『このやり方、
鳳翔艦隊を管轄している鎮守府の長、有道提督に現在の過酷な戦いの全容を話している最中、瀬石元帥が不意にそんなことを言い出した。
『今回はこれまでに輪をかけてやり方が酷い、かつ雑だとは思わんか』
「それは……確かにそうですが」
『出洲がこういうことをしないとは断言は出来ん。そもそも、出来損ないを軍港で使ったのは彼奴等じゃろう。しかしじゃなぁ……こんなことは思いたくはないんじゃが、明らかに
それはそうかもしれないと伊豆提督も思った。これまでも特異点を追い詰めるために多種多様な戦略でうみどりを攻撃してきているが、基本は研究の邪魔をするであろう特異点、深雪を始末するために動いていた。
軍港都市での『量産』の曲解は酷いモノであったが、それでもそこに深雪がいるからという理由での攻撃。
しかし、今回の忌雷のばら撒きと生産ラインの増強という、どちらかといえば深雪を見ていない戦術をとってきた。最終的には特異点の始末に繋がるのかもしれないが、それまで以上に人間を人間として見ていない、とりあえず全域にばら撒いて数打ちゃ当たると言わんばかりの雑なやり方。
実際そのやり方は効率がいいだろう。だが、仮にも目指す平和のために特異点を始末すると言っている者が、明らかに平和を乱すやり方をするのは如何なモノか。
『その、私も今ここで初めて聞いたわけですけど、元帥の言いたいことはわかるというか。このやり方は、これまでとは違いますよね』
「アナタもそう思う?」
『はい。聞いてる感じですけど。これまでって、特異点に与するモノは敵だーって感じのやり方でしたよね。軍港の戦いは聞く限り滅茶苦茶ですけど、それでもそこに特異点がいるから、巻き込んじゃってゴメンねくらいの気持ちはあったのかなって思います。でも今回は私達その特異点というのを知らないのに狙われたんですよね?』
これがこれまでとの決定的な差。特異点にまるで関係ない者達すらも巻き込んで、命の保証すらしない。
米駆逐棲姫の『量産』も大概だったが、それでも市民の命を奪ってはいない。市民には傷がつけられないという考え方を逆手にとって、盾にするような戦術はとっているのでどっちもどっちだが。
このやり方は盾にすらしない。最初から命を無駄に消費し、艦娘には洗脳を施し、人間は出来損ないという生ける屍に変え、特異点を徹底的に追い詰めるための兵隊を作ってやろうという、あまりにも粗雑な策。
「焦り……ですかね。失敗続きで後が無くなったか、それとも……」
『プライドが傷付けられたか、じゃな。儂はこっちだと思うがね』
断言するわけではないが、瀬石元帥は阿手の性格上、そういうことを考えると思うと語る。
第二次深海戦争の際、瀬石元帥と阿手は同じように提督としての戦いをしていた。阿手の当時のやり方、そして性格を、その目で見たことがなくても知っている。
『要はムキになっとるんじゃよ。上手く行かなすぎて癇癪を起こしている子供みたいなものじゃな。阿手は儂とどっこいどっこいの歳なんじゃがなぁ』
『うわ、なんか……その、大人気ないっていうか……引く』
『本人に聞かせてやりたいわい。それでも何かと正当化しようとしてくるとは思うが』
そう聞いていると、伊豆提督も今の阿手のやり方は出洲とは違うと感じている。何せ伊豆提督は出洲と直接顔を合わせ、戦っているのだから、なんとなく出洲のやりたいことと離れているのがわかった。
出洲は歪んでいるモノの本当に平和を目指している。人類全てが次のステージ、高次の存在となれば、戦争などない真の平和が訪れるとして。それ故に、こんな無差別なやり方はしない。
「……もしかして、これまでも出洲と阿手で差し向けてきた敵に差があった……?」
伊豆提督もそんな考えが頭をよぎった。つまり、最初から2人には考え方に大きな違いがあったのではと。
罠を仕掛けるなんてこともちらほらやってくるが、だとしても出洲の刺客と言える者、例えば潜水艦に直接攻めてきた小柄と中柄は、深雪とそれに与する第二世代を始末するということ以外はどうでもいいという考え方。むしろどちらかといえば正面から来ている分、正々堂々とすら感じるモノ。そこに千島棲姫なんていう深雪の心を抉る存在を入れているのは陰険ではあるが。
しかし、それこそ米駆逐棲姫──阿手の思想が含まれている者は、周りの巻き込み方が酷い。前回の特異点Wでの戦いは巻き込まれるモノが無かったために正面からの戦いとなったものの、まるで
『ふむ、それはあるかもしれん。出洲はあくまでも平和のために手段を選ばんという感じじゃが、阿手は
「ですよね……阿手は結局、平和は建前でやりたいことをやっているだけ……に思えます」
『余計にタチが悪いのう……出洲に賛同しているように見せかけて、結局は私利私欲で動いているだけ。出洲より手に負えんよ』
出洲がいいと言っているわけではなく、阿手が輪をかけて悪いと言っている。ここにいる者は全員同意した。
『ともかく、じゃ。阿手はプライドを傷つけられたからかどうかは断言出来んが、もうこれまで以上に手段を選んでこないということじゃな。ならば、こちらも改めて考えねばならんことがある』
