後始末屋の特異点   作:緋寺

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未練だとしても

 自ら希望して特機を寄生させ、カテゴリーWへと生まれ変わった白雲。これによって仲間はずれ感は失われ、晴れて深雪達と同じとなった。

 そうなれたことからか、白雲の表情はいつになく明るい。願いが叶ったことが本当に嬉しく、心の底にこびりついた呪いがまるで感じられなくなっているようにすら見えた。

 

 事実、今はカテゴリーMではなくカテゴリーW。呪いと無縁とは言わないものの、呪いと密接というわけではないカテゴリー。

 彩が変わったことで、その心に影響を与えていた負の感情が、取り除かれていなくとも、薄れているということもあり得る話。

 

「白雲、まだ変わったばかりで聞くのもアレだけど、身体の調子が悪いとかはないか?」

 

 自らの姿を艦娘に戻した深雪は、早速白雲に尋ねた。カテゴリーMからの変化は初めての試み。白雲にだけは何か悪影響があるなんてことが寄生後に発覚するかもしれない。

 

「ご心配なさらず、お姉様。白雲、すこぶる調子が良いのです。グレ様が常々仰っていた敏感肌もなく、これまでの白雲が一回り強くなったと思ってくだされば」

 

 対する白雲、違和感など無く、ただ力が増しただけだと笑顔で答えるのみ。敏感肌は発症することもなく、不具合など何も感じない。絶好調とすら言える。これから戦闘があると言われれば、最高のコンディションで十全の力を発揮出来ると断言出来る程。

 実際、特機による寄生で白雲は現在の身体に()()()()()()()されたようなモノ。これまでの疲労などは全て取り除かれ、心身共に最高の状態にリセットされている。戦場で同じことをしたならば、燃料と弾薬も全回復しているくらいだ。

 

「ならよかった。やっぱ多少は心配してたからさ」

「なんとお優しい。お姉様の心配が杞憂に終わってよかったです」

 

 これまでもずっと共にいたが、白雲がここまで喜んでいる姿はなかなか見たことがない。自分がしたいと思ったことが全て上手く行っているようなものなのだから、白雲であってもテンションが上がっていても不思議では無い。

 

「このこと、カミカゼにも早く教えたげたいねぇ」

「確かにそうですね。より師の教えを再現出来るようになっているはず。学び、先へと進むために、この姿で教えを請いたいモノです」

 

 グレカーレが話題に出した神風。別件が無ければ、今この場にいたかもしれないのだが、外せない用事があるということでそちらを優先している。

 うみどり内で用事となると、かなり限定的ではあるのだが、そういった用事を神風に伝える伊豆提督は今ここにいる上に、神風のその用事というのを知らないらしい。

 

「午後からは訓練を受けるのですから、それまでに伝えることが出来ればいいでしょう。今は、白雲の身体をより調べていただくことになるのではと考えているのですが、如何ですかハルカ様?」

「ええ、手間をかけるようでごめんなさいね。やっぱり白雲ちゃんの場合はコレまでとはワケが違うもの。調べさせてもらえるのなら、お願いしたいわ」

「時間があります故、構いませぬ。白雲を調べたことで、今後の繁栄に繋がるのならば、喜んで身体を差し出しましょう」

「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて調べさせてもらうわね。主任、明石ちゃん、お願いするわ」

 

 頼まれた2人も、白雲の調査には乗り気。この調査でまた技術的な進歩があるかもしれないのだから、やれるならいくらでもやりたいと思っていることだろう。

 明石としては、ここ最近工廠での作業が多いため、丹陽が何かしでかしていないかと心配のようだが、そこは大丈夫と伊豆提督が保証していた。工廠に来ていないのなら無茶は出来ないし、生身で何かしようとしても流石に何も出来ない。何かあれば、誰かが報告してくれる。

 そこまでされていれば明石も安心して工作艦としての仕事に専念出来た。むしろ、本業に従事している今の方がイキイキしているのだから、誰もそれを止めることはしない。

 丹陽も明石が明るく楽しく作業しているところを邪魔したくないという気持ちがあるため、()()()()()無茶は言わなくはなっている。むしろいつも以上にニコニコしているまである。

