんの声は艦娘には届かないが、その仕草は大袈裟なモノが多く、身振り手振りが非常にわかりやすい。主任も例外では無く、忌雷に向けての話は身体全部を使ってのモノになっている。

 それに対する忌雷も、触手を蠢かせながら感情を大きく表現していく。まるで妖精さんとはしっかりと会話が出来ているような仕草。

 

「……まさかとは思うんですけど、忌雷って」

「オレもそれは考えた。あり得ねぇ話じゃねぇよ」

「だとしたら、これを作り出した出洲やら阿手やらは、どう考えてもやりすぎですよ」

 

 明石はこのやり取りで1つの仮説を立てていた。そして、昼目提督も同じ仮説に行き着いている。吹雪はそんな2人を笑顔で眺めているだけ。おそらくそれについてはそうなのだろうと気付いている。

 主任と忌雷の話し合いは進み、おもむろにホワイトボードに文字を書き始める主任。そこに書かれていたのは、2人の仮説を決定づける言葉。

 

()()()()()()()()

 

 忌雷の原材料は、妖精さんである。艦娘や深海棲艦、人間すらも実験材料として扱っているが、妖精さんまでも手にかけていた。

 

 第二世代、第三世代と艦娘を使ってきた連中だが、その魂などを使い、命まで奪った後に、そのサポート妖精さんは()()。それを有効活用しようと研究を重ねた結果が、この深海忌雷──に姿を変えられた妖精さん。意思を剥奪され、あちらの思うがままにコントロールされ、これまで引き起こされた悲劇の立役者にされた。

 

 白い忌雷は深雪の煙幕のおかげで本来の意思を取り戻すことが出来ている。妖精さんとしての本質を持ちつつも、変えられた身体は元に戻ることが出来ず、しかし願いの力をしっかりと取り込んでいるために変色というカタチで自分達を示した。

 その結果が、忌雷としての性質を持ちつつも、忌雷に対して絶対的な有利を持つ、妖精さんと同じ存在として生まれ変わっている。感情表現が大袈裟なところも、妖精さんの性質をそのまま持っていると言える部分。

 

「……納得出来ましたよ。だから忌雷は艦娘やら何やらに簡単に干渉出来る。元々サポーターなんですから、その力があるならいくらでもやりたい放題です」

「妖精さんに依存してる部分もあるからな艦娘は。なら、忌雷みたいなモンにされちまったら、艦娘なんてどうとでも出来るぜ」

 

 協力関係を持っているからこそ、艦娘と妖精さんは共に戦うことが出来る相棒である。そのパワーバランスは平等だから成り立つ。

 しかしその実、力は()()()()()()()()()()()。妖精さんがボイコットをすれば艦娘は戦うことすら出来ない。しかし、妖精さんも人間や艦娘と共に生きなければ先が無い。だからこそ、互いに互いを尊重して、協力関係を結んでいる。

 

 出洲や阿手は、その関係をぶち壊し、自らの糧にしてしまっている。神をも恐れぬ所業である。

 

「……これは許せねぇ。自分達のことを神様とでも思ってんのか」

「思っているのでしょう。自ら高次の存在と名乗っているくらいですし。それでも、やっていいことと悪いことがあります。基本は悪いことですが、これは限度を超えています」

 

 明石や昼目提督が憤っている中、主任も悲しそうに忌雷を撫でていた。同胞がこんな姿に変えられているなんて思ってもいない。そして、これは艦娘以上に不可逆である。弄ったら間違いなく命を落とすことになるだろう。

 そういう意味では、主任は深雪に感謝していた。こんな姿にされたとはいえ、元の意思を取り戻すことが出来たのは喜ばしいモノ。

 

「では、さらに解析をさせてもらいましょう。主任、通訳などよろしくお願いしますね」

 

 主任は深く頷いた。非常に協力的な白い忌雷達も、ビシッと敬礼するように触手を曲げていた。

 

 

 

 

 この白い忌雷達、やれることが多種多様であるため、今後は役に立ち続けることになる。

 




サイズ的にもそれくらい。今までは操り人形だったけど、燻製になったおかげで本来の意思を取り戻したいわば妖精忌雷。
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