後始末屋の特異点   作:緋寺

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引き継ぎ

 昼食後、深雪と電は揃って水泳訓練。便乗しているのは潜水艦二人に加え、神風と秋月。

 

「電も泳げるようになっておくのはいいことだからな。あたしは実益もあったわけだけど」

「で、ですよね。泳げた方がいいのです」

 

 深雪は既に克服しているが、電は今日が初めての水泳。さらには小柄なことも相まって、皆が足を届かせるプールでもかなりギリギリの体勢となってしまっている。

 そのせいか、泳ぐことに対して若干恐怖心を持ってしまっている。元人間とは違って、()()ことに直結するような行動でもあるからだ。

 深雪はポジティブが振り切れているため、興味からどんどん学習していったが、電は正反対のネガティブ気質。少し怖いと思ったら、身体が動かなくなってしまう。

 

「これがまたスタミナトレーニングにもなるんだよ。神風と秋月はそっちのタイプだろ?」

「ええ、スタミナはずっと鍛えておかないと衰えてしまうもの。定期的に泳ぐようにしてるわ」

「秋月もです。どちらかといえばゆったりと揺蕩う方が好きですが、やっぱりスタミナは大切ですから」

 

 普通に泳ぐことから、立ち泳ぎ、ただプールの中を歩くだけでも、程よい全身運動になりつつ、スタミナを鍛えることが出来るのだから、やらない理由がないようである。潜水艦の二人もこれにはニッコリである。

 

 しかし、電にはまだそれも難しいようで、深雪と潜水艦に教えてもらいながら何とかバタ足などを身につけていく。

 おっかなびっくりではあるものの、少しずつ確実に上達していくのは、やはり純粋な艦娘だからというのはあるのかもしれない。深雪ほどでは無くても、電は並の人間どころか艦娘となれる人間よりスペックが高いのである。

 

「深雪といい、電といい、本当にスペックが高いわよね」

「ですね。これがCとWの違いですかね」

 

 二人が懸命に練習をしているところを眺めながら、なるべく聞こえないように神風と秋月がそのことを話していた。

 カテゴリーCである自分達と、カテゴリーWである二人。その明確な違いが、生まれながらの艦娘であること。それを最初から高スペックに纏まっている純粋な艦娘が仲間にいることが、これほど頼もしいとはと、秋月は感嘆の息を漏らした。

 

「電はまだ知らないのよね、世界の真実」

「そう聞いてますね。タイミングを計っているみたいですけど」

 

 うみどりで活動する以上、いつかは知らねばならない世界の真実。深雪のように休暇によって人間の素晴らしさを知ることが出来ず、さらには電自身がネガティヴ思考であることを考えると、深雪以上に語るのが難しい。

 もし間違って酷い方向に行ってしまった場合、電は再起不能になりかねない。話すにしても、順番を間違えないようにしなくてはならないだろう。

 

「あれだけ懐いているんだから、深雪から話してもらうのもいいかもしれないわね」

「話さないわけにはいきませんからね……。なるべくダメージが小さい手段を考えるなら、深雪さんの口からがいいですかね」

「だと思うわ。精神的な鍛錬はまだ必要だとは思うけど」

 

 そんな電は、泳ぐことの楽しさを知りつつあった。これで深雪は悪夢を成功体験へと変えたと聞いたのだから、自分も頑張ろうという気持ちにもなるようだ。

 もし悪夢の中で深雪を抱きしめられなかったとしても、自ら潜って深雪を救うことが出来る。そのための技術を得るためにと、躍起になっていた。

 せめて、今くらいの気持ちを常に維持出来るくらいに精神的に強くなれたら、電にも知ってもらうことになるだろうか。

 

 しかし、深雪の時と同じように不意打ち気味にカテゴリーMが現れる可能性は常にあるのだ。知っている状態で見るのと、知らない状態で見るのとでは、精神的なダメージは雲泥の差。深雪ですら相当なダメージを受けているのだ。

 そういう意味では、先に知っておくべきこと。なるべく早いに越したことはない。そうなると、それを実行に移すのはやはり深雪となるだろうか。

 