「少なくとも、全ての鎮守府に警戒させることですよね。艦娘が発端になりますから」
『うむ。じゃが、そのためにはこれまで隠し続けてきたこの戦いの真相を、全鎮守府に伝えねばならん』
理由がわからないものに対策をしろと言われても混乱するだけ。何故その必要があると聞いたら秘密と言われても納得出来る者なんて普通はいない。真相を知り、そうしなければこの世界は滅茶苦茶になると知ってもらえばまだマシ。
だが当然、それにはメリットもデメリットも存在する。いてほしくはないが、それを知ったことで出洲一派に賛同する者が現れないかという点。そしてもう一つ、特異点という得体の知れないモノを受け入れることが出来ず、深雪を差し出せばそんなやり方をしなくなるのではと、うみどりに敵対する者が出る可能性。
『私は特異点も仲間ですから差し出すなんてことは考えませんよ。そうじゃ無かったら下手したら死んでたし。というか艦娘のみんなを助けてくれるような子の何処が悪い子なんですか。そこにいることで起きる悪いことが全く見えてこないのに、人の命を危険に晒すようなことをしてくる連中の方がよっぽどヤバいですよ』
少しヒートアップしかけた有道提督に、鳳翔が落ち着いてくださいねと苦笑。
「アナタがそう言ってくれるのはとても嬉しいわ。それに深雪ちゃんだって喜んでくれると思う。でもね、世間がみんな、アナタみたいな人間じゃあ無いのよね」
『うむ……困ったことにな。だからこんな巫山戯た戦いが終わらんのじゃ』
『ぐうの音も出ない……』
しかし、こうやって有道提督のように少しずつでも賛同してくれる者が増えていけば、これまで以上に戦いやすくはなるだろう。狙われる可能性も高くなってしまうのは考えものだが。
『ともかく、今はやれることをやるしかあるまい』
「ですね……少なくともここの後始末を終わらせないとアタシ達は動けません」
『うむ。この対策に関してはすぐに考える。周辺警戒だけでは足りんくらいじゃからのう』
既にまた被害が出ている可能性を考えると、悠長なことを言っていられないのも事実。すぐにでもどうするかを考え、行動に移さねばならない。
後始末は進み、時間はおおよそ日を跨ぐほどに。半分近くの後始末が終わり、日の出までには終わるのではという算段がついてきた頃。
鳳翔艦隊は後始末が終わるまではうみどりに滞在する方向に。傷を負った者の処置は終わり、入渠も短時間で終わったこともあり、艦隊は全員が回復し終わっているのだが、この夜の時間で鎮守府に戻るのは些か危険だと判断された。それこそまた忌雷があろうものなら目も当てられない。
「お、みんなもう無事なんだな。浜風も大丈夫か?」
作業中に工廠に立ち寄った深雪が、待機している鳳翔艦隊に話しかける。もう深雪が特異点であることも伝えられているため、その姿を見る目はこれまでとは少し違い、こんなに気遣いも出来る普通の艦娘なのに何故狙われなくてはならないのだという疑問が見え隠れしている。
「はい、おかげさまで。嫌な記憶も一緒に無くなってほしかったのですが」
「……それはマジで思う。無くせるなら無くしたいよな」
浜風の言葉に苦笑しか出来ない。それはうみどりでも常々思っていることだが、むしろそれを背負って生きることで、より強い力を発揮することにも繋がっている。
「話を全て聞きました。貴女が特別な存在であることも」
「ああ、あたしは特異点だ。だからやたらと狙われる。あたしもわけがわからねぇけどな」
ただ特異点と言われても、深雪の見た目は後始末屋の艦娘。他の者とは何も差がない。直接話したところで、違和感も何もない。
「特異点っつったって、あたしはみんなと同じ、今を生きるモンだからさ、特別でも何でもないよ。だから、他と同じ接し方で頼むよ。つーか、特別に見られる方が気分悪いから」
ニカッと笑う深雪に、鳳翔はなるほどと頷いた。
元々伊豆提督などにもそれは言われていた。深雪は特異点かもしれないが、それとは関係なく後始末屋の一員。海の平和を守るため、海を綺麗にするために尽力する、何も特別なことはない艦娘の1人なのだと。
そんな深雪に頼らねばならない状況が増えていることを伊豆提督も悔やんでいることも吐露しており、せめてこうして戦いに巻き込まれていない時くらいは、普段通りに接したいとも語った。
改めて対面して、深雪は特別かもしれないが普通でもあると実感した。その力を誇示するわけでもなく、仲間と共に懸命にやれることをやる。そこに何の差もありはしない。
「何かあったら、私達も貴女の力になります。ここで会ったのも何かの縁。この繋がり、大切にしたいですね」
「ああ、本当に。あたしも勿論力になるからさ」
特異点という存在を知っても、何も変わることはない。恩を仇で返すようなことは絶対にしない。それが有道鎮守府の艦娘の考え方であった。
ひょんなことから仲間が増えることになった。そして、これがきっかけで世界は少しずつ、しかし大きく動く。
有道鎮守府を基点に、ここから一気に情報が拡がることになるでしょう。