後始末屋の特異点   作:緋寺

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裏切り者

 深雪ととある提督の舌戦が、双方納得の行くカタチで落ち着いたのも束の間。その提督と瀬石元帥が裏側で動いていたこともあり、このオンライン会議に参加している提督の中から数人をピックアップし、それが裏切り者──()()()()()()()()であると断言した。

 当然映し出された提督達は慌て出す。突然何を言うのだとか、裏切り者とはどういうことだとか、少なからず瀬石元帥の言い分には疑問と怒りが含まれていた。それこそついさっき深雪が発言した言葉、軍のトップがそれだけのことを言うのだから、その発言に責任を持っているんだろうなと脅すようなことを言う者まで。

 

 当然、瀬石元帥は確信を持って断言している。今回の件でさらにわかりやすくなったということはあるが、目をつけていた者が案の定な行動をしたため、ここぞとばかりに攻め込んでいる。

 

『何、そもそも儂は君達のことを最初から疑っておったんじゃよ。どう考えても、我々軍の内部に敵のスパイがいそうだったものでのう。何度か()()したはずなんじゃが、それでもしつこい汚れはこびりついておるモノよ』

 

 元帥の声色は非常に静か、しかし冷たさも感じる。晒し出されている提督達は、それでも反論を止めることはない。まるで、騒ぎ立てれば自分達の意見が通るとでも思っているかのように。

 そんなことで瀬石元帥が屈するわけがない。何を以て元帥という立場になっているのか、提督という身でありながらも正しく理解出来ていないようにすら感じた。

 

「ど、どういうことだよ」

『すまんのう深雪。君達のこれまでの会話を、少し()()に使わせてもらった。出洲や阿手に絆されておる愚か者が、この場にもおるということじゃよ』

「……あぁ?」

 

 先程の問答よりも明確な怒りを覚えた深雪が、画面に映る提督達を睨み付ける。

 深雪だけではない。うみどりのレクリエーションルームに集まった仲間達全員が、その顔を目に焼き付けていた。こいつらも敵、憎むべき人間であると。

 

『そもそも何を以て裏切りと言うのかを伝えておこうかの。戦死と見せかけて、()()()()()()()()()じゃろ』

 

 反論を続けていた提督達の言葉が止まる。

 

『報告を受けておるし、調査隊にも調べてもらっておる。うみどりが受けた襲撃の中に、海賊船というものがあってな、そこで出来損ないという敵と遭遇しておるそうじゃ。それが恐ろしいことに、艦娘を素材に造られたバケモノなんじゃと』

 

 無関係の提督達にも知ってもらうように、少しだけ演技じみた口調で説明をしていく瀬石元帥。

 出来損ないの話を聞いて、画面に映っていない提督達が騒つく。うみどりが海賊船に襲撃を受けているのは、伊豆提督からの説明でも把握済みだが、詳細を語られるのは初。

 

『第三世代の、元人間である艦娘に、忌雷を寄生させ、それに適合出来なかったが故にバケモノと化してしまった。その犠牲者が誰だったか、うみどりでは把握出来ておる。だから、こちらでは秘密裏にその()()()を探してあったんじゃよ。素直に答えるといい。君達じゃろ』

 

 かなり食い気味にそんなわけがないと叫ぶ画面の提督達。だが、瀬石元帥はそんな訴えなど意に介さず話を続ける。

 

『マックス・シュルツ。野分。浜波。朝雲。有明。そして初雪。その戦いでバケモノにされていた艦娘だそうじゃ。不思議じゃなぁ。君達の鎮守府で沈んだとされておる艦娘とピッタリ同じじゃのう』

 

 深雪達を精神的にも苦しめた出来損ない。時雨に至っては死の寸前まで持っていかれた苦い思い出が蘇る。

 腐食性の体液をばら撒き、首が無くなっても動き回り、最後は自爆すらするバケモノ。元人間を材料にして造られた生体兵器。倫理的にも間違いしかない、平和のためだなんて口が裂けても言えない巫山戯た存在。

