後始末屋の特異点   作:緋寺

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確証

 執務室での話し合いの結果、神威と梅は深雪による治療を受けることを決意。それは今も陸に残る家族を安心させるためもあった。

 人間に戻ることが出来るという事実は、誰にとっても嬉しいこと。特に若干不安が大きかった神威の父には朗報を届けることも出来るだろう。

 

「なるほどな。で、またあたしに声がかかったってことか」

 

 食堂のあとは、休息のためにデッキでのんびりしていた深雪達。白雲やグレカーレはトレーニングも考えていたようだが、神風が今はまずしっかりと休みなさいと鍛えることを一旦禁止したため、深雪と共に心の休息を続けている。

 神風自身は戦場で力を使ったことで消耗していたものの、時間が経過したことで既にピンピンしている。だが、何やら優先順位の高い別の予定があるらしく、2人を鍛えるのは午後以降としていた。

 

 事情を聞いた深雪は、勿論それを快く承諾。仲間がこれから先を前向きに生きていけるのならば、いくらでも力を貸すとすぐに立ち上がった。

 

「ごめんなさい、深雪さん。せっかく休んでいるところだったのに」

「いやいや、そういうことならすぐにやりたいよな。それに、さっき工廠で纏めてやるなんてことも出来ねぇよ」

「はい……考える時間が欲しかったので……」

 

 深雪を呼びに来たのは、処置を保留した妙高と秋月。伊豆提督との話を掻い摘んで説明したところ、深雪は深雪でいろいろと納得した。

 

「考えてるうちに、グレカーレのあの反応とかも見ちまってるしなぁ。そりゃ躊躇うってもんだぜ」

「ちょっとちょっとー? アレされたらああなるもんなんだって。那珂ちゃんだって……いや、人選ミス。ほら、あの厨二病のエリだって、意気込んで自信たっぷりに寄生させたら素っ頓狂な声あげたでしょうに」

 

 那珂は寄生させても声すら上げず、華麗に変身するというアイドル魂を見せつけていたため、例外中の例外。代わりに、居相姉妹の妹である恵理がグレカーレよりも声を上げてしまっていた。その後恵理は強がりを言いつつも顔を真っ赤にしていた。

 そんなのを見せられたら、寄生に違う意味で抵抗を持ってしまうのも仕方ない。ただでさえ抵抗のある存在に、他人はおろか仲間にだって見せられない姿を見せる可能性が出てきてしまうのだから。

 

「どうしても……忌雷の姿をするモノには抵抗が……」

「それはもっと仕方ねぇ。むしろそれが普通だろ。あたし達はなんだかんだでこうやって懐かせてるけども」

 

 深雪のセーラー服の襟から、1号から3号までの特機が顔を出す。6号は今、電の肩の上に乗っかっているところ。

 忌雷にトラウマがある者は、こんな姿にも抵抗があるだろう。苦手なモノが目に入るだけでも、あまり嬉しくないのだから。

 だとしても、それを覚悟の上で特異点に願い出た。人としての道に戻ることが出来るのは、深雪の力あってこそ。

 

「と、ともかく、彼女らの決意を汲み取ってくれてありがとうございます。処置は執務室でお願いできますか」

「あいよ、何処でも出来っから、すぐにでも行こうぜ」

 

 深雪に準備は不要。必要な時に呼んでもらえればいつでも処置出来る。なら、善は急げである。

 

 

 

 

 執務室では緊張した面持ちの神威と梅が待ち構えていた。いざ元に戻れる、そして再寄生することになると思うと、その処置に対してどうしても緊張が出てしまう。

 既に処置されたらどういうことになるかを知っているからこその感覚。トラの時もグレカーレの時もそうだが、引き抜かれた時にもそれなりに大きな反応をしていたし、再寄生の時には忌雷に寄生された時と似たような反応を示していたため、トラウマは大いに刺激されてしまっていた。

 だが、それでも処置は受けると2人はここにいる。嫌だったらここにはいない。

 

 部屋に入るのは深雪と電のみ。白雲とグレカーレはついていたものの、執務室の外で待機することにしている。執務室もそこまで広い部屋ではないし、衆人環視で実施されることを恥ずかしがっているというのもあるので、人目はなるべく減らしている。

 わざわざ執務室を使って処置を行なうのも、2人が処置の時の反応を仲間に見せるのを恥ずかしがったため。集めてやるようなことは無いものの、なるべく人目は少なめにしておきたかった。

