後始末屋の特異点   作:緋寺

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別れの前夜

 時間はさらに経過し、陽が落ちたことで、特異点Wは闇に染まる。ここで一晩過ごせば、清浄化率の確認も終了。今ここに集まった移動鎮守府はまたバラバラに行動し、各々のやるべきことをやることになる。

 うみどりも当然、特異点Wから離れる。その時が、吹雪との別れ。最初からこの海域にいる時のみの参戦であることは互いに納得しているのだが、ここまで手伝ってもらったということもあり、少々名残惜しさも出始めているのは確か。

 

「ということで、せっかくだし駆逐艦の会を開くことにしたわ」

 

 にこやかに語る神風に、全員が同意。歓迎会に使うことが多いこの会を、ある意味送別会に使うことは、これまでに無かったことである。

 うみどりに所属した者が、うみどりから離れたことは、これまでの10年間で一度も無いこと。強いて言うなら、共同戦線を張った別の鎮守府の艦娘達との別れは数多くあるものの、今回の吹雪は少々勝手が違う。

 勿論今生の別れというわけではない。特異点Wに来れば、会おうと思えばいくらでも会える。ただし、仕事中ということもあるため、どうしても通過くらいになってしまう可能性もある。こうやってゆっくり話すことが出来るかはわからない。

 

 ならば、ここで関係をより深く作っておいてもいいだろうということで企画された駆逐艦の会。場所はやはりレクリエーションルーム。布団やら何やらが持ち込まれ、楽しく雑魚寝をするだけの空間。

 今回ばかりは伊豆提督達もいろいろと許可を出しており、夜更かしと遅い時間の間食が良しとされていた。この海域から出ていくのは明日の早朝というわけでもない。

 

「なんだか嬉しいねぇ。こんなことされちゃうと、別れるのが本当に名残惜しくなっちゃうよ」

 

 てへへと笑う吹雪も満更ではない様子。いくら深雪がうみどりにいるからと言っても、こうやって多くの艦娘達と関係を持つなんて、全く想像出来なかっただろう。

 だが、だからといってうみどりの一員になることは出来ない。どう足掻いても、特異点Wから離れることが出来ないのだから、この海域から離れるのならば、別れがやってくる。

 吹雪はそれを最初から割り切っているので、口ではこう言いつつも、時が来たらスッパリと別れようと思っている。後ろ髪を引かれるかもしれないが、だからと言って自分の役目を違えることは絶対にしない。

 

「その分、今からの時間を楽しんでくれよな」

「なのです。電達からしたらいつもの通りですけれど、吹雪ちゃんにはとってもいい思い出になると思うのです」

 

 それをわかっているからこそ、今の思い出をより良いモノにしようと、深雪と電はより楽しく、より明るく振る舞った。むしろ名残惜しいと思わせるくらいに。

 そうすれば、また会いたいと思えるだろう。今回限りの関係では終わらせたくないのだから。

 

「つっても、時間に縛られずに好きに過ごして、眠くなったら適当に寝るだけなんだけどな」

「眠くなるまで自由時間ってことだね」

「ああ、そういうことだ。その時間を、吹雪と一緒にいようってことだ」

 

 ニッと笑って隣まで移動。コップを渡してジュースを注ぐ。

 

「あたし達のいい思い出作りにも貢献してくれよ」

「あはは、わかったよ。お互い、後腐れなくね」

 

 深雪が注いでくれたジュースをぐっと飲み、今はこの場の空気に浸ることにしたようだった。

 

 

 

 

 吹雪との戦闘を直接経験した者もいれば、このうみどりで初めて会話をする者もいる。そのため、この駆逐艦の会では主役の吹雪を中心にワイワイと騒ぐことになった。

 深雪の姉である特異点ということで、話がしたい者は沢山。基本的には質問攻めみたいになってしまうものの、吹雪はそういう空気も楽しんでいる。

 

「うーん、駆逐艦が戦艦になるのはちょっと難しいかなぁ。私は駆逐艦みたいな見た目ってだけで、艦種とかも自由だからなぁ」

「えーっ、特異点ってそこまで出来るの!?」

「まぁね。ほら、姿形が変えられるのは私達の専売特許みたいなものだし」

 

 さらりと大人の姿に変化する吹雪が話しているのは、ワクワクしながら戦艦になれるか質問した清霜である。見た目だけで言うなら、深雪も戦艦と同じくらいの成長を見せたのだから、自分にも出来るかと疑問を持つのは当然の帰結。

 しかし残念ながらその答えは厳しいという若干後ろ向きなモノ。特異点が特殊なだけであって、艦娘の艦種を変えるのはかなり難しいというのが特異点判断。

 

「強く願えば叶うかもしれない。ただ、私達が叶えることが出来る願いは優しい願いだけだからね。自分の欲が強いとダメだよ。自分のためじゃなく他人のための願いを優先するから」

「な、なるほどぉ……確かに戦艦になりたいって自分のための願いだよね」

「そういうのは、自分の力で掴み取らなくちゃね。でも、一念岩をも通すって言葉もあるからさ、いつか叶うよ」

「もう30年やってるんだけどなぁ!」

 

 そんな清霜の叫びに、周りがドッと明るくなる。いつもの清霜だと笑う者もいれば、その努力をコレからも支えようと微笑む者も。

 だが、その夢を馬鹿にする者はいない。だから吹雪もいつか叶うと否定しない。願いの実では叶えられないとだけ伝えるのみ。

 

