治療を施した浜風から語られた、敵の攻撃の全容。寄生された者は姿を変えることなく『増産』の曲解を得ることで、自らの艤装の内側で忌雷を生産、そして鎮守府でそれをばら撒くことで、さらに生産ラインを拡張して忌雷を増産し続ける。
そんな力を持つ者を野放しにしてしまった場合、歯止めが利かなくなる程に敵が増える。浜風をここで止められたことは、その生産ラインの拡張を未然に防ぐことが出来たと言える。
「少なくとも、アナタ達の鎮守府はこれで被害を食い止められたと思っていいのよね。浜風ちゃん、アナタが初めて寄生されたと言えるんだもの」
「そ、そう、ですね。どんな原理かは知りませんが、私が寄生されていることを見て判断したんですよね。他の皆さんに害が無いのなら、まず私が最初の被害者だと言い切れます。こんなことが成功していたら、鎮守府全体があっという間に寄生されているでしょうから」
自分で言いながらもゾッとしている浜風。鳳翔を始めとした仲間達がまだ無事であることが、増産が自分だけである何よりの証拠。自分ではない誰かが既に持ち帰っているのならば、もう鎮守府はとっくにパンデミック状態である。
「……さて、それじゃあ……アナタ達にも全て知ってもらうわ。今この海で何が起きているか。アナタ達の鎮守府の提督にも聞いてもらわなくちゃいけないわね。タブレットを持ってくるわ」
「はい、お願いいたします」
「みんなは後始末を始めてちょうだい。規模は見た通り中規模。他の忌雷が残骸に潜んでいるかもしれないから、充分に注意して、前の現場でもやった通り確認しながら進めて」
事情聴取も落ち着き、後始末がようやく開始。うみどりの本来の仕事はこちらなのだから、まずはこちらを終わらせなくては先には進めない。
艦娘達が後始末をしている間に、鳳翔艦隊は一部は入渠、一部はあちら側の提督と共に今起きている戦いについてを聞くことになる。
フレッチャーやムーサにより、もう今の現場には忌雷が無いことが確認され、順調に進む後始末。中規模であることの他に、カテゴリーBの面々がかなり慣れてきたことがあるため、予定よりも早めに終わることが出来そうであった。
既に日が暮れた状態から始めたため、終了予定時刻は翌朝、明るくなってからかと思われていたものの、このペースなら後始末を終えた後に日の出を見ることが出来るのではと考えられている。
「あっちではずっと話聞いてるみたいだな」
作業をしながら工廠の方に目を向ける深雪。そこでは、執務室などに移動するわけでなく、タブレットをそこに持ち込んでこの世界の裏で起きているとんでもない事件について説明をしている伊豆提督の姿がある。
鳳翔達、そしてタブレットに映るあちらの提督──深雪はコレまでお目にかかったことがない若い女性の提督──の、何処か信じられないという表情が印象的だった。
「電達のことも説明されているのですよね」
「だろうな。特異点なんて言われて、どう思ってんだろうな」
普通に艦隊運営をしながら第三次深海戦争を戦い抜いているならば、まず聞くことがない単語の目白押し。その中でも特異点に関してはさらに聞くことがないであろうモノ。
全ての要素を持ち合わせる者、願いを叶える実の端末という存在は、御伽噺にしか聞こえない。しかし、今回は浜風の身に起きたことを考えると、どうしても信じざるを得ないことにもなる。
「特異点だけじゃないっしょ。今までの常識がひっくり返ってんだもん」
「ええ、グレ様の仰る通り、我々の艦隊は普通ではございません。この白雲もそのうちの1つにございます故」
確かにそうだと深雪は笑う。第二世代の純粋種に、これまでは始末前提だったカテゴリーM、それに深海棲艦の姿に改造された者、トドメは深海棲艦そのものまでもが艦隊の仲間として存在しているのだ。
うみどりという環境が、初めて見る者には
「あたしや電もそうだけど、ここにいるのは全員、普通の鎮守府じゃあ考えられない奴らだもんな。巻き込まれて、乗り越えて、そのせいで変えられて……それでも前向きに生きてんだ」
「なのです。見た目は違っても、みんな同じなのです」
「だよな。なら、あの艦隊とも仲良く出来る。あっちの提督ともな」
被害を受けたこともあり、鳳翔達は確実にうみどりに味方をしてくれるだろう。戦場は過酷で、戦力としての手伝いが出来るかはわからずとも、仲間として後ろについていてくれるだけでもありがたいもの。
だが逆に、真実を知った後にうみどりと関わりたくないだなんて言い出されたら、気持ちはわかるがショックでもある。ここまで危険だとそういうことも言い出しかねない。
「まぁ、それはあたし達には何も言えないよね。戦力増えてくれればラッキーくらいに考えておけばいいんじゃない?」
「だな。こんな意味わかんねぇ攻撃してくるような輩とぶつかり合うのは怖ぇって考えてもおかしかねぇよ」
「あちらからしたら、
これまで深雪が出会ってきた提督は、伊豆提督の関係者だったこともあり、うみどりのやり方に理解を示すだけでなく、共に歩こうとしてくれる強い者だった。
