後始末屋の特異点   作:緋寺

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なるべくなら使わず

 特機による寄生の実験は、グレカーレが受けたことで最高の結果を齎すことが証明された。これまで忌雷に寄生されていたために持っていた『羅針盤』の曲解は据え置きで、身体は艦娘へと戻っている状態となったのだ。悩まされていた敏感肌も今では後遺症すら残っていない。

 

「今日からはグッスリ寝られそうだぁ。なんだかんだ、夜はちょっとキツかったんだよね」

 

 敏感ではない肌を確かめるために、腕を撫でながら語るグレカーレ。そうやって触れていても過剰に反応をしないのだから、本人も何度も確かめたいようである。

 

「うわ、特機クンいい仕事してるなぁ! 深海棲艦の肌ツヤそのままじゃん!」

 

 見た目は艦娘であっても、要所要所は深海棲艦の要素があるらしい。グレカーレが特に反応したのは肌と髪。深海棲艦化させられたその時も、開き直るように出した言葉がそれについてだったが、今回もまず真っ先にそれを伝えた。

 今回は忌雷という醜悪なモノでもない、特異点の特機という受け入れられるモノ。それが齎した恩恵は、全身で喜びを表現するほどにグレカーレのテンションを上げた。

 

「あたしってば今どういう状態なのかな。前は確かCategoria-Mだったんだよね。艦娘と深海棲艦が混ざっちゃったってヤツ」

「だったな。でも今は違うかもしれねぇ。それはイリスに聞いてみるしかないな」

「だよね。へーい、イリスぅ! 今のあたしってば何になってる?」

 

 ここで起きたことは仲間達が見守っている。その中に当然、うみどりの秘書である事務員イリスも含まれる。

 その目によるグレカーレの変化を直接視ることで、異常をきたしていないかの確認は必要不可欠。忌雷が抜けたところで彩が変わっていないとかであれば、何か不具合が起きる可能性もあるからだ。

 

 そんなイリス、グレカーレから言われてその状況を口にした。

 

「えぇと……今の貴女はカテゴリーWよ」

「……W? つまり特異点?」

「いえ、擬似カテゴリーW。妙高達と同じ」

 

 グレカーレの彩の変化は、見た目通りと言えた。

 

 忌雷に寄生されていた時はカテゴリーM。本来カテゴリーBだったグレカーレに深海棲艦化が加わり、BにRが侵蝕したことでMとなっていた。

 特機による施術により、一時的に元に戻れた時、その見た目通りカテゴリーBとなっていた。彩だけで見ても、グレカーレは寄生前に戻ったという印象。実際にも能力は全て寄生前、言ってしまえば()()()()()であった。

 そこに特機が加わったことで、今度はその性質が色濃く齎され、ついにはカテゴリーW、特異点の力を分け与えられた者となった。とはいえそれは擬似的なモノ。グレカーレに組み込まれたそれは、あくまでも特機の彩である。表面上の彩とも言えるだろう。

 

「深雪の特機に寄生されれば、誰でもそうなると考えてよさそうよ。ただし、まだわからないことばかりだけれど」

 

 それはイリスだけでなく伊豆提督や昼目提督、常に先を見透かしている丹陽などもわからないこと。()()()()()()()()()()()()()()という問題。

 

 命が危ぶまれる緊急事態に陥った時には、相手が誰であれ特機を寄生させて強制的に換装を施して傷を治療することも考えられていた。

 だが、忌雷には相性というモノが存在する。相性が悪い者が寄生された場合、その身体は悪い方向に変質し、その結果、出来損ないという真に救われないバケモノになってしまう可能性がある。

 

「そうか……出来損ないになっちまったら、マジで取り返しがつかねぇもんな。それもコイツらで治すことは出来るのかな」

 

 特機達に聞く深雪に対して、反応は少し時間がかかった。この特機達は出来損ないを知らない。しかし、相性の良し悪しは、相手を見る、ないし触手を突き立てることで判別出来るというのが見解。通訳は勿論主任。