「それじゃあ、次は私からの質問なんですけど」

「特機で老朽化を乗り越えるのは難しいと思うよ?」

「食い気味に来ないでくださいよ」

 

 次に質問をしようとした丹陽相手には、その質問が既に透けて見えたため、前以て持っていた答えを即座にぶつけた。多少は予想していたとはいえ、全力で否定されたようなモノのため、丹陽はうぐぐと顔を顰める。

 

「ただまぁ、寄生させるだけだったら悪影響はないかな。それで老朽化が治るかって言われたら、答えは無理なんだけど」

「治らなくてもいいです。いざという時に戦闘に参加出来るかは」

「それは出来ると思うけど、負担がねぇ。特機の寄生は改装みたいなモノだけど、それだけで老朽化した身体が新品になるかって言われたらそうじゃないからさ」

 

 ド正論を正面からぶつけられ、丹陽もいい加減諦める。ただし、本当にいざという時は使えるという確証は、特異点の口から語ってもらったため、それだけはヨシとしていた。

 

「まだ懲りてなかったのかよ」

「これだけの戦いをただ見てるだけって辛いんですよ?」

 

 呆れる深雪に、当然だと言わんばかりに返す丹陽。本来なら戦えるはずなのに、老朽化というどうにもならない理由でただ守られるだけになっているのは、どうしても心苦しく思っているのだと語る。

 

「それで無理してもっと酷いことになる方がダメだからね。丹陽ちゃんの場合は、寄生させたら命を前借りするモノだと思ってね」

「むぅ、そう言われてしまったら、もう本当に諦めるしかないですね……」

「みんなのためにっていう優しい願いかもしれないけど、叶えるには難しい願いだってあるからさ。ゴメンね」

 

 いくら優しい願いと言えど、無理なモノは無理という願いもある。命を懸けるような願いは、優しい願いとは言いにくい。誰もが救われなければ意味がないのだから。

 

「まぁ何かあったら深雪ちゃんの判断に任せるよ。私はうみどり所属の特異点じゃあないからね」

「あ、お前逃げやがったな」

「事実だから仕方ないでしょ。私はここで願いの実を守り続ける使命があるんだから。後始末屋の特異点は深雪ちゃんなんだからね」

 

 ニコニコしながら丸投げする吹雪に、深雪とケラケラ笑いながら返した。

 

 

 

 

 その後も楽しく過ごし、時間は日を跨ぐくらいに。1人、また1人と眠気を訴え出し、そろそろお開きかと部屋を暗くして雑魚寝が始まる。

 主役である吹雪を中心にして、両サイドを後始末屋の特異点である深雪と電が挟み、その他諸々が好きなように場所を陣取って眠りにつく。

 

「……本当ならね、私は眠る必要も無いんだ。ちょっと特別だから」

 

 深雪や電には聞こえる程度の声量で、ボソリと呟く吹雪。

 あくまでも今回のコレはみんなに合わせての行動であり、特異点としては更に特殊な吹雪には、基本的には不要な行動。それでもみんなと一緒にこうしているのは心地よく、静かな夜を眠りというカタチで楽しむのもまた一興と付き合っている。

 

「でも、こうやってみんなでワチャワチャするのは楽しいね。これまでの長い時間でも知ることが出来なかった感覚だよ」

「……だよな。仲間がいるからこうやってやっていける」

「深雪ちゃんは、そういう特異点に成長したんだね。私よりも力を持ってるよ、きっと」

 

 布団の中で、軽く深雪の手を握った。深雪もそうされたことで、クスリと笑って握り返す。

 

「深雪ちゃんは、私よりも優しい願いを理解出来る。そういう生き方をしてきたから。だから、私以上にみんなの願いを叶えてあげてね」

「……ああ、任せろ。あたしも特異点だ。吹雪にはまだ及ばねぇとは思うけど、精一杯やれることをやっていくさ」

「それがいいね。でも、無茶だけはしないようにね。いくら特異点だからって、私達もこの世界に生まれて生きてるモノだから。死んだらおしまい。だから、何があっても命を大事に、だよ」

 

 特異点であっても、そこは何も変わらない。死んだら終わり。願いを叶えるにしても、命懸けで叶える願いに意味があるのかはわからない。全員で生きて戻ることが、一番の願いだ。

 

「私はここでずっと願っておくよ。うみどりが、()()()()()()()、無事に全てを終わらせられることを。誰も傷付かず、誰も苦しまずにね」

「吹雪に願われたら、叶わないわけにゃいかねぇな。あたしも願ってるから、叶えてくれよな」

「勿論。何よりも優しい願いなんだから、叶えないわけにはいかないね」

 

 特異点同士の絆は、ここで特に強くなった。明日には別れることになるだろうが、ここでの結びつきは消えることはない。ずっと、いつまでも。

 

 

 

 

 その夜、うみどりの仲間達はとてもいい夢を見ることが出来た。意識的にも、無意識にでも願っていることが叶った夢。願いの実から与えられた、感謝の意。この海域を守ってくれたことに対しての、僅かながらの礼。

 細やかながらも、幸せな時間を与えることで、ここからのモチベーションは一気に上がった。

 




長く続いてきた特異点Wでの出来事も、次回で終了です。
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