後始末屋の特異点   作:緋寺

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特機の仕事

 深雪に対する調査は一度終了。結果的には、工廠の技術力では特異点についてどうしてもわからないことばかりであるということがわかっただけに終わった。

 オカルト要素が非常に多いことは、特異点である吹雪から説明されていたが、それを科学的に証明したことになる。現代科学では、特異点の身体の謎は解明出来なかった。

 

 とはいえ、深雪は深雪であるという認識は変わらず、深雪がどうであろうと、うみどりの仲間である。

 

「調査は終わったってことでいいのか?」

 

 主任からOKが出たため、深雪と電が皆のところへと戻ってくる。深雪はまだ身体を変えたままであり、不要になったらまた元の艦娘の姿に戻るつもりのようだった。

 

「ええ、協力ありがとう深雪ちゃん」

「何かわかったことあったかな」

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 苦笑しながら話す伊豆提督に、深雪もそっかと笑う。別に何か見つからなくても、全く問題はない。焦りも無ければ苛立ちも無い。これまでもそうだったのだから、これからもそうというだけ。

 とはいえ、大人の姿だと持久力が無いため、何度も変化を繰り返すことで、心身共に慣れさせるべきだということが伝えられると、深雪はサムズアップ。元よりそのつもりだからと、成長に積極的だった。

 

「割と頻繁に変わってみるよ。吹雪、それでも大丈夫なんだよな?」

「うん、大丈夫。ただ、やり過ぎると疲れて倒れるから、まぁほどほどにね」

「了解。身体を慣らすためにこっち側で生活とかもしてみっかな」

「そういうのもいいかもね。変化を慣らすのも大切だけど、その身体での活動も結構大事だよ。自然体でいられることが重要だからね」

 

 吹雪のアドバイスは、この海域にいる間はずっと貰うつもりである。第一人者であり、特異点の唯一と言っていい有識者なのだから、聞けるうちに聞いておかないと、いざという時に面倒なことになりかねない。

 

「あ、じゃあ深雪ちゃんがこの姿でいる時のお洋服とかも、イリスさんにお願いしてみますか?」

 

 普段をこの姿で生活するようなこともしてみるという話題が出たことで、電が提案。深海棲艦の姿での私服なんてものもあった方がいいのではと楽しそうに話す。

 

「そうだな、もしかしたらこの姿で一晩過ごすとかやってみるかもしれないしな。コレだけだと不便か」

 

 今の深雪は、初めて変化を遂げた時の服装そのまま。今の姿だとそれ以外に着替えるモノが無い。もしこのまま生活してみるにしても、寝間着などはどうしても必要になってくる。

 うみどりで服といえばイリスが用意してくれるモノ。頼めば何かしら作ってくれることだろう。今の深雪にピッタリな私服や寝間着、トレーニングウェアまで全て。

 

「さ、じゃあこの話はこの辺で終わりにしておきましょ」

 

 ここで伊豆提督から話を切り上げた。深雪の調査も終わったことで、ここでやることは大概終了したからだ。各所のトップ達の情報共有も既に完了しているため、後は外で行なわれている後始末を完了させるだけ。

 そしてこうして調査しているうちに時間はそれなりに経っており、うみどりの面々も参加を始めているおかげで終了時刻は予想よりも早まっているほどである。

 

「流石に起きたばかりだから眠いなんてことは無いでしょう。深雪ちゃん達はこのまま工廠で何か手伝えることがあったら手伝ってもらえるかしら」

「うす、早く終わらせることに越したことはないもんな。あ、でも流石に姿は元に戻しておく。この身体に慣れるのは必要だけど、今はまだそういうことする時じゃあ無いと思ってるから」

「ええ、そうね。なんだかその姿だととっても燃費が悪いみたいだから、今はまた艦娘に戻っておいてくれるかしら」

 

