後始末屋の特異点   作:緋寺

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大人の自分

 昼食の時間。深雪は午前中の精神的な疲労も回復し、いつも以上にもりもりと食べる深雪。電も負けず劣らず、少し多めの食事を平らげていた。心に余裕が出来ると、胃にも余裕が出来るようである。

 そして、それに輪をかけて食べていたのが白雲とグレカーレである。午前中は神風によるトレーニングのため別行動をし、ついさっきまでずっと鍛え続けていた。それによる消耗はかなりのモノのようで、まずは食事で回復を図っているようだった。

 

「えーっ!? ミユキ、あっちの姿の私服作ってもらったの!?」

 

 その後の神威の父との対談に関しては話してはいないが、午前中何をやっていたかという話題には正直に答えた深雪。

 

「くっそぉ、ミユキのお着替えを舐め回すように観察出来たなんて……」

「お前言い方がイチイチ酷いな」

「前にも言ったでしょーが。あんなイケメンになっちゃって、スタイルすっごいいいんだから、余すところなく上から下まで見たいんだよ。背が足りないからテッペンは見えないけどさぁ。というか揉む。揉みしだいてやる」

「お前の前では絶対着替えねぇ」

 

 ケラケラ笑いながら話しているグレカーレに、深雪も呆れ顔である。

 白雲も深雪のその件については少しだけショックを受けたのか、食事の手が止まっていた。深雪の深海姿を美しいと称していたこともあり、その姿のまま別の姿を披露していたと思うと、いの一番に見ることが出来なかったことが残念で堪らないようである。

 

「お姉様……後程で構いませぬ。白雲にもその御姿を見せていただけませぬか」

「今後何かしらのカタチで見ることになると思うけどな。訓練の時の服も作ってもらったし、遊びの時の私服も一応あるし」

「なんと……だとしたら午後からでも是非に……」

 

 本心からの懇願に深雪も少し驚いていたが、これまでのことを考えると、非常に明るくなったと言える。特機に寄生され、カテゴリーWとなった白雲は、最早呪いのカケラも見えず、改めて仲のいい姉妹、愛すべき仲間へと成長したと感じる。

 

「……しょうがねぇなぁ。どうせ午後からは後始末のためにあまり激しいことは出来ないし、少しは見せてやるよ。あっちの姿になるのも慣れておかないといけないしな」

「ありがたき幸せ……!」

「えー、シラクモと態度違いすぎじゃない?」

「お前は下心が見え過ぎなんだよ!」

 

 グレカーレはテヘヘと舌を出すのみ。まるで反省などしていない。深雪は悪びれもしないグレカーレに溜息を吐きつつ、本気で怒るようなことはしない。グレカーレはこういうことを言っても憎めない仲間。本当に揉もうとしてきたら流石に引っ叩くだろうが、これだけ言っても実際は実行に移すのは稀なのはわかっている。

 

「電様は先んじてご覧になられたのでしょう? お姉様の御姿は如何でしたでしょうか」

「すっごく似合ってたのです。大人な深雪ちゃんは何を着ても様になっていたのです」

 

 あの時の深雪を思い返す電と、それを羨ましそうに見る白雲。こういうところからも、やはり白雲が柔らかくなったことがわかりやすい。

 

「街で着る私服は、いつもの深雪ちゃんの服を大人っぽくした感じなのです。あと、他にもいくつか用意してもらって、全部良かったのです。訓練用の水着とかも」

「水着! あたし達も貰ってる競泳だよね? あの身体で? そんなの見たいに決まってんじゃん! ミユキ、あっちのカッコでプール使うことがあったら絶対に教えてよ。あたし達もカミカゼに頼んでそっちでトレーニングするから」

「お前さぁ……」

 

 グレカーレのテンションは上がる一方。そして深雪は呆れる一方であった。

 

 

 

 

 午後、うみどりは後始末現場に向かう真っ最中。早くとも陽が沈むくらいには現場付近に到着し、状況次第では友軍艦隊としての出撃もあり得るため、深雪が昼食時に話していた通り、ここからは無理な訓練などせず心身共に休息を取るように指示されていた。

