後始末屋の特異点   作:緋寺

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仕方ない緊張

 外は夕暮れ時、うみどりの航行もそろそろ終わりとなるような時間。後始末現場にはあと小一時間程度で到着というくらいであり、すぐに後始末に入るにしても、友軍艦隊として出撃するにしても、先んじて腹ごしらえをしておくべきだということで、少し早い夕食となっていた。

 各々、心身共に休息を終え、いつでも仕事が出来る状態。何が起きても、万全に対処出来ると自負出来るほど。

 

「今日一日中で不安になりそうなところは全部片付けることが出来たわ。この後始末が終わった後は、本格的に襲撃について考えていくことになると思うから、肝に銘じておいてちょうだいね」

 

 深雪達がファッションショーをしている間に、裏側ではいろいろと動いていた。

 

 そのうちの1つが、梅の家庭問題。神威の父の件で反省した伊豆提督は、梅の家族との対談は深雪無しでこなしている。神威の父よりは断然物分かりが良かったこともあり、梅の治療が完了したことを伝えたら、疑うこともほぼせずに安心してもらえたというのが大きい。

 梅もこれには安堵していた。人間を辞めさせられた時には、伊豆提督に対して愛から来る怒りの言葉を浴びせかけたものだが、梅の表情や、実際の検査の値などを見たことで、本当に元に戻ることが出来たと信じてもらえている。

 

 それもあるからか、梅の表情は非常に明るい。重荷だったモノが取り除かれたようで、両親と久しぶりに話し、苦しみを味わうこともなく綺麗に対談が終われたことでスッキリとしていた。

 

「アタシ達だけで乗り込むのは、流石に危険すぎると判断しているわ。何せ、相手は島一つを使っているんだもの。特に怖いのは、()()()()()()()()()()()()()()よ」

 

 伊豆提督の言う通り、今度の戦いは島。上陸作戦になりそうであるということである。

 海上だからこそ容易に運用出来る艤装もあることから、最初から十全な力を発揮することは封じられているようなもの。その上、その場所が相手の本拠地となれば更に苦戦は必至である。

 

「アタシ達の持つ対地攻撃は、その陸地を殲滅するような広範囲の兵器だから、何の罪もない島民すら傷付けてしまう可能性があるわ。それだけは絶対に避けたいところよね」

 

 陸上施設型の深海棲艦を撃破するための対地攻撃は、その陸地に向けての掃射というカタチを取るモノもある。そういったモノは攻撃範囲が広すぎて、当ててはいけないモノに当ててしまう可能性が非常に高い。

 そもそも対地と言っても、人間の生活がある土地に対してそれを放つことなんて前代未聞なのだ。故に、戦い方はこれまでとは大きく変わる。

 

「軍港で地下施設を襲撃した時のように、小回りの利く部隊による上陸作戦となると思うわ。なるべく陸にあるモノは壊すことなく、でも敵だけはどうにかする、そんな戦いになるわ」

 

 しかし、敵は島民を盾にするような戦い方もする可能性がある。圧倒的に有利な地で、勝利を確実に掴むためには手段も選ばない。そういう意味では、うみどりサイドは非常に不利な戦いを強いられる。

 

 島民のことを何も考えないのならば簡単なのだ。島に対して大規模な空襲を仕掛けるだけで終わらせることが出来るだろう。そこにあるものを手当たり次第破壊し、島そのものを沈没させるくらいの火力を集結させてしまえば、ここまで考えることなく終わる。

 だが、そんなことを考えることはあり得ない。その島には、まだ救いを求めている者だって存在しているかもしれないのだから。その可能性が僅かにでもあるのならば、その者を救うために尽力するのがうみどりだ。

 

「部隊は今こちらでも決めているところだけれど、これまでとは違う選出になるかもしれない。その辺りは今のうちから覚悟していてちょうだい。先に言えるのは、大発や内火艇、特に後者が使える子は優先順位が高くなると思ってくれるとありがたいわ」

 

