後始末屋の特異点   作:緋寺

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始まる会談

 深雪と瀬石元帥の顔合わせは簡単に終わり、そこからは僅かながらの準備の時間。うみどりへの全鎮守府の反応を見届けるため、うみどりでは全員がレクリエーションルームに集結し、その時を待つ。

 この通信回線は常にオープン。扉が開かれた会議室であるため、この対談に参加する提督達が少しずつだが入ってくる。入るたびにタブレットが小さく音を立てるため、その度に深雪は反応してしまっていた。

 

「これって、あっちには見えてないんだよな」

「ええ、大丈夫。音も聞こえてないから安心してちょうだい」

 

 念のためちゃんと調べて、ミュートになっていることも確認。今ならどんなことを話してもあちらには聞こえないし、カメラも回していないため行動が誰かに伝わることもない。瀬石元帥にもである。

 タブレット上には、確かに見知らぬ顔なんてモノは映っていない。しかし、その画面の横には、知らない名前が次から次へと登録されていく。瞬きする間に10人、20人と名を連ねていくのが、また緊張感をぶり返させる。

 

「この人数相手に話すって、度胸いるな……」

「でも、知ってもらわなくちゃいけないことだもの。アタシだって慣れてるわけじゃあ無いわ」

 

 伊豆提督も苦笑しか出来ない。本当に全鎮守府から参加しているとなれば、まだまだ人数は増えるのだから。

 

 すると、画面上のオンライン会議とは別の枠で突然通信が飛んでくる。そこに書かれている名前は、特に知っている名前。

 

「マークちゃん、アナタも当然参加するわよね」

『勿論っスよ。オレだって提督の1人なんスから」

 

 相手は昼目提督。この会議にも当然参加するが、今回話される内容は、当然事前に知っていること。そのため、昼目提督がするのは、何も知らぬ者に対して、調査隊として調べた情報を展開する役割になる。

 

 うみどりと同様に、世界の真実を隠していたと言われたらそうなってしまうのが調査隊おおわし。しかし、調査隊という存在そのものが()()()()()()という認識があるため、何があっても反論の余地がいくらでもある。

 もしなにかあっても、昼目提督は臆さず反論するだろう。相手がどんな相手でも。

 

『これまでのこと、包み隠さず話すつもりですよ。オジキにも許可貰ってます』

「ええ、それでいいわ。全てを知ってもらう場だもの。それでも隠しておかなくちゃいけないモノは、基本的には無い……わよね」

『オレはそう思ってます。これまで巻き込まれた戦いのことは、全部知ってもらわねぇと』

 

 海賊船や軍港都市、特異点Wでの戦いと、おおわしもそれなりに出洲一派との戦いに巻き込まれている。特に軍港では、昼目提督自身も大怪我を負うことになった、出来損ないの自爆があったのだ。このことについてはしっかり話すべき。

 しかし、話してはいけないことがないわけではない。特異点の存在については話すが、それでも()()()()()()()()()()については公表しない方向で考えている。

 

 特異点Wという調査が完全に出来ていない謎の場所。吹雪によってある程度の情報が貰えている場所。そこに関しては、知る人ぞ知る人になっていればいいという判断。そういう場所があるというのは元帥も知っていることだが、詳細な座標は伝えられていない。元帥自身が断った。

 もしそれを知ってしまった場合、やめろと言っても調査をしようとする可能性はある。そこに願いの実という謎の存在まであるのだから尚更だ。そのため、最初からその情報は開示しない。

 

『よう深雪、ちょっと久しぶりだな』

「うす。調査隊では何もないのか? 島に近いところで活動してんだよな」

『ああ、おかげさまでな。前に忌雷探知機の開発レシピを貰ってっから、毎日鬼のように調べて、誰にも寄生されてないことは確認してるんだぜ』

 

 調査隊はおそらく最も危険な場所にいると言ってもいい。だが、あちらもそんな調査隊に対して直接的に攻撃をすることは無いだろう。堂々と自分達はここを拠点に活動していますと宣言しているようなモノ。

 確証が持てる情報が手に入ってしまった場合、強硬手段で島そのものを潰す者も現れるかもしれない。あちらとしてとそれは控えたいのだろう。

 故に、調査隊はある意味で()()()()()()()()。その視線を固定化することで、余計なことをさせないように。昼目提督もそれはわかっているが、そうしておかなければ余計に動かれる可能性があるため、睨み合いを続ける。

 

『お前さんも元気そうで何よりだ。しんどいこたぁ無ぇか?』

「大丈夫。あたしにも仲間はいるからさ。何かあったら頼ることにしてるよ」

『おう、そりゃいいこった。頼れるヤツにゃあ頼りゃいい。その分お前さんも頼られることになるが、それは別に苦しかねぇだろ?』

「ああ、勿論」

 

 ニッと笑う深雪と昼目提督。お互いに前向きであった。

 

 

 

 

 そこから少しして、もう何人入ってきたかわからないくらいの人数がオンライン会議場に入室。深雪達にはその全員の顔は見えていないものの、ズラリと並ぶ名前に驚いていた。これだけの人数の提督がいるなんて、まだまだ世界は広いモノだと。

 

『さて、全員集まったかの。数だけ見れば欠席は無いように思えるが。では全員、マイクは切らないように。隠れて何か言われても困るからの。ミュートにしておる者は、その時点で疑いを受けると思ってもらいたい』

 

 瀬石元帥の言葉が発せられた瞬間、うみどりもシンと静まる。一気に緊張感に包まれる。

 カメラはまだ回されてないが、マイクだけはオンにされたので、ここから先はちょっとした発言も誰かに伝わるということになる。それでも裏で何をやっているかわからないのだから困ったモノだが。

