こだかによる後始末作業が続き、そのまま夜を迎える。今回の海域は規模も大きく、終了は休息を含めて夜明けほどと考えられていた。
途中からうみどりの面々も参加することも考えられており、共同作業ならばもっと早く仕事は終わるだろう。それでも深夜の終了と予想されているだけあり、海は本当に汚れている。
「参戦出来なかった分、こっちで力を振るわせてもらうよ。今回もなかなか酷いことになってるねぇ」
こだかのボス代理、タシュケントも一旦うみどりにやってきていた。イリスとその能力をコピーしたフレッチャーに念のためこだかの面々をチェックしてもらうため。
幸いコレまでに戦闘に巻き込まれるようなこともなかったため、彩も何も変わっていない。それは安心出来ることである。
「そちらは休んでいてもいいよ? こちらはもう本当にやる気充分って感じだから」
「頼もしいわねぇ」
「それだけ海上生活が嬉しいってことさ。英気を養いすぎだってくらいにね」
にこやかなタシュケントに、伊豆提督も癒される。
「でも、よっぽど大変だったんだね。この時間になっても見かけてないのがチラホラいるじゃないか。ミユキとかね」
「深雪ちゃんは本当に疲れているみたいなの。特異点の力がここだとかなり強く出せるみたいで」
「へぇ、そんなことが。また情報共有、よろしくお願いするね」
こだかがここに来たのは、後始末がメインではあるものの、それ以外にも情報共有も理由である。ここで起きた戦闘は、やはり今までとは違うことも多くあり、うみどりの次に狙われやすいと言えるこだかの面々にも知っておいてもらいたいことばかり。
通信で伝えるよりは、こういう機会に口頭で伝えた方が効率もいいだろう。タシュケント自身も、久々にうみどりに来たかったというのもある。
ここで話題に上がった深雪は、日を跨いだくらいのタイミングで目を覚ます。電も同じくらいまで眠っていたことを考えると、お互いに消耗は相当激しかったようである。
補助装置としての役割を持つ電にもここまでの消耗があったのは、深雪と深く繋がっているからと言えよう。煙幕の射出の際に手を添えていたこともあり、その体力でサポートしていたとも言える。
電がいなかったら、深雪はより長く休息の時間が必要だったのかもしれない。そう考えると、この2人はこれからも共に歩いていくことが必要である。
「んへ、もう真っ暗だな……っつーか、日が変わっちまってる!」
「こ、こんなに寝ちゃうなんて思ってなかったのです」
夜に熟睡するのと殆ど同じくらい寝てしまったことに驚く2人。しかし慌てることもなく、ひとまず着替えて外に出ようと行動を始める。
深夜かもしれないが、窓の外には灯りが照らされていた。それがまだ後始末作業中であることを如実に表している。こだかと合流することは先んじて聞いていたため、それについては何も驚くことはない。
「電、なんかおかしいことはないか? あたしは大丈夫そうだ」
「何ともないのです。いっぱい眠っちゃったので、身体も心もスッキリしてるのです」
「そいつは良かった。やっぱ寝るのが一番休まるな」
「なのです」
ざっと着替えて部屋を出ると、深夜だというのにあまり静かではない。勿論、今の時間に就寝している者もいるが、目が覚めた者が後始末に参加して、早急に終わらせようとしていることもあり、賑やかというわけでは無いにしても人の声がよく聞こえる。
深雪と電も後始末屋としての性分が働き、自分達も参加するかと持ち掛けようとしたところで、深雪の腹の虫が思い切り鳴いた。つられて電も同じように空腹を訴えたため、互いに恥ずかしがりながらも笑って食堂へ。
「イラッシャイ。貴女達ガ最後ヨ」
後始末中は深夜でも食堂を開いているセレスから、軽食が用意される。寝起きというのもあるが、このまま後始末に向かったとしても残された仕事は大分少ないため、その辺りも考慮して今だけ腹が膨れればいいというくらいの丁度いい量を出された。
相変わらず的確な食事の提供。食の探究者は、そういうところもしっかり考えている。食べる時間によって必要な量というのも、美味しく食べられる秘訣だと考えているようである。
「っはぁ……相変わらず美味いなぁ」
「本当なのです。なんだか漲ってくる感じなのです」
「だよな。これで後始末も参加出来そうだぜ」
ニコニコしながら食べる2人を見て、セレスも嬉しそうに厨房で笑みを浮かべていた。これぞ
「あたし達が最後だっつってたけど、みんな後始末やってんのかな」
「全員ガ全員ヤッテルワケジャナイミタイダケレド、ココデ食ベテカラ工廠ニ行ッタワネ。貴女達モソウスルノデショ?」
「ああ、そのつもり。ハルカちゃんに今日はやめとけって言われたらやめとく。でも、後始末屋としては作業に参加しときたいかな」
無理を言って後始末をするのは逆に非効率的。そのため、伊豆提督に指示を仰ぐのが妥当。後始末中のこの時間なら伊豆提督は工廠にいると考えるのも一般的である。執務室の可能性もあるが、まずは工廠。
工廠には深雪が預けた白い忌雷もあるため、それを回収するという目的もある。そのまま工廠に常勤でもいいのだが、忌雷という外見の都合上、何処にどう置いておくのかは判断がつかない。これも伊豆提督からの指示待ちと言えるだろう。
勿論、忌雷の真実に関しては誰も知らない。調査していた面々の胸の中に秘めているのみ。伊豆提督ですら、それは教えられていない。
「よし、ごちそうさま」
「ごちそうさま、なのです」
「ハイ、オソマツサマ。食器ハ片付ケテオクワ」
