後始末屋の特異点   作:緋寺

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産めよ殖やせよ

 後始末の現場に到着したうみどりは、忌雷の存在からそこでついさっきまで戦闘を行なっていた部隊を検査と称して呼び寄せた。

 そして、部隊の1人である駆逐艦浜風が寄生されていることをイリスの眼をコピーしたフレッチャーと忌雷を嗅ぎ分ける力を持つムーサが突き止め、2人の尽力により艤装に忌雷が詰め込まれていることも判明、浜風が本性を現したところで、既に覚悟を決めていた深雪が背後から忍び寄って治療を完了させた。

 

「……全く気付きませんでした。浜風さんに何が起きていたのでしょう」

 

 その部隊の旗艦である鳳翔が青い顔をして呟く。ここでうみどりに呼ばれておらず、そのまま鎮守府に戻っていたらどうなっていたか。艤装に詰め込まれていた忌雷が鎮守府で解き放たれ、大変なことになっていたことは簡単に予想出来る。

 その忌雷が何を引き起こすかはわからない。しかし、浜風の豹変ぶりから、()()()()()()()()()()()ということは理解出来る。鳳翔とて、知らず知らずのうちに浜風と同じようにされていた可能性があると思うとゾッとした。

 

「アナタ達は知ってしまった。なら、アタシ達の知ることを更に知ってもらわなくちゃいけない。アタシ達限られた者が持つ、極秘中の極秘であることを」

 

 何事もなければうみどりだけで対処出来ていたのだが、こうなってしまったら知ってもらうしかない。一種の共犯者を作るような行為なのだが、むしろ知らされなければ納得も行かないだろう。

 

「ンフー、大漁大漁♪ マサカ2()0()()()()()()()()♪」

 

 だが話す前にこの言葉に伊豆提督も目を丸くしながら驚いた。あまりにも多すぎる数。大きめなタッパーはパンパンに膨らみ、むしろ2つ目、3つ目と用意されていたほど。それを運んできていたのは、ムーサと同じように艦娘のような姿になってバレないようにしていた副官ル級である。海外の戦艦の姿を模しているようで、本人も不快ではないようなので安心。

 

「に、20体!? そんなにいたのかよ!?」

「ウン、ホラ」

 

 驚く深雪にムーサがタッパーを見せつけると、その中でもうぞうぞと蠢いている忌雷が嫌でも目についた。大きさは特機と同じくらいの握り締められるくらい。

 ここの浜風は乙改と呼ばれる改装が施されているため、艤装が少々大きめ。その隙間という隙間に忌雷が忍び込んでいたようなモノなので、それだけの数が見つかることなくここまで運び込まれてしまったようである。

 

 その数に一斉に襲い掛かられたら、対策をいくつも講じているうみどりですら被害が出かねない。それを事前にどうにかすることが出来たムーサという存在に、ここにいる全員が助けられたと言えよう。

 

「私ガ掴ミカカッテモ逃ゲヨウトモシナカッタンダヨネ。サッキマデ寝テタノカナ」

「休眠状態ってヤツだったのか……? 何かがきっかけで目覚めて、一気に行動を起こすとかに設定されてたとか」

「無くはないと思うのです。それこそ、今まさに引き金が引かれて動き出そうとしてたところにムーサさんが現れたから……」

 

 ムーサは忌雷の天敵として生まれたようなモノ。それ故に、忌雷に寄生されることなく、忌雷からも恐れられるような存在なのかもしれないと、電は憶測を語った。深雪もその話を聞いたらそんな感じがしてきている。ムーサは自分の性質をしっかり理解しているわけではないが、とりあえずこのタッパー3つ分の忌雷が食べられればいいと満面の笑みである。

 

「危ないから誰にも寄生させないようにしてくれよ。あと、取り逃がしはないよな?」

「ウン、大丈夫。匂イハココカラト、深雪ノ手カラシカ感ジナイカラ」

「……ああ、そうか、コイツか」

 

 こうやって話している間も燻し続けられた浜風に寄生していた忌雷。時間が立てばすっかり真っ白に染まり、忌雷は特機へと生まれ変わっていた。この特機は7号として深雪を助けることになる。