 深雪は徐に手を銃のカタチにしてこめかみに押し当てる。深海棲艦の姿になるのにもそのトリガーを使ったのだから、元に戻るにもそのトリガーが必要だと考えて。

 そしてそれは大正解。煙幕を撃ち出すと、あっという間にその身体は艦娘としての姿に戻った。

 

「お、流石に疲れとかは無いな。ちょっと変わってただけだし」

「戦っている時よりは長い時間だったのですよ?」

「でも身体動かしてねぇしな。そこはそういうのが関係してくんじゃね?」

 

 前回のように、元の姿に戻った途端にふらついて肩を貸してもらわないと前に進めないなんてことはない。変化していた時間は長くても、戦ってはいないのだから消耗は非常に少なかったようである。

 

「そうそう、その子達……特機なんだけれど、深雪ちゃんに預けておくでいいかしら。その子達もとっても懐いてるみたいだし」

 

 メカニックのようなことが出来るため、工廠に常駐してもらうというのも考えたものの、特機自体が深雪を見た途端にその身体によじ登ったくらいなので、その居場所は工廠ではなく深雪の近くというのがベストのようであった。姿が艦娘だろうが深海棲艦だろうが関係ない。深雪だからそこにいる。

 

「ん、わかった。そういえば、こいつらのことも結構調べたんだよな。どうだったんだ?」

 

 この深雪の質問に小さく反応したのは明石と昼目提督。しかしそれは全く表に出していない。真実は誰にも知られない方がいいのだから。吹雪も余計なことは言わないし、主任はわざわざそれについて筆談で教えることもしない。

 

「ああ、そうだったわ。それについてもちゃんと伝えておかないとね。なんとすごいことがわかったのよ」

 

 コレに関しては伊豆提督も喜びを隠さずに話す。原材料に関しては何も聞いていないが、それ以外の出来そうなことは全て展開済み。忌雷に寄生されている者を元に戻すことが出来る旨も把握している。

 それを聞いた深雪は、マジかと大喜び。電と一緒にはしゃぐように飛び跳ねた。これまでそれに苦しんでいた者達が、特機達によって元通りになるなんて、特に願っていたこと。

 今すぐ忌雷を抜き取るかどうかは、寄生されている本人に聞いてからになるのだが、だとしても出来るという事実があるだけでも心持ちが随分と変わる。

 

「夜が明けてから、まずは近代化……ううん、トラちゃんにやってもらうつもりで考えているわ。あの子だけは、忌雷が無くなっても力を持ったままだから、単純にあの大変な敏感肌が治るだけということになるの」

「ああ、そりゃあいい。大変そうだったし、すぐにでも治してやりたいな」

 

 そんなトラ、今は与えられた部屋で眠っているのだが、布団の布ズレだけで酷い目に遭っていたのは言うまでもない。グレカーレが先輩として付き合っているものの、割と笑えないレベルで悶絶しているらしく、今はようやく身体を休めることが出来たというところ。

 本人は今すぐに頼むと言ってきそうだが、せっかく眠れたのだから今は寝かしておいて、翌朝に実施するのがベストだろうと伊豆提督は説明した。

 

「でも、そっか、忌雷のせいで手に入った力は、元に戻れば無くなるんだな。当たり前か」

「ええ。だから、その力をどうするかというのもあるから、治すのを先延ばしにする子もいると思うわ」

「治したくなったらすぐに言ってもらう。コイツらがあたし管理になってるなら、あたしがいないとやれないってことだもんな」

 

 特機がやれるからというだけでは無い。特機がその身体から忌雷を抜き出した後、抜き出された忌雷は()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、そちらもすぐに対処しないと、今度はまた他の者がそれに寄生される可能性があるということになる。

 特機が絡め取っているため、そうそうその場から動けるようにはなっていないだろうが、その状態でずっと置いておくのもよろしくない。ならば、抜き出した忌雷も燻してしまった方がいいだろう。特機がまた1つ増えるかもしれないと思うと、既に深雪に懐いている特機達はそれはそれで喜んでいるように触手を蠢かせる。

