オンライン会議の中で暴かれた、軍内に潜んでいた阿手の回し者。つまりは裏切り者。瀬石元帥による事前準備、うみどりのカテゴリーYによる暴露の援護射撃、そして昼目提督の懇切丁寧な証拠の提示により、抗いようのない真実を突きつけられることとなった。
他の提督達は、画面に映し出された裏切り者達を見て、声も上げることも出来ずに恐怖を感じた。仲間だと思っていた者が、実は裏で敵と手を組んでいただなんて、考えたくもなかった。
うみどりのように正式な手続きを踏み、かつ保護というカタチでその命を守っているのならば許される。事情もありすぎるため、それならば仕方ないかと妥協出来るところは非常に多い。セレスとムーサ達がグレーゾーンだが、人間に対しての敵意など微塵も感じていないことを言動で示しているため、監視対象とはなるだろうがまだ全然マシ。
しかし裏切り者達は、敵と密会し、しかも変装までして表沙汰にしないようにしている。その上で、そこで行われていたのが、艦娘の譲渡。
「なんでそんなこと出来んだよ……あたしにゃテメェらのやり方が全然わかんねぇ。人の命をなんだと思ってんだ」
深雪が搾り出すように話す。あの時の出来損ないには、カテゴリーCとはいえ、自分の姉に当たる艦娘、初雪がいたのだ。
その初雪がどういう経緯か、画面に映る裏切り者の手によって阿手に譲渡され、実験動物のように扱われ、最後はただのバケモノに成り下がった。元人間でも姉妹は姉妹だ。気分のいいモノではない。
『自分が成り上がるための道具とくらいしか思っておらんのじゃろう。全く腹立たしい』
人間として上の段階、高次の存在となるための手段として考えているにしても、他人の命を生贄に捧げるような行為が許されると思っている時点で、もう高次なんて域にはいけない。行けるはずがない。
そんな
『もう言い返すことも出来んじゃろうて。裏切り者共よ、これでもまだ自分達がやってないと言えるかね』
画面に映る裏切り者達は、全員が全員、冷や汗をかいていた。こんなことになったら、自分がどうなるかわからない。
捕まれば死罪。逃げ帰ってもおそらく殺される。前門も後門もあったモノではない。このまま時間稼ぎしたところで、状況は良くなるどころか悪くなる一方。
観念するか、無様に抵抗するか、二者択一となった。そして、裏切り者が取った選択肢は──
『まぁ、そうなるじゃろうな』
通信の切断、オンライン会議からの退室。ここであえて何も言わなかったのは、余計な情報を軍に伝えないため。これからやることをペラペラ喋るほど、頭が悪くなかったようである。そういう意味では、阿手から直接提督としての教育を受けているだけはあったか。
『すまぬ。見ての通り緊急事態じゃ。たった今君達に晒した裏切り者共は、これからおそらく
騒つく提督。
『阿手の配下は一般市民を駒として扱うこともある。じゃが幸いなことに、彼奴等の鎮守府は軍港のように間近に市民が暮らすような場所ではない。それだけはまだマシと言えるじゃろ』
ここが唯一の安心出来るところ。鎮守府周辺は本来、敵との戦闘が特にある場所として考えられており、その近くには一般人がなるべく住まないように心掛けている。それに、鎮守府は機密だらけであるため、一般市民にその辺りを知られる可能性が出てくるのは避けたい。
軍港都市は例外であり、ただ港があるだけでは一方的にやられる可能性が高いので、そこも鎮守府にして市民を護る配置にしている。また、徹底的に管理していることもあり、機密が漏れたこともない。そこはその鎮守府の手腕にかかっているのだが、保前提督が艦娘と共にしっかりこなしているからこそ成り立っている。
裏切り者達の鎮守府も例に漏れず、周囲に一般市民の住居などはない。戦争の長期化もあって、元々住んでいた者達も軍の支援によって海から離れることが出来ている。そのおかげで、いきなり市民に忌雷を寄生させるなんて非道なことは、やりたくても出来ないようになっていた。
海からの被害を守るためだけではない。
『じゃが、強硬策に出る可能性が無いとは言えん。無差別テロを引き起こすような阿手の教育を受けておるんじゃからな。わざわざ陸に忌雷を放つ可能性もある。市民を盾に……人質にして、己の腐った願望を叶えようとする凶行に出るかもしれん』
阿手のやり方をヨシとするような輩が考えるようなことだ。ただでさえ、配下である
今、死に最も近付いてしまったのだ。今頃パニックになっていることだろう。ならば、そういうこともやらかしかねない。そして、そうされたら最後、深海棲艦ではないところからの被害によって、未曾有の危機に瀕することになる。
軍部の信用問題にも繋がるが、それ以上に無辜の民が不要な犠牲になる。そして裏切り者達はこう言うだろう。『特異点が抵抗したからこうなった』と。
『保前君。ここに残っている者達は信頼出来る者と思ってよい。裏付けも出来ている。君の工廠で開発出来ている、忌雷探知器の開発方法を展開してもらえるか』
『了解です。すぐに展開します。資材の方が厳しい鎮守府は』
