後始末屋の特異点   作:緋寺

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染まる白雲

 再寄生まで志願した神威と梅の施術は無事終了。2人とも任意で擬似カテゴリーWとなれるような状態となり、人間に戻れることも確認出来た。

 これで話は終わり──と思いきや、ここでなんと白雲が突如自らの願いを口にした。自分も特機に寄生されたいと。

 周囲の者が次々とカテゴリーW、敬愛する(深雪)と同じカテゴリーになっていったことで、仲間はずれになっているように感じてしまったのがきっかけ。それを払拭するために、一世一代の願いと伊豆提督に頭を下げ、そしてそれをカテゴリーMに対しての寄生実験として許可されるに至った。

 

 とはいえ、カテゴリーMであり、かつ出洲一派からの改造まで受けている白雲は、例外中の例外。まともに特機が寄生させられるかどうかの確認は必要。

 事前のチェックでは出来るという認識にはなっているのだが、それでも何か不都合が起きては困る。

 

「心配してくださるのは非常にありがたいのですが……」

 

 結果、まず工廠に移動。裏に向かい、主任と特機達による念入りなチェックが始まった。これについてきたのは、いつもの深雪と共に行動するメンバー。妙高達擬カテゴリーWは、事が済んだので改めてお礼を言い、別行動となった。

 

 基本的には特機による触診。1号から3号が四方八方から触手を突き刺し、体内までしっかりと確認していく。

 6号は明石と主任と共に視診。特機達に調べられていることで、外見的にも何か不都合な点が出てきていないかを確認する。

 

「寄生させてお前に何かあったら困るだろ。ただでさえ、お前はいろいろあったんだ。これからのためにもしっかり診てもらっとけ」

「は、はぁ……お姉様がそう仰るのならば……」

 

 深雪も、白雲の身に何かあったら、悔やんでも悔やみきれない。願いを叶えた結果、白雲が共に戦えないなんてことがあったら大惨事である、余りある程に確認するべきと、少々過保護な展開になっているが、実際伊豆提督も似たような思いを持っているので、この流れはそのまま進んでいく。

 

「ふむ、思っている以上に異常は見えませんわね。確かに身体は深海棲艦ではありますが、艦娘に近いところもあります。あちらも容赦なく手駒に変えるつもりなのでしょう。ちゃんと対応されています」

 

 白雲は元々あちら側に仕込まれていた囮でもある。そこから既にうみどりの一員になっていることもあちらには知られているので、深雪(特異点)の精神ダメージに直結するように、白雲も洗脳出来るように忌雷が調整されているようにも感じた。

 

「念入りな調査の結果、満場一致で問題なく可能であるという判断になっています。なので、このまま実施してくれても構いませんよ。ただし、その様子も記録として残させてもらいたいですが」

「ありがとう存じます。記録は今後のためでしょうから、つけておいてくれて構いませぬ」

 

 そういったところにも配慮出来るようになっている白雲は、もう呪いというものが存在しないようにも思える。こうして検査を受けている時であっても、白雲の表情は穏やかなモノである。

 しかし、それはやはりあり得ないこと。うみどりの面々に対しては強い信頼を抱いているだけであり、敵として認識している者達に対しては一切の容赦はない。

 

「ただ、おそらく深海棲艦としての姿を艦娘に戻すことは出来ないかと」

 

 明石のその言葉に、白雲は少しだけ固まる。だが、予想通りでもあったため、なるほどと小さく頷いた。

 いくらカテゴリーWとなれたとしても、その身体自体が大きく変わることはない。あくまでも今の姿のまま、中身だけをカテゴリーWに変質させるというのが特機の寄生。特機達も、そればっかりは出来そうにないと申し訳なさそうに触手を蠢かせた。

 

「大丈夫です。ここの白雲はこの姿だからこそ白雲なのです。ここの皆様は、この姿の白雲も受け入れて下さっております。ならば、そうであっても何ら問題ありませぬ」

 

 深海棲艦の姿である自分を受け入れているため、白雲はそれでも強いショックは受けていない。あわよくば艦娘の姿に戻れればラッキーくらいで考えていた程度である。

 それもこれも、深雪が軍港都市で今の姿でも強く受け入れてくれたからだ。他の者が深雪の煙幕によって隠すことになったツノを、あえてそのまま隠さなかったのがその証拠。

 