 

「すみません……少し頭の中で整理が出来ません。あまりにも突飛な話すぎて、理解が追いつかないようです」

「そうよね……それが普通だと思うわ。これは一から説明しないといけなそうね……」

 

 慣れてしまったうみどりの面々と違い、一般的な鎮守府とその艦娘達は、今ここで繰り広げられている光景が未知の世界すぎる。浜風の身に起きたことから、忌雷の存在、そして深雪やムーサのことまで、全てを知らないと繋がらないだろう。

 

「でもその前に、浜風ちゃんには起きてもらわないといけないわ。治療のショックで気絶しちゃったみたいだけれど、これまでそんなことはなかったから、これもまた何かが変わったのかもしれない」

「は、はぁ……浜風さんが一番理解しているはずですし、本人から聞くのが早いのですね」

「ええ、そういうこと。浜風ちゃんには少し嫌な思いをさせることになるかもしれないけれど」

 

 一時的にも支配下に置かれてしまっていたのだ。その記憶は基本的には残るのだから、精神的にも苦しい状態になることが目に見えている。

 だが、本人から聞かなくては話が進まない。何故なら、今後の戦場では常にこれと同じことが起きかねないという危険性が現れてしまったからだ。

 

 

 

 

 浜風が目を覚ましたのは、それからすぐ。一時的な気絶だったため、奥の部屋に連れて行くなどする前に、ハッと目を覚ました。

 工廠のど真ん中と言ってもいいような場所、ストレッチャーで運び出されようとした瞬間だったため、そこで待機していた艦娘達の注目の的になってしまっていた。

 

「浜風さん……気分は大丈夫ですか?」

「鳳……翔さん……」

 

 鳳翔の顔を見た瞬間、浜風の顔が一気に青ざめた。そして、身体を急に動かしたことでストレッチャーから落ちかける。

 

「おっと、危ねぇぜ」

 

 それを止めたのは深雪である。浜風にもう何もないのは、フレッチャーやムーサによって保証されてはいるのだが、その2人でも見透かさなかったことが起きていた場合、対処出来るのは特異点である深雪と、その補助装置である電くらい。そのため、浜風に最も近い場所で待機していた。

 浜風は深雪の顔を見たことで、青くなっていた顔が更に青くなる。忌雷に寄生されていたということは、特異点の存在を忌雷によって嫌でも知らされていたということ。そして深雪がそれであることも、鳳翔達は知らずとも知ってしまっている。

 

「あ、貴女、特異点……」

「ああ、そりゃあ知ってるよな。つーか、()()()()()()()()よな」

「……はい……」

「まだあたしのこと、始末しなくちゃいけない敵だと思うか」

「そんなこと、ありません。貴女は私を救ってくれた恩人……でいいんですよね?」

 

 浜風だけは、自分の身に起きたことなので理解している。鳳翔達は同じ部隊なのにちんぷんかんぷんである。

 

 深雪が真っ先に聞いたのは、特異点に対しての敵意。それに躊躇いなく持っていないと言い、かつ深雪のことを恩人だと思っているのならば、もう心配はいらないだろう。

 

「浜風ちゃん、辛い思いをさせるかもしれないけれど、話を聞いてもいいかしら。苦しいなら一度休んでからでいいわ。無理強いはしない」

「貴方は……うみどりの提督……ですね。はい、大丈夫です。私には話をするだけの理由があります」

 

 自分の立場をいち早く理解し、浜風はストレッチャーから降りた。身体はもう大丈夫だと頭を下げ、息と心を整えようと深呼吸。

 

「大丈夫か? 話せるってのはいいことだけど、無理してたら意味ないぞ?」

「なのです。休みたいなら休んだ方がいいのです」

「あたしもちょっと無理矢理やっちまったかもしれないからな……」

 

 2人の特異点の優しさに触れ、先程まで植え付けられていた感情に対して罪悪感が溢れ出す。だが、浜風は自らを奮い立たせるように自分の頬を叩き、よしと気合を入れるように前を向いた。大丈夫ですと、2人に小さく笑みを向ける。

