後始末屋の特異点   作:緋寺

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公となる特異点

 ついに始まった、全ての鎮守府の提督が参加するオンライン会議。うみどりが勝利してきたこれまでの戦いを説明し、まずは今、世界の裏側で何が起きているのかを知ってもらう。しかし、その内容が常識から外れすぎていて、簡単には納得出来ない提督達。

 その中で、予想はしていた質問、何故うみどりばかりがここまで狙われているのかという疑問がとある提督から出てくる。そうなると、もう特異点のことを話さざるを得ない。元々この場で全てを知ってもらうつもりだったのだが。

 

「その理由をお話ししましょう。ですが、先に伝えておきます。彼女の存在は、何も悪くない。それだけは念頭に置いてもらいたい」

 

 前振りもそこそこに、伊豆提督は特異点──深雪のことについて語り始めた。

 

 

 

 

 オンライン会議は、先程以上に騒ついていた。特異点という特殊な存在は、ここに名を連ねている提督達もよく知る駆逐艦深雪。しかし、存在そのものが普通ではないことが語られる。

 

「彼女、深雪ちゃんは、純粋種──本来ならば敵対してしまうドロップ艦ですが、この子はそんなことしない、それこそ第一世代の艦娘と同じ優しい心を持つ艦娘です」

 

 一応ではあるが、うみどりがドロップ艦を保護したというのは周知の事実である。

 

 最初に許可を出したのは紛れもなく大本営であるし、人員が増えたら鎮守府のデータベースが逐一更新される。更には何処の鎮守府がどうなったという情報は割と頻繁に情報交換されているのだから、知らない者はいない。

 

「その深雪ちゃんが特異点と呼ばれる存在であることが判明したのは、少し前のこと。軍港で、今回の件の元凶、出洲の一派に襲撃を受けたことに由来します」

 

 説明もされている、軍港都市内での出来損ない自爆テロ。長年そこにあり続けた地下施設。そして、その際に受けたうみどり襲撃。全てが出洲一派に繋がる事件であり、その目的はあちら側の平和を作り出すため。

 そして、特異点はその平和には邪魔な存在なのだと、出洲本人が発言した。自分のことを止めるために生まれたのだろうと考え、その場で終わらせてしまおうと、深雪だけを徹底的に始末しようと。

 

「それ以降、うみどりは執拗に狙われるようになりました。あちらの狙いは特異点の排除。障害となることを嫌い、その力を発揮される前に始末しようと、あらゆる策を講じられ、常に苦戦を強いられました」

 

 思い出すだけで腹が立つこともある。深雪はなるべく表情を変えないように、そっと電の手を握る。電もそれで深雪が落ち着けることを理解しているので、その手を握り返した。

 

 ここでやはり出てくるのが次の疑問。うみどりが狙われる理由が深雪にあることはわかるが、ならばその深雪に何があるのか。

 

 カテゴリーCで言ってしまえば、駆逐艦深雪は平々凡々な艦娘である。改二となると特殊な力が目覚め、大発動艇が使用出来るようになったり、特定の主砲を取り扱う時に妖精さんとのリンクが強まることで火力が上がったりと、なかなかに強力な艦娘へと成長を遂げるのだが、だからと言ってわざわざ始末しなくてはいけないと思えるほどの力かと言われたらそうではない。

 今の軍で潰せるのならば潰さなくてはいけないのは、おそらく戦艦。その最強格たる大和や武蔵であろう。だが、出洲が真っ先に狙ったのは、正直なところを言うのならばそこまで大きく目立つこともない駆逐艦の1人である。

 

「その疑問はごもっともです。我々も、深雪ちゃんの持つ力を知ったのはつい最近、僅か数日前になります。度重なる敵の襲撃に耐え、勝利をし続けたことで、この子は成長を遂げました。元々は特異点の力を使いこなすことも出来なかった未熟な存在。出洲はそこを狙ってきたのでしょうが、その際にも片鱗を見せた。そして今、それは確実なモノとなってここにいる。深雪ちゃん、アナタの口から説明してもらえるかしら?」

