後始末屋の特異点   作:緋寺

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深雪という存在

 自らの力で深海棲艦の姿になれるようになった深雪は、その身体のまま、もう一度調査を受けることとなる。

 大人になったその身体で検査されている姿は、何処か不思議な感覚を仲間達に齎した。アレがあの深雪なのかという感覚がどうしても付き纏う。

 

「身体としては、駆逐艦……とは言いにくいですね。でも、だからといって巡洋艦や、ましてや戦艦かと言われると、それも何とも言えない。それこそ、深海棲艦のように()()()()と言ってもいいのかもしれません」

 

 調査の結果を皆に伝えるのは明石。まだ深雪と電は別室で主任主導で調査を受けているが、その内容をいち早く伝えるために別行動をしていた。

 あまりにも見たことのない結果だったので、頭を掻きながら自信なさそうに、しかし出てきたデータを正しく読んでいく。

 

「身体能力、特に耐久性が大幅に強化されています。先に言われていた通り、身体がその力に耐えられるくらいに頑強になっている、と考えるのがいいのかなと思います。そこが明確に駆逐艦と差別化出来る点です」

 

 深海棲艦の駆逐艦でも、その艦種とは思えないほどの耐久性を持つモノはいる。駆逐艦とは名ばかりで、やってることは戦艦じゃないかと文句をつけたくなるようなモノだって存在する。深雪もそこに足を踏み入れていると言っても過言では無い。

 その理由は明石の予想通り、特異点の力をより強く発揮するためには、それだけの強さが必要だから。艦娘の()な身体では難しいのなら、耐えられるほどに強くなる。それが深海の身体である。

 

「ただし、艤装との接続は以前から変化していません。そのため、装備出来るのは駆逐艦のモノ。とはいえ深雪さんは何故か本来よりスロットが1つ多いですから、それだけでもやはり普通とは違います」

 

 本来よりも装備出来る数が拡張されているため、そういう点からも駆逐艦からは逸脱しているのだが、装備出来る兵装は駆逐艦のモノだけのため、そこはやはり駆逐艦。特異点へと覚醒した電のように、あらゆる兵装が装備出来るというのならもう駆逐艦とは呼ばなかったのだが、そうでは無いためギリギリのところで踏みとどまっている。

 

「艦娘の身体よりも、深海棲艦の身体の方がより戦闘向き、ということになりますね。ですが、()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは非常に簡単な理由。とにかく()()()()()()()ということだった。

 

「コレに関しては身体を慣らすことで変化がありそうですが」

「それは私が保証する。深雪ちゃんはまだその身体に慣れてないから、どうしても全体がフル稼働しちゃってる。何度も何度も同じことをしておけば、身体が変化に慣れて、燃費も良くなるよ」

 

 ここには吹雪が言葉を付け加えた。今の深雪は、これまでの身体とは違うために、力の出力の仕方が(つたな)いのだと。

 心と身体が一致しないために、出力が不安定、むしろ基本的に全てに全力を出してしまっているために燃費が悪い。わかっていないから、とりあえずフルスロットル。だから前回の戦いでも戦いが終わって姿が戻った途端に疲労でふらついていた。ただでさえ特異点の力も体力を使うのに、そもそも身体を動かすことにも余計な体力を使っていたのだから、そうなって当たり前。昼寝みたいに寝たのに、深夜までグッスリ行ってしまっているのもそれが原因。

 

 これの克服方法は、それも吹雪が言う通り、慣れである。今は艦娘、今は深海棲艦と心がキッチリ切り替われば、出力も安定して体力の消費が抑えられる。やはり自分でスイッチ出来るようになったのは大正解で、ここからはしばらくその訓練を続けることになるだろう。

 

「ひとまず、深雪ちゃんのことについてはそういうことになるのね。なら、特異点としての観点から見たらどんな感じになるのかしら」

 

 これも特異点の力故にと言われればそれまでなのだが、深雪の体質とかではなく、特異点というのはどういうものなのかというところなら調べた場合はどうなのか。

 それを伊豆提督が尋ねると、明石は余計に頭を抱える。それだけで何を言いたいのかは手に取るようにわかった。

 

()()()()()()()()()。照らし合わせられる対象が存在しない。姿は艦娘深雪であっても、彼女は艦娘深雪ではないです。深海棲艦の姿も当然ながらどの姫とも一致するものがない。特異点は、この世界に存在しない特殊なモノという考え方が一番正しいのかなと。なので、何もわからないが結論です」

「そういうことなのよねぇ。カテゴリーWは、特異点は、全てのカテゴリーの要素を持ちつつも、全てのカテゴリーとは別のモノと考えるべきなのよね。その在り方全てが」

 

 見た目はそうだが、艦娘であって艦娘でなく、深海棲艦であって深海棲艦でなく、そして()()()()()()()()()()()()。それが特異点が全く違うモノであるデータ上から見えるところ。

 今の深雪は深海棲艦()()の姿かもしれないが、実際深海棲艦のデータと照らし合わせると全く違うモノとなっている。やはり精神的に艦娘だからそこに差異があるのではというのが見解。

 

「またオカルトな言い方をするけど、私達特異点は願いの結晶。人間、艦娘、深海棲艦、この世界に在る3つの知性持つ生命体の感情から生まれたモノ。だから、そちらの言い方に倣うなら、全部のカテゴリーの要素を持っているんだ。私も人間の要素を持っていると思う」

 

 深雪よりも強い力を持つ吹雪がそう言うのだから、それで納得するしか無い。

 

