後始末屋の特異点   作:緋寺

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不安増す対談

 カテゴリーCへと任意で戻れるようになった神威は、そのことを家族につたえようと考えていたのだが、それをどのように話そうか迷っていた。今回の件は機密事項も非常に多く、また一般人が聞いただけで納得出来るとは到底思えない話だからだ。

 まともに話すことも出来ないのに、それを信じてくれというのも難しい。そもそも人間を辞めさせられたというのも見た目だけではわからないのに、そこから元に戻ったというのも見た目ではわからないのだ。

 人間を辞めさせられたことはその時の空気の重さで信じたようだが、逆に戻れたことは簡単に信じられないなんてことだってあり得る。良いことより悪いことの方が印象に残ってしまうモノ。

 

 そんな中、イリスは着替えを試着している深雪に何やら提案する。神威の両親と話をしてみないか、と。

 

「あたしがか? 何か役に立てんのかよ」

 

 そんなことを突然言われても、自分に何が出来るのだと疑問しか湧かない。深雪のことを最も知るであろう電も、イリスの提案を素直に肯定出来なかった。

 

「実際神威を治療したのは貴女じゃない。それに、私やハルカよりは多分話を聞いてもらえると思うの。私達は()()()()()()()()()()()()()()()()として認識されていてもおかしくないから」

 

 神威の父も、誰が悪いかと言われたら、今は亡き米駆逐棲姫、そしてそれを操っていた阿手であると理解はしているだろう。しかし、神威本人を管轄しているのはうみどり、延いてはそのトップである伊豆提督と、秘書のイリス。そうでないことはわかっていても、上に立つ者の失態と考えられていても何も文句は言えない。

 その点、深雪は神威の父に警戒はされても失態を犯したと考えられることは無い。ましてや、神威を治療することが出来た者という事実があるのだから、伊豆提督達と比べれば多少は話が出来るはず。イリスはそう判断した。

 

 勿論、深雪に負荷をかけるのはいいことではない。出来ることならば、自分達で全てを解決したい。しかし、世の中そう上手く行かないのも確かなことである。

 

「失態なわけねぇだろ……あんなの、誰も予想出来ねぇよ」

「だとしても、そう思うヒトというのは少なからずいるの。神威のお父様がそういう考えを持つヒトであると断言はしないけれど、可能性としてないとは言えないというだけよ」

 

 ただ話すだけで納得してくれればいいのだけれどと、イリスは少し悲しそうな表情を見せつつもボヤくように呟いた。

 

「わかった。とりあえずハルカちゃんにも聞いてみよう。あたしが役に立てるなら、力を貸すよ」

「ごめんなさいね。急に思いついたことを言っただけだから、ハルカがやめろと言ったらやめてくれて構わないわ。強引にねじ込むつもりもないから」

「ああ。じゃあハルカちゃんに任せるぜ」

 

 深雪も自分がこの話をどうにかするには頭が足りないことは自覚しているので、最終的には伊豆提督の判断に任せることにした。

 

 

 

 

 イリスに言われた通り、レディーススーツに身を包み、改めて執務室に赴いた深雪。

 電はそんな深雪の姿を見て改めて惚れ直しつつ、これからのことにどうしても不安な隠せないでいた。深雪が人間からあらぬ苦しみを与えられないか心配だったからだ。

 

「あら、見違えたわぁ。深雪ちゃん、とっても似合ってるわよ」

 

 まず今の深雪の姿を見た伊豆提督は、ニッコリ笑って褒める。今の悩みは今だけは無くなったように振る舞い、まずは深雪のことを進めていくかのように。

 神威も深刻な表情から一転、驚いたように目を開いたかと思いきや、似合っていると笑顔を見せた。

 

「ツノは隠せるのかしら?」

「あ、その辺考えてなかったな。このままだといろいろと迷惑かけかねないし、他のみんなみたいにあたしもツノを隠せるとありがたいんだが……って」

 