 白雲のグレカーレも、神風がその指示に従うということで一旦訓練をやめて休息。トレーニングルーム自体が封鎖され、こういう時だからこそ機器のチェックを進めるとのこと。

 

「うわぁ……いや、ホントに似合うねミユキ。あたしじゃこうはいかないなぁ」

 

 グレカーレがせがむこともあり、早速深雪の部屋で私服を着て見せることになった深雪。

 周辺警戒は怠っておらず、現場付近までは深海棲艦の出現も無さそうということで、少しの時間ならこんなことをしている余裕はある。

 

 今着ているのは次に遊び回ることになった時にこの姿になるのならば着るであろう、艦娘姿の時の私服を大人の身体に合わせたモノ。グレカーレはうんうんと頷きながらも、右から左から宣言通り舐め回すように観察していた。

 グレカーレもオシャレな艦娘であると自負しているところはあったりするのだが、今の深雪は自分には無い魅力があると素直に感心していた。

 

「……マジでそんな見られ方するとは思ってなかったぞ」

「あたしは自分の言ったことを守る女。だから揉む。揉むと言ったら揉んで……ぎゃあ!」

 

 本当に飛びかかってきそうな勢いのグレカーレの頭を押さえつける深雪。今の姿ならばリーチがあまりにも違うため、それだけでグレカーレの手は全く届かなくなる。手を振り回しても掠りもしない。

 そこまでされたら流石に諦めたようで、グレカーレは力を抜いて深雪から離れる。そしてもう一度上から下まで眺めた後、シグレからカメラを借りてくれば良かったと今更後悔していた。多分時雨はそんなことのためにカメラを貸さない。

 

「いいなぁ羨ましいなぁあたしだっておっぱい育った大人になりたいなぁ」

「清霜みたいなこと言ってんじゃねぇよ」

「でも、艦娘はそーゆーの無縁だからさ、憧れるのは損じゃないよ。あ、特異点様あたしの願いを聞いてくださーい」

「欲望まみれの願い事は叶えられません。一昨日来やがれ」

 

 こんな問答もお互い楽しんでいるのだから、2人の仲の良さを感じられる。本当の口論だったら電が止めているだろうが、それをすることなく、むしろ微笑ましくニコニコしながら眺めているのだから、言葉とは裏腹に互いに信頼し合っているのが見て取れるということ。

 

「お姉様……お美しい……」

 

 白雲はコレばかりである。どのような姿になっても、深雪の深海姿には艦娘姿以上に心酔し、常に言葉を失っている程である。

 ツノも見えなく出来るという話もしており、この姿で共に街を散策するということがわかると、是非にと手を取る始末。この姿だと仲間や姉妹というより保護者っぽくなってしまうため、深雪としては出来れば艦娘姿で遊びたいところではあるのだが。

 

「電、ちょっとグレカーレ押さえといてくれ。別の服に着替えるから」

「なのです」

「ちょっ、2人ともあたしのこと理解しすぎだけど、うわ、ちゃんと目隠ししながらホールドとか、くっそーわかってんなぁ!」

 

 グレカーレに着替えている最中を見られるのはなんか嫌だと、グラップラーな電にしっかりホールドしてもらって、身動き取れないようにした状態で着替える。白雲には生着替えを見せつけることになってしまうが、それもまた息を呑んで眺めているのみなので、グレカーレよりはマシと判断した。

 

 ここからは殆どファッションショーである。スカートタイプの私服を身につけると、グレカーレはおおと大興奮。普段の制服もスカートではあるが、私服がそれというイメージがない深雪なので、新鮮だと絶賛。レディーススーツを身につけた時は、そういうのもあるのかと顎に手をやって強く頷いていた。もう評論家か何かである。

 

「で、これが訓練用のだな。動きやすさを重視してくれたらしい」

「うわ……ミユキって腹筋うっすら割れてるんだ……引き締まってるのに柔らかいところは柔らかそうで……触りたぁい」

「やめてくれ」

 

