後始末屋の特異点   作:緋寺

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溜まる心労

 神威の父との対談は、あちらが一応理解を示してくれたことで終了。納得してくれたとは思えないものの、今は()()()()()()しないでくれているだけでもヨシとされた。

 秘密裏につけられている監視は、このまま続行。理解してくれたとしても、まだ何をしでかすかわからないのは変わらない。あちらの信用を無下にするようにも思えてしまうが、万が一のことが起きた場合を考えると、これは必要なことである。

 

「悪い、ハルカちゃん。あたし、やらかしちまった……よな」

 

 対話が終わった後、深雪は説教覚悟で大見得を切ったことを反省し、伊豆提督から叱られることも辞さないと頭を下げる。

 しかし、伊豆提督は叱ることなんてしなかった。

 

「深雪ちゃんがあれだけ言ってくれたから、神威ちゃんのお父様は引き下がってくれたと思うわ。確かにちょっと不安なところもあったけれど、アタシ達には出来ないことをしてくれたのは、深雪ちゃんならではだったと思うわ。ありがとう、本当に感謝してる」

 

 提督という立場である以上、余程の相手でない限り、先程の深雪のような啖呵は切れない。あくまでも国民を守る者としての責務を果たすため、クレームがあったとしても冷静に()()()()()ことが基本。深雪のような出方をした場合、最悪不信任案まで出されかねない。

 神威の父がまだ比較的物分かりが良かったおかげでコレで済んでいるのだ。理不尽をぶつけてくることがあっても、ここからうみどりを、深雪を攻撃するようなことはない。

 

 特異点の力でそれを無意識に感じ取ったかは定かではないが、仲間達の言いたくても言えないことを、その者に代わって深雪が言葉にした。丸く収めることが出来たとは言いづらくとも、今は何事もなく終わらせることは出来ているのだ。

 

「でも、堪え性が無かったのは確かなことね。そのおかげですぐに終わることは出来たとは思うけど」

 

 苦笑する伊豆提督に、深雪は肩を落とした。神威の父の言い分、また隣で繰り広げられる親子喧嘩に対して、そこまで我慢することも出来ずに当たり散らしたようなもの。

 それは本来ならもう少し我慢するべきことである。切り込んだ話をしつつ、相手の出方を窺ったり、まずは神威を落ち着かせたりすることも出来ただろう。それをすることなくテーブルを叩いて大きな音を立て、口喧嘩を黙らせるというのは、少々力業だったか。

 

 落ち込む深雪に電が駆け寄る。ずっと見ていてハラハラする場面が多すぎるくらいだったが、深雪の奮闘を見守り、あえて何も口出ししなかった。

 

「深雪ちゃん、お疲れ様なのです……」

「ああ、電、マジで疲れちまった。この姿ってのもあるかもしれねぇけど」

 

 どっぷりと椅子に腰掛けて、深い息を吐く深雪。やり遂げたという感覚以上に、やっと終わったという感覚の方が強い。肉体労働である後始末よりも疲労感が凄まじかった。

 これだと、午前中はトレーニングに勤しむのもやめて、丸一日ゆっくりしていたいとすら思ってしまった。

 

 そして、こんな精神力の必要な仕事を毎日休みなくこなしている伊豆提督達を、改めて尊敬することになった。

 

「深雪さん、本当にごめんなさい。私と父がご迷惑をおかけしました」

 

 神威が深雪に深々と頭を下げる。あの時に深雪を放って口論を始めてしまったことを悔いており、そのことについてちゃんと謝っておきたかったと。

 

「言いたいことは言ったよ。だから、もう大丈夫だからさ」

「父はアレでわかってくれたと思います」

「だといいんだけどな」

 

 やはり、仲間があんな言い合いをしているところを見るのは嬉しくない。喧嘩するほど仲がいいなんて言葉もあるが、出来ることなら喧嘩そのものをしない方がいい。

 

「改めて、ありがとう深雪ちゃん。それと、こんなことに巻き込んでしまってごめんなさい」

「ああ、もう大丈夫。二度と御免ってわけでもないからさ。力になれるなら、あたしは力を貸すよ。えーと……うん、徳井深雪として」

 

 人間としての偽名を少し気に入ったか、またその名を名乗った。神威がぶっと吹き出しそうになったものの、執務室は少しだけ緩い空気になった。

 

 

 

 

 執務室でやることは終わり、医務室で着替え。一旦疲労抜きのために艦娘の姿に戻る。

 先程まで着ていたレディーススーツはちゃんと脱ぎ、元の姿に戻っての変化。まだ身体を変えた時に構成される服がどうなるかはわかっていないため、せっかく用意してくれた服を台無しにしないためにも、この辺りは慎重に。

 

「ふぃー……最初の目的とは変わっちまったけど、ここからどうするよ電」

「深雪ちゃんは今日は休んだ方がいいと思うのです。身体じゃなく心が疲れているのです」

「……だよなぁ。あんなこと初めてだしな」

 

 軍関係者以外の人間と話すのは、軍港都市で遊び歩いている時の店員くらい。その人間も基本的には客商売をしているのだから、怒りや敵意などは持っていない。明るく元気に、昂揚させてくれるような接し方をしてくる。

 それを考えれば、今回は真逆と言える。だから深雪も途中から声を荒げてしまった。怒りに身を任せるような言動を後から反省したが、人間相手にあそこまでの感情を持ったことはあまり無い。

 

「……あのさ、電。あたし、前にすげぇ腹が立つ人間を見たことがあるんだ」

「そうなのです?」

「ああ、あの海賊船の戦いの時だ」

 