 ツノがあるままだと人間社会には出られない。他のカテゴリーYやセレスにも施した煙幕による偽装を自分にも使えないかと考えた。

 すると、さも当然のように左手から煙幕が溢れ出し、今の深雪のツノに纏わりつくと、そのままそれが『迷彩』の曲解がかかったかのように透明に。

 

「お、おお、これ軍港でも起きたことだよな。人前に出るなら流石にコレくらいしておかないととは思ってたけど」

「願ったことなのです?」

「願ったっつーか……みんなに迷惑かけないようにしたいなって考えたくらいだぜ。でも、正直助かった。特異点の力、便利すぎだろ……」

 

 自分の力だというのに、少しだけ恐怖を感じてしまった深雪。便利なことはいいことではあるのだが、あまりに万能すぎると何か取り返しのつかないことが起きてしまうのではないかと考えてしまう。

 だが、それはすぐに伊豆提督がフォローした。

 

「深雪ちゃん、自分の力を怖がることは、悪いことじゃないわ。それを知ってるから自重が出来るんだもの」

「あー……そりゃあそうかもな。使いすぎるのもどうかと思うしさ」

「そうね。だから、深雪ちゃんはそのままでいてちょうだい。本当に強い子は、怖さもちゃんと知っている子だから」

 

 伊豆提督の言葉に、深雪は力強く頷いた。

 

「それで、深雪ちゃんのお披露目のためだけにここに来たわけじゃあないのよね?」

 

 イリスに尋ねる伊豆提督。勿論と返し、そのまま先程深雪にも話したことを伊豆提督に伝える。

 深雪に神威の両親と話してもらおうという提案に、伊豆提督はやはり最初は顔を顰めた。しかし、イリスの言うことも納得が出来る。()()()()()()上司の言葉よりも、治療が出来る第三者の言葉の方がまだ納得しやすいのではないかと。

 深雪は今回の件を失態だなんて思っていない。だが、イリスが言っていた通り、上に立つ者故に、このような事態は自分の責任であると重く受け止め、敵が未知の力を使ってこようが失態を犯したと考えている。こればっかりは、深雪にはすぐにはわからない心情であった。

 

「今の深雪ちゃんの姿なら、話は出来るかもしれないけれど……ちょっと難しいわよね。それに、相変わらず負担をかけすぎよ」

「負担とかは別にあたしは構わねぇよ。ただ、やることって説得とかなんだよな。あたしはそっちの方が不安だよ」

「行き当たりばったりだと、それこそ何が地雷を踏むかもわからないものね……」

 

 どうしても話が進まないところで、神威がパンと手を叩いた。

 

「私も勿論一緒に話をします。深雪さん、私からもお願いしていいですか?」

 

 あえて神威がその選択をしたことで、事を進めようと動き出した。伊豆提督は本当に大丈夫かと不安ではあったが、神威は大丈夫と小さく微笑む。

 父の愛の深さを正しく把握出来ていない節があるものの、それでも伊豆提督やイリスよりは父のことを理解しているからこそ、ここでこの案はきっと上手く行くと思えた。特異点の力を頼るとかではなく、自分の身体を治してくれた深雪だからこそ、その気持ちは正面からぶつけられると信じて。

 

「……わかったわ。それじゃあ、早速連絡をしてみましょうか。深雪ちゃん、もしかしたら辛い思いをするかもしれないけれど」

「いいよ、これまでよりも苦しいことにはならないと思うし」

 

 軽く言ったわけではない。ここまで来るのに本当に辛い思いを何度もしてきたのだから、理不尽な罵りにも耐えられるくらいにはメンタルが強くなっていると、少しは自信を持って前を向いていた。

 

 

 

 

 神威の両親への連絡はすぐに行われる。執務室の空気は非常に重くなり、深雪の唾を呑み込む音が響き渡ったかのようにすら感じた。

 

「お世話になっております。伊豆です」

 

 真剣な表情で通話を始める伊豆提督。隣には神威も座っているものの、今は無言。前回の連絡の時の反応を知っているからこそ、今は冷静でいられる。

 

「お嬢さんの身体の件で連絡させていただきました。結論からお伝えしますと、以前話した症状……人間では無くなっていたその身体の治療に、成功しました」

 