「願いの結晶……なんつーか、御伽話みてぇじゃねぇか」

「その解釈の方が合ってるかも。私も深雪ちゃんも、御伽話の住人って思ってくれれば納得は出来るんじゃないかな」

 

 昼目提督の喩えは間違ってはいないと吹雪は笑いながら話す。

 

「感情は技術で数値化出来ないでしょ。特異点は、()()()()に立ってる。人間や艦娘、深海棲艦だって、この世界の法則からは逃れられないけど、私達はその壁を越えてるんだ」

「感情を弄るクズが敵だけどな」

「弄ることは出来ても、それを明確な数値には多分出来てない。だから極端。1か0しか無い。あちらの洗脳ってそういうものなんじゃないかな」

 

 言われてみればと昼目提督は納得。確かにあちら側の洗脳は極端。この思想に染まれと改変した場合、妙に知能が落ちることもあるが、それは振れ幅が細かく調整出来ていないからではないかと思えた。数値化出来ているのなら、もう少し微調整出来るだろうと。

 

「聞けば聞くほど滅茶苦茶じゃねーか……じゃあ、そもそもオレ達の常識の枠には嵌めるなってことか?」

「そういうことです」

 

 吹雪は終始にこやかである。特異点のことを知ってもらうことは、深雪について知ってもらうこと。可愛い妹がここの仲間に理解してもらえるのは、姉として嬉しい。

 自分達が簡単に納得してもらえる存在でないことは、吹雪自身がよくわかっている。こうして艦娘の姿をしていても、根底は全く違う生物であることはハッキリと理解している。

 それでも、毛嫌いするのでは無く、手を取ってくれる者達の存在は、特異点としてもとても心強い。

 

「まぁ、アナタ達がどんな存在であれ、協力してくれるんだもの。もしその特異点の力を悪用するなら、アタシ達は吹雪ちゃん相手でも容赦しなかった。でも、そんなことないでしょう?」

「勿論。私は優しい願いを叶える特異点。そもそも、今の願いの実だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()だから」

 

 それについてもちゃんと聞いておかねばならない。伊豆提督も改めて姿勢を正す。

 

「アナタは海の底で話してくれたわよね。願いの実は、全ての生物の力の結晶だって」

「うん、そう言った」

「そして、この10年は力が溜まるのも早かったと」

「そう、うみどりのおかげで負の結晶は正の結晶になった。後始末の時に祈ってくれたから、集まる負の感情が報われた。だから、今の願いの実がある。改めて、御礼を言わせてください」

 

 吹雪が伊豆提督に向き直り、頭を下げた。

 

「後始末屋さん、本当にありがとう。あの祈りは、死者に安らかな眠りを齎す一番の行為。その声は私にも届いていた。優しい願いの根底には、うみどりの祈りがあるのです」

 

 そうではないかと予想はしていたが、言葉にしてもらえるとより実感が得られた。

 死者を弔う気持ちに嘘はなかった。敵でも味方でも分け隔てなく、安らかに眠ってほしい、次があれば、こんな戦いに巻き込まれず、静かに穏やかに生きてほしい。アナタ達のことは忘れないと、ずっとずっとやってきた。

 

 吹雪にそう言ってもらえるだけで、うみどりの、後始末屋の在り方が間違っていないと改めてわかる。伊豆提督は、表情はあまり変えずとも、穏やかにそれを受け入れている。

 

「その祈り、願いは実に溜まり、そしてカタチを成した。それが深雪ちゃん。うみどりに導かれるのは必然だったんだ。その優しい願いに対しての報酬……って言い方は俗っぽいかな、成果としてのカタチなんだ」

「……アタシ達は、深雪ちゃんをそんな目で見ることは無いわ」

「うん、ちょっと言葉が悪くてごめんなさい」

 

 とはいえ、深雪が今うみどりにいるのはそういうことであるというのは理解出来る。うみどりのおかげで正しい存在となれた願いの実は、その感謝を込めて深雪というカタチでうみどりにプレゼントを渡したようなモノ。そのプレゼントによって、うみどりがここまでの戦いに巻き込まれることになるなんて思いもよらなかっただろうが。

 

「ともかく、深雪ちゃんはみんなと違うけどみんなと同じ。技術面では、数値で見たら別モノになるけれど、みんなと同じでこの世界に生きてる。それに、みんなと一緒に生きていけてる。なら、何でも構わないよね?」

「ええ、本当にそこは……うん、あえてこう言わせてもらいましょう。()()()()()()()()よね」

「そう、どうでもいいこと。深雪ちゃんは深雪ちゃんなんだ」

 

 これについては誰も否定しない。深雪は深雪、特異点かもしれないし、姿を深海棲艦に変えることが出来るかもしれない、数値上では謎ばかりの存在であっても、謎では無い部分も沢山ある。

 後始末屋を楽しんでやってくれている。仲間と心を通じ合わせている。同じ道を一緒に歩いている。誰もそれを苦にしていない。それだけで充分だ。

 

「調査したものの、結論はそこに行き着くわね。うん、深雪ちゃんは深雪ちゃん、何もおかしなことはない。特異点という()()の、ただの仲間よ」

「うん、やっぱりうみどりに来てよかった。これだけのねがいのちからを持っているから心配はなかったけど、改めて確信出来た。これからも深雪ちゃんのこと、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 調べるだけ調べたものの、最後はコレまでと変わらないに落ち着く。それでいい、それがいい。

 




結論はわからないに落ち着いたけど、これまでの生活の中で互いに生きてきたのだから、信頼は厚い。
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