後始末屋の特異点   作:緋寺

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対人間

 オンライン会議から逃げるように消えた裏切り者達を追い詰めるため、まず行われたのは軍港鎮守府で開発され、既にこだかとおおわしで試験的に運用が始まっている忌雷探知器の改良。

 今は発見のみを目的としているが、それだけでは足りないと判断され、それそのものから強力な電磁波を放つようにすることで、忌雷に対して強く出られるのではないかという案を採用し、明石がすぐに行動を起こしている。

 

 宣言通り、たったの5分。それだけで軍港都市の定係工作艦である冬月と涼月に連絡を取り、改良案を設計。そして、試作する時間もないため、ぶっつけ本番でも行けるように確実なカタチで各鎮守府が開発出来るように仕立てた。

 設計図だけでも開発出来るように書かれているが、それでも難しい部分は逐一聞いてくれればいいと、回線は常にオープン状態。これにより、各所の工廠の者達は意図せず絆が育まれることになった。

 

『開発は工廠の者達に任せるとして、ここからの動きじゃが、手早く済ませたいこともある。まずは手近の者から彼奴等の鎮守府へと向かい、制圧をしてほしい。場所は今から全員に送る』

 

 瀬石元帥が早速指示を開始。逃げた裏切り者達が管理する鎮守府の場所が送られる。

 

 うみどりとおおわし、そして後始末屋分家のこだかは、常に海上で動き回れることから、最も行動しやすい部隊となる。

 また、うみどりに至っては、あちら側の始末対象。裏切り者達の軍勢が、うみどりにこぞって集まる可能性も視野にいれている。

 

『元帥、ちょっといいですかい』

 

 そんな中、昼目提督が徐に瀬石元帥に意見を述べる。

 

『ん、なんじゃ?』

『許可を貰おうと思いましてね。調査隊として、ちょいと()()()()()()()ことをしますんで』

『……どういう方向性でかの』

『うちの白雪使います。さっきの連中の行動を先んじて止めます』

 

 昼目提督が白雪の名前を出したことでいろいろと察したか、それをすぐさま許可した。

 

『うし、白雪! すぐやっちまって構わねぇ!』

 

 既におおわしの執務室にいたのか、昼目提督が合図を送る。すると、昼目提督のところからカタカタと何かを操作する音が聞こえ始めた。知る人ぞ知る白雪の特技が、ここで火を噴くことになる。

 

「……‥白雪って確か、何でも開けられるって聞いてんだけど」

「そこはあまり知らない方がいいこともあるわ。今はマークちゃん達に任せてあげて」

 

 深雪はそれを海賊船で見ているため、その力は扉を開けることが出来るくらいにしか思っていない。それでも凄まじいことなのだが。事情を知っている伊豆提督が苦笑しながら深雪の肩にそっと手を乗せて首を横に振った。

 

 当然、白雪が出来ることはそれだけには留まらない。扉を開けることが出来るというのは、それが電子制御されていたらに限った話。逆に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

『ここにおる者。調査隊の今からやることは、絶対に他言無用で頼むぞ。何せ、緊急時以外では普通に犯罪だからのう』

 

 瀬石元帥がそれだけは注意した。

 

 調査隊の特権として、テロや裏切り者に対しての調査に関しては、一切罪にならない、何をやっても許されるというモノがある。前回は海賊船で振り翳したその特権を今回も使っているのだが、ただ侵入するだけでは今回は終わらない。

 

 今回の白雪がやっていることは、完全にハッキングである。しかも、裏切り者達の鎮守府のシステム全域に対して。

 

『最初から目をつけていたんで、すぐに入り込めるように準備はしておきやした。これから何をしても、奴らのやることは外部には漏れませんぜ。通信は全部切ってやり……お、電力も制御してやがるのか、乗っ取ってやれ。全部カットだ。陸から外に出られると思わせんな。補助電力からの供給も潰しちまえ』

 

 話しながらも白雪の功績を確認し、追加の指示を飛ばす。その言葉の一つ一つが、罪無き一般の提督達をもゾッとさせる。何か疑惑があり、しかもそれが軍に害を為すと確定した場合、そこに調査隊がいなくてもコントロールされてしまうというのを、この場で証明したようなモノ。

 

 本来ならここまで派手に引っ掻き回すことは出来ないだろう。だが、相手は鎮守府。その辺りの制御を妖精さんに頼っているところも少なくない。うみどりのような移動鎮守府なら尚更である。白雪は、その制御の中心部に対してハッキングを仕掛け、あっという間に全てを乗っ取った。

 調査隊を敵に回したら、おそらくうみどりですら機能停止する。妖精さん制御の弊害が、ハッカーという例外によって全て崩される。

 

『アナログ制御の鎮守府もありやがるのか。でも通信機器は殺したな。外部に情報を持ち出すことが出来なくなればそれでいい。あと最優先は基地航空隊だ。破壊しろ』

 

 鎮守府のシステム全域を、今この場で全て破壊し尽くしていると思うと、恐ろしさが増す。

 

 今や、裏切り者達の鎮守府は全て白雪の掌の上である。いや、既にその掌は握られ、ゆっくりと破壊されていると言ってもいい。

 鎮守府の機能を破壊されていき、自棄を起こすにしても行動は狭められる。すると、もうやれることは1つ。艦娘を使っての、うみどりに対する攻撃。特異点を始末することさえ出来れば、ここまでの()()()()はチャラに出来ると考える。

 

『すまぬが、ここからは鎮守府総出じゃ。例の探知器が開発出来次第、行動に移してくれ。如何なる手段も儂が全面的に許可をする。裏切り者を、即刻排除せよ』

 

