後始末屋の特異点   作:緋寺

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特異点の忌雷

 深雪の煙幕により燻製となった忌雷を調査したことにより、その原材料が妖精さんであることが判明。主任と意思疎通が出来たことで、ハッキリとした自我を持っていることも確認された。

 

「この事実はなるべく知られない方がいいでしょう。これまで破壊してきた忌雷が実は妖精さんだった……なんて知ったら」

 

 こればっかりは、調査結果を公表してはいけないと明石は言い切る。これまで脅威と思っていた忌雷が、実は妖精さんが犠牲になった結果だと知ったら、次にその存在を確認した時に破壊を躊躇ってしまう可能性が高い。

 幸いなことに、今ここにいるのは戦闘に参加することが限りなく少ない明石と、人間である昼目提督、そしてこの海域限定の仲間である吹雪。そして意思疎通は出来るがそうしなければ考えていることもわかりにくい主任。隠し通そうと思えばいくらでもやれそうな面々。

 

「つーか、主任はいいのか? お前さんの同胞を今後も始末しなくちゃいけねぇ」

 

 昼目提督が主任に尋ねると、少々苦しそうな表情をするものの、仕方ないと頷いた。

 

 その場に深雪がいるのならば、ここにいる燻製された忌雷と同様に救うことが出来るだろう。しかし、そうでなければ破壊するしかない。寄生されて新たな被害者を出すくらいなら、破壊する方が後々のため。

 この忌雷は謂わば、()()()()()と同じようなものなのだ。相手が顔見知りの姿をしていようが、そこで破壊してしまわなければ考えている以上の被害が出かねない。同情する前に、今のこと未来のことを考えて行動するべき。

 

 主任だけでなく、白い忌雷達もそれは割り切っている。勿論余裕があるなら数を増やしてほしいとさえ思っているようだが、全てを救うことが出来ないことくらい理解していた。

 一斉に何体も何十体も出てくる可能性があるのだから、躊躇っていては誰かが寄生される。破壊しないということは、その分部隊を危険に晒すのと同義。

 

「なら、まずは誰にも知られねぇように。この事実については、ここにいるオレ達が墓場まで持ってく。それでいいな?」

「はい、そうしましょう。ボスやハルカちゃんにも伝えないことにします」

「それが可愛い妹のためになるなら仕方ないね。世の中には知らない方がいいことも沢山あるってことかな」

「ああ、そういうことだ。今回の件は戦意に関わる」

 

 伊豆提督やイリス、丹陽にすら伝えないとなるのは相当なことなのだが、それ相応の理由なのだから仕方ないこと。特に優しい伊豆提督は真実を知ってしまった場合、指揮にも影響が出てしまいかねない。

 提督としてはそんなこと言っていられないのだが、苦しむくらいならば知らない方が幸せだ。

 

「まぁ、ハルカ先輩なら少し勘付いてそうではあるけどな……あえてオレ達が言わなけりゃ、聞いてくることも多分無ぇよ。それでも聞かれたら、素直に話すしか無ぇ。それでいいな」

「はい、それで行きましょう」

 

 忌雷についての今後はここまで。真実を知ろうが()()()()()()を貫く。それが辛い決断だとしても、多くを守るためには、どうしても犠牲を出てしまうのだから。全てを掴むことは、今回ばかりは出来やしなかった。

 

 

 

 

 ここからは真実とは別に、忌雷が出来ることを確認していく時間。主任が意思疎通出来るというのが大きく、忌雷達と話もしやすい。

 

「便宜上、この忌雷達にも名前をつけておきましょう。あちらの忌雷と区別するために」

「だな。んじゃあ、深雪の忌雷だから、ミユキライで」

「単純すぎません……?」

「洒落た名前じゃなくてもいいだろうがよ。他に案あるか?」

「特異点の忌雷なので特機としましょう。忌雷という名前からも放してあげたいです。とはいえ暫定、今だけの呼称としましょう。本当に名前をつけるなら深雪さん達につけてもらった方がいいですから」

 

 原材料が妖精さんと知った今、出来ることなら忌雷という言葉は使わないであげたいというのが最後の情。その姿を元に戻してあげられない分、敵と同じモノという扱いを外すことで、すこしだけでも仲間意識を深めたいというのが明石の案。

 特殊機械という意味合いにもなるが、この忌雷達はその枠に入れてもいいだろう。何せ、ここから判明するが、やれることが非常に幅広い。

 

「よし、じゃあ今は特機だ。深雪に燻された順に1号2号と振り分けていくか。悪いがオレにゃ見た目から区別が付かねぇ。番号呼ばれたら挙手してくれや」

 

 ここで特機1号〜3号と新たな名前を与えられたことで、忌雷達は少し喜んでいるようだった。やはり敵の忌雷とは違うのだと名称から変えられたのは嬉しいようで、触手を蠢かせてやんややんやと遊んでいた。

 妖精さんだからこその楽観か、今の身体にも悲観しておらず、今出来ることを楽しんでやっていこうとしている。妖精さんのメンタルは、人間や艦娘では理解出来ない。

 

「それじゃあまずは私が現場で見たことを」

 

 ここでまず吹雪が説明を始める。特機達が戦場で出来たことは2つ。埋護姉妹の艤装に潜り込んで、万全なカタチにチューンナップしたこと。そして、寄生を使った新量産空母棲姫の中から忌雷を抜き出したこと。3号はそれによってこちら側に来た存在。

 言わば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことになる。特機の出来ることは、人間業を超えている。だからこそ、妖精さんの所業といえばそこに繋がるのだが。

 

 そもそも、そこに無いはずの弾薬や魚雷を生成して装填してくれるサポート妖精さんの不思議な力は、技術的な説明が不可能。艦娘以上に謎が多いのが妖精さんなのだから、そういったことが出来るのも『妖精さんだから』で済ませるしかない。