 カテゴリーB、ないしMが材料ならば、ドロップ艦を実験して何かが起きたと言えるのだが、イリスがカテゴリーCであることを看破していることで、人間が犠牲になっていることは確定している。

 

 画面に映っていない提督達は、完全に黙ってしまっていた。特異点の未知の力を知ってどよめいていた時よりも、提督の中に()()()()存在がいそうであるということに驚きを通り越して引いていた。

 

『まだしらばっくれるつもりかのう。まぁわからんでもない。ここで屈するわけにはいかんじゃろうからなぁ。阿手に迷惑がかかるものなぁ』

 

 ここであえて出される阿手の名前。ここまでも出してきているが、今はお前らの裏には阿手がいるんだろうと突きつけている。

 ここまで揺さぶられて明らかに動揺の表情は見えるが、それでも認めないし口を割らない。元帥の妄言だという体裁は崩さない。自分達は何もやっていないと騒ぎ立てる。

 

 だが、ここで瀬石元帥に対して思わぬ援護が放たれる。

 

「あれ? あの人見たことある気がする」

 

 うみどり、深雪の後ろからそんな声が挙がった。そんな言葉が出たら、その場は一気に静まり返る。

 

「うん、僕もそんな気がしてたよ」

「だよねだよね。何処でだったかなぁ……あ、そうだ。島だよ島。()()()()()()姿()()()()()、うちの親の故郷の島だよ」

「ああ、確かに。だから見覚えがあったんだね。僕の病気がまだ治っていない頃だったかな」

 

 ビクンと震える1人の提督。

 

 その言葉を放っていたのは、海賊船での戦いで保護されている非戦闘員のカテゴリーY、黒井兄妹。次の目的地、決戦の地として選択されている島で直接改造された人間。

 島でのことは忘れてはいない。透の不治の病の治療法をチラつかせ、その身体を実験台にしているのだ。鮮明とは言わずとも、ある程度はしっかり覚えている。

 

 だが、それを見た者達には、ただ深海棲艦がいきなり言い出したようにしか見えない。カテゴリーYの存在を先に説明していても、そこにいるのは普通の個体とは少々見た目が変わっている港湾水鬼。しかも2体である。

 

『おや、君達も知っていたのか。じゃが、すぐにそれを儂に言わなかったということは、其奴が提督であるとは思っておらんかったということじゃな』

「なんか変装……なのかはわからないけど、今みたいにビシッとしてなかったんですよ。顔が見たことあるかなぁって程度で」

「僕もそうです。でも、確信が持てます。その人は島で見ました。提督としてではない状態で訪れていたということですよね」

 

 黒井兄妹の強力なサポートは、瀬石元帥の言論の正当性をより増していくが、映し出された提督達はまだ認めない。深海棲艦を匿っているようなうみどりの言葉を信じるのかと、若干ベクトルが違う文句まで言い始めた。

 

「姉上、我々も見たことがある輩がいないか」

「……ええ、いますね。しっかり覚えていますし、なんなら話もしたことがありますよ。名乗られはしませんでしたがね」

「だよな、私の思い違いではなかった! まさか何処ぞの提督だったとは、よくある展開だ」

 

 加えて今度は居相姉妹からの援護射撃。黒井兄妹とは別の提督を差し、その顔を知っていると断言。特に2人は黒井兄妹よりも長く島におり、阿手の教育を真と思い込まされていた経歴もある。そこにこの提督の誰かが来ていたとするならば、黒井兄妹よりも信憑性のある発言となる。

 しかしまだ、往生際悪く知らぬ存ぜぬを貫く。黒井兄妹の時と同様、深海棲艦の妄言だとか、特異点と口裏を合わせているだけだとか、そちらの方が信憑性のないことまで言い始めた。

 

「語るに落ちるとはこのことだよな。ならば私も証言しておこう。そこの女、島で阿手と仲良くしていただろう。私は覚えているぞ」

 

 さらにはトラからも。居相姉妹と同様に島にいた期間が長い分、そこで見てきた記憶は多く、そして鮮明。トラが狙いを定めたのは、映し出されている中でも唯一の女性提督。突きつけられたことで表情が歪み、冷や汗をダラダラかいていた。