『そんなにレアなモノ使うの? あー、じゃあ、いざって時は大本営で賄うから安心してくれ。緊急事態に出し渋る方がどうかしておる。まずは今しか使わないにしても最優先で開発をするように。ちなみに、この開発方法が外部に漏れた時は……言わずともわかっておるな皆の者』
つい先程までの裏切り者に対しての追い詰めを見ているため、瀬石元帥の最後の念押しは、全提督を震えさせるのに充分だった。
『うみどりとおおわし、あと……』
「こだかにも伝えますが、完全な対処が出来るのはうみどりのみです。寄生された者を元に戻せるのは、今は特異点の力のみですので」
『むぅ……それだけはどうにかしたかったが、仕方あるまい。寄生された者はあくまでも寄生されているのみ。こんな巫山戯た理由で命を落とすのは裏切り者のみで良いわい』
艦娘は巻き込まれただけの被害者であると瀬石元帥は断言し、命を奪わずにこの騒動に決着をつけるのだと全鎮守府に指示を出した。
これによって戦意を失いかけている提督もいなくはない。未知の敵だけでなく、裏切った同僚を相手にするだなんて考えてもいなかった者ばかり。尻込みだってしてしまうし、抵抗だってある。
「空いてる特機は4体か。3体までなら貸し出せるけど、鎮守府の数が多いし、今から作ったところで間に合わねぇ。今すぐに行けたところで、他の連中はどうにもならないよな」
「そうね……アタシ達もすぐに手近な裏切り者から終わらせに行くけれど、他の鎮守府では自力で粘ってもらうしかないわ。それでも場所はかなり離れてるから、うみどりの最大戦速を出しても、1日2日は普通にかかっちゃうわね。その間に寄生は拡がるわ」
「今回の忌雷は確かかなりちっちゃかったよな。あ、ムーサ! ちょっと忌雷見せてくれ!」
そもそも他の提督は何を警戒すればいいかもわかっていないだろう。うみどりの経緯を伝える際に、忌雷に寄生される場面を見せられているものの、ハッキリとしたモノは見えていないのだ。
「私ノ取リ分ダヨ? 特機ニスルトカ言ワナイヨネ?」
「言わねぇよ。みんなに忌雷が何か見せた方がいいってだけだ」
「ン、ワカッタ。ソッチ行ク」
今も大事そうにタッパーを抱えているムーサが、深雪の近くまで行ってタッパーから忌雷を1つ取り出した。ムーサに摘まれているせいか、小さく蠢くだけで逃げ出そうともしない。忌雷であっても捕食者の存在には恐怖を感じるようで、どうせ最後は喰われるのだが、今ここで脱出したくても出来ないようである。
実際それが特異点によって生み出された『忌雷キラー』としてのムーサの力ではあるのだが、それは誰にもわからない。
「コレ。コレガ忌雷」
カメラに向けて掲げるように見せつける。特機にも変わっていない、今解き放ったら誰かに寄生し洗脳し苗床に仕立て上げる、敵の最悪の兵器。提督陣からは驚きから小さな悲鳴まで様々な声が上がった。
その中には、逆に興味深そうな声も聞こえる。その声の主は、最初に深雪に食ってかかったものの、瀬石元帥と裏で繋がっていた提督。
『それは深海忌雷と同じ性質も持ち合わせているのか』
そんな質問に対して、深雪はおろか、伊豆提督もまだ答えられない。しかし、うみどりはここに仲間達全員を集めている。つまり、忌雷についての研究を誰よりもしている者もココにいるということ。
「解析の結果、忌雷自体の性能も有しています。爆発の代わりに寄生の性質になっていますが、
明石が自信を持って説明。その肩の上に乗っていた主任もその通りだと言わんばかりに頷く。
妖精さんが原材料になっていることは伏せているが、見た目通りの忌雷になっているのは間違いなく、その性質は半分近くは忌雷と同質であるといえる。
『忌雷の探知器を開発したと聞いているが、その原理は何由来だ』
「忌雷自身が放つ特殊な電磁波を感知しています。寄生を速やかに実行するため、艦娘の身体をそれによって見ています」
『エコーロケーションのようなモノか。ならば、その感知する電磁波に対して、より高い電磁波をぶつけてやれば、一時的にでも機能停止出来るのではないか? 艦娘にもいい影響は与えないが、逆にそれなら音響兵器のように気絶させることも出来るだろう。忌雷も一時的に機能停止させられるかもしれない』
「なるほど、艦娘への影響があるので避けていましたが、今ならそれが適しているかもしれません。保前提督、冬月と連絡取らせてください。5分で設計変更します」
すぐさま行動に移す明石。オンライン会議の真っ只中であっても堂々とレクリエーションルームから退室し、その改良に動いた。
うみどりは探知器以上の性能を有している者が多数存在しているので必要無いが、他の鎮守府のために尽力するのも工作艦の在り方と、いつも以上にイキイキとしていた。
「あの人、タダモノじゃねぇな」
その光景を間近で見て、深雪は思わずそんなことを口にした。深雪と舌戦を繰り広げた際の、第三者視点からの言論を徹底しているところからも、かなりの頭脳派であることがわかった。
ここからは裏切り者殲滅戦。しかし、まずは準備をしなければ先に進めない。