 

「待たせちまったかな」

「だ、大丈夫です。ドキドキしてますけど、自分で望んだことですから」

 

 引き攣った顔で梅が答えた。神威も無言で頷くのみ。

 ここに呼び出しに来た妙高と秋月も、白雲やグレカーレと同じように部屋から出て、執務室前で他に誰かが来ないように待機。これもまた、人目を減らすため。

 

「ごめんなさいね深雪ちゃん、身体の方は大丈夫?」

「ああ、その辺は平気だよ。知らないところでしんどいとかだったらわかんねぇけど」

 

 伊豆提督から少し心配されるものの、今は深雪には別状は無い。流石に朝起きて一度深海棲艦の姿に変化したところで疲労は無いようである。その力を全力で行使したなら話は変わるが、特機が力を使ったところで深雪には何の影響もない。

 

 出力が過多になってしまう症状を身体に慣らすために、機会があれば変化を実践するようにしている深雪。今回もこの処置の時には変化した状態で望む。

 深雪に対して特機が影響を与えないように、特機に対して深雪から影響があるわけではないのだが、深雪の出力が高い方が万が一の時に対応出来るというのもある。最初から特機を使う時は深海棲艦の姿をしていたので、成功を願う一種の()()()みたいなモノ。

 

「よし、準備は出来た。引き抜くのはトラの時と同じで1号にやってもらう。まずはどっちがやるよ」

「先に決めておきました。私が先でお願いします」

 

 神威が一歩前へ。身体の状態は2人とも同じではあるため、どちらも自分が先にと望んだ。早く終わらせたいとかではなく、もし何かがあった時に自分が犠牲になるだけで済むからという、相手を思ってのこと。

 最終的にはジャンケンで順番を決めており、それに勝った神威が先に処置を受けることとなった。

 

「それじゃあまず、神威さんの身体の中を見せてもらうぜ」

「はい、よろしくお願いします」

 

 治せるかどうかは、まず特機による触診から。触手を胸元に突き刺し、体内を隈なく調査していく。

 その感覚は何とも言えないムズムズするようなモノ。これはトラやグレカーレも処置の際に受けていたモノである。痛みは中でも蠢いているという変えようのない事実。その感覚が本人に伝わるのは当然のこと。

 

「流石に時間がかかってるな……グレカーレともわけが違うみたいだ」

「電達が挟んでひっくり返しちゃったから、とっても馴染んでしまっているのです」

「でも、そうしなければ私は今でも毒ガスを流し続ける存在でした。お二人には感謝していますよ」

 

 ムズムズする感覚に時折身動ぎしながら、神威は深雪と電に感謝の意を述べる。

 今の自分があるのは2人の処置のおかげ。そしてこれからの自分を救ってくれるかもしれない2人。特異点には感謝以外無い。

 

「んっ」

「お、1号何か見つけたか」

 

 神威がこれまで以上の反応を見せた時、特機1号の触手の動きがより狙いが定まったかのようなモノに変化。まるで身体中から掻き集めるように蠢かせ、少しずつ少しずつ体内に散らばった忌雷の要素をそのカタチにしていった。

 全てを掻き集めて引き抜けるようになってしまえばこちらのモノ。そこまで行くのにグレカーレの倍以上の時間がかかってしまっているのだが、だとしても成功したならば何も文句はない。

 

「行けそうだ。神威さん、もう少しの辛抱だからな」

「は、はい、大丈夫、ムズムズするだけですから」

 

 そのムズムズも長々と続くと苦痛になるのだが、神威はそれを必死に耐えている。拳を握り締め、なるべく反応をしないように。嫌がるような動きをすれば、せっかく処置してくれている深雪達にも嫌な思いをさせることになるのだから。

 神威の処置を見ている梅も、次は自分の番だとハラハラしていた。手に汗握る処置に言葉もなく、ただ唾を呑み込むだけ。

 

「来た。最後の仕上げだ!」

 

 特機1号が触手をゆっくりと引き抜くように蠢かすと、神威の身体に一際大きなムズムズが走る。全身に根を張った()()()が、胸の中心から引き摺り出されるような感覚。痛くもなく、苦しくもなく、ただただムズムズするだけ。それがまた異様なモノであるせいで複雑な気分に。

 

「っく、うっ、ううっ!?」

 