「……ああ、その方がいいよな、それでも納得してもらえるかはわかんねぇけど」

 

 緊張はせども、呼吸を整えて、カメラを見据える。提督達の視線が集まっていることが何となくわかる。だが、深雪は臆さない。何故なら、今はうみどりの仲間達全員が支えてくれているから。

 振り向かずともわかる。仲間達の視線が自分の背中にあることを。全員が信じてくれている。そして、元帥と同じように言ってくれている。()()()()()()()()と。

 

「あたしは本当につい最近まで自分が特異点って言われてもピンと来なかった。でも、この前の戦いで、完全に……かどうかはわかんねぇけど、力に目覚めた。あたしの力、特異点の力は──願いを叶える力だ」

 

 提督達の騒めきが一気に激しくなる。出洲一派のやってきた未知の手段による襲撃でも驚いていたが、それ以上に曖昧でわけのわからない力を持っていると言われたらこうもなる。

 やはり聞こえてくる言葉。()()()()()()()()()()()()。先程よりもわけがわからず、かつ話しているのが提督からしてみれば何処にでもいるただの艦娘。夢物語どころか、妄想を語っているようにしか見えず、中には厨二病の類ではと邪推する者まで出てきていた。

 

 だから、深雪はもう躊躇わずに自分の力を見せつける。

 

「アンタ達は、映像を見たら信じるみたいだよな。だから、あたしもこの場で見せるよ。あたしの力。少なくとも、あたしが普通じゃないってところ」

 

 徐にこめかみに自らの指を銃のカタチにして突きつける。伊豆提督は、この場でやるのかと驚きを隠さなかったが、電達は深雪を信じて動じることすらしなかった。

 そして、自らを撃ち抜くように煙幕を発射した瞬間、提督達の前で深雪は深海棲艦の姿へと変貌した。

 

 ただでさえ激しくなっていた騒めきは、これによって更なるモノへと変化。よりによって天敵である深海棲艦の姿になったのだから、深雪に対しての感情が変化する者がいてもおかしくない。瀬石元帥すらもコレは初めて見ることであるため、飲んでいたお茶を噴き出しそうになっていた。

 だが深雪は気にせずに話を続ける。

 

「あたしは、この海を守るためにこの姿になれるようになった。あたしの力ってのは、使うとかなり身体にガタが来るらしくてな、()()()()()()()()()になってる。ただそれだけだ。中身は何も変わってないから安心してほしい」

 

 深雪が説明をしても、騒めきは収まるどころか激しくなる一方。艦娘が深海棲艦に変化する瞬間は、先程まで忌雷に寄生されるというカタチでの変化を見ているため耐性があってもいいのだが、生映像で変化するところ、しかも自分の意思を持ったままでそれが出来るというのが大きい。

 

「忌雷に寄生されたヤツを治療出来るのも、この力があるからだ。中に入った忌雷を、あたしの持ってる忌雷で引っこ抜ける。それで人間辞めさせられた仲間も人間に戻すことが出来てる」

 

 ついでだからと特機も見せる。映像の中では艦娘を侵蝕する忌雷の色違い、真っ白なそれは、騒めく提督陣から小さな悲鳴を上げさせるのにも充分だった。

 

「これは全部仲間を守る力だ。あたしは人間相手に戦い挑むようなことはしねぇ。こんな姿で話しても、こんな奴だって晒しても、アンタらは信じてくれないかもしれねぇけど、あたしからは信じてくれとしか言えねぇ。あたしの仲間はずっと見てきた。だから、信じてくれてる」

 

 誰の顔も見えないが、そこにいる誰をも見つめるような真っ直ぐな目でカメラを見つめる。誰も意識していないのに、提督陣はその深雪の目に様々な感情を持つに至る。

 未知の力を持つ者に対して真っ先に浮かぶのは恐怖。その力を自分に振るわれたらという不安は、深雪自身がそんなことをしないと言っているにもかかわらず、嫌でも頭をよぎってしまうもの。

 