 

「……軍港の地下施設に来ていましたよね……貴方は」

 

 トドメを刺すような言葉を放ったのは、今の姿に変えられて長く生きてくる羽目になっている、初期のカテゴリーY、平瀬。

 軍港都市の地下施設で30年は働かされていたこともあり、他の者達と比べると、あちら側で行動していた年月が段違いである。その中でも見覚えのある顔を見つけたようで、勇気を振り絞って言葉を搾り出した。

 

『平瀬さん、その話後から詳しく。俺の管轄では、この面子の中でここ最近軍港都市に来た奴はいない。ルール違反の()()()だ。国じゃあないけど』

「はい……後ほど時間をください」

 

 地下施設の話となると、保前提督が黙っちゃいない。平瀬とは既に面識もあるのだから、すんなりと話も通る。

 

「手小野さんも……見覚えがある人がいるのでは……」

「う、うん。わ、私、受付、やらされてた時、あるし。半信半疑だった、けど、見覚えある顔、いるよ。変装、してたみたいだけど」

 

 そこに手小野による援護まで。気付かれないくらいの変装をしていたのかは定かではないが、少なからず知っている顔がいるぞと突きつけた。

 

 カテゴリーYからの援護射撃はあまりにも効果絶大だった。見た目は深海棲艦かもしれないが、中身は誠実な人間。今こうなっている事実を明確に証言出来る生き証人。

 

『これだけ言われておるが、まだ白を切り続けるのかのう。今話したのは深海棲艦ではない、出洲一派に改造されて、人間を辞めさせられた者達じゃ。人間を騙し、自らの毒牙にかけ、権利を剥奪した。そんな輩と結託しておることも、彼女らの発言で証明されておるぞ』

 

 証明なんてされていないと訴える者多数。発言した者達が本当のことを言っていると断言出来る証拠は何処にもないと、最後まで抵抗する。

 阿手のためか、保身のためかはわからない。むしろどちらもであろう。ここで裏切り者であると判明すれば、死罪は確定である。減刑の余地なんて何処にもない。今すぐここで銃殺刑に出来るほどの大罪人である。抵抗も当然であろう。

 

『そんじゃあまぁ、ここいらで切り札出させてもらおうかい』

 

 それだけ抵抗する提督達に対し、ついに口を開いた昼目提督。画面に映し出される裏切り者達を押しのけるように画面に現れると、調査隊がここまで調べ尽くしたデータが画面に表示された。

 

『アンタら、()()()()()()()()()()()だな。経歴、洗わせてもらったぜぇ』

 

 ありとあらゆる情報がビッシリ書かれているそのデータには、裏切り者達の提督となるまでの経緯がしっかりと記されている。その中でも共通点があった。それが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 データが纏まったのはついさっきであることは内緒にしていた。時間をかけ、全ての裏付け──資金の流れやら、その内情まで──を確認して、ようやく言い逃れ出来ないくらいのモノに仕上げることが出来たのだから。

 

 元はそんな提督になろうとしていなかったのかもしれないが、阿手によって歪められ、裏切り者として大成してしまったのだ。

 ある意味この提督達も阿手の被害者。しかし、今はもう加害者である。何故なら──

 

『テメェら、ここがそういう場所だってわかって教育受けてるんだもんなぁ。天下が取れるとでも思ったのか? アイツらの平和ってのが今よりいいと思ったか? 自分達が選ばれた者になれるとでも勘違いしたか? はっ、ちゃんちゃらおかしいぜ。他の裏切り者どもも全員ぶち抜いてやるから覚悟しておけよ』

 

 結局、自らの意思で今の道を選んだのだ。洗脳教育によりそれしか選べなかったわけではない。出洲一派の平和が実を結んだ時のポストに目が眩んでいるだけの小物なのだ。

 

 

 

 

『もう言い逃れは出来んぞ。恥を知れ』

 

 瀬石元帥の一喝により、裏切り者は全ての権限を失う。ただの犯罪者として認識されて、ここで初めて事を知った提督達からも見放されることになった。

 

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