 姿が変わらなくとも、彩さえ敬愛する姉と同じになれるのならば本望だと、白雲は小さく微笑んだ。

 

「お姉様、それではよろしくお願い致します。白雲を、お姉様達と同じモノにしてくださいませ」

「わかった。じゃあ白雲には3号を寄生させる。よかったな?」

「かしこまりました」

 

 深雪もそんな白雲の欲、自分のための願いを叶えてあげようと、手持ちの特機から3号を差し出した。3号は白雲を見ると、触手をビシッと折り曲げて、敬礼するような仕草で蠢く。対する白雲は小さく会釈。

 これが自分の中に入ると思った時、白雲は一瞬複雑な表情を見せる。やはりどうしても忌雷の姿のモノに対して思うところはあるのだ。白雲も深雪と同じだけどその現場を見てきているのだから。

 だが、自らの欲を表に出し、それを望んだのだから、言っておいてここで引くなんてあり得ない。やれと言われているわけではなく、自らそれを選択したのだから。白雲は感謝をしつつ、3号を手に取った。

 

 それをハラハラしながら見ているのは電。ここまで何度も見てきているが、やはり寄生される姿というのは緊張感が拭えない。

 そんな電を見て、白雲は大丈夫ですと笑顔で返す。

 

「電様、心配せずとも、これはお姉様の力が込められたモノ。白雲に悪影響などございません。どうであっても白雲は受け入れる所存でございます」

「な、なのです……何かあったら電も力を貸すのです」

「是非に。お姉様と電様、御両名に気にかけていただけるのならば百人力です」

 

 何かあってはいけないため、電も深雪の隣に。ここまで言っていても最悪なことが起きてしまったら元も子もない。その時は2人がかりで特異点の力を使う。

 深雪も電のその行動に笑みを溢し、改めて白雲や向き直る。その願いを叶えるため、ちゃんと見届ける。

 

「よろしくお願い致します、3号様。白雲をお姉様と同じ色に染めてくださいませ」

 

 そして、それを胸元に添える。するとすぐに3号は白雲の胸元から体内へと侵入。これまで処置を受けてきた者達と同じ、痛くも痒くもない、包み込まれるような温もり。優しい願いによって生まれ、その思いを内包した、強い思いの温かさ。

 

「これが……お姉様の思い……あんなことにはもうなってほしくないという、優しき願いの温もりなのですね」

「そう、なのかな。あたしにゃちょっとわからねぇや」

「きっとそうなのです。身体を駆け抜けるこれは、決して嫌なモノではありませぬ。白雲のことを思い、苦しみなど与えず、穏やかに変化させるために緩やかに進めてくださっているのでしょう」

 

 実際、3号は白雲を傷付けないように慎重に事を起こしている。寄生は可能だが、やはり特殊な身体であるため、他のカテゴリーに寄生するよりは慎重にならざるを得なかった。

 白雲の改造は、どちらかといえば寄生が難しいと言われていた古いタイプのカテゴリーY、平瀬達のモノに近い。ただし、素体が艦娘ベースであるため、特機がうまくやれば寄生は可能ということ。

 

 これもまた、特機(忌雷)の原材料が妖精さんであることの示唆ではあるのだが、何処まで行ってもそれは公表されることはない。

 

「っふぅ……グレ様が仰っていた意味、この白雲、納得致しました。嫌な感じはしない、とても嬉しいという言葉、白雲もそのままの意味で理解致します」

「だよね。深雪に包まれてる感じっていうのかな、凄く気分がいいんだよ。でも、忌雷の時みたいな強引さが何処にもない、あくまでもあたし達のことを考えて進めてくれてる」

「はい、その通り、です。白雲のことを考えて、ゆっくりと、確実に、進めて下さっております……っはぁっ」

 

 グレカーレはニコニコしながら白雲の変化を見届ける。白雲が自分と同じようになってくれるというのが、グレカーレも嬉しかったからだ。

 神風の姉妹弟子として共に鍛えられていることから、ここ最近は非常に仲がいい2人。白雲が渾名で呼ぶほどに関係性が深いのだから、グレカーレからも白雲のことは相応に強く思っている。深雪と電は()()だが、白雲は()()

 そんな親友が自分だけ白くないという悩みを抱いたのは、グレカーレも察していた。だからこそ、伊豆提督に願い出た時に助け舟を出したのだ。白雲にも一緒の存在になってほしい。そうしたら4人一緒に同じ色で楽しめる。