 そんなこんなで与えられた服を全部着て見せることとなり、深雪は変に疲れてしまった。ただ着替え続けるというのも意外と運動のようになってしまうなと実感。

 

「ふぃー、こんなところだ。訓練用と水着は割とすぐに使うことになりそうだけど、私服はなかなか使う機会は無さそうだな。寝間着は……まぁちょっとわかんねぇ」

「そっかそっか。じゃあ、今見れたのはラッキーくらいに思っとこ。ね、シラクモ」

「はい、あまりにも美しすぎて、目が潰れてしまうかと思いました」

 

 興奮しすぎて鼻血が出そうになっていた白雲は、深雪のファッションショーを目の前で見て、違う意味で息も絶え絶え。破壊力がありすぎるとずっと笑顔であった。

 

「そーいえばさぁ、あたしずっと気になってたことあんだよね」

「ん?」

「ミユキがこういうこと出来るならさ、イナヅマも出来るんじゃないの?」

 

 ここでグレカーレが思ったことを口にする。特異点である深雪が、その力を強く発揮するために今の姿になれるようになったのならば、同じように電も出来るのではないかと。

 特異点の補助装置であることもあり、深雪の出力の安定や、1人では出来ないことをサポートするのが電の在り方。深雪の出力が深海棲艦化によって大幅に上がったのならば、補助装置側もそれに合わせなくては安定しないのではと考えた。

 

「電は出来るような感じはしないのです。やっぱりそこは、深雪ちゃんとは違うってことなのかなって、思うのです」

 

 だが、電自身が今は出来るようには思えないと断言した。勿論、必要ならばそうなりたいとは思うものの、今のままでも深雪の出力の安定は出来ているからだ。電まで深海棲艦化する必要がないと言ってしまってもいい。

 事実、戦場で深雪がその力を発揮する際に、電が隣から手を添えるだけで力が安定した。どんな姿であっても、触れることが出来れば何も問題ない。ならば、今の子供の姿でも、やれることはやれてしまう。

 

「でも、成長してみたいという気持ちが無いと言ったら嘘になるのです。電も深雪ちゃんみたいな大人になれたら、どんな感じになるのかなって、とっても気になるのです」

 

 とはいえ、願望がないとは言わない。その願いが特異点の力で叶うようなことはないのだが、いつか自分もなんて思ってしまうことはある。

 想像するだけならタダ。大人の自分が深雪に並び立てる姿かどうかを考えるのも、それはそれで楽しかったりした。

 

「成長した電かぁ。あたしもちょっと興味があるな」

「どんな感じになるでしょう」

「あたしと似たような感じにはならない気がするな。というか、あたしの見た目は電にはあんまり似合わないっつーか、あたしはほら、どっちかっつったらこんなんだろ?」

 

 今はまた深海棲艦姿の元の服装に戻っている深雪。かなりヤンチャなイメージのそれは、電に着せてもそこまで合わないと深雪は語る。グレカーレもうんうんと頷いた。

 

「イナヅマは絶対カワイイ系だよね。もしくはシュッとした美人さんだよ。ミユキみたいなおっぱいのついたイケメンじゃないよね」

「あたしがイケメンかどうかはさておき、電は美人になると思うぜ。それこそ、姫って感じのさ」

 

 ベタ褒めされたことで電はアワアワと恥ずかしがり始める。想像はしても、美人とか言われることには慣れていない。

 

「もし必要なら、電も力を貸してくれ。そのせいであたしみたいに姿が変わることになっても、あたしはどんな姿でも受け入れるからな」

「……はい、深雪ちゃんがそう言ってくれるなら、電は心強いのです」

 

 

 

 

 そんな時が来るかはまだわからない。だが、あり得ないわけでもない。

 




グレ「ところでミユキ、ニーハイとガーターはそのままで競泳着てみてくれない? あたしやシラクモとお揃いみたいになるから。絶対似合うしエr似合うから」
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