「そこはハルカちゃんにも相談しないといけないわね」

「ですね。きっといいアイディアを出してくれるはずです」

 

 自分達にはどうにも出来ない問題だと、神風と秋月はそこで考えるのをやめた。ここで手出し出来ない自分達が悩んでいても仕方ない。心配ではあるが、最終的には当人の問題となるのだから。

 

 

 

 

 水泳訓練を終えて、夕食、そしてそのまま風呂と就寝というところで、加賀達が風呂に入らずまたデッキに向かう様子が見えた。

 

 本来ならば、夜に哨戒なんてしないし、そもそも出来ない。艦載機の妖精さんは、一部を除いて夜を拒む。夜目が利かないというわけではないのだが、操縦に支障が出るから最初からやらないという方針らしい。

 しかし、そこで除かれていない一部の妖精さんは、逆に夜が得意である者も存在する。今回はその妖精さんの力を借りて、夜間哨戒に出るということとなるようである。

 

「今回の件はマジで入念なんだな。夜に哨戒に行くなんて、初めて見るぜ」

「ここまでガッツリやるようなことは殆ど無いわよ。夜偵まで使っての哨戒なんて」

 

 最古参である神風がそういうのだから、本当に珍しいことをしているようである。

 敵は昼夜問わず、時間帯なんて考えてくれずに襲いかかってくるものであるため、夜も警戒するに越したことはない。夕方に清浄化率が100%を維持出来ていることを確認出来ているため、今からうみどりを動かすというのもあるのだが、それでもここまで入念なのはなかなか無いこと。

 

 そうしている理由は、やはり謎の艦影。野生の獣のように襲撃をしてくるカテゴリーR(深海棲艦)カテゴリーM(ドロップ艦)ならまだしも、明らかに()()()()()()()()行動をとってくる相手には、それなりの対策を取らなければ足を掬われる。

 

「夜襲なんて仕掛けられたら厄介だもの」

「無いと思いたいけどな、そういうことは」

「本当に」

 

 夜に戦う云々ではなく、戦うこと自体が避けたいこと。それがカテゴリーMなら尚更だ。電には見せられない。

 

「それに、()()()()のためにも哨戒は必要らしいわ」

「引き継ぎ?」

 

 神風が深雪に説明したのは、この海域に大本営から調査隊が派遣されるという報せがあったこと。

 午前中に伊豆提督が大本営に報告した際に話題にも上った調査隊。こういうことに対するフットワークはかなり良い方らしく、今日話があってもう動き出しているようである。

 

 その調査隊も、うみどりほど規模が大きいわけではないが独自の艦によって海上を駆け回る者達。うみどりが後始末──戦いの後段階を受け持つのなら、調査隊は()()()()()()を受け持つ。

 自分達で深海棲艦を斃せばいいのにと言われたらそれまでかもしれないが、むしろ調査隊の仕事は他の鎮守府がやらねばならない準備を確実に調べることであり、うみどり以上に戦わない部隊と言える。勿論、緊急時のために武力は持っているのだが。

 少数精鋭の実動部隊であり、うみどり以上に海を駆け回っているのだという。それこそ、入港はうみどりよりも稀で、その存在を知っていても、見たことも無ければ声を聞いたこともない鎮守府すらあるらしい。

 

「そんな部隊もあるんだな」

「私達も一枚岩ではないということよ。それこそ、研究機関だってあるんだもの」

 

 敵を斃すためには、敵のことを知る必要があると、深海棲艦専門の研究機関なども存在するらしい。さらに戦闘に関わらない組織であり、構成員に艦娘はいないほどとのこと。

 なんでも、後始末屋が片付けの際に回収した深海棲艦の亡骸の一部は、その研究機関へと運ばれており、それを使って各種研究を執り行っているらしい。詳細は神風も知らないらしいが。

 

「研究って、なんか悪いことに使ってないだろうな」

「そこは大丈夫よ。大本営の管轄で、物凄く厳しく取り締られているらしいから」

 