 

 それがグレカーレの優しい願いは、『白雲も一緒に同じ道を歩いてほしい』である。

 ここは特異点W。その優しい願いが叶わないわけがない。

 

「くぅっ……来ました……お姉様……白雲……変わります。皆様と同じように、白く、白く、染まります……っふぅんっ!?」

 

 身体中に特機の力が回り、そして変化を促したのだろう、白雲は一際大きく震えた。そして、白い靄が身体中を覆い尽くす。

 

「頑張れ、白雲」

「頑張ってください、白雲ちゃん」

 

 2人の声、そしてグレカーレの視線を感じ、白雲は靄の中で生まれ変わる。呪いを内包するカテゴリーMから、特異点と同じカテゴリーWに。姉と同じ、()()()()()()カテゴリーとなるべく。

 

「っうっ、ふぅう……力が……湧いてくるようです。でもそれ以上に、お姉様達と同じになれたことが嬉しい……っ」

 

 靄が晴れた時、そこにいたのはカテゴリーWとして変化した白雲。しかし、少々想像していた姿とは違った。

 

 身体自体は何も変わっていない。深海棲艦化したまま、白い髪に白い肌は変化前と同じだ。少々ツノが伸びてしまったかと思えるくらいだが、与えられた猫耳ニット帽が被れなくなったら困るため、そこは程々に抑えられている。

 だが服装、これが大きく変化していた。白雲とも、その姿を模した深海棲艦である深海釧路沖棲雲姫とも違う、自らの能力、凍結を強く意識したモノ。

 

「白雲、それは……」

「この姿は白雲の望んだ姿、凍結の力を持つ者として、この白雲が思い至った姿……()()()にございます」

 

 これまでのセーラー服姿から一点、深海棲艦姿の深雪を意識したような、黒い着物姿となっていた。喪服もいうわけでもない。その証拠に、袖は無く、丈もかなり短いモノとなっている。和装というところは、師である神風を意識したか。

 代わりに見えているのが、やはり姉である深雪の深海姿を意識したか、親友たるグレカーレの今の姿を意識しているのか、太腿まで伸びる黒いニーハイソックス。それを吊るガーターベルトの存在も確認出来た。これまでの白雲には無いデザインに、深雪はともかく周囲の者も驚きを隠せない。

 

「神風様に習っていることも踏まえ、動きやすさを考えた丈と致しました。いやはや、この白雲の思う通りの姿としてくださるとは、特機3号様も()でございますね」

「お、おう、ちょっと意外だった。うん、似合ってるぜ」

「なのです。白雲ちゃん、綺麗なのです! 心機一転なのです!」

「ありがとう存じます。そう言っていただけるだけで、白雲は感無量でございます」

 

 深雪と電に褒められ少し照れながらも、グレカーレの方に向かう。

 

「いやぁ、こりゃあ見違えたねぇ」

「ふふふ、実はこのお衣装、グレ様を少し意識しているのですよ」

 

 着物をほんの少しだけはだけて内側を見せた。そこには、黒いレオタードが出来上がっていた。ニーハイソックスやガーターも含めて、グレカーレと色違いと言ってもいい。グレカーレが白い着物を着れば、今の白雲と同じ姿になれる。

 

「あっははは! シラクモってば大胆だぁ!」

「グレ様には負けますよ。上に何か羽織ったりしたらいいのに」

「まだ部屋に戻ってないからね。戻ったら艦娘としての制服を着ることにするよ。でも、スカートの丈は短くしてもいいなぁ。そうやって見せるの可愛いし」

「グレ様ならよく似合うでしょう。それに、やはり動きやすい方が神風様の技を習いやすいですから」

 

 この2人が仲良くしている姿は、深雪と電も微笑ましく思える。深雪にベッタリだった白雲も、グレカーレという親友が出来たことで、より呪いを払拭出来ていると言えよう。

 

 

 

 

 白雲もカテゴリーWへと変わり、深雪の周りは強く前に進めるようになった。今の深雪達に後ろを向く理由なんて何処にも無い。




カテゴリーWとなった白雲のイメージは、本人も言っているように黒い雪女郎。しかし、若干今風アレンジがかかっている感じですね。あと姉妹弟子のグレカーレにちょっと染められてる。
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