 相性が悪い相手に寄生した時、特機は相手を出来損ないにすることはないかもしれないが、擬似カテゴリーWへの換装が出来ず、傷の修復というカタチで使うことが出来なくなる。特機に頼るようなことはせずとも、万が一の時のことを考えると、これはかなり重要なファクター。

 

「なぁハルカちゃん、これ一度全員の相性見ておいた方がいいんじゃないか?」

「そうね、緊急事態のことを考えると、確認だけはちゃんとしておいた方がいいわね。みんな、そういうことだから、朝食の後に全員検査をしましょ」

 

 トラウマ持ちであっても、これはやっておかねばならないこと。有無を言わさず参加してもらうことになる。これは命に関わることなのだから。

 

 

 

 

 朝食後、うみどりの面々全員を集めて特機による検査が始まる。本当に全員、非戦闘員ですら何が起きるかわからないのだから、確認は必要である。

 カテゴリーY相手に寄生させようとしただけあり、相手のカテゴリーがなんであれ、寄生は可能であることはすぐにわかった。しかし、どうしても相性というのはすぐに見えてくる。

 

「平瀬さん、手小野さん、それに桜ちゃんは、相性が悪いみたいね……」

 

 調べていくとこの3人は寄生させると逆に身体を壊しかねないとわかる。3人の共通点といえば、軍港都市の地下施設を終わらせたあの戦いよりも前から改造が施されていたこと。つまりは()()()()の者。忌雷などなく、身体を直接弄られたことで、今の身体にされてしまっている存在。

 

「……私達は、戦いには参加しませんから……まだマシな方……ですよね」

「う、うん、私達は事務員、だから。それに、戦いは怖い、し」

 

 平瀬も手小野もうみどりを支える非戦闘員としての経験が長くなってきている。海賊船での戦いや、軍港都市での戦いでも、前線に出るようなことはないが、雑務でバタバタし続けていた。

 桜は子供であるが故に戦闘どころか雑務も限られたことしかしていない。自ら選んだわけではないのに、戦いに参加させるなんて以ての外。

 そんなカテゴリーYは、命が危険に脅かされる可能性が他の者と比べれば少しは低い。何かあったら逃げの一択なのだから。

 

「緊急事態で治しようもないということは肝に銘じておいてちょうだいね」

「はい……勿論。せっかく救ってもらえたのに……それを無下にするわけには……」

 

 意味がわかっているかは何とも言えないが、桜も首を縦に振る。危ないところには近付くな、独りでの行動はなるべく控えろは徹底されており、素直でいい子な桜はそれを忠実に守っている。今後もそれを守り続ければ、命の危険は比較的遠のくはず。

 

「艦娘の中で相性が悪い子は……え、いないの?」

 

 他の調査でわかることは、艦娘相手ならばこの特機は出来損ないにしてしまう可能性が非常に低い、むしろ無いと断言出来るほどだった。

 それに関しては憶測でも筋が通る理由がある。

 

「元々がこちらの艦娘を洗脳するために作られてるような忌雷だったからかしらね」

 

 身も蓋もないが、イリスの言ったコレが一番の理由であろう。殺すのではなく、洗脳して敵対させる。味方戦力を増やしながら敵戦力を減らし、同時に戦いにくい存在を作り出すことによって十全の力を発揮させなくする一石三鳥の手段。そのためには、寄生させて死んでもらっても困る。特異点を追い詰めねばならないのだから。

 そのため、特機の中でも1号から3号までは、艦娘相手なら誰にでも寄生が可能で、新たな力を与えることが出来る。燻製が終わり、6号として生まれ変わったグレカーレから摘出された忌雷は旧型であるため若干不安があるが、そこは相性の問題でおおよそ誰にでも使える。いざという時は、相性がいいことがわかっているグレカーレの中にいる5号と入れ替えも考えられた。

 

「あとは……カテゴリー次第では悪影響があるかどうかよね」

 

 ここに関しては念入りに調べている。特に難しいのではと思われていたのは白雲。既に深海棲艦に改造されてしまっている艦娘であり、曲解能力も持っている。元よりカテゴリーMだったこともあるため、特機との相性は何とも言えなかった。