 罪悪感はあれど、それに苛まれ続けていたら前に進めない。せめて報いることが出来るように、落ち込むなら話した後にと、震える脚を抑えつける。

 

「浜風ちゃん、話してくれるならストレッチャーに座って。身体を落ち着けた状態で、もう一度深呼吸」

「す、すみません……」

 

 言われた通りに、浜風はストレッチャーに腰掛ける。今度その身体を支えたのは鳳翔。わからないならわからないなりに受け入れようと、まずは浜風のことを思って支え、温もりを与えることに徹した。

 先程はあんなことになっていたが、だからと言って浜風を見捨てるとかそんなことをするわけがない。仲間の身に何があったのか。それを知ったところで考え方は変わらない。

 

「……自分がおかしくなったのは、ここでの戦闘中です。私、少しだけ被弾してしまっていますよね。その時にです」

 

 浜風が言う通り、彼女には血塗れになるような傷では無くても、治療は必要な程度の傷がある。

 

 何でも、今回の戦場での姫は装甲空母姫だったそうなのだが、噂通りの改造個体。航空戦から砲雷撃戦までなんでもござれの、いわば姫となったレ級。本来の個体よりもわかりやすく強化されている。

 その激しい砲撃が浜風を掠め、腕に軋みが出る程の衝撃を受けた時、浜風の中で何かが変わったのだという。

 

「寄生……‥と言われればそうなのかもしれないとは感じます。戦闘中、まず注意をしていなかった背後から、何かに()()()()感覚がありました。ですが、そのダメージの方が強かったので、声も上げられなかった。すると……もうご存知の通りです。私の頭の中はそれまでとは違っていました」

 

 特異点を始末するための、出洲一派の尖兵として書き換えられてしまったのだと浜風自身が語る。出洲という名前も、当然阿手という名前も聞いたところでわからない。しかし、やらねばならないことはその時にはっきりしていた。特異点を始末するための行動である。

 

「私の中にあったのは……私と同じモノを増やすことでした。その場で仲間達に同じことをするのではなく……鎮守府に戻ってから、増やした()()を解き放つ……算段でした」

「じゃあ、アナタがこの忌雷を生み出した……ということなのかしら?」

「はい……私に与えられた力は……増産……だと思います」

 

 寄生された者が手に入れることになる曲解。浜風が手に入れたのは、『増産』の曲解。『量産』や『船渠』とほぼ同じと言っても過言ではないその力は、それらとは少々違うたった1つのことに特化した能力。()()()()()()()()である。

 ある意味では、米駆逐棲姫が軍港都市で敢行した、自らを増やし続ける『量産』が最も近い。量産された者も同じ力を持ち、そこから次々と増殖していくのが米駆逐棲姫の『量産』であるが、浜風が与えられたのは忌雷を増やして寄生させ、思考を支配した後にそこも生産ラインに変え、そこからさらに忌雷を増やすという、用途の固定化をしたことによるねずみ算方式の増殖。

 それがあったからか、浜風は寄生されていても深海棲艦の姿をしておらず、曲解能力に特化した変貌を遂げていた。おそらく、深海棲艦に変化させる以上に、その増産に特化した変化を促したのだろう。

 

 そこから考えられる、忌雷の新たな性質。深海棲艦にせずとも、艦娘のままで意のままに操ることが出来る、より解決困難な増殖。産めよ殖せよを実現した、非常に厄介な攻撃手段。

 

「艤装を装備している間、一定の時間でその中に私の中に入れられたナニカを生み出せます……それが誰かに寄生すれば、その人も私と同じになり……また増えます」

「姿は変わらず、水面下で増え続ける生産ライン……艦娘のままで敵となり、それが延々と繰り返されて……最後は周りは全員敵……ということになるのね。最悪よ」

 

 伊豆提督は頭を抱えるように溜息を吐いた。

 

 

 

 

 忌雷である以上、対策は出来るはずである。寄生されている者が見分けられるのだから、そんな大惨事は事前に解決が可能なはずだ。

 




艦娘のままというところがミソ
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