時間は経過して午後。昼食も終え、清浄化率の確認のための待機も残り半分となった。
現在はありがたいことに追加の後始末の依頼が来ておらず、少しだけ平和を満喫出来る時間。うみどりだけでなく、こだかもおおわしも特異点Wで休息の時。
「見違えたわよ。何というか、大胆になったわね」
「はい、これもお姉様のおかげ。白雲は『かてごりぃだぶりゅ』として生まれ変わり、お姉様達と同じになれました」
「そっか。よく似合ってるわ。動きやすさも重視したのね。トレーニングがしたいっていうのも、ちょっとわかるかもしれないわ」
白雲は念願の神風への報告が完了。カテゴリーWへと生まれ変わった自分を見てもらい、より一層精進すると決意を固め、神風にコレからも指導をよろしくお願いしたいと頭を下げた。
神風がそれを拒むわけがない。むしろ、今の姿がそのやる気の集大成とも言えるため、ならばより鍛えてあげようと親心というか師匠としての情が疼いた。
「午後からは約束通り、鍛えてあげるわ。2人のやる気はよーくわかったから」
「シラクモはいいとして、あたしもそんなにやる気見えちゃう?」
「ええ、というか白雲のやる気に引っ張られてるでしょうに」
グレカーレも今となっては白雲と共に楽しく身体を鍛えている状態。深雪達に置いていかれるのではと危惧していたこともあったものの、今やそんな心配など何処にもないだろう。
ちなみに、白雲もグレカーレも寄生後の身体をしっかり調査してもらい、おかしなところは何も無い、むしろ不安が無さすぎる程の健康体であることが確認されている。
これもまた特異点の力ではとも考えられていた。優しい願いを元にカテゴリーWへと変化させられているのだから、悪影響があるわけがない。むしろ、何か問題があったならば、それすらも綺麗さっぱり無くしてしまうのではと。
「実際、やる気は結構あるよ。敏感肌も治ったし、身体が動かしたいっていうのがあるんだよね」
「ならそのやる気を汲んで、一つ上のこともやってみましょうか」
「お、そりゃあいいねぇ。やっちゃうやっちゃう。ね、シラクモ?」
「勿論でございます。白雲も今、やる気が満ち溢れております故」
グレカーレと白雲は顔を見合わせて笑い合う。問題児と呼ばれていた第二世代と、呪いに苛まれるカテゴリーMとは思えないくらいに、2人は明るく元気にこの世界を生きている。
白雲とグレカーレはまた2人で鍛えに行ったので、深雪と電は何をしようかと相談していた。午前中はなんだかんだ特機のことで潰れてしまっているが、大体身体を休めることも出来ている。
「そういやさ、今回仲間になった3人、もう馴染んでんのかな」
ここで深雪が気になった、新たにうみどりに迎え入れられた3人のカテゴリーYのこと。近代化戦艦棲姫のトラに、埋護姉妹の舞亜と恵理。3人ともカテゴリーYではあるが戦闘員としての所属であり、艤装も廃棄されていなければ、当人達も戦う者として日々を過ごしているらしい。
カテゴリーYということで、基本的には同じカテゴリーである者達と同じような生活になる。ただし、非戦闘員ではないため、艦娘達と同じように自分を鍛えることも惜しまない。
「ちょっと見に行ってみるのです?」
「だな。特に気になるところあるし」
興味が先立っているが、今は何をやってもいい自由時間。寝て過ごしてもいいくらいだが、深雪はそれ以上に、うみどりの人間関係を深めることを選択する。深雪がこれだから、電も同じように共に前に進む。
「んじゃあ、まずは……アレだな、長門さんのところ」
「なのです。トラさんが一緒にやってると思うのです」
長門と既に意気投合しているトラは、一緒に筋トレをしているだろうと当たりを付けて、トレーニングルームへと足を運んだ。
途中で吹雪と合流しつつ、目的の場所に入った深雪達が見たモノは、ある意味予想通りの光景だった。
「な、なかなかやるじゃないか……!」
「そっちこそ、末恐ろしいなっ」
長門とトラが競い合うように筋トレを続け、汗だくで突っ伏していたのだ。互いに限界を超えたのか、息を切らせて震えている始末。
「ああ、深雪達かい。見ての通りさ」
それを間近で見ていたらしい時雨は、2人を呆れた顔で眺めていた。誰も止めることもしなかったようだが、その競争は少しずつだが確実にエスカレートしていき、結局は倒れるまでやっているのだから、呆れてモノも言えないようである。
そんな2人にタオルを渡すのは、神威のお手伝いをしている桜。それを震える手でありがとうと受け取り、2人はいつまでも流れ続ける汗を隈なく拭いていく。桜は小さく微笑み、今度は飲み物も差し入れする。
「んぐっ……んぐっ……」
「少々無茶をしすぎてしまったな……競う相手がいると、どうも突き進みすぎてしまうようだ」
「でも、私も有意義なトレーニングだったよ。また一緒に頼むよ長門」
「ああ、勿論。休憩の後、またやるか」
ここまでやっても懲りないらしい。だが、それも
「すげぇ馴染んでるな」
「ん? ああ、深雪か。ありがたいことに、私は