 

「万全に午後を迎えましょう。午後からは神風様にまた鍛えていただけるのですから」

 

 カテゴリーWとなったことで、白雲はよりうみどりに馴染んだように見えた。これまでも充分馴染んでいたのだが、心を更に開いたことで、コレまで以上に表情が明るくなったようである。

 

 

 

 

 ここで話題にあがった神風は、今は自室で人を待っていた。部屋の真ん中で瞑想のように坐禅を組んでいた神風は、扉の前に人の気配を感じたため、その者に声をかける。

 

「……どうぞ、鍵は開けてあるわ」

「ん、それじゃあ、お邪魔します」

 

 神風の部屋に入ったのは、吹雪。笑顔を携えたまま、小さく手を振った。

 

「ゴメンね、急に話がしたいなんて言っちゃって」

「構わないわ。何だか必要そうなことみたいだし。貴女は妹以外に話をしようなんて考えるの、実は結構レアなんじゃない?」

「あはは、確かにそうかも。戦闘中とかならまだしも、今は何も無いのんびりとした時間だもんね。私もなるべく深雪ちゃんを構い倒したいところだけどさ、神風ちゃんとは一度ちゃんと話さなくちゃいけないことがあってね」

 

 ニコニコしながら部屋の扉を閉める。一応念のため外に誰もいないことを確認し、誰にも聞かれないことを確定させた状態で、改めて神風の前に腰掛ける。神風に倣って正座で。フローリングの床の上なので脚は少し痛くなるものの、先んじて座布団が用意されていたので、多少は回避。

 

「改まってどうかした? 私、ここで何かやらかしたってことは無いと思うけれど」

「やらかした……なんてことは無いよ。でも、()()()()()()()()は、特に強かったから、私もしっかり覚えてる。だから、その御礼がしたくて」

 

 吹雪の言葉に、神風は首を傾げることしか出来ない。

 

「深雪ちゃんがここに、うみどりに来れたのは、いろいろと理由があるんだけどさ、最後の決め手は神風ちゃんにあったんだ」

「私に? ちょっとピンと来ないんだけど」

「そう思わないようにしてるのかな。でも、私は神風ちゃんに感謝してる。その願いを持っていたことが、深雪ちゃんを深雪ちゃんたらしめてる最後のピースだからさ」

 

 何を言われても、神風には察することが出来なかった。そのため、吹雪はまぁいいかと苦笑して、これまでの言葉の意味をちゃんとした言葉にして伝え始める。

 

「単刀直入に言っちゃおう。うみどりの祈り、願いの中に、神風ちゃんの願いが少し強く含まれてた。その願いは……『もう一度、愛娘に会いたい』」

 

 その言葉を聞いて、神風の眉がピクリと動いた。神風が経産婦であることを知る者は非常に限られている。何となく察している丹陽という例外はいるものの、神風自身がそれを伝えない限り知ることもない。

 深雪達が知っているのは自分から伝えたから。それ以外にパッと思いつくのは、うみどり内だけで言うのなら、伊豆提督とイリスくらいである。

 

 それを、特異点である吹雪は明確についてきた。

 

「神風ちゃん、深雪ちゃんのこと、自分の娘に似てるって思わなかった?」

「……貴女には何処までもお見通しってことかしら」

「まぁ、深雪ちゃん絡みなら大体はね」

 

 観念したように、神風は吹雪の問い──深雪が愛娘に似ていたことについて肯定した。

 

「その願いがあったから、深雪ちゃんはあの姿で、()()()()()()()()()()()()()()ここまで来ることが出来た。神風ちゃんの願いを叶えるためにね」

 

 吹雪から明かされた、神風にだけは話しておきたかったそれは、深雪がうみどりに来ることが出来た理由。

 

 うみどりの方針として、残骸に対して、安らかに眠れるようにと祈る。それが願いの実を育み、強い力を持たせるに至っているわけだが、その中にはうみどりのメンバーの個々の願いも僅かながら含まれていた。