 最後はどうしても声を漏らしてしまった。グレカーレ以上に強く馴染んでしまっていたため、引き摺り出される時の抵抗が強かったようである。

 だが、そうなるのも見てわかった。何故なら──

 

「え、これ()()()()()()()!」

 

 特機1号が神威の中から取り出したのは、紛れもなく特機──()()()()だった。

 挟んでひっくり返した際に、神威の内部に蔓延っていた忌雷は、深雪と電の煙に燻されたような状態になっていたらしい。その結果、擬似的なカテゴリーWとなっていた神威の中には、()()()()()()()ということになる。

 しかし、処置される前の状態が酷かったこと、また深雪と電がその時の処置を意識していなかったこともあり、燻された特機は自分の意思というものを持っていなかった。それもあって自由に出し入れ出来るような状態では無かったということ。

 

 特機1号の処置によって、神威の中にいた忌雷──特機は意思を獲得し、同類として一旦引き摺り出されることになる。

 体外に排出された神威の特機は非常に()()が良く、特機1号に感謝するように触手を絡ませた。既に仲が良いような反応。

 

「っは……はぁ……はぁ……私の身体、どうなっていますか……?」

 

 特機が引き抜かれた神威が問う。見た目ではどうにもわからないのが擬似カテゴリーWであるため、そこはイリスの目に頼るしかないところ。

 

「無事カテゴリーCに戻っているわ。おめでとう、貴女はまた人間に戻ることが出来た」

 

 ニッコリ笑うイリスに、神威は泣きそうな顔で喜んだ。口を手で押さえ、ただただ元に戻れたことを噛み締める。

 これには梅も安心した。自分の処置成功が約束されたようなモノ。人間に戻れる保証が手に入ったのだから、喜ばない理由はない。

 

 だが、本番はここからである。

 

「再寄生……やるか?」

 

 一応それだけはちゃんと聞いておかねばならないこと。人間に戻れ、役には立つが気分が良いものではない曲解能力を失ったことで、本来の自分が帰ってきたのだが、今度はそれを自分の意思で選択することになる。

 深雪は神威から引き抜かれた特機は燻す必要がないとただ手のひらに乗せているだけ。このまま再寄生をするのなら、自分の意思でもう一度手に取ってほしいと差し出す。

 

「……はい、私の得た力は、心が不安定な仲間を落ち着かせることが出来る癒しの力。必ずこれから必要になります。丹陽さんには特に使ってもらわないといけませんから」

 

 微笑みながら特機を手に取った。

 次の戦いはおそらく島。出洲一派の中でも特に好き勝手やっている阿手との直接対決もあり得る場所。その阿手と因縁が非常に強い丹陽は、今若干不安定だとすら感じるところもある。

 それを最も癒せるのは、神威の癒しの排煙。これからも必要不可欠な能力。

 

「それでは……」

 

 それはトラウマを最も刺激する行為。しかし、それをしなければ先に進めないことも理解している。

 故に、神威は恐る恐るではあるが確実に特機を胸に押し当てた。

 

「ふぅ……っ」

 

 自らの内部に入り込む特機の感覚は、忌雷の時とはまるで違う優しいモノ。特異点の優しさを表している、包み込むような温もり。

 

「来ました……っくぅっ!?」

 

 変化する瞬間だけはどうしても強い衝撃が身体を駆け抜けるが、忌雷の時のような耐えられないようなモノではなく、神威は小さく蹲る程度で終わる。

 そして、白い靄に覆われたかと思えばそれはすぐに晴れる。グレカーレはこれで望んだ姿としてレオタード姿に変化していたが、神威は今のままを望んだため、艦娘の姿からは何変わっていない。瞳だけは青く輝くようになっているのみ。

 

「無事またカテゴリーWになったわ。引き抜く前とほとんど同じね」

「ふぅぅ……良かったです。これで安心ですね」

 

 身体も落ち着き、神威は完全に変化を受け入れた。

 

 

 

 

 これにより、挟んでひっくり返したことによって生まれた擬似カテゴリーWも治療が可能であることが証明された。ある意味、敵に寄生されてしまってもどうにかなる手段が見つかったと言える。

 心の問題だけはどうしても付きまとうが、それを除けば全てが元通りに出来るとも言えよう。

 




運の値だけでいえば神威の方が梅より僅かに高いのでジャンケンで勝ちました。
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