 だが蓋を開けてみればその心配は杞憂に終わる。主任も含めて調査を行い、問題なく寄生が可能であることを確認。また、6号との相性もいいことが判明した。

 

「ハルカ、こんなこと言っていいのかわからないけれど、一応知っておいた方がいいと思うから言うわね」

「多分同じことを思っていると思うけれど、どうぞ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだけれど」

 

 これもまた重要なこと。命が危険に晒されているのは、伊豆提督達も同じことである。緊急事態に陥った際、特機を寄生させて一度人間を辞めてもらうことは可能か。

 

 その答えは、Noだった。

 

 純粋な人間、カテゴリーGには、特機の寄生は流石に刺激が強すぎるらしく、それこそ不可逆になってしまいかねない。傷を治すことは出来るが、取り外しが自由とは言えないようである。

 いくら深雪の優しい願いから生まれた存在であっても、そこには根底にある願いが邪魔をした。()()()()()()()()()()()()()()()()という考え方が根付いているため、それが逆に()()()()()()()()()()()()に繋がっている。

 

「いや、これは別に何の問題にもならないわ。アタシ達が戦場に立つなんて、普通ならあり得ないんだもの」

「特機を寄生しないといけないようになったら、本当におしまいだものね……」

「その選択をしなくちゃいけなくなるような状況にならないことを祈るわ」

 

 こうして、特機による調査は終わりを迎える。純粋な人間と、旧式の改造を施されているカテゴリーYの一部以外は、全員特機が使えるということ。出来損ないとなることは無いと決定づけられたことが判明したため、ある意味で喜ばしい結果になった。

 

 

 

 

 この調査の中、取り外しが可能であることを試すためにも、一度寄生されるという選択を取る者も現れる。グレカーレの場合は常駐だが、他の者達はそんなことはない。しかし、先に感覚を知っておきたいと考える者も中にはいる。

 グレカーレの寄生される姿を見て、嫌悪感を持つ者も当然いたが、逆にこれなら信用出来ると考える者もいた。他にも前例を作っておけば、緊急事態に受け入れやすくもなる。

 

「わぁ、確かに力が湧いてくるみたい♪」

 

 一度寄生されておくことを提案したのは、うみどりの中でも屈指のメンタルのバケモノ那珂。今は2号に寄生してもらって、擬似カテゴリーWへと変貌を遂げていた。

 見た目は艦娘那珂としての姿そのままだが、グレカーレと同様に瞳は青く輝くようになっており、衣装もまた別のモノへと変化。グレカーレの前例を見てしまっているためか、そういうモノである印象が強くなり、那珂も純白のレオタード姿になっている。本人はステージ衣装とニコニコしているが、周りで見ている者はそういうものなのかと複雑な心境。

 

「それで、外す時はどうすればいいのかな?」

「願えばいいよ。胸に手を当てて、外れてほしいと思ってくれれば」

「はーい」

 

 深雪に指示されて、那珂は特機を外すと、これまでの変化が嘘のように失われた。

 

「艤装とかの変化はまだわからないけど、まぁ多分何かあると思う。それを使わなけりゃ使わない方がいいからさ」

「だねー。でも、いざという時は使わせてね♪」

「……ああ、わかった」

 

 那珂のこれがきっかけで、他にも数人が寄生の実験をしている。特に声を上げたのは、こういうことに敏感な居相姉妹の妹、恵理。変身アイテムの存在を厨二病が避けて通るわけがない。

 そしてここでわかる、衣装は望んだ姿に出来ること。恵理があえて漆黒のレオタード姿に変化したことで、それが判明し、全員が少しだけ胸を撫で下ろすに至った。

 

 

 

 

 特機の寄生による特性はこれで一応の周知が出来た。今後これを使うことなく戦いを終わらせることが出来ることを、仲間達全員は願う。

 




特機の寄生にトラウマどころかノリノリの厨二病はこういう時に強い
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