後始末屋の特異点   作:緋寺

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元帥の思い

 外が明るくなってきたところで鳳翔艦隊は帰投。そして、うみどりの仲間達はそのまま休息へ。一晩を後始末に使っているのだから、少しでも体力回復は必要である。

 予定では午後には現況を全鎮守府に公開する大きなオンライン対談が行なわれるのだ。そこに万全ではない状態で挑もうものなら、本当に話したいことも話せず、事態が最悪に進んでしまいかねない。いつも通りのガッツリとした睡眠にはならないかもしれないが、眠っておけるだけでも充分である。

 

「……割と緊張はしてんだけどな」

 

 ベッドで深雪が呟いた。両サイドには電と白雲、いつもの光景。だからこそ、こういう時に本音が出せる。

 特異点であるという理由でその対談に参加すると自分でも言ったほどだが、よくよく考えてみれば大人数の人間の注目の的になるというのは初めてのこと。嫌でも緊張に繋がる。

 

「好き勝手言える権利が貰えるっつっても、相手は今まで見たことのないくらいの人数の提督なんだろ。嫌でも緊張くらいはしちまう」

「なのです……軍港で遊んでいた時とはワケが違うのです。全員お偉方というのは、電もちょっと……」

 

 深雪だけでなく、電にもその緊張はあった。深雪の隣で支えると決意しても、これまでとは比べ物にならない程の目に晒される。元々の性格からして、そういうものは得意ではないのだ。むしろ深雪以上に緊張していた。

 

「大丈夫です、お二方。何があろうとも、今回は我々が側にいます。白雲やグレ様だけではなく、仲間が全員で支えます。ですので、大船に乗ったつもりで構えてくださいな」

 

 そんな2人を白雲が支えるように語る。今回は個人戦ではない。これまで以上に仲間がいる状態で進められる。もし言葉に詰まったとしても、他にも言葉を紡げる者が沢山いる。

 辛いと思った時こそ頼ればいい。ただそれだけ。これまでと違い、頼れる者が全員その場に揃ってくれているのだ。

 

 それこそ、大船に乗った気持ちで矢面に立てる。後ろに倒れることは、まず無い。

 

「だな。あたし達は支えられてる。なら、今回はそれに頼らせてもらうとするか」

「なのです。その分、後から恩返しするのです」

「お姉様も電様も、むしろ頼られている分、支えてもらえるのですよ。白雲もその1人なのですから」

 

 これまでやってきたことのお返しが今回のサポート。それを言い出した時雨にも感謝して、深雪達は一度休む。目を覚ました時には、次の戦いの始まりだ。

 

 

 

 

 昼過ぎ、寝起きではあるのだが力をつけなければならないだろうと、セレスがかなり豪華な昼食を用意してくれていた。精神的にも楽しめる食事で、これから始まる人間達との戦いのための英気を養う。

 好きなモノを好きなだけ食べていい。しかし、食べすぎると戦いに支障をきたす。その程良いところをうまく選択して、充分に満足した。

 

「……よし、まずはあたし達だけでも行かないとな」

 

 伊豆提督から他の者達よりも先に来てほしいと言われているため、誰よりも先にレクリエーションルームへと向かう深雪達。

 時雨の提案は採用され、本当に全員が揃ってその話を聞けるように、レクリエーションルームにそれらしい場所を組み立てているとのこと。と言っても、全員がそこで座れるようにパイプ椅子を並べていることと、オンライン対談に顔が映せるように別途カメラを用意しているくらいではある。そのカメラは妖精さんがサポートすることで動かすことも可能。

 とはいえ、そのカメラの向こう側には、この世界で艦娘を管理し、同じように海で戦っている提督達がズラリと並んでいるようなもの。寝る前に感じた緊張は、意識すると余計に増してしまうモノである。

 

「うお……すげぇ」

「これならみんなが座ってお話が聞けるのです」

 

 部屋に到着した深雪達は、早速これまでに無い光景に息を呑む。これまでとは違う戦場。武器を使わない、口だけで勝利を収めなければならない戦い。

 

「ああ、深雪ちゃん達、ごめんなさいね呼びつけちゃって」

「いいよいいよ、必要なことがあるんだろ?」

「ええ。深雪ちゃん、対談が始まる前に、一度元帥と顔を合わせておいた方がいいと思ってね」

 

 特異点の存在を推してくれている大本営の元帥。深雪はまだどんな人間かを知らない。それを本番で初めて対面というのはあまりよろしくないと、むしろ元帥の方から頼まれていた。

 

 むしろ、元帥がこの短い時間で特異点を値踏みする時間であることは、誰もがなんとなく気付いている。深雪ですらも。

 

「わかった。もう話せるのか?」

「ええ、連絡は取れるようにしているわ。本番と同じように、ここに座ってちょうだい」

 

 深雪のためにあてがわれた席は、ズラリと並ぶ椅子の中でも最前列、しかもほとんどど真ん中。伊豆提督とイリスが画面の中央に来るようにはするのだが、深雪の座る位置はその隣となっている。

 常に画面に映る場所、つまりは注目を浴びる場所である。

 

「元帥、深雪ちゃんが来てくれました。今大丈夫ですか?」

 

 深雪達が席に着くと、早速伊豆提督が連絡を始める。今回は元帥とだけ話すことになるが、言ってしまえばこの後実施される対談の予行練習。こうやって話をするというのを知るための時間。

 画面に向かって話すことは、神威の父との対談で経験済み。だとしてと今回は勝手が違う。

 

「深雪ちゃん、この方が瀬石元帥。今の大本営のトップよ」

『改めてそう説明されると、年甲斐なくこそばゆいのう』

 

