後始末屋の特異点   作:緋寺

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変化の引き金

 深夜に目を覚ました深雪と電は、今も絶賛実施中の後始末に参加するために工廠に向かうのだが、後始末よりも前に身体検査を受けることになる。

 戦闘中に吹雪によって特異点としての覚醒をさせてもらい、ここでの戦闘を変化した身体のままでこなし続けていたのだ。今でも何かしらの影響があってもおかしくない。

 

「ひとまず、今の状態で調べてみましょ。何も変わってなければそれでいいし、変わっていたらそれについて考えなくちゃいけないもの」

「ん、了解。電も一緒に調べるで良かったか?」

「ええ、その方がいいわね。電ちゃんは深雪ちゃんと密接に関係しているんだもの。何か影響があったら、放っておくわけにはいかないわ」

「なのです。一緒にお願いするのです」

 

 この情報は、ここに集まった全員に共有される。特に調査隊の昼目提督は、今後もし新たな特異点が見つかるようなことがあった場合に、うみどりではない自分達がどうすればいいかをデータとして残しておくようだ。

 

「それが終わったら、私が身体の変え方を改めて教えてあげるね」

「ああ、頼む」

 

 今の身体で調べ終わったら、次は変化した後の身体で再調査となる。初めての変化の時は吹雪にサポートしてもらい、少し無理矢理にスイッチを入れてもらったのだが、一度変化出来ているのだから、今後は自分の意思で変えられるようになる。だが、ただ変わりたいと思っても簡単に変われるわけではない。少し練習が必要になる。

 吹雪と共にいられるのはこの海域にいる間だけ。後始末が終わり、清浄化率の維持を確認している時間は、思ったよりも少ない。その時間を有意義に過ごすためにも、ここで教わることが出来ることは全てやっておきたいと深雪は考えた。

 

「それじゃあ、すぐにやっちゃいましょ。吹雪ちゃん、電ちゃん、着替えてきてちょうだいね」

「あいよ。電、行こうぜ。白雲はちょっと待っててくれよな」

「なのです!」

「かしこまりました。ここでお待ちしております」

 

 ここから深雪と電の身体検査が始まる。深夜とはいえ、これに関しては誰もが、それこそ深雪自身も知っておかねばならないことだった。

 

 

 

 

 簡単に言ってしまえば、艦娘の姿であるときの深雪は、これまでと何ら変わりがない。特異点としての力はあるものの、出来ることも全てが同じと言える。

 強いて言えば、今の深雪は自分の意思で発煙装置無しで煙幕が出せるということくらい。それでも充分すぎる程におかしな話なのだが。

 また、電も現状では変化なしと判断された。自覚症状のない影響が無いかを事細かく調査されたものの、特異点として目覚めた時点から何も変わっていない。

 

 とはいえ、深雪も電も大きく消耗していたのは確かである。特異点としての力が、大きな負担であることは自明の理。

 故に吹雪が毎日練習をして慣らしていくべきだとアドバイスをしている。

 

「これはお願いしていいことなのかもわからないのだけれど、その変化というのは簡単にやっていいことなのかしら」

 

 伊豆提督が深雪……ではなく吹雪に問う。この力を与えた、というよりは、本来持っている力を目覚めさせたのは吹雪である。特異点として生きてきた時間は深雪より断然長いのだから、説明を請うのも当然のこと。

 

「体力を使うから何度も何度もというのはやめた方がいいけど、慣れるためにも毎日やっておいた方がいいって、私は深雪ちゃんに伝えてる。それに、今後もアレくらいの出力が出したいなら、咄嗟に変われるようにした方がいいよ。こんな風にね」

 

 瞬きする間に、吹雪は戦場でも見せた大人の深海棲艦の姿に変化していた。流石に工廠にいるため非武装状態。

 深雪と電、そして白雲も、吹雪の変化には驚くことはなかったが、知らない者からしたら何が起きたのだと驚きを隠せない。

 

「こんなの、技術とかそういったモノから逸脱してますよ。あ、でも敵サイドは身体を無理矢理書き換える忌雷を使ってきているし、原理的には一緒なんですかね……」

 

 明石が諦めたような声色で、思ったことをありのままに話した。吹雪、延いては特異点の力は、工廠でどうこう言えるようなものではない、オカルトの類だと。

 そんなことを言われても、吹雪はニコニコ。オカルトであることを否定することなく話を進める。

 

「深雪ちゃんはそのままでも願いを叶えることが出来るようになってる。でも、艦娘の身体だとすぐに限界が来ちゃうだろうね」

()()()()()()には、それ相応の身体が必要ってこったな。なんだかんだ、あたしはまだまだ未熟ってことだ」

「未熟っていうか、艦娘の身体が深海棲艦の身体よりも()というか。だから、私は深雪ちゃんにそれが出来るようになってもらった。きっかけはあげたし、一度()()()()から、あとは意識すれば変わることが出来るはずだよ」

 

 意識すると言われても、深雪は何処をどうすればあの時の姿になれるかは正しく理解出来ていない。そのため、吹雪が懇切丁寧に教えていく。

 結局のところ、()()()()()()()()()()()()()()()()()を持つこと。艦娘(いま)の自分から、深海棲艦(べつ)の自分に切り替えることを想像すること。そんな自らの願いを叶えること。

 

 これまでは自覚が無かったために、願いを叶えることが出来る力といっても、何を何処まで出来るかなんて理解出来ていなかった。

 電と共に忌雷に寄生された仲間を救う時を境に、漠然と自分の力はこうやって使うモノなのだろうとわかってきてはいたものの、意識して使えるのは仲間を救うための優しい願いのみ。

 それを自分のために使うなんて考え方は、これまでは殆どなかった。身を守るために攻撃を逸らす煙幕などは出したが、あくまでも仲間を守るための延長線上であり、自分()守れたというだけ。