 そして、瀬石元帥直々に全鎮守府に対して命令が下された。裏切り者達を処理し、この戦いをより有利な方向へと向かわせる。人間を相手にする大規模な戦いが始まった。

 オンライン会議はこれで一旦終了。各鎮守府は大急ぎでこの事態の収拾に努めることとなる。

 

 

 

 

 うみどりは準備をする必要がないため、まずは手近な裏切り者鎮守府に向かうことになる。後始末の現場に最も近いのは、つい最近救った有道鎮守府。そこからそれなりに離れた場所が目的地。最大戦速で駆け抜けても、数時間はかかる見込み。接近はおそらく夕暮れほどになると考えられる。

 それまでは常に臨戦態勢で構える。うみどりに直接殴り込むに来る可能性もあり、また、今回発見された無差別の忌雷も航路にばら撒かれている可能性もある。その全てに対処しつつ、裏切り者の提督を捕縛することがこの作戦の目的。

 

「わかっていると思うけれど、一番勝手を知っているのはアタシ達よ。忌雷は見つけ次第処理。鎮守府から来た艦娘は、まずイリスとフレッチャーちゃんで彩を見るから、すぐに攻撃するのはやめてちょうだい。ムーサちゃん、常に鼻を利かせておいてくれるかしら。忌雷を常に感知出来るように待機してもらえるとありがたいわ」

 

 伊豆提督の猛烈な指示の下、深雪達も臨戦態勢を整えていた。工廠で万全に整備された艤装で確実な勝利を目指す。

 

「白雲、少しだけ出力を落として、敵の艦娘の動きを止めることに専念しよう。艤装はぶっ壊しちまってもいいだろ。中に忌雷が詰まってるかもしれねぇから、艤装ごと凍らせるのがいいか」

「かしこまりました。白雲の力、ここが使い時でしょう。お姉様に叛旗を翻すなど言語道断ですが、それもこれも忌雷と、その鎮守府を指揮する長、腐った人間であることは明らか。ならば、巻き込まれた人間は凍傷程度で我慢いたします」

 

 今回の戦いのキーパーソンは何人かいる。白雲はそのうちの1人であり、相手を殺すことなく動きを止めることが可能。

 また、あくまでも艦娘は必ず生かす方向で考えているため、兵装は全て演習用。砲撃は水鉄砲だし、魚雷は花火みたいなモノ。空母隊の空襲も全てがペンキである。

 本来ならば接近戦も狙いたいところだが、あちらの艤装が苗床になっている可能性を鑑みると、近付くこともなるべく避けた方がいい。

 

 だが、ここで前に出てくるのは明石。

 

「うみどりには探知器が必要ありません。でも、電磁波の照射装置はあってもいいと思い、いくつか開発しておきました。これだけなら資材も安めで済みましたので」

「ありがとう。探知器の方はかなり厳しいモノを要求されたけれど、こっちは初期の電探の改良でも出来たみたいだものね。数は?」

「5つです。うみどりの在庫、使わせてもらいました。あとから元帥に請求しましょう」

 

 イキイキとしている明石を尻目に、電磁波の照射装置を確認。電探から作られていると言っていたが、見た目はどちらかといえば探照灯に近い。だがその見た目が感覚的に操作の仕方をわかりやすくしている。敵に向けて光を当てる。ただそれだけで、()()()()()()()()()が放たれ、忌雷にのみ大ダメージを与える。

 しかし、電磁波は艦娘にも多大な影響を与えかねないので、仲間を巻き込まないようにすることを注意された。

 

「誰が装備しても構いません。誰でも装備は出来ますので。ですが、1つは電さん、1つはグレカーレさんを推しておきます」

 

 電は深雪と行動を共にするため、共に狙われる可能性が高い。深雪は対処が可能だが、電はそういった力を持っているわけでもないため、自己防衛のためにも必要だと判断。また、人を傷付けない兵器というのは相性がいいため、優先順位を上げられている。

 グレカーレは器用さからの採用。また、万が一の時に『羅針盤』という裏技があるため、敵陣に突っ込みやすい。勿論それを過信するわけではないが、他の者よりも安全度が高いからこそ、今回の装備を優先される価値がある。

 

「残り3つ。これはこちらで決めておくわ。ありがとう、明石ちゃん」

「いえ、軍港都市の定係工作艦達のおかげでもあります。近代の開発技術は私の予想を超えていましたよ」

 

 これで準備万端と言えるだろう。いつ攻めてこまれても対処出来る。

 

 

 

 

 そして、その時が来る。

 

『艦娘部隊……いえ、()()()接近中。カテゴリーはまだ不明だけれど、艦載機が向かってきているわ』

 

 イリスの放送によって、うみどりに向かってきている部隊がいることが判明。まだ部隊そのものは見えていないが、その中にいる空母が発艦した艦載機が、うみどりに向けて空襲を仕掛けてきているのが確認された。

 

「艦娘との戦いだなんて……やりたくなかったぜ」

「なのです……でも」

「ああ、これも救うための戦いだ。艦娘は何も悪くねぇ、はずだ」

 

 自信を持って言えないのが残念だが、まずは寄生されているのならばそれを排除してから考える。

 

「電磁波照射装置、使い方わかっているのです。電は、深雪ちゃんと一緒に前衛で行くのです」

「頼むぜ、電。背中は任せた」

「なのです!」

 

 相手が人間であろうと、今は前に進むしかない。怖がってなんていられない。

 

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