 電は諸々の事情があって不参加だったあの戦い。調査隊の面々と共に数人は本拠地である海賊船に乗り込んでいるが、深雪もその内の1人。

 そこで見た人間が、守られる立場であることを利用して好き勝手振る舞う下衆。その時には昼目提督が同じ人間という立場、そして調査隊の特権を存分に利用して、ボコボコのケチョンケチョンにしたが、深雪はその時何も出来なかった。いや、()()()()()()()()()なのだが。

 

「神威さんの親は、そういう連中とは違う。愛情があるから、あんなことをしたってヤツだよな」

「……なのです。悪いことなんて全然考えてない、ただ神威さんが心配だからあんなことになっていたのです」

「だからこそ、あれはあれで仕方ないんだと思う。あのクソみたいな人間と同じような感じなら、こんな気持ちにならずにいられたと思うんだけどさ」

 

 神威の父との対談は、深雪に()()()を残している。愛情に溢れているからこそキツイ言葉を使っていた神威の父は、全てが正しいとは決して言えないものの、親として間違った行動はしていないように思えた。人としては間違っているところはあったが。

 それもあるため、強い言葉で一方的に捲し立てて、最終的には()()()()という感覚が付き纏う。和解とは言いにくい結末。

 

「あたし、あんなことしちまって大丈夫かな。ハルカちゃん達に迷惑かけちまったよな」

 

 心の疲労が弱音を呼び出していた。説教覚悟で言いたいことをぶちまけたアレによって、自分ではない伊豆提督などに大きな迷惑になってしまったのではと不安になってしまっている。

 伊豆提督はその場でやんわり嗜めてくれているが、本当はどう思っているかなんて考えもつかない。特異点とて、人の心なんて読めるわけがないのだから。

 

「電は……深雪ちゃんは精一杯頑張ったと思うのです。ハルカちゃんさんが言っていた通り、深雪ちゃんがアレだけ強く言ったから、今回の件はこうやって終われたのだと思うのです。そうじゃなかったら、今もまだ神威さんが口喧嘩をしていたかもしれないのです」

 

 電は思ったことを包み隠さず口にする。深雪の傍に立つ、特異点の補助装置は、こういう時にはむしろ支える側に。

 口から出るのは本心。嘘偽りない、電の思ったことをそのまま深雪に伝えていた。あの時のやり方は、電的には間違っていない。自分には出来ない手段だと。

 

「強く言わないとわからない人もいる、というのを、今回の件では学ぶことが出来たのです。人間さんだからと言って尻込みしていたら、解決するものも解決しないということも知りました。そう思うと、深雪ちゃんがやったことは、多分解決するためには一番()()()()方法だったと思うのです」

 

 良いとは言わず、悪くないと言うところが、今回のキモ。ベストとは決して言えない、しかしこうしないと先に進めない。間違ってはいないけど、実はもっといい方法があったかもしれないが、今あの段階ではあの手段が深雪の出来る最善だったのではと思っていた。

 

「……そっか、ありがとな電。ちょっと気持ちが楽になったよ」

「良かったのです。電だったらあの時何も言えなかったと思うので、深雪ちゃんじゃないと出来なかったことだと思うのです」

 

 笑顔の電に救われ、深雪も笑顔で返した。今の深雪には、自分のやったことが間違ってはいなかったと言ってもらいたかったのかもしれない。

 

 

 

 

 一方執務室では、伊豆提督もドップリ椅子に腰掛け、イリスが淹れてくれたお茶を啜っていた。

 神威は事が済んだ後に退室。本来の仕事に戻っている。

 

「イリス……深雪ちゃんを連れてきたのはファインプレーかもしれないけど、かなりの博打だったわよ」

「ごめんなさいね。私もあそこまでの流れになるのは予想してなかった」

 

 イリスが深雪に話してみないかと誘ったのは、事実、治療した者の言葉を聞けば、多少は神威の父の考え方が変わるのではと考えたからだ。とはいえその方法が機密だらけなので、結局のところは神威の父の考え方を変えるには至らなかったが。

 それに、神威があそこまでヒートアップするのも予想していなかった。親が絡んだ時の反応までは把握しきれていなかったことを反省している。

 

「結果的に深雪がいてくれたから上手く終われたというのもあるのよね……たらればの域は越えられないけれど」

「そうね……立場的に強く言えないアタシ達に代わって、深雪ちゃんがいいことから悪いことまで全部やってくれたんだもの。本当に感謝しかないわよ」

 

 伊豆提督も立場が許せば、あの時の深雪と同じようなことを言っていただろう。理不尽を押し付けるようなクレーマーと化していた神威の父に、それこそ上から殴りつける言葉を紡いでいた。しかしそれは、立場以上に伊豆提督の性格がストッパーとなっていた。

 イリスはイリスでもっと口に出せない。思っていたとしても、伊豆提督より余計に立場が悪い。治療が終わったことをわかりやすく確認出来るたった一人の人材なのだが、その全てが機密に塗れているようなモノなので、説明が全く出来ない。

 

 そう思うと、深雪は非常によくやってくれたと言える。ベストでは無くても、平均点よりは上の結果を出していると、2人は同じことを考えていた。

 

「……でも、これっきりにしましょ。深雪ちゃんを頼るのは良くないことだもの」

「ええ、私も反省したわ。もう少し先を見据えて事を起こさないとね」

「そうね。アタシもまだまだだわ」

 

 2人は小さく溜息を吐きつつ、今後のことに目を向ける。問題事はまだまだ山積み。当面の課題は、次の作戦となる島襲撃についてである。

 

 

 

 

 次の戦いのためのネックになりそうな部分は取り除かれたものの、戦いそのものが厳しいものとなることは確実。

 万全の準備を整えて、ベストの状態で進みたいところである。

 




次の戦いはもう島になるでしょうが、それまでに準備の時間が必要です。ずっとヒリついていても苦しいだけ。
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