 

 こういう動きが若干妖精さんらしさがあるのだが、それを知らなければそこに繋がらない。故に、真実を知る者はこれ以上増やさない。

 

「ちなみにさ……やるつもりは無いけど、コイツら自体も誰かに寄生する……なんてことは出来ちまうのかな」

 

 深雪の疑問はごもっとも。特機は色が違うだけで忌雷である。しかも、燻される前は他者を洗脳するために使われていた兵器なのだ。性格は特異点の煙によって変わっていたとしても、性質は変わっているのかどうか。

 

 それに対して、机の上にいた主任がホワイトボードに特機から聞いた言葉をそのまま書く。

 

『できる』

 

 その文字を見たことで、深雪はゾッとした。使い方を間違えれば、この特機は出洲一派と同じようなことが出来てしまうということに他ならない。

 

『ただし』

 

 ここからまた続く。

 

『とりはずし、じゆう』

 

 ここがまた忌雷と違うところ。特機自体が願いの賜物で優しい性格を持つに至ったため、寄生出来たとしても、相手の意思を奪うことなく、身体だけ変えるに止めることが出来る。また、ただ変えるだけでなく、自らその身体から出ていくことも可能であり、もし何かあっても他の特機が中から抜き出すことも出来るため、ほぼ問題ないとすら言えた。

 つまり、特機は対忌雷の秘密兵器なだけでなく、緊急時は仲間に寄生して新たな力を与えることが出来る()()()()()()にすらなっていた。

 

 この利点は非常に大きいところがある。これまでの寄生と同じように使えるのならば、大怪我を負ったとしても改装扱いの変化によって傷が全て修復されるということ。一種の全回復アイテムにすらなってしまっている。

 

「マジかよお前ら、そこまで出来るのかよ」

 

 驚く深雪に、特機3体はそれほどでもと言わんばかりに触手で自分の頭を掻いていた。恥ずかしそうなのか自慢げなのかはよくわからずとも、今自分が出来ることに誇りを持っていることがわかる。

 

「危険かもしれませんが、出来ることならこれも試すべきだとは思います。勿論それはハルカちゃんに一任します」

 

 明石的には、いざという時のために試験をするべきだとは思っている。特機に寄生された者がどういうカタチに変化するか。寄生されたことで何処までの力を得るか。取り外しが自由とは言われているが、それが身体に何処まで影響を与えるか、など、使うなら事前に知っておかねばならないことが沢山ある。

 

「……正直、それについては考えさせてちょうだい。そういうカタチでその子達を使うのは、やっぱり抵抗があるわ。緊急事態に使えるということはわかるけれど」

 

 これはすぐに答えが出せないこと。()()()使()()()()()()は、考えれば考えるほど難しい問題。

 

「あたしもハルカちゃんに任せるよ。でも、寄生させるってのは、あたしも正直抵抗はあるぜ。それで嫌な思いを何度もしてるからさ」

「そうよねぇ……深雪ちゃんはその殆どを見てきちゃってるんだものね……」

「でも、それがみんなのためになるってなら、そうやって使うのも手段として持っておいていいとは思う。そのおかげで命が救える可能性があるってなら尚更だよ」

 

 万が一の時には使うことも厭わないだろう。それで救えるモノがあるのなら。抵抗があるから使わず、そのせいで仲間を失う方が深雪には辛い。死にかけでも寄生はされたくないと言われたら、その時はその時で考える。

 

「……わかった。試験については一応考えておきます。特機のことをみんなに説明してから、みんなと話をしてからにしましょ」

「だな、あたしもそれでいいと思う」

 

 コレに関しては伊豆提督も慎重だった。

 

 

 

 

 いろいろ決めるのは夜が明けてから。まずはトラの忌雷を抜いてからとなる。

 




特機の力は、次回で公になることでしょう。
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