 研究という言葉に、真実を知っている深雪はピクリと反応したが、神風曰く、大本営がかなり強めに睨みを利かせているため、問題が起きることは無いと言われている。むしろ、研究は深海棲艦の生態の解析が基本。戦いを早急に終わらせるために、深海棲艦のことをより深く()()ことを重点に置いた組織である。

 

 研究が悪いことに使われていないかどうかの疑問視は、誰にだって起こり得ること。過去のことを知らずとも、その辺りが不安になるのは至極当然。

 

「その話は措いておいて、今は調査隊がこの辺りに来るって話よ。そこに情報が渡せるようにしておきたいから、こんな時間でも哨戒を欠かしていないってことね。ギリギリまで海の状況を伝えておいた方が、あちらも作業がしやすいでしょう?」

「確かにな。あっちだって現場に来ないとわからないこともあるだろうし、ここにいるあたし達がその情報を渡しておく方が仕事は早くなるよな」

 

 そのためなら確かに必要だと納得した。航空戦隊の三人には申し訳ないがと深雪は苦笑する。

 

「そういう人達にも、会えるのですか?」

 

 ここまで黙って話を聞いていた電が神風に問うが、どうだろうと首を傾げる。夜の間に交差することになりそうなため、直接顔を合わせるにしても、深夜に目を覚ましてたまたまかというくらい。

 伊豆提督やイリスはさておき、深雪達艦娘はその時間は流石に就寝中であるため、会話はおろか、顔を合わせることも無理だというのが神風の見解。

 

「せっかくだから挨拶くらいしておきたかったんだけどな。軍港の時みたいに」

「軍港、です?」

「ああ、電を拾う前にさ、補給のために軍港に行ったんだよ。その時は艦娘全員が休暇を貰えて、丸一日そこで遊んだんだ」

 

 電はまだ経験出来ていない、人間社会での休息。今すぐそれをやることは出来ないのだが、深雪からの話を聞いたことで、是非とも自分もという気持ちが強くなった電。

 やはり、守るべき対象である人間のことを知るのは必要だと電も考えているようだ。カテゴリーWだからというのもあるかもしれないが、そもそも優しい性格の電だからこそ、それを知りたいという気持ちは強くあるのかもしれない。

 

「そこにも鎮守府があるのですね」

「ああ、そこの提督がハルカちゃんの友達なんだ。だからあたし達のことも割と優遇っていうか、良くしてくれたんだよ」

「そうなのですね。いつか電もそこに行ってみたいのです」

 

 笑顔を見せる電に、深雪のみならず神風もほっこりしていた。母性といっていいかはわからないが、電が精神的に明らかに良い方向に向かっているのが確認出来ただけでも、安心感が違った。

 

「そういえば、その調査隊のトップもハルカちゃんと顔見知りらしいわ」

「え、マジ!?」

「同じように陸じゃなく海で生活している仲だからかもしれないけど、なんかあっちの人はハルカちゃんの後輩だとかなんとか。詳細は知らないけど」

 

 そういうところでも縁があるようで、尚更出来る限りの情報を提供しようということのようだ。

 伊豆提督がいい先輩として後輩に力を貸していると聞くと、あの人の人柄から考えればすぐさま納得出来ることである。

 

「なら、ちょっと会ってみたいな。余程のことがない限り会えないっぽいが」

「私も話にしか聞いたことがないから会ってみたいかも。悪い人ではないって聞いてるから」

「そうなのですね。ハルカちゃんさんみたいな、いい人だと嬉しいのです」

 

 

 

 

 調査隊に思いを馳せつつ、その作業に期待を寄せる。うみどりに出来ることは全てやった。次は調査隊の仕事である。

 うみどりはうみどりで次の後始末に向かって海を進む。謎の艦影のことからは一旦離れることになるが、そこは慎重に進めていく必要があるだろう。何事もなく、先に進みたいところだ。

 




後始末屋の反対の仕事と言える調査隊。この海域についての調査はそちらに任せることになります。
そこの部隊もうみどりと関係を持つことになりますが、それはまた先の話で。提督がハルカちゃんと顔見知り、かつ先輩後輩の仲というのなら、不安はあまり無いですね。
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