だが、顔だけしかまだ確認出来ないがあちらの女性の提督は、伊豆提督とはビジネスな関係。後始末屋に対して信頼を置いていても、そんな未知の戦いとなると話は別、となるかもしれない。艦隊を危険に晒すことは出来ないと、一歩引く可能性も否めない。
「白雲としてはですが、素人には手出し出来ぬ者と考えてはいます。軽い気持ちで手助けしようと考えられても、被害が増えるのではと」
「うわ、それ何も言えねぇ……。いい腕持ってても、知らない内に寄生されてるってことが出てきちまってるんだもんな。それにあたしらがコレまでに戦ってきた奴らのこと考えると……」
思い返してみれば、コレまで相手取ってきた敵は、まともな戦いをすることの方が少なかった。そもそも自己修復をし出すモノから始まり、建造や開発をその場でするモノ、自身の姿を完全に消すモノ、そして仲間をことごとく洗脳していくモノまで、考え出したらキリがない。
艦娘という仕事でやるはずの海戦とは別のベクトルでの戦いが基本になってしまっている。砲雷撃戦が得意であっても、それだけでは足を掬われることにしかならない。
悪く言ってしまえば、軽い気持ちで入ってこられても足手纏いにしかならない。
「仲間は欲しいけど、かなり厳しいってのはあるよな。向こうだって、そんな敵だって聞いたら尻込みしちまうかも」
「なのです……でも、無理して危険に足を踏み入れてくるよりは、一歩引いてくれた方がいいと思うのです。被害が増えるよりは」
「だよねー。あたしもそっち派だよ。慎重に考えてほしいもんだねぇ」
余計なことをして手間をかけさせないでほしいと、グレカーレがケラケラ笑いながら語る。勝手に踏み込んできたらそうなる可能性もあるのだ。伊豆提督もそのように伝えることもするだろう。
「まぁ……最後の判断はあっちの司令だ。あたし達にゃ何も言えねぇ」
結局のところ、深雪達はそれをどうこう言えるほどの権利を持ち合わせてはいない。決断は任せるしかなかった。
一方、伊豆提督からの説明をされている鳳翔の艦隊。そして、それを統括する女性の提督。
流石にこの機密を伝えられるということで、その話には瀬石元帥も加わっている。うみどりの独断でそこまでは出来ない。
『……り、理解が、おっつかない……』
「気持ちはわかるけど、これが現実なのよ。有道ちゃん」
『そ、そうなんでしょうけど……』
頭を抱えている女性提督──
一般的な常識の範疇にある戦いならば、非常に優秀な成績を収めているのだが、今回のような
『むしろ混乱しない方がおかしいわい。つまり、順応している彼らの方がおかしい。君は間違ってないんじゃ』
『元帥にそう言ってもらえると……って、それ胃薬ですよね』
『うむ、最近の常備薬。伊豆君の話聞くと胃が痛いことばっかりでの』
こればっかりは仕方ないと、伊豆提督も苦笑。
「事実、私もその治療の過程……というよりは、浜風さんの変貌を見せつけられました。信じる他ないです」
『ホッショさんが冗談言う人じゃないのはわかってるよ。というか、こんな状況で、こんな時間に連絡寄越してきて、こんな荒唐無稽な話をして、最後にドッキリでしたーとか言われても常識疑う。元帥までグルになってるなら尚更。不信任案叩きつけてる』
有道提督も胃薬常備組になるのではと些か不安になりつつも、話を続けていく。
「有道ちゃんの鎮守府は、アタシ達が目星をつけている敵本拠地の島からかなり……というか一番近い位置にある鎮守府なの。近いと言っても、目と鼻の先ってわけじゃなくて、担当海域の外にあると言っても過言ではないんだけれど、それでも直線距離だけで言うなら近いの」
『つまり、今後も狙われかねない……ということになります?』
「正直、否定は出来ないわね。何せ、あちらがやり方を変えてきたから。特異点を直接狙わないのは前々からだったけど、それでも襲撃を繰り返してきたくらいだからまだマシだった。でも今回は、全く無関係なところから自分の支配下に置いて、周囲から孤立させようって算段な気がして仕方ないわ」
『感染拡大みたいなモノとか、何処のゾンビパニック物の映画なんですか……』
気付けば周りは全て敵。増産によって全員が生産ラインとなり、次々と数を増やしていくだなんて、ゾッとするなんて言葉ではもう言い表せないレベル。
しかも忌雷の寄生は艦娘に対してはそれでうまく行くが、
『私、本当に命救われたんですね……一歩間違ったら私もあっち側……どころか、生ける屍だったなんて……』
「そんなことやりながらも平和を謳っているからタチが悪いの。このやり方の何処が平和なんだか」
呆れた口調の伊豆提督。だがそれに対して瀬石元帥は何やら考えているような表情。
『……いや、違うかもしれんが……』
「どうされました?」
『今のこのやり方、確かにあまりにも強引すぎるからのう。ちょっと思ったことがあっての』
瀬石元帥が改めて自分の考えを口にする。
『このやり方、
新提督、有道恵那ちゃん。苗字は毎度お馴染みオリンポス十二神からアルテミス、名前はそのローマ神話対応のディアナから。ちょっと読みを変えたり、母音を持ってきたりしています。