 うみどりの中でそこに該当する者はそれなりにいる。改二となったことで運用が出来るようになった深雪や、あらゆる兵装が装備可能となっている特異点の電もそれに該当する。そして、前線に出撃するという意味では非常に珍しいことになる者も。

 

「……もしかして、睦月も最前線の可能性あるにゃし……?」

「梅もですね……大発使えますし」

 

 そう、どちらかといえば非力であり、前線よりは後衛でサポートに徹することの方が多い睦月と梅も、今回ばかりは主力も主力。上陸用舟艇により対地のための戦力を送り込む、最も重要な立ち位置に置かれる可能性が出てきたのだ。

 

 

 

 

 早めの夕食を終えてもまだ現場には到着しておらず、各々それまでの時間は自由に待機している。自室に戻る者もいれば、既に工廠に向かう者もいた。

 そして一部の者は食堂で待機中。食後のデザートをゆっくりと食べながら、コレからのことを考えていた。

 

「睦月に出来るかにゃあ……これまでの戦いとは全然違うぞよ……」

 

 その内の1人、睦月は、先程の話題によって途端に緊張感に苛まれていた。これまでもそれなりに戦場に立つことはあったが、ここまで重要な、しかも前代未聞な戦術と、未だにその戦術に未知の部分が多い敵との交戦が予想される戦場は初めてである。

 これまでの戦いは、なんだかんだ勝利をもぎ取ってきたものの、それはこれまでの積み重ねというよりは、その時その時の対応で、誰かが傷付きながらもどうにか状況をひっくり返すというモノばかり。

 

「島というくらいですから、部隊の規模もどうしても大きくなりますよねぇ……出られるヒトは全員出るくらいでないと手が足りないくらいには」

 

 睦月と同じように、梅も小さく溜息をつくくらいには緊張していた。

 梅は前回の戦い、特異点Wでの戦いで、その『解体』の曲解を扱うためにいち早く最前線というものを経験しているが、それはそこに現れる敵が全て()()()()()()()()()だからどうにかなった。極端なことを言ってしまえば、目につく敵を全て『解体』してしまっても、何の痛みもなかった。

 しかし、島での戦いは間違いが起きると無辜の民すら傷つけてしまいかねない。というよりは、何の武器も持たない民との戦いにもなりかねない。それが苦しい。

 

「実際にやるのはもう少し先なんだ。それまでに覚悟キメるしかないんじゃねぇか……?」

「それはそうなんだけどぉ……」

 

 深雪に言われても、睦月は緊張感を取り除くことは出来ない。むしろ余計に意識してしまっていた。

 

「ハイ、緊張シテル時ハ、コウイウノガイイミタイヨ」

 

 そんな睦月と梅に、セレスが出したのはチョコレートとバナナのちょっとしたデザート。何やらリラックス効果があるものらしく、今の2人にはちょうどいいモノである。

 軍港都市でそういう本まで買ってきていたようで、フードセラピーに近しいことまでやってのける。食の探究者はここに来て一味も二味も違う成長を見せていた。

 

「ありがとにゃしぃ……ああ、染みるぞよ」

「セレスさんの思いが伝わってくるようですねぇ……」

 

 そのデザートを頬張り、舌鼓を打つ2人。美味しいモノを食べればその分心は穏やかになり、それにリラックス効果があるのなら尚更であった。

 

「貴女達ハ、コレマデモ頑張ッテコレタノデショウ。ナラ大丈夫ヨ。ソレダケノ()()ハ持ッテイルンダモノ」

 

 微笑みながら2人を褒めるセレス。その言葉を聞いて、深雪ももっと盛り上げていこうと言葉を紡いでいく。

 

「2人は素人じゃあねぇんだ。それに、ハルカちゃんだって2人の実力を考えて部隊を組んでくれるぜ」

「なのです。電からしてみれば、2人は大発の専門家、しかも超がつくほどの熟練者なのです。頼れる大先輩なのですよ?」

 