 

『突然の召集、すまないと思っておる。じゃが、どうしても全ての鎮守府、君達の耳に入れておかねばならんことが出てきたのでの。それも、緊急性がとても高い内容じゃ。心して聞くように』

 

 ここから始まる、真実の暴露。だがその前に、その発端となった有道鎮守府の被害についての話から。

 ここ最近現れている改造された深海棲艦の話から発展した、艦娘に寄生する深海忌雷という存在。それに寄生されたことで、()()()の傀儡へと堕とされ、それを鎮守府まで運び込まれたら最後、全ての艦娘は寄生され、提督を筆頭とした人間のスタッフは軒並み出来損ないに変えられることになる。

 

 その説明を聞くと、ザワザワと困惑の声が上がっているのがわかる。これまでの戦いではまず聞かないような言葉である寄生。艦娘に対しての洗脳なんて、普通の深海棲艦との戦争では考えられないことである。

 まるで創作の話ではないかと疑問にすら思え、瀬石元帥が冗談を言っているのではないかと考えるものさえ現れる。騒つく中には、まるで隠すことなく何言ってんだと呟いた声まで聞こえた。

 

『そう思うのも無理はない。今の言葉も仕方ないことじゃな。じゃが、これまでにその被害を受け続けている部隊がおるんじゃから、疑いようのない事実なんじゃ。それが、後始末屋じゃ』

 

 ここからうみどりのカメラが回り始める。伊豆提督とイリスが画面に映し出されたようで、騒ついていた提督達の声が一度止まった。

 後始末屋という存在が、鎮守府からは大きな信頼を得ていることは変わっていない。一時期、その後始末屋が被害を受けて仕事が止まってしまったことも記憶に新しい。

 

『伊豆君、君達が受けたこと、包み隠さず皆に話してもらえるか』

「了解しました。それでは、非常に破天荒な話となりますが、全て真実ですのでご留意を」

 

 伊豆提督がこれまでのことを話し始める。特異点のことはまず触れずに、軍港都市の地下施設のことなどから。

 深海棲艦に改造された人間、カテゴリーYの存在を明るみにしつつ、そこから起きた時間を洗いざらい伝えた。

 

 その1つ1つが、あまりにも荒唐無稽。カテゴリーYもそうだが、死んだと思われていた出洲がカテゴリーKとなって生きていること。人体実験を繰り返していること。そこには原と阿手、第二次深海戦争で戦っていた元帥と提督の名前まで出てきたこと。その力が未知の領域に達しており、今回の忌雷のような兵器まで当たり前のように使ってきていること。何もかもが信じられないような夢物語に聞こえる。

 静まり返っていたオンライン会議場は、伊豆提督の話が進むたびに騒つきを取り戻してきてしまう。中には、こいつ何言ってんだという態度の声色まで聞こえる始末。

 そうなってしまうのは仕方ないと伊豆提督も理解はしている。信じられないような出来事の数々は、今でも本当に現実なのかと思ってしまうことは多い。しかし、実際に被害を受けている者もいるのだから、現実以外の何モノでもない。

 

「……気が進みませんが、これを真実と知ってもらうための映像も用意してあります。本人には許可を貰っていますので、ご覧下さい」

 

 そうして映し出された映像は、これまでの戦いの中で起きた、出洲一派による未知の力の証明。ちなみに音声は入っていない。声だけはどうしてもプライバシーに関わるため。

 1つ目は海賊船との戦い。調査隊は常にその時の映像を撮影しているため、それを提供していた。恫喝しようとする男達はさておき、その後に起きた大惨事。うみどりでは初めての犠牲者である、グレカーレの寄生される瞬間。当然グレカーレの許可もあるため、この映像が公開されている。本人は苦笑しているだけ。

 2つ目は夜の軍港都市。一般人すら巻き込んだ米駆逐棲姫のテロ活動。そうされる瞬間は無くとも、明らかに様子がおかしくされている艦娘と市民の様子は、あまりにも凄惨だった。この首謀者の記憶を有しているフレッチャーは、どうしても目を背けてしまう。

 3つ目は特異点Wでの戦い。この戦いでは昼目提督は艦内から動いていないが、調査隊の艦娘達にカメラを持たせて撮影させている。特にうまく録れていたのは、白雪が持っていたらしいモノ。深海棲艦を生み出す深海棲艦という、これまでにないタイプの敵には、提督達は騒然とした。

 

「これは全て事実です。その全ての戦いに勝利は出来ましたが、その都度、我々の艦隊は心に大きなダメージを受けています。今でこそ治療が可能になっているとはいえ、中には強制的に人間では無くされた者もいます」

 

 グッと奥歯を噛み締める妙高。まだ治療を受けているわけではないが、人間に戻れることは確定しているので気は楽な方。しかし、その時の記憶が無くなったわけではないのだから、思い出すたびにいい気分ではない。

 

「そして、今回の無差別の忌雷テロです。奴らのやり方は、最初からそうでしたが目に余るモノ。それでもまだ我々だけで対処しようとしていました。ですが、もうそんなことは言っていられない。皆様の背後に忍び寄っているようなものです。ならば、力を合わせて奴らに抵抗するべきでしょう」

 

 しかし、提督の中からこんな言葉が出てくる。それは最初から予想されていたこと。

 

 何故うみどりばかり狙われているのか。

 

 ここからは特異点のことを話さねばならない。うみどりはより一層緊張感に包まれる。

 

 

 

 

「その理由をお話ししましょう。ですが、先に伝えておきます。彼女の存在は、何も悪くない。それだけは念頭に置いてもらいたい」

 

 前振りもそこそこに、伊豆提督は特異点──深雪のことについて語り始めた。

 

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