 

「自分の願いを叶える、だよな」

「あとは、スイッチ出来るようにするために何か引き金を考えるとかね。例えば、指を鳴らすとか」

 

 吹雪がパチンと指を鳴らすと、再び艦娘の姿に戻る。自分の中にきっかけとなる行動を作ることで、こうした時は自分の身体が変化すると身体に刻むような行為。

 

「引き金……ねぇ。じゃあ、例えば」

 

 手を銃のカタチにしてこめかみに押し当てる。煙幕を撃ち出す時もやっていた、意識としての引き金。仲間に優しい願いを届けるための行為を、自分に使うという感覚で使う。

 

「これでどうだ?」

 

 そして、バンと言うわけではなくても煙幕を撃ち出す仕草で自分を撃つ。

 すると、その手から煙幕が一気に溢れ出し、深雪を包み込んだかと思えば、すぐに晴れて深雪の姿が変化していた。

 

「お、おおっ!? 出来ちまった!」

「深雪ちゃんすごいのです! 身体に別状はないのです?」

「ああ、何もねぇ。一度こうなった時と同じ感覚だな」

 

 吹雪の力を借りて徐々に変化していくようなこともなく、一瞬で今の姿になったからか、身体に衝撃を受けるわけでもなく、ただそれが当たり前だと思えるような変化。

 手を握ったり開いたりしながら調子を確かめるが、やはり違和感など何もない。戦場の時と同じ感覚のため、吹雪のサポートなしでも変化出来るようになれたと喜んだ。

 

 しかし、その光景を初めて見た者達は言葉もなかった。伊豆提督や昼目提督は勿論のこと、いつも先を見通しているかのような振る舞いをする丹陽ですら、口を開いて茫然としているくらいである。

 如何に第一世代で長年あらゆる経験を積んできたとしても、この深雪の変化はあり得ない変化。改装で外見が様変わりする者は何人も見てきたが、それとはまるで違うモノ。変化というより進化に近い。

 

「……事前に聞いていたけど、これは本当にイケメンね……困っちゃうわ」

「艦娘っつーのは、どうあっても整ってんだよなぁ、マジで」

 

 伊豆提督と昼目提督はこの変化に驚きつつも、それをあまり表に出すことなく冷静に分析をしていた。本来ならあり得ないことが起きているのだが、これまでの戦いでもそんなことばかりだったのだから、いい加減慣れてきている。

 とはいえ、仲間がこのような変化をするのは流石に予想はしていない。特異点とはなんなのかという謎がより深まるような感覚であった。

 

「こ、これは私でも予想外でした……え、成長とかするんですか……?」

「ああ、吹雪みたいにあたしもこういうことが出来るってことらしいぜ」

 

 頭1つ分は身長が伸び、スタイルも戦艦と見紛う程に良くなっていることもあり、そこにいるのが本当に深雪なのか疑問にすら思えてしまう。しかし、顔立ちは明らかに深雪そのものであり、変化した後も気さくな笑顔を見せたことで、中身は全く変わっていないことを表していた。

 

「私は85年姿が変わってないんですけど」

「んなこと言われたってな。あたしの特性っつーか、特異点だからとしか言えねぇよ」

「……ズルいです」

「いやいやいや」

「ズールーいーでーすー。私だってそうやって成長出来てればしれぇと……ゴニョゴニョ」

 

 珍しく丹陽が見た目相応の反応を見せた。成長出来ること、大人になれることを羨ましがるその姿に、お婆ちゃんと自称する者の本来の性格、子供っぽく天真爛漫な性格がチラリと見えた。それはそれで喜ばしい反応ではある。

 

「い、いやぁ、これにはビックリだ。あたしは駆逐艦の中でも結構身体が大きい方なんだけど、今のミユキは戦艦みたいだね」

「清霜にも言われたよ。実際長門さんと近いくらいにはデカくなってるみたいだからさ」

「わぁ、そりゃ大きいわけだ。深雪とは思えないくらいにボリューミーになったみたいだし」

 

 タシュケントはその変化に苦笑しか出ていない。駆逐艦が戦艦になるなんて、この世界ではコレまでに無いこと。深海棲艦には駆逐艦に見える戦艦なんてモノも存在するが、元々駆逐艦だった者がこうやって変わるのは前例が無い。あるわけが無い。

 

「ああ……‥本当にお美しい……あの時はまじまじと見ることは出来ませんでしたが、改めてみせていただくと、本当に、本当に素晴らしいですお姉様……」

 

 戦場でもそうだったが、白雲は深雪の自己を残したままの深海棲艦化には非常に好意的。むしろ、他の者以上に興奮し、陶酔しているかのような表情も見せる。

 

「ひ、ひとまずその状態で調査してみましょうか」

 

 このままだと埒が明かないと、伊豆提督が状況を進めるために声を出す。

 

「ん、頼むよ。あたしもこうなった時になんかヤバいことになってないか知りたいからさ。あと電ももう一度検査してもらった方がいいんじゃないか?」

「なのです。電にも何かあるかもしれませんから」

「だな。ハルカちゃん、よろしく頼むぜ」

 

 こうなったとしても深雪は深雪であると確信が持てるため、不安は一つも無かった。強いて言えば、この状態になれるようになったことで、健康状態に影響が無いか心配なくらいである。

 

 

 

 

 深夜ではあるものの、ここからは大人となった深雪の調査。特異点の身体がどうなっているのかを、徹底的に調べ上げる。

 




深雪のトリガーは、わかりやすく言えばペルソナ3の主人公。スタイリッシュ自殺みたいなポーズですが、実際アレはかっこいいから困る。この場に厨二病の恵理がいなくてよかったね。
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