「お、ありがとな。じゃあ、行ってくるぜ」
「ありがとうなのです。よろしくお願いします」
「エエ、頑張ッテネ」
セレスに見送られて深雪と電は工廠へ。そんな2人の背中を見送って、セレスは小さく手を振っていた。深雪と電の特異点の光を見つめ、頑張って欲しいと心の底から願いながら。
工廠は後始末作業中で大忙し。しかし、ついさっきまで行なわれていた戦闘と比べれば平和的なものである。
「やっぱみんなここに来てんだな」
「お疲れ様でございます、お姉様、電様」
工廠でまず声をかけてきたのが白雲。制服の下にインナーを着ていないところを見るに、後始末作業には参加していない様子。
この白雲、おそらく戦闘に参加した面々の中でもかなり遅めの起床。戦場で舞い続けた消耗は今までの比ではなく、しかしそれによって仲間を守ることが出来たおかげで、精神的には心地よい疲労となってグッスリと眠ってしまったらしい。
「お姉様の部屋にも参らせていただいたのですが、お二人とも熟睡されていた模様でしたので、起こさず先にこちらに来させていただきました。白雲もあれだけの力を発揮することはありませんでしたので、先程まで主任様と明石様に身体を診てもらっていたところでございます」
「なるほどな、よく頑張ったな白雲」
しっかり見ていたわけではなくとも、白雲の奮闘は理解している。戦闘が終わった直後はあまり構ってやれなかったが、今ならば体調も悪くないため、やりたいように出来る。
そのため、深雪は白雲の頭をポンポンと撫でてやった。すると、白雲は見る見る内に顔を赤らめ、褒められたことに感動。少し瞳を潤ませつつも、今後とも精進しますと深々と頭を下げた。
「おそらくお姉様もまず身体を診ていただくことになると思います。白雲は力の使いすぎで心配されましたが、お姉様の場合は……」
「だな。あたしも電も、一度診てもらった方がいいや」
「電もなのです?」
「そりゃそうだろ。あたしがあんなことになったんだ。もしかしたら電にも何か影響があるかもしれねぇ」
身体を自由に変化させられる特異点の力に目覚めている深雪の影響を、電が受けていないとは限らないのだ。調べてわかることではないかもしれないが、調べないのはあり得ない。
「じゃあ、そのまま明石さんトコに行くのが良さそうだな。今は工廠の裏か?」
「はい、お姉様の忌雷についての調査が捗っているらしく、白雲の時は手を空けてくださいましたが、まだそちらに向かっていると思います。お姉様を見かけたら、来るように言ってほしいと申し付けられてもおります故」
「ありがとな、じゃあ行くか。白雲も一緒に行くか?」
「はい、白雲もご一緒させていただきます」
言われた通り、深雪達はそのまま工廠の裏へ。そこに行くまでに仲間達とも話をしつつ、若干身体の心配をされつつも、ちゃんと目が覚めてくれたことが嬉しいと素直に喜ばれた。
仲間のありがたみを実感しつつも、深雪は明石がいる部屋へと足を踏み入れる。
「明石さん、来たぜ。って、みんなもここに集まってたのか」
その部屋には明石以外にも、伊豆提督や昼目提督、丹陽やタシュケントまで待機していた。吹雪も同じようにここで深雪を待っていたようだ。また、その中心には深雪が託した白い忌雷、特機達が主任と意思疎通をしている。
特機は深雪の姿を見ると、すぐさま駆け寄ってその腕に絡みついた。やはり懐いている深雪の側が一番落ち着くようで、それこそサポート妖精さんのように甲斐甲斐しく鎮座する。
「お、タシュケント、久しぶりだな。そんなに時間は経ってないけど」
「久しぶりミユキ。いろいろ聞いたよ。短い時間でも大変だったみたいだね」
「本当にな……」
タシュケントはここで情報共有を受け、ボス代理としてこだかにそれを持ち帰ることになる。丹陽とも近況を話し、こだかが後始末屋の分家として楽しくやっていることが伝えられていた。
「深雪ちゃん、まずは身体を検査していきましょうか。これだけ眠ってしまうくらいに消耗していたのだから、何かあってもおかしくないわ」
「ああ、頼むよ。大丈夫だとは思うけど、そりゃ結局あたしがそう思ってるだけかもしれねぇし」
「ええ、自覚症状がないタイプかもしれないものね。少し念入りに調べましょうか」
伊豆提督から言われて、素直に従う。だがその前に。
「そうそう、その忌雷のことなんだけれど、忌雷と呼ぶのは可哀想でしょう」
「確かに。敵と同じとはいえ、敵の名前で呼ぶのは気が引けるかも」
「こちらでは今、仮称として特機と呼んでいるわ。でも、それの持ち主は深雪ちゃんなわけじゃない。だから、名前を決めてあげてくれないかしら」
突然名前と言われて、うーんと悩み出す深雪。そんなことをしたことがないというのもあり、すぐには思い浮かばない。
「そうだなぁ……じゃあ、1号2号3号で」
当たり障りがあるようで無い、仮称と殆ど同じ名前に、そこにいた者達は思わず吹き出した。事前に聞いていたわけでもないのに、綺麗に一致したのは流石に笑えたようである。
特機達は、仮称が本当の名前となったことを悲観するわけでもなく、むしろ深雪がつけてくれた名前だと素直に喜んでいた。見た目だけではどれがどれだかわからないというのもあり、触手の付け根にリボンでもつけるかという話も上がる。
「それじゃあ、これからよろしくな」
特機達に言うと、3体ともビシッと敬礼するかのように触手を曲げた。
結局数字のままで行くことになった特機達。でも本人達は幸せそうなのでオッケーです。