「それに、あたしの力じゃあ忌雷を全部ぶっ潰すなんてことは出来ねぇ。寄生された奴を治すことは出来るけど、そうなってることを知ることも出来ないし、前以て忌雷があることに気付くことも出来ねぇ。仲間のおかげで全部上手く行ってる。だから、信じてもらえないとあたしは何も出来ないんだよ。アンタらから見たら……あたしは普通じゃないだろうけど、特異点は悪じゃないって、ハルカちゃんは言ってくれてる。だから、みんなもそうしてほしい」

 

 頭を下げる深雪。心を込めて、特異点という存在を認めてほしいと。

 

 うみどりに、深雪に救われた者達は、何も考えることなくそれを受け入れる。つい先日救われた有道提督も、少し前に救い救われた榛名艦隊を有する鎮守府も、深雪の在り方は艦娘達よりも高潔なモノであると理解している。

 今の姿を見たところで関係ない。深雪は深雪、特異点など関係なく、共に手を取り合える仲間であることを、正しく理解出来ている。

 

 しかし、それは直接触れ合えたからである。深雪の功績を知るからこそ、そんなことが言える。

 

「……わかっていたことよ。全員が全員、納得してくれるなんて思ってない」

 

 伊豆提督がそう呟くのも無理は無かった。人間の特性、こういう時にどういう反応をするかは、人間が最もわかっている。

 

 得体の知れないモノは、()()()()

 

 ポツリポツリと上がってきたのは、深雪を信じられないという意思。艦娘と深海棲艦の姿を行ったり来たり出来るというだけでも、悪い印象を与えてしまっていた。他とは違うというだけでもよろしくないのに、それが人類の敵である深海棲艦の姿なのだから尚更であった。

 深雪は自分の秘密を隠すことなく曝け出しただけ。嘘をつくことなく、隠し事すらせず、自分のありのままを見せただけ。それなのに、受け入れられないとなると、残酷なことであっても平気で口から出ることになる。

 

 ()()()()、と。

 

「……そりゃあそうだろうな。アンタ達にしてみりゃ、あたしはどっからどう見てもバケモノだ。人間じゃねぇ。艦娘でもねぇ。深海棲艦でもねぇ。他の連中から見たって、あたしはよくわからねぇナニカなんだろうよ」

 

 元々予想していた差別的な言葉。救って救って救い続けても、その在り方が自分達に納得が出来ないならば、バケモノ扱いされて排斥されることは、最初から納得もしていた。

 伊豆提督が反論する前に、深雪自身から自分の思いを口にする。提督達に、人間達に、救うべき存在に。

 

「でもな、あたしはここに生まれ、ここに生きてる。だから、あたしの出来ることをする。手の届く範囲で。忌雷についても、出来る範囲を救ってやる。でも手が届かないところはどうにもならねぇ。それをアンタ達にやってもらいたいだけだ。そんな思いすら持っちゃいけねぇのか、あたしみたいなバケモノは」

 

 怒りも憎しみもない、淡々とした声色で、誰よりも経験の少ない深雪が、経験者達を説得する。

 

『儂は、深雪の生き方が悪いなんて思ってはおらん。それに、バケモノだなんて1ミリも思っておらん。深雪は我々のために力を尽くしてくれる仲間であり、共に戦う者じゃよ。だから儂は、こうして深雪と共に世界の危機に立ち向かおうとしておる。君達も、それはわかってくれまいか』

 

 そこに瀬石元帥からの後押し。大本営のトップは、この特異点と共に在り、目の前の危機を乗り越えるのだと語った。

 それは今だけの関係ではない。この戦いが終わるまで、いや、終わった後でもずっと、仲良く手を取り合って生きていくのだという宣言である。

 

 上がそういうのならば仕方ないと納得させる目論見もあるだろう。それに、賛同者がハッキリと言葉にすることで変わることもあるだろう。現に深雪は、一切の敵意を持っていない。それがわからない提督陣なわけがない。

 

 だが、しかし。どうしても予想していたことは起きてしまう。

 

 

 

 

『特異点がいなければ、このような危機は訪れなかった』

 

 誰かもわからない声が、この静まり返った会議に響いた。

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