後始末屋の特異点   作:緋寺

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吹雪との別れ

 朝、誰もが気持ちよく目覚め、願いの実から与えられた粋な計らいのことを驚きながらも笑顔で話す。細やかな願いが叶った夢を見たことで、みんなモチベーションは最高潮。これからの戦いにも、俄然やる気が出るモノとなった。

 

「あたしは……なんつーか、すげぇ普通な日常の夢だったよ」

「電もなのです。みんなで仲良くワイワイ過ごしてるだけでした」

「でも、それがあたし達には一番嬉しくて楽しい時間なんだろうな」

 

 深雪と電も例外では無く、願っている最高のモノを夢として見ることが出来ている。それは、後始末もない、仲間達とただのんびりと過ごす日常。訓練なんかもせず、甘いモノを食べたり、デッキでダラダラしたりと、時間を無駄に使っているのではと思えるくらいの緩みっぷり。

 自分にそんな願いがあったと思うと、妙に納得が出来た。何度も酷い目に遭ってきたからこそ、何もない日常が一番楽しい。そして、そんな日常を仲間達と送ることが出来るのが一番嬉しい。

 

「そんな時間を作るためにも、ここからもっと頑張らないといけないな」

「なのです。電達の手で、そんな時間を掴み取りたいのです」

「だな。そのためにも……あたし達はもっと頑張ろう」

 

 夢によって自分達の細やかな願望を自覚し、それは今の戦いを終わらせることで手に入れられるモノであることも理解したことで、2人のモチベーションと最高潮となった。

 

 

 

 

 始まりがあれば終わりもある。朝食後、その終わりの時がやってくる。

 

「清浄化率の維持が確認されたわ。これでこの海域での後始末も終了ということになるわね」

 

 当初の予定通り、海域の清浄化率は一晩を越えても維持されたままとなり、後始末終了というカタチとなる。つまり、この海域から次の現場へと移動することを意味している。

 

「おおわしはもう少しだけ例の島を調査してくれるわ。外面上はあまり変化は無さそうだけれど、もし何かあった場合はすぐに連絡をしてくれる。こだかには当初の通り、アタシ達とは逆の海域の後始末を担ってもらう。これで作業を溜め込むなんてことも無くなる。でも、島の襲撃の時には、総動員で行くつもりだから、また共同戦線になるわよ」

 

 清浄化率を確認しているうちに、これまでなかった後始末依頼が少しずつだが入ってきており、うみどりも戦闘終了を待つ現場が1件既に予約済み。そちらの現場に向かうことが決定している。こだかもこうしている間に1件連絡を受けており、そのままそちらの後始末に向かうことになった。

 島の襲撃は必要なこと。しかし、本業を疎かにすることは許されない。戦争を終わらせるための仕事なのだから、まずはそちらをキッチリ片付けてから、後腐れなく島での戦いに挑みたいところ。

 

「それまではいつも通りの生活になると思う。ここでもそうだけれど、英気を養って、本番に向かいましょ。ここ以上に激しい戦いが予想されるけれど、アタシ達は必ず成し遂げられる。勿論、最高最善の策を練って、万全な状態で立ち向かえるように準備をするから、それまでは普段通りを貫いてちょうだい」

 

 どれだけ大きな戦いが待ち構えていようとも、後始末屋は揺るがない。いつものように作業をし、それがなければ自己研鑽を重ね、後始末屋は後始末屋としての戦いを進める。それがうみどりのやり方。

 

「それじゃあ……最後に吹雪ちゃん、改めて御礼を言わせてちょうだい」

 

 もうこうして一緒にいられる時間も僅か。だからこそ、最後はキチンと。

 

「アナタの協力無くして、この海域での戦いは勝利することは出来なかった。うみどりを代表して言わせてもらうわ。本当にありがとう」

「あはは、それほどでも。それに、私からも御礼を言わなくちゃいけないですよ」

 

 頭を下げる伊豆提督に、吹雪は逆に頭を下げた。

 

「特異点の端末、深雪ちゃんがここまで成長していたのは、このうみどりがあるからこそです。私が知る限り、最も信頼出来る相手だと言い切れます。だから、可愛い妹をずっと託しておけるというものです」

 

 笑顔で語る吹雪に、伊豆提督はそう言ってもらえるとありがたいと笑顔を絶やさない。

 これまで通り、何も意識することなく生きていくだけ。それでも深雪は一歩また一歩と成長していく。それが特異点にとって最も最善の道であったことを、ここで改めて知ることになった。

 何か変える必要なんてない。深雪が特異点であることを改めて理解したとしても、だから生活を変えるなんてことは絶対にしない。コレまでと同じように、コレからも進み続ける。それが特異点にとって、このうみどりにとっての最善なのだ。

 

「何かあったら駆けつけたいのは山々ですが、私はここから離れられない身の上。なので、ここでずっと見守っています。うみどりの行く末に幸あれと、私はここで願い続けるでしょう。特異点がそんな贔屓なことしちゃダメなんですけどね」

 

 苦笑しながらも、吹雪は伊豆提督の前へと歩み寄り、手を差し出した。

 

「ありがとうございます、ハルカちゃん。ここで出会えて、話すことが出来たのは良かったことだと思います。深雪ちゃんとも面と向かって話せたのは、お互いに前に進むことが出来る最高の経験になりました。これからも、深雪ちゃんのことを、特異点のことをよろしくお願いします」

「ええ、任せてちょうだい。何か特別なことをするわけでもなく、アタシ達の、後始末屋の仲間として、共に歩いていくわ」

「はい、それが一番いいと思います。そうでなければ妹を預けるなんてこと考えられないかもしれませんから」

 

 差し出された手を、伊豆提督はガッチリと握った。吹雪との絆は強く深く刻まれる。今後それを忘れることは無いだろう。

 

 

 

 

 吹雪が工廠から外に出る。ここから3つの移動鎮守府はそれぞれの航路を進む。ここに吹雪の場所は無い。

 

「吹雪、あたしもお前と会えて良かったと思ってるよ」

「ふふふ、それは良かった。お姉ちゃんは嫌われたくないものだからね」

「まぁちょっと怖いところはあったけどな。お前、容赦なさすぎなんだよ」

 

 深雪も少々名残惜しさは感じていた。だが、だからと言ってこの場に留まることなんて出来ない。戦いはまだまだ続いている。それを終わらせるための、一時的な別れ。

 軽口を叩きながらも、姉妹として明るく終わりにしたい。だからここでも普段通りを貫く。

 

「そうだ、深雪ちゃん。最後にお姉ちゃんからプレゼントです」

「ん?」

 

 そう言うと、吹雪は急に海中に潜った。あっという間に海底まで移動すると、何かをしてまた浮上してくる。

 

「これ、預けておくよ」

「こいつは……?」

「私の力をうんと込めた彼岸花。枯れることもないから、何処かに飾っておいてよ。それとも髪飾りとかにでもする?」

 

 吹雪が持ってきたのは、一輪の彼岸花。海底に咲き誇る彼岸花畑から、深雪のために一輪摘んできたとのこと。

 それ自体に特異点の力が含まれているものの、だからと言って何かに使えるかと言われたらそうでもない。ただ枯れることのない、吹雪の思いが込められた贈り物。

 

「部屋にでも飾っておくよ。吹雪に見守られてるって思いながら眺めさせてもらうぜ」

「うん、そうしておいて。私はいつでも見守ってるよっていう証みたいなモノだから」

「そりゃ心強い。あたし達の頑張るところ、ここで見守っててくれ」

 

 彼岸花を手に、深雪はうみどりへと戻っていく。吹雪と話せるのもコレが最後。またここに来ることもあるだろうが、ここからしばらくはそんな時間も作れない。

 今生の別れではなくても、この別れは少し切ない気持ちにさせられる。本当に短い時間だったが、吹雪は深雪を特異点として大きく成長させた。その導きは、コレからも心に残り続ける。

 

「それじゃあ、今はここでバイバイ。みんな信頼に値するヒト達だった。深雪ちゃんのこと、よろしくね」

 