深雪に見られていたことに気付いたトラは、ニッと笑って汗を拭う。元々自分を鍛えることが好きだったようで、同じように筋トレが趣味である長門とは意気投合。今では大の仲良しとして、共に行動することも多いようである。
まだ出会って1日程度ではあるものの、これだけ仲が良いのならば、うみどりに馴染んでいるかという疑問なんて何処にもない。
「僕にはただ暑苦しいようにしか見えないけどね」
時雨の皮肉も絶好調である。しかし、そんな時雨もこの2人に焚き付けられてしっかりトレーニングで汗を流しているのだから、よく馴染んだモノである。
最初は怖がられていた桜とも、ようやく多少はスキンシップが取れるようになってきたか、タオルを貰って礼を言うくらいになったのだ。人見知りが強い桜の成長もあるとは思うが、時雨の雰囲気がここ最近でまた柔らかくなったのも効いている。
「時雨も変わったっぽい」
「君に言われたくないよ」
共に筋トレに励んでいた夕立も、ここの雰囲気は絶賛である。時雨が言う通り、夕立もうみどりで大分変わった1人。今も心の余裕が見える表情で、仲間達と楽しんでいるところである。
「深雪、改めてだけど」
「ん?」
「救ってくれて、ありがとう。今こうやって楽しく生きることが出来ているのは、あそこで深雪が私を救ってくれたからこそだ。それに、あの苦しい敏感肌からも救ってくれているしね」
トラからの感謝の言葉に、少し恥ずかしそうに笑う深雪。こう言ってもらえるなら、やった甲斐があるというもの。
「こうして鍛えるのも楽しくてね。やはり、同好の士がいるというのは嬉しいモノだ」
「そりゃあよかった。あたしもここでいろいろやる時があるからさ、機会があったら一緒にやろうぜ」
「ああ、勿論。その時はあの姿になるのかな」
あの姿とは勿論、深雪が取れる大人の姿。
「どうだろうなぁ。あっち側で鍛えるってのも必要だとは思うんだけどさ」
「どちらでもやった方がいいよ。でも、深海棲艦の姿で持久力つけることも必要だから、今はなるべくあっちで鍛えた方がいいかもね?」
吹雪からもこう言われているため、次のトレーニングは深海棲艦の姿でやることになりそうである。それまでにあちら側のトレーニングウェアも用意してもらった方がいいかと、楽しそうに話した。
トラは長門という友人が出来ていることで、うみどりに馴染むのは非常に早かった。ならば、居相姉妹は今どうなっているのか。
「あの姉妹なら、あっちさ」
時雨が指を差したのは、トレーニングルームのさらに奥の扉。仮想空間での演習中だという。
今は神風達も同じような仮想空間で技術のトレーニング中らしく、居相姉妹もそれに便乗……というわけではないが、同じ場所でいろいろやっているらしい。
定員6名のうち5名が埋まっているが、最後の一枠には防空駆逐艦繋がりで秋月が付き合っているとのこと。
「妹の方が特にやる気満々のようでね。今は秋月に扱かれているみたいさ」
こちらも時雨は呆れたように語る。
居相姉妹の妹、恵理は、姉の舞亜が溜息を吐くほどの厨二病。特別な力を与えられ、それが世界平和の役に立つというのならば、その力を存分に振るおうと
本来ならば一般人がただ力を与えられただけの存在。しかし、その性格から、戦場に出ることに対して抵抗がない。姉に対して、自分達も参加すべきだと真っ直ぐな瞳で言い切れるくらいには正義感もある。間違った道を行かなかったら、艦娘になることが出来たかもしれない素質である。
「僕も少し絡まれたよ。斜に構える佇まいに
「方向性は違うけど、時雨は恵理と近い部分あるっぽい」
「夕立、どういうことかな」
「そのままの意味っぽーい」
ケラケラ笑う夕立に、時雨は少しイラッとしたような表情を見せる。だが、夕立が言いたいことは少しだけわかった気がした。
時雨もある意味では呪いというキャラ付けをされた者。意図的に演じている恵理とは話が違うが、恵理からしてみれば、時雨も自分と近しい者と見えてしまうようである。時雨はそれに憤慨しているようだが。
「とはいえ、彼女達も充分にいい戦力になるだろうさ。秋月だけだった防空駆逐艦が2人も増えた上に、素人にもかかわらずその能力で誰よりも防空性能が高いんだ。うみどりの役に立ってくれるなら、彼女がどんなことを言ってたって構わないよ」
「桜、ああいうのをツンデレって言うっぽい」
「夕立は余計なことを言うんじゃないよ」
桜はポカーンとしているだけであったが、夕立とは仲良く出来ているようで、首を傾げながらも笑顔を見せていた。
「ともかく、彼女らもちゃんとうみどりには馴染んでいるよ。深雪が心配しなくても」
「みたいだな。じゃあ安心だ」
「なのです。みんな仲が良いのが一番なのです」
先日仲間に加わったばかりでも、既にここまで馴染んでいるのならば、もう心配するようなことはない。これからは同等の仲間として、共に肩を並べて戦っていくことになるだろう。
上下なんて最初からない。手を取り合える仲間、友人として。
厨二病が一番馴染むのが早かったまである。