 画面に映し出されているのは、深雪の中ではあまり見ない老人の姿。気さくに笑っているものの、威厳というものを感じる。机の上にある胃薬は一旦視界から外した。

 

『伊豆君から話は常々聞いておるよ。特異点、深雪』

「う、うす」

『まぁそう緊張せんでもいい。儂がそんなこと言っても落ち着けんとは思うが』

 

 非常に穏やかな空気を維持し続ける瀬石元帥だが、深雪はまだ緊張が取れない。

 深雪だけならまだしも、電や白雲もガチガチである。白雲はどちらかと言えば呪いを抑え込むことに力を使っているようだが。

 

「ミユキ、深呼吸深呼吸。だいじょーぶ、このお爺ちゃんは、あたし達のことを秘密にしながら維持し続けてきてくれた人間なんだからさ」

 

 グレカーレだけは緊張とは無縁の表情で笑っていた。そういうところは、第二世代の強みとも言えよう。何せ、瀬石元帥はグレカーレ達が現役だった頃の提督。第二世代には違う意味で接しやすい相手。

 

『まず先に礼と謝罪を言わねばならん』

「え、え?」

『そりゃそうじゃろ。特に謝罪は必要じゃ』

 

 画面に向き直り、瀬石元帥は深雪に対して小さくだが頭を下げる。

 

『儂等の時代の負の遺産が、あまりにも迷惑をかけすぎている。あの時に対処出来なかった、我々の落ち度でもある。そのとばっちりを、君が受け続けていると思うと、あまりにも申し訳なくてのう。本当に、すまなかった』

「い、いやいや、元帥が謝る必要は無いって! 悪いのはこういうことしてくる奴らなんだからさ!」

『じゃが、今は儂がこの軍の頭を張っておる。責任は儂が取るのが筋というものじゃよ。だから、謝らせてくれ』

 

 責任と言われてしまうと、深雪と何も言えない。だから、こういう時に口を挟むのは、その元帥と対等に話せる者。いつの間にか部屋に入ってきていた、第一世代の猛者である。

 

「もう、瀬石さん。深雪さんが恐縮しちゃってますよ。あんまり深々と頭を下げないでください。仮にも元帥なんですから」

「た、丹陽!? いつの間に来てたんだよ!」

「ついさっきですよ。深雪さんが瀬石さんと話し始めるくらいです」

「じゃあ殆ど同時に部屋に入ってたってことじゃねぇか……」

 

 相変わらずの神出鬼没。しかし、今回のこの登場は少しありがたかった。瀬石元帥とこうやって話しているだけでも、緊張感が増す一方だったのだが、丹陽のおかげで少し落ち着けたのだから。

 丹陽自身も、それが目的でこのタイミングで声をかけている。相変わらずの察知能力である。

 

『おお、すまんすまん。丹陽、その後調子はどうかね』

「ご無沙汰してます。すこぶる順調ですよ。一回くらいは戦いに参加したいんですけど、周りの目が厳しくて厳しくて」

『当然じゃ。君の老朽化は相当限界まで来ておるんじゃろ。儂の先輩の代から生きておるんじゃから、無理せず後輩に任せておくれ』

「そうさせてもらいます。今回は私の仇にも繋がるので、ちょっと抑えが利かないかもですけど」

『抑えろ馬鹿者』

 

 ここの対話の軽さで、深雪の気持ちはより落ち着いた。気さくなお爺ちゃんという印象が強くなり、話しやすい雰囲気に。

 

『少しだけ今回の件を説明させておくれ』

「うす」

『まずじゃが、今からここに来るのは、本当に全鎮守府の提督一同じゃ。欠席者無し。というか、何があっても欠席するなと通達しておいた』

 

 かなりの職権濫用なやり方ではあるのだが、今回はそれほどまでの緊急事態。報告が遅れれば遅れるほど、阿手のやりたい放題に繋がる。出来ることなら発覚したその場から全員集めて話をしたかったくらいらしいのだが、そう簡単には行かないということで、午後からの開催となった。

 

『流石に全員の顔を見ながらというのは無いから安心してほしい。むしろ、その小さな画面に全員が収まるとは思えんじゃろ?』

「言われてみれば確かに」

『大画面になったところでもわからんよ。じゃから、基本的には顔が映っておるのは儂や、その時に話をしている代表になる。全員からの視線は感じることはあるまい』

 

 それを聞いて内心安心した。大人数の視線に晒されるだけでなく、それが奇異の目である可能性もあると思うと、どうしても緊張するし嫌な気持ちにもなる。それが殆ど無いと保証してもらえたのはありがたいもの。

 

『じゃが、世の中には顔が見えないからと言って好き放題言う人間もおる。提督にそんな愚か者がおるとは考えたくはないが、素行が悪い者がおらんとも言えん。それに、特異点という存在をしれば、悪意があろうが無かろうが、君に何かを言う者は出てくると思う』

「……それが人間ってモンだって、あたしは考えてる」

『ほほ、よっぽど君の方が心が出来ておるのう。ならば、先に伊豆君から聞いておるじゃろうが、儂から改めて伝えておこう。自由に反論してよい。深雪だけでなく、周りにいる者達もじゃ。知らぬ者に知る者の言葉を聞かせてやればいい』

 

 更なるお墨付きを貰えたことで、より自由な発言が可能になった。深雪にはもう本当に縛るモノはない。

 

「わかった。気に入らないことがあったら反論する」

『うむ、そうしてくれ。儂は君達の存在を強く肯定する。同じ世界を生きる者として、共に歩む者として』

 

 

 

 

 瀬石元帥とも繋がったことで、深雪達の緊張は少し晴れていた。これならば、全提督を前にしても臆すことはないだろう。

 




元帥は最初から特異点擁護派。そうでなくちゃ、丹陽達の潜水艦を極秘で維持なんてしません。
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