 当然と言えば当然なことであり、ただひたすらに祈ることをしていたとしても、本人には無意識的に叶ってほしい願いというのは存在する。それを悪とは思わないし、うみどりの面々の内面に願いの実が忌避するような願いを持つ者なんていない。

 

 その願いの中に、一際強く切実なモノが存在した。それが、神風の無意識な願い。『失ってしまった愛娘ともう一度会いたい』。

 

「願いの実は、うみどりの祈りの中から神風ちゃんの願いを掴み取ったの。その結果が、深雪ちゃんのあの姿。と言っても、神風ちゃんの娘さんの姿が深雪ちゃんに近かったというのがあるんだけどね」

「……そう、なのかもしれないわね。目元なんてそっくりだもの」

「何処となく似ているくらいだとは思うんだけど、神風ちゃんがその願いを持っていたことが、深雪ちゃんの接点となれた。絆の最初の点は、神風ちゃんだったんだ」

 

 特異点誕生のきっかけというわけではないものの、娘に会いたいという叶わぬ願いを抱き続けてきたことが、深雪を深雪として成立させている。

 願いの実はそんな優しい願いを叶えた。うみどりのために初めて叶えた願いは、まさしくコレだ。神風が愛娘も同然な存在と出会えたこと。当然本人を連れてくることなんて出来やしないが、過去の苦しい記憶に苛まれるようなものではなく、2人目の娘だと感じるくらいの優しい出会いを、願いの実が叶えていた。

 

「それに、神風ちゃんのそんな願いのおかげで、深雪ちゃんは人間関係に本当に恵まれてる。そもそもうみどりっていう存在が、その願いを叶えるのにうってつけの場所だったみたいだけどね」

 

 また、神風にはもう一つ秘めたる願いがあった。これも吹雪はちゃんと気付いている。その願いは、『娘には健やかに生きてほしい』。

 辛いことだってあるだろう。悲しいことだってあるだろう。それでも前を向き、歩みを止めず、ゆっくりでもいいから、進んでほしい。そんな母としての感情を、願いとして抱き続けていた。

 

 それもまた叶っている。娘の現し身のような存在となった深雪は、このもう一つの願いのおかげで、前を向き、この後始末屋という世界で絆を育み続けている。深雪の性格の形成は、一部神風の願いによって芯が入っていた。

 絆を利用されて辛い思いもしてしまっているが、深雪は悩みながらも進むことが出来ている。後ろを向かず、今も前を向く。時には立ち止まることがあっても、止まり続けることはない。

 

「だから、私は神風ちゃんに御礼を言いたい。神風ちゃんのおかげで、深雪ちゃんはあんな強くて逞しい成長を遂げることが出来た」

「私が礼を言われる理由は何処にもないわ。深雪がああなれたのは、他ならぬ深雪自身の力だもの。それに、願いって言ってもそれはただの未練じゃない」

「未練だって願いの内だよ。それはとても優しい願い。失われたモノを取り戻したいって気持ちに、悪意なんて無い。だから、深雪ちゃんのお姉ちゃんとして、どうしても言わせてほしい」

 

 神風に深く頭を下げる吹雪。

 

「ありがとう。神風ちゃんのおかげで、深雪ちゃんはこの方向性を持つに至った。それはとても喜ばしいことだよ」

 

 最初は驚いていた神風だが、吹雪の誠実な言葉は素直に受け入れた。吹雪は本当に感謝の気持ちで神風に頭を下げている。深雪のことを思った者の言葉は、神風にも強く受け止められる。

 

「今でも実感は全く無いけど、貴女がそこまで言うなら、私の思いが深雪をああ生み出したんでしょうね」

 

 クスリと笑みを浮かべた神風は、コレまで以上に母の顔をしていた。

 

 

 

 

 願いの実が既に叶えていた願い。深雪が深雪として生まれた理由を知ったとしても、神風は何も変わらない。

 




神風のその願いがなかったら、深雪は生まれていなかったかもしれません。特異点がカタチとなるに至ったのは、そもそも願いの実としての性質、願いを叶えるというモノがあったからこそ。
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