 ただ慰めているとかではなく、本心からの言葉である。梅は深雪が所属するまでは一番の新人だったというが、それでも大発動艇の扱いに関しては深雪と比べれば段違いに上手い。一日の長があると言える。睦月ならば尚更だ。

 そんな2人を、深雪も電も心から尊敬している。自分には出来ないことが出来る、後始末屋の先輩だと。同じモノが装備出来るようになったところで、その扱い方に繋がるのは時間。経験の差が如実に出てくる。本来とは違う戦いだとしても、長年繰り返してきた基礎の部分があまりにも違いすぎるので、特に睦月には敵わない部分が非常に多いのだ。

 

「期待シテルト思ウト緊張シチャウノヨネ。ダカラ貴女達ハ、()()()()()()()()()()()()()ト思エバイイノヨ。私ダッテ新シイメニューニ手ヲ出ス時ハ緊張スルモノダケレド、コレマデノ積ミ重ネヲ考エレバ自分デモ出来ルッテ思ッテ、前ニ進ミ出シテルノヨ」

 

 この品だってその一環だと、2人の食べるデザートを指差す。フードセラピーのような食事の提供は、これまでほとんどしたことがない。しかし、今やった方がいいと思ったから、成功するかしないかは度外視して進み出た。

 食堂と戦場では、失敗した時の被害の度合いがまるで違うので、それがイコールで繋がるかと言われればそうではないかもしれないが、少なからずセレスの言いたいこと──これまでやってこれたのだから次も大丈夫だという気持ちは2人に届いた。

 

「うん、うん、なんかすごく心に響いたぞよ」

「勇気を持って前に踏み出すことが大事大事、ですね」

「言われてみればやることはコレまでと変わらないもんね。それに、戦いは攻める以外にもあるし」

 

 大発動艇の使い方は多種多様。それこそ、罪のない島民を島から脱出させるために使うことにもなるだろう。それはコレまでの戦い方とほとんど変わらない。

 

「最前線は怖いけど、睦月は艦娘、こういう時に勇気を出さずしてどうするにゃあ!」

「ですねぇ。次の戦いは、人々を救う戦いですからねぇ。より艦娘って感じの戦いですから、緊張よりも頑張るって気持ちを強く持たなくちゃですねぇ」

 

 緊張ばかりだった2人に、少しだけ余裕が戻ってきた。まだ本番は先であっても、今からこの心持ちが出来るのならば充分だ。

 

「梅ちゃん、今度から時間があったらVRで大発の訓練しない? 本番に向けて、いろんな状況を想定するにゃし」

「いいですね。大発が使えるヒト達を呼んで、みんなでやってみましょう。ハルカちゃんもきっと許可をくれるはずです」

「お、ならあたし達もそれに参加してぇな。あたし達も大発使えるし」

「なのです! みんなを救うための訓練なら万々歳なのです!」

 

 この睦月の提案は、伊豆提督が快く許可を出してくれることになる。事前の練習が出来るのならば、やっておいて損はないし、そこで自信がつくのならば本番でもより一層力を発揮することが出来る。

 誰が参加で誰が不参加はまだ決まっていないにしろ、やっておくことに損は無いのだから。

 

「私ハココデ応援スルコトシカ出来ナイケレド、出来ルコトハ全部ヤッテアゲルワ。貴女達ニ必要ナノハ、美味シイ食事ヨ」

「いやそれマジでその通りだ。美味い飯があれば、ずっと頑張れるからな」

 

 非戦闘員であっても、うみどりの一員として貢献してくれるセレスにも感謝。彼女がいるからこそ、うみどりでの生活が明るいと言っても過言ではない。

 

「頑張るぞよー!」

「おーっ」

 

 睦月と梅は、デザート効果もあってか、先程の緊張から打って変わってにこやかであった。

 

 

 

 

 島での戦いは近い。それまでにまず必要なのは、絶対に勝つという心持ち。睦月と梅は、それをいち早く手に入れることが出来たと言えよう。

 




うみどりで大発や内火艇が使える艦娘はそれなりにいます。島での戦いでは、その面々がキーパーソンになるかもしれません。
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