 

「原材料が妖精さんだからで全部納得出来ますね……。そもそも寄生して深海棲艦に変えるというのも、改装によって艤装が生成されるのと似たようなモノ。艤装内部を弄ることも出来るでしょうし、それに使われた力をプラスにもマイナスにも作用させられるのも当然といえば当然でした」

 

 改造を元に戻すことは出来やしないのだが、そもそも忌雷の寄生を()()()()()()()()()()()()()()()()()()、元に戻すことだって可能と言えば可能。

 しかし、主任達には不可能な技術であるため、忌雷化させられたことによる更なる技術的進化と考えるしかない。そこに特異点の力まで乗ってしまっているのだから、ファンタジーにファンタジーを重ねがけした、特殊すぎる存在として認識する他無い。

 

「あらゆる妖精さんの技術を全て詰め込まれた上に、あちら側の思惑が一緒に融合させられた結果、表面的な部分が大きく様変わりしてしまった。深海棲艦の要素が嫌でも組み込まれて、こんな姿に変わってしまった。これが極論ですね」

「気分がいい話じゃねぇな。()()()()にされたせいで、こんな見た目になっちまったってことだろ」

「そうですね、私としてはその見解で。でも代わりに、1つの身体に全機能が組み込まれています。それも、私達でも出来ないことが出来る技術を持ち合わせているんです」

 

 それが喜ばしいことではないことはわかっているが、そうやってメリットを提示していかないと、今の姿にされたことがあまりにも不幸すぎて前に進むことが出来ない。

 特機達も、元は妖精さんなだけあり、今の身体を有効活用しようとポジティブに物事を考えているようだった。元に戻らないなら、今を楽しむ。そういうところは人間とはまるで違う精神構造。

 

「その上で、貴女達は何処まで出来ますか。寄生された忌雷を体内から抜き出すというのは……」

 

 主任が通訳となり、特機達がやったことを事細かに聞いていった。わざわざ解体して中身を確認する必要も無い。話が出来るのなら、それを素直に聞くのが一番手っ取り早い。

 しかし、何をどう聞いても、明石達には再現不可能な技術。不可逆の改装をコンバート改装と見做して改装前の段階に戻すだなんて、第三世代まで来た現在の技術であっても不可能である。これに関しては、おそらくこの忌雷を生成した出洲や阿手でも不可能。特異点の煙によって意思を取り戻したことで()()()手に入れた力と言えよう。

 

「例えば、かなり前に姿を変えられたグレカーレさんの身体から忌雷を引き抜くことは可能ですか?」

 

 時間が経過しすぎて完全に一体化しているかもしれないグレカーレにも可能なのかと問うと、特機達は出来ると触手で丸を作った。

 あくまでもコンバート改装。艦娘にもそういうことが出来る者、うみどりにも3つの改装形態を持つ加賀がいるが、長く同じ状態に留まっていたからと言って、他の姿に改装出来なくなるなんてことはあり得ない。

 

「なら、妙高さん達のように特異点の力でひっくり返されたことで忌雷が馴染んでしまっているヒト達はどうでしょう」

 

 これに対しては、特機達は若干考えるような仕草。しかし、おそらく出来ると丸を作った。

 特機はいわば擬似的にカテゴリーWとなった深海忌雷である。同じく擬似的なカテゴリーWである妙高達にも干渉は出来てしまうのは、道理といえば道理。

 

 本来は不可逆なはずなのに、それに可逆性を与えて改装してしまう、特異点の力を持った妖精さんみたいなもの。万能すぎて逆に怖くなってくる一同。

 

『かわりに』

『いまもってるちから、なくなる』

 

 主任の通訳によってわかることだが、元に戻せば当然、今まで持っていた曲解の力も当然失われる。今の姿だから持っているのだから。

 これで不安になるのはグレカーレだ。『羅針盤』の曲解によって絶対に洗脳されない状態が続いている今、それを失っていいものかどうか。しかし、この力を無効化するような敵が現れた時、グレカーレはすぐさま再洗脳されてしまうというリスクも孕んでいるのだから、そもそも羅針盤そのものを捨てた方がいいかもしれない。

 同じことは近代化戦艦棲姫にも言える。今はグレカーレの『羅針盤』の拡張で正気を取り戻しているが、忌雷に寄生されている事実は拭いようがなく、いつまたあちら側に倒れてしまうかわからない。

 

「それじゃあ、あの物分かりのいい近代化さんを使って試してみればいいんじゃないかな」

 

 ここで吹雪が提案。

 

「あのヒト、寄生される前から能力持ってたし、寄生されたことで頭の中だけ弄られたって感じだし。むしろ、最初にやってもらうには打ってつけだと思うけど」

 

 なるほどと明石と昼目提督は手を叩いた。近代化戦艦棲姫は、既に深海棲艦化させられた状態で忌雷に寄生されている。寄生される前から『ダメコン』の曲解を扱うことが出来ていたのだから、忌雷を抜いたところでおそらく何も変わらない。強化が失われるかもしれないが、それだけ。

 彼女ならば戦闘力も失わないだろう。この改装によって起きるデメリットが最も小さい存在と言える。

 

 むしろ本人は喜んでこの試験を受ける。忌雷が無くなれば、あの敏感肌も治るだろうから。

 

「やってみましょうか。勿論同意を得てからですがね」

「これは隠す必要も無ぇし、ハルカ先輩にも同席してもらうか。可能だってわかりゃ、きっと大喜びだぜ」

 

 

 

 

 この後、これまでの被害者が報われることになるだろう。これもまた、特異点が願っていた道。

 




特機は仮称なので、ちゃんとした名前は後々つけます。ただし、増える可能性がある存在なので、無難は数字。
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