 まずは伝えたいことから。その言葉を聞いた途端、通話をしている向こう側でガタンと音が聞こえた。驚きで何かをいろいろひっくり返したような音だった。

 父の方は顔もわからないが、母の方が本当ですかと声を荒げる。伊豆提督ははいと一言。神威も笑顔で頷いて安心させようと心がける。

 

 深雪にはここにいてもらっているものの、顔を出さなくてもいいのならそれで終わりにするつもりでもあった。伊豆提督のことを信じて、今の言葉をそのまま受け入れてくれれば御の字。

 しかし、そう上手く行かないのも人間の在り方。母は喜んでいるような声色なのだが、父は未だに無言だった。深雪からはその顔も見えないため、どんな顔で説明を受けているのかは見当がつかない。

 

「機密の問題上、その治療方法は伏せさせていただきますが、検査の結果はお見せできますし、お伝えすることも出来ます。こちらになります」

 

 画面に神威の検査の結果──特機に再寄生されていない状態の値を見てもらった。

 再寄生を繰り返すことで身体が変質することがないことも、明石と主任の調査によって判明しているため、今でこそ特機が寄生している状態ではあるものの、解除さえしてしまえば見せている書類と同等に戻せる。

 

 ここで妙に静かな時間が流れる。書類をじっくり眺めているのだろう。通話先の音も何も聞こえてこない。緊張感が溢れる状況に、深雪は少しだけ冷や汗のようなモノが流れるのがわかった。

 そんな深雪を見て、電も不安そうだったが、サポーターとしてその手をそっと握る。深雪なら上手く行くと信じて。

 

「父さん、私、本当に元に戻れたんです。皆さんの尽力のおかげで」

 

 神威からも訴えるように言葉が搾り出された。しかし、画面から聞こえてきた言葉は、ある意味予想していたようなモノであった。

 

 本当にこの検査結果は間違いないのか、と。

 

 本人の姿は前から変わっていない。人間で無くなってしまった姿と、人間に戻れた姿は、誰が見ても差がないモノ。書類で見せられたところで、その値はいくらでも改竄出来るのだから、嘘を吐くことだって出来る。

 だが、嘘を吐くメリットが何処にもないことくらい、少し考えればわかるだろう。ただ両親を安心させるためだというのなら、むしろ経過観察中だが悪影響は無いとかで話した方がまだマシ。治ったと断言するような嘘は、吐いても損しかない。

 

「間違いはありません。治療も完了しています。ご覧になられているだけでは納得が出来ないとは思いますが、信じていただく他ありません」

 

 そうとしか言えない伊豆提督。話したくてもビッシリと埋め尽くされた機密で、何も話せないのも事実。納得させるのには骨が折れる。

 

 しかし、神威の父の不信は簡単には失われない。娘を愛するが故に、この事実に対する疑問は尽きない。どのように治療した。それが何故話せない。本当に治っているのか。そんな言葉が次から次へと出てくる。

 人間を辞めさせられたことはすぐに信じたのに、治ったことが信じられないのはどういうことなのだと、聞いている深雪は疑問だった。だが、その疑問を口に出すことはしない。今は自分がそこに出る時ではない。

 

「信じてくださいとしか言えません。健康状態も良好。身体も艦娘となった時と同じ値になっている。書類に記載されていることが全てです」

 

 伊豆提督もそれしか言えなくなっており、大分苦しそうな表情である。本当なら全て包み隠さず話したい。それこそ、治療の光景も動画として残してあるのだから、それを見せれば一発で済む。しかし、それが出来ないのだから、こうやって粘るしかなかった。

 

 そしてついに、神威の父は、予想通りの言葉を放つ。どのように治療をした、誰が治療したのだと。ただ治療されたと言われても納得は出来るわけが無い。

 

「……来たか」

 

 深雪は大きく息を吐き、立ち上がった。

 

 

 

 

 ここからは深雪のターン。しかし、何を話すかなんて事前に考えていない。行き当たりばったりになるかもしれないが、最善を掴み取るために力を尽くそうと拳を打ちつけた。

 

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