 海の真ん中まで移動した吹雪は、3つの移動鎮守府の何処からも見えるような場所で深海棲艦の姿を取った。その時の力は戦艦のモノ。

 そして、真上に向かって砲撃を──祝砲を放った。みんなの行く末に幸あれと、とびきり優しい願いを込めて。

 

 その祝砲に見送られ、特異点Wから離れていく。深雪は大急ぎでデッキまで駆け上がり、そこから吹雪の姿を再度確認した。

 

「また来るからな、吹雪! その時は、勝ったって伝えに来るからな!」

 

 吹雪に向けて大きく手を振る。それに気付いたか、吹雪も小さく手を振っていた。

 

 うみどりは進む。そうしていく内に、吹雪は水平線の向こう側へと消えた。特異点Wからも離れ、うみどりは新たな航路に乗った。

 

「……今まで以上に頑張らねぇとな」

 

 手に携えた彼岸花を見つめ、深雪は改めて決意を固める。こうやって見守ってくれる者もいるのだから、その期待に応えなければならない。だからと言って気負いすぎることもなく、いつも通りに歩みを進める。

 

「っし、次の後始末まではまだ時間あるよな。あたしも今日は鍛えるかな!」

 

 より良い道を歩くため、深雪は今日の予定を訓練に使うことにする。次の戦いは、さらに険しいモノになることは目に見えているのだ。ならば、それを踏破するためにも、今以上に強く、逞しくならねばならない。

 

「吹雪、見ててくれよな。あたし、絶対に勝ってくるからよ」

 

 とはいえ、まずは貰った彼岸花を何処かに飾らねばなるまい。すぐに伊豆提督のところへと向かい、一輪挿しが無いかを聞いていた。

 

 

 

 

 移動鎮守府が特異点Wから離れていくのを見届けた吹雪は、小さく息を吐いた後、海底へと潜っていく。本来の仕事、願いの実を護ることに従事するため。

 その存在が定位置に鎮座していることを確認し、軽く手にとって何も変わっていないことを確認。また定位置に戻して、その岩場に腰掛ける。

 

「……こういう弊害もあるんだねぇ……仲間が出来るっていうのは」

 

 仲間が出来るということは、1人でいることよりも間違いなく楽しいこと。特に今回は妹と共に生きる道を少しだけでも歩いてしまったのだ。そのせいで、別れがとても辛いものになってしまっていた。

 これまで長い年月を1人で過ごしてきたが、寂しいという気持ちはこれまで一度も感じたことはなかった。しかし、今は違う。1人が少し寂しい。

 

「ずっとこうしていたのに、知っちゃうとどうしてもなぁ」

 

 何処か願いの実に語りかけるように独りごちる。

 

「って言っても、何も変わらないもんね。さ、私は私でやれることを……って、あれ?」

 

 そんな吹雪の気持ちを汲み取ったのか、願いの実が淡く輝いたように見えた。

 

「もしかして……いやいや、これは優しい願いじゃないよ。私に生まれたただの()だから、叶えちゃダメだよ」

 

 しかし、願いの実は、初めて吹雪が持った欲に反応して、その願いを叶えようとしていた。

 これまで1人で守ってくれてありがとうという礼を言うように。そして、今後はこの海域にも敵の魔の手が伸びてくる可能性を考えて、()()()()()()()()()()()()()()

 

「……1人じゃ寂しいけど、2人ならお互いを支えていける、かな。うん、じゃあ、それは受け入れるよ。ありがとう」

 

 吹雪の隣に、特異点が生まれる。それは、寂しさを知った吹雪を支えるために願いの実が作り出した端末。

 

「おはよう、そして、はじめまして」

 

 吹雪はその新たな特異点に、笑顔で挨拶をした。

 

 

 

 

 特異点Wは、これによりさらに安全性が保たれることになる。もし特異点を脅威と感じ、出洲一派がそれを潰そうと画策しても、2人でならばより食い止められるだろう。

 




最後に生まれた新たな特異点、吹雪を支えるための端末は、既にそこにあるモノから願